114.回想
当家がその情報を手に入れた時には最早手出しできない状況になっていた、本神殿より使者が訪れ我が領地に新たな神殿を建立したいと相談を受けた、僻地であり大した税収も上がらない近年は年ごとに徴税官を派遣して税を徴収するだけで治安維持のための巡検も行っていない
使者の言うには功績のあった神官がその村の村長の家に生まれ変わり、その双子の娘を見守るためと峻険な山岳での修行の場として利用するという事だった、当家から人員や資材の支援の必要は無く神殿近くのの山々とその村から得る「恵」を神殿の運営や本神殿に対する寄進として確保したいという話だった
通常神殿は自給自足で領主に徴税権はない、改めて確認をする事ですらないが「法王国」に領地を拝領している以上当然の事で不満など無い、本来なら神殿建立のために結構な寄進を要求される事すらあるのだ近隣の貧しい村も含めて神殿の荘園としてその寄進代わりに権利の全てを譲る事にした
徴税や管理の手間も馬鹿にならない峠道で同盟への道は存在するが貿易のために使える様な整備された街道は無い、禁制品の密輸や犯罪者が逃走する位のもので利用価値も低くそのための治安維持活動も負担だった、いや最近はその義務すら満足に果たしてはいない、それを肩代わりしてくれるのだ正に渡りに船だった
その情報が私の耳に届いたのは神殿が建立され修道士達の修行の場として山道が整備され、その神殿を任された司祭の力が評判となり参拝者や巡礼者が増えていった後の事だ、往来が増え街道の宿などが潤い税収が増えて喜んでいた時だ
神殿の立っている山に岩塩の鉱脈が発見された、いや逆だろう岩塩の鉱脈が見つかった場所に神殿を造ったのが真実だろう、宝の山を神殿に奪われた様な物だ、岩塩の輸送などで当家にうま味が無い訳では無いが内心は穏やかでは無い、私はともかく一部の家臣や私の妻は不満を漏らす様になった
今の妻はその家臣の家からと後添えとして嫁いでいる、病で亡くなった先妻の娘が一人いるがこの娘も身体が強くはないため聖都で療養させている、私自身も体調がすぐれない後妻の2人の娘のどちらかに婿を取らせて家督を譲る予定だがこの娘達も岩塩の件で不満を漏らすようになった
母親は流石に公の場で不満を漏らすほど馬鹿な事はしないが娘達が社交の場で不満を漏らしてしまった面倒な事にならなければいいが
最高司祭の後を引き継ぐために本神殿にこもっていると嫌な報告が上がって来た、神殿と北部に領地を持つ貴族の間にきな臭い軋轢が有る様だ、原因を調べるとまたも勇者カオリが一枚噛んでいる
今回は特に問題行動があった訳では無い、神殿の権益を確保し威光を知らしめることに貢献している、将来的に「法王国」で出世し運営に関わってもらう人材として評価するのであれば素晴らしい功績だと言える
ただし、彼女の動機を考察すると個人的に可愛がっている弟子に対する過剰な贔屓なのでは?と疑問がわいてきた、やり過ぎだともいえる、神殿を建立した場所を領有する貴族に直接的な利益を何一つ提供していないのだ、今司祭として神殿を預かっているのはカオリ様が蘇らせた神官だった
カオリ様とイライザ様が鍛えて実力に疑問は無い、今後を見越したの派閥形成と見れば評価すべきかもしれないがカオリ様にはそのような意図は無いだろう、そこが問題だ、私の後を継いで最終的に最高司祭になる意思が有るか確認しなけらばいけない
本人にその意志が無いのに周囲の者が勝手に期待して擁立する様な事態は避けたい、カオリ様本人にとっても迷惑だろう、今彼女は娘をを出産して忙しい最中だ、今回は私から出向こう、イライザ様の機嫌を損ねると面倒だ
直接カオリ様の館に移動する事は出来ないが以前ヤヨイ様が管理されていた神殿には神聖魔法で転移が可能だクロエが聖女としてしっかり神殿を守っているお陰だ、戦力としては人数は多く無いが質だけで評価すれば「法王国」内でトップクラスだ
あまり表沙汰には出来ないがヤヨイ様が自分の血で育て残していかれたアルラウネの卯月が配下を上手く働かせて魔力的にも強固な拠点として本神殿に次ぐ重要な神殿となっている、この事は「法王国」内でも一部の者しか知らず、多くの者はヤヨイ様が自分に模した作成した自立型のゴーレムだと思っている
私も本人を見た事がない、部下のアルラウネは熱心に仕事をしているクロエの言う事をよく聞いて見かけも愛らしいため神殿にいても悪感情を持つものは少ない、問題を引き起こさい分カオリ様より信頼できるのが皮肉だ、ここで働くアルラウネ達はカオリ様の血が入っていないと聞いている、そのためだろう
クロエと情報交換をした後問題児の館に向かった
「セーラ様ですね、カオリ様に御用でしょうか?」
森の外縁部でアルラウネに出迎えられた
「カオリ様に取り次いで貰えないでしょうか」
用件を伝える
「今カオリ様は作業中です、セーラ様の来訪はお伝えしますが直ぐに手を離せるかどうかは分かりかねます、客間に案内しますのでそちらでお待ちください」
アルラウネが館の客間に案内してくれた
かなり強力な魔力を持っている、カオリ様とイライザ様の影響だろう言葉は丁寧だがどこかふてくされた様に聞こえた、私の偏見だろうか?
その後の対応は神殿から派遣している神官に引き継がれた
「セーラ様、お会いできて光栄です、私はいまここでイライザ様とカオリ様の身の回りの世話をしておりますカチュアと申します」
挨拶の後、紅茶を出してくれた
蜂蜜の甘い香がする、味も素晴らしかった、このままゆっくり休めたら素晴らしいのにとおもってしまう、カチュアからこの館の主人の話を聞き出した、基本的に悪い話は出てこないカオリ様が妊娠したあとは非常に穏やかだという
「着任した時は夜に2人が暴れ騒音も酷くヒルダ様の森に避難した事もあったのです」
唯一気になった話はこれだけだ
「最近は工房でドレスや工芸品造りをされたり、クロエ様では手に負えない病や呪いの治療に神殿に出向いておられますがクロエ様の神聖魔法の腕前が上がるにつれてその必要はなくなっております」
後は問題のない毎日を過ごしているようだ
2人が「法王国」各地をまわって貰った時にも同行してくれ2人を尊敬している様だ、前任者は2人を野蛮で淫蕩にふける危険人物と報告していたがどちらの評価も間違っていない事を私は知っている、可哀そうな事に前任者はこの館での疲労と2人の評判を信じる周囲から嘘つきと非難された心労も重なり長期の休養をとることになった
夜中に悪夢を見るというので自然治癒だけでは完治は不可能と判断して私が神聖魔法で治療した、これからその原因との面談だ、正直なところ千秋様と魔王討伐の為に戦っていた時の方が楽だと思う、気が重い、あの時は不謹慎だが千秋様の影響で戦いが楽しいとすら思っていたのに
そう考えて気が付いた、私はカオリ様が羨ましいのだと、私は結婚することも無く女神様と「法王国」の為に人生を捧げてきた、私は誰かを好きになった事は有ったのだろうか?そういえば共に魔王討伐を果したユリアン殿も独身を貫いている、どこかで一歩踏み出していれば違う人生が在ったのだろうか?
「セーラ様お待たせしました、また何か不手際でもありましたか?」
私を回想からカオリ様の声が現実に引き戻した、もう少し思い出に浸っていたかったが次期最高司祭としての仕事に戻ろう




