111.村長の贖罪
俺が都落ちして故郷の村に帰った時、村は盗賊の主襲撃を受けていた、大した産業も無い小さな村で特に貧しい訳では無いがわざわざこんな所にくる旨みは無い村だ、食い詰めた冒険者崩れのだろう、俺の率いていた盗賊団なら手下にすらしない雑魚共だった、俺も冒険者崩れとしては同じだが一緒にされたくはない
自警団の男たちはリーダーが殺されて降伏した様だが縛られてなぶり殺しにされそうになっていた、俺は自分を裏切った部下に対する恨みの八つ当たりもかねて盗賊どもを血祭りにあげた、それが乱暴者として爪はじきにされていた俺が村の英雄になった瞬間だ
手の平を返して村長をはじめ村中が俺を歓迎した、婚約者を殺された村長の娘の婿として次期村長に望まれるまで時間はかからなかった、尊敬と期待が俺を変えてくれた結婚し双子の娘を授かった、人の親として自分の罪を自覚して心が痛んだ、俺が違法奴隷として売り飛ばした者にも親がいたのだと初めて気付かされた
この村を発展させることが罪滅ぼしと自分の罪に目を背けて自分には過ぎた幸せを噛みしめていた時に裁きの使者が訪れた、全ての犠牲者の顔を覚えている訳では無いが高値で売れた神官の女だ、記憶に残っていた、救出されたのだろうか、折れることなく再び神官として村々を訪れ病人の治癒などの奉仕の旅をしているようだ
「二人だけで話をしたい」
と彼女が言う
最悪口封じをしないいけないと考えもしたが、かつて捕らえた時とは明らかに違う空気を纏っていた自分の経験が勝てる相手では無いと教えてくれる、そしてその直感は間違っていなかった
「この村に訪れた目的は人探しです」
彼女がそう言った、きっと復讐のために俺を探し出したのだと思った
「貴方を探していたのではありません、私と共に邪神の生贄に捧げられた2人の神官の魂の転生先を探して神に導かれてここまで来ました」
俺の顔に考えが出ていたのだろう、言葉に出さずとも俺の考えを読んで訂正した
「よりにもよって自分を売り飛ばした盗賊の娘に生まれ変わるなどとは思いもしませんでした、女神様の力でこの奇跡が起こされたのです、それすらも何か意味があるのでしょう」
その言葉には俺に対する恨みが感じられ、それ以上の俺には理解できない何かが感じられた
その何かはともかく自分の可愛い娘が俺が売り飛ばしたもう2人の神官の生まれ変わりだというのが衝撃だった
「彼女たち2人は成人と共に前世の記憶を思い出すでしょう、かつて貴方に捕らえられ売り飛ばされ、生贄に捧げられた自分の最後を、そして邪神に取り込まれ、勇者に救済され再び生を受けたという奇跡を噛みしめる事でしょう」
その言葉を最後に彼女は無言になった
俺に懺悔の機会を与えているのだろうか?それとも惨めに命乞いするのをまっているのだろうか、はたまた俺が腰の剣を抜いてかかって来るのを待っているのだろうか?
剣を抜いて襲い掛かったとしても彼女には敵わないだろうという確信があった、妻や娘を置いてはいけない自警団を鍛えてはいるがまだまだ素人に毛が生えた程度だ
「頼む、俺を裁くのは成長して記憶を取り戻した2人の娘達に譲ってくれないだろうか?」
自分ですら信じられない様な言葉が俺の口から出ていた、目の前の彼女も驚いている
「驚きました、貴方からそんな言葉が出るとは、命乞いするかその剣で襲い掛かって来るのをまっていました、貴方を村人たちの知らない所で塩にして葬るつもりだったのに」
「自分の罪が露見した為に逃げ出したのだろうと村人達への言い訳も考えていたのですよ、勿論神官としては失格ですが1人の愚かな人間として復讐を果したかったのも事実ですから」
「確かに貴方の言う様に貴方の2人の娘にも復讐の権利があります、私が独り占めするのは悪いでしょう、貴方の命は預けておきます、だだし娘に危害を加えられない様に、そして逃げられない様に制約をかけましょう」
俺は命拾いをした、神聖魔法で制約に縛られ、加えて恐ろしい呪いをかけられた
そして安心していた、もう少し2人の娘達とこの村の成長を見届ける事が出来るのが嬉しかった
流石女神様の奇跡だ2人だけではなく大罪人すら救おうと慈悲を与えてくださった、それだけでは無い私の中に残る醜い恨みや怒りから私を救済してくれようというのだ、2人の娘の成長と父親となった男の贖罪をもって私の使命は完了するのだ、だがここは辺境の小さな村だ決して恵まれた環境では無い
渡しと同じ様に生贄にされた2人の為にこの村が発展させたい、そのためには何かの変化が必要だ、あの男もその一助となるだろうが私にも何か手伝えることが無いだろうか?山間部のため開拓出来る土地には限りがある、放牧をするにしても獣が多く簡単では無いだろう、その獣を狩って生活費の足しにしている位だ
猟師の生活を壊してまで牧畜を導入するかを決めるのは私の役目では無い、聖女候補者の実家の村が勇者と使徒様から家畜を賜って少しづつ村が豊かになっていると伝え聞いている、その勇者が私を蘇られて下さったカオリ様だ男に紹介状を書いて残すことにした、牧畜を始めるのであれば助けて貰えるようにと
しばらくして、そんな私の小賢しいおせっかいなど必要としない宝の山を転生した娘たちが発見した、それは岩塩の鉱脈だった、海の無い「法王国」で塩は貴重品だ、珊瑚様に取り込まれた時に海の関わる邪神としての力の一部を受け継いでいたためにそれを発見できたのだろう
珊瑚様も驚き喜んでもいた、今は微かは力だが邪眼も持っている、珊瑚様は自身の巫女に成長する事を期待している様だ、2人の娘達は前世の神官としての修行と転生の奇跡のおかげて神聖魔法の素養もあるこの先珊瑚様とどの様な関係を育てていくのだろうか、お互いとこの世界にとって実りの有るものであって欲しい
そう導くのが私と彼女たちの使命となるだろう、彼女たちの成人が待ち遠しい彼女たちの前世の神官との交流は共に邪神に生贄にされ取り込まれた事だけだった、会話を交わした事すらなかったのだから、それまではこの村の行く末を見守っていこう




