110.スセリ
祭壇の上に手足を縛られ心臓に短剣を突き刺されて命を落とした、何かの悪魔か邪神への生贄に捧げられたのだとは理解した、意識が途絶えたあとひたすら悪夢を見ていた深い水の底で心を狂わせる様な奇怪な生物に囲まれていたそこでひたすら女神様に祈っていた
そんな中で私の前に脅威となる何かが迫っていた自由に身体は動かないが必死に神聖魔法を唱えその何かを防いだ、何人かの人間が目の前にいる事に気が付いて間もなく私の首が身体を離れ飛んでいた、自分の身体の下半身が蛇の様になっており倒れていくのが見えた
そこでまた意識が途絶え今度はただただ深い眠りに落ちて行った、その眠りから覚めた時には寝台に寝かされていた
「大丈夫ですか?貴女は自分の名前を憶えていますが?」
優しい女性の声が聞こえる
あの化け物の様な何かになり果てそして再び死んだのだ、そしてやっと女神様の元にたどり着いたのだと思った
「スセリと申します、女神様、私等の魂を導いて下さいましたこと感謝致します」
感激しながら感謝の言葉を継げる
「カオリ様、イライザ様、いったい何をやっているのですか?」
別の女性の咎める様な声が聞こえる
「何って、生贄にされた魂を俺たち2人で蘇らせたに決まっているだろ、見たら直ぐに分かるだろう」
三人目の声が聞こえた
「イライザ様!そんな事はわかっています!誰の許可を得て蘇生の奇跡を起こしているのですか?」
「女神様が許可したからこの通り奇跡が起こせているんだ、セーラ様にとやかく言われる事じゃないだろう!」
私の事で喧嘩になりそうだ何とかしたいが私の出る幕ではなさそうだ
「セーラ様、蘇ったばかりのスセリさんの前です、場所を変えましょう」
最初に声をかけて下さった女性の声がするこの方がカオリ様だろうか?
「そうですね、イザベラ、後を頼みます、スセリさんに状況を説明してあげて下さい」
口論になりかけていた3人が多少は落ち着きを取り戻してこの部屋を出ていかれた
「スセリさんでしたね、今までの事を覚えておられますか?私はイザベル、司祭の地位についています」
優しく声をかけられた
多少は落ち着いてこの状況を考える
「すいません混乱していまして少し時間を頂けないでしょうか?」
「もちろんです、喉を通るかは分かりませんが水をお持ちしますね」
寝台の横にあるワゴンから水差しを取りグラスに注いでくださった、上半身を起こし寝台に座ってグラスを受け取る、クラス越しに冷たい水の感触が伝わる
視線を自分の下半身にむける、良かった!いつも当たり前に見ていた自分の足がそこにある、落ち着いて少しづつ水を口に含みの喉に流しこむ、レモンのさわやかな匂いがした
「美味しい、水ってこんなに美味しいんだ」
イザベル様が空になったグラスに水を注いでくださった
「ありがとう御座います」
そういった時に自分の過ちに気が付いた、私を蘇られてくださったお礼を言っていない
「すみません、カオリ様とイライザ様にまだお礼を言えていません、私なんて事を・・・」
「気にしなくても大丈夫ですよ、後でその機会は有ります」
イザベル様が優しく語りかけてくださった
そして思い出した、勇者カオリ様と聖女イライザ様の事を女神様に仕える私達の誰もが憧れた英雄だ、自分の幸せを噛みしめる、この感動と感謝は忘れる事は無いだろう、その思いは直ぐに恐怖に上書きされ最終的に尊敬に変化した
一言で言えば地獄だった
「盗賊に捕らわれるとは何という事だ、だが折角蘇ったのだ、俺達には責任がある、俺が直々に鍛え直してやろう」
イライザ様が宣言された
「邪神に操られても、魂が無事だったのは素晴らしいわ、邪神の呪いに打ち勝ち逆に邪神を従える事が出来るように鍛えてあげます」
カオリ様が私を賞賛して下さった
2人の管理する神殿に招かれ修行と言う名の虐待が始まった、私は英雄になりたい訳では無いのだが拒むことはできなかった
「良いですか?貴女と共に邪神に捕らわれていた2人は転生を遂げます、彼女達を探して見守る事が蘇ったスセリさんの使命です」
カオリ様の言葉を拒む事など出来なかった
最初こそ付いて行くことがやっとだったが、ある程度の基礎が出来てからは自分の成長が楽しかった、最後の試験を兼ねて、かつて自分が生贄として捧げられた邪神を呼び出して契約を結んだ、既にカオリ様が契約で縛っているが私もその契約に加わりこの世界での珊瑚様の有り様と役割を定義して力を借り、代償として珊瑚様の存在を認識して魔力を捧げる
最初こそカオリ様の契約の恩恵で渋々力を貸してもらっていただけだが、次第にお互いが無くてはならない相棒になっていった、勿論それ以上の女神様への信仰があっての契約だ、定期的に本神殿で自分の力を証明しなければこの力を封印される事になってしまう、カオリ様は免許の更新と仰っておられた
後に転生した2人の神官に巡りあった、驚いたことに双子で父親が私達を攫って売り飛ばした盗賊の頭だった
「頼む、俺を裁くのは成長して記憶を取り戻した2人の娘達に譲ってくれないだろうか?」
単なる命乞いであれば耳を貸さなかっただろうが、奥さんと共に双子の娘を育てる彼を罰する事は出来なかった、神聖魔法で制約を施して再び悪事を働けない様にし、更に珊瑚様の力で呪いをかけて縛って判断を保留した
ある意味でこの制約や呪いはは加護であり祝福だ2人が記憶を取り戻し、憎むべき盗賊の頭では無く父と慕うのであれば純粋な加護と祝福となるだろう
私の心の奥底に彼を裁きたいという憎しみが残っている、本質としては邪神である珊瑚様はカオリ様との契約の効果でその憎しみを増幅こそしないものの私が望めば喜んでいつも以上の力を貸してくれることだろう
私の使命の半分は達成したも同然だが皆が祝福できる形で達成したいと神官としての自分が望んでいる、その最大の障害が私自身の心の中にあるのだ、最終的に個人として彼を赦す事は出来るのだろうか?




