5.外科医鮫島洋太(序)
『俊哉、オレな、1ヶ月前ぐらいから変な夢を見るようになったんだ・・。』
友人Aは、オレの目を疑っているかのような、表情を観察するような目をしてオレを見ながら話を切り出した。自分が話そうとする突拍子な話を、聞き手は信じてくれるだろうか、そんな自信の無さがにじみ出ている顔だった。
『オレは、夢の中で外科医のお医者さんだった。』
『東北の国立大の医学部を出た32歳の男性、名は鮫島洋太という・・・』
『自分より、年下の奥さんが居て、彼女は妊娠中・・・』
『元看護婦で、オレ・・・嫌、鮫島洋太と彼女は、洋太が大学を出たばかり、初めて務めた病院で知り合った』
『???、待てよA(友人の仮名)、ヤケに具体的な夢だな・・、それ、本当に夢か、ドラマでも見て、寝ぼけて夢だと勘違いしたんじゃないのか??』
『違う、俊哉、違うんだ・・』
『だってよぅ、普通、夢で見た内容なんか、そんなに繊細に覚えてネェだろうが・・』
苦笑しながら、オレはそん時持っていたグラスの中に残っていた酎ハイ総てを、喉に流し込んだ。
『俊哉、お前が言う事はもっともだ。オレもさ、何で夢の記憶が・・・こんなに覚えているのか・・』
『・・・理由の一つは、夢の内容が続くんだ。』
『続くぅ・・・、どういう意味だよ、・・・オレ、グレープフルーツサワーもう一杯頼むけど、オマエはどうする、同じでいいかぁ?』
Aは、オレの問いに言葉では答えず、軽く頷いたので、オレはタブレットで二人分を選択した。
秒で、タブレット上の画面が変わる、オーダー画面に待機中の文字が映し出される。
『何日も、同じ夢の内容が続くんだ・・』
『マンガで、1話、2話みたいにか??今日見た夢は、1話で、明日は2話目ってか』
オレの気の抜けた様な口調とは、逆にオレのAを見る目は細くなったに違いない。
目の前のモノにピントを合わせようとするかのように(実際、オレは現在進行形のバリバリ老眼だから、先ずは最初にメガネをとってするのだが)、Aの目を遠目に眺めた。
彼の目に、狂気の匂いがあるかどうかを観察したんだ。
彼が離婚を経験し、知らず知らず精神を壊しているかもしれない、オレは彼の目を見てAが正気かどうかをみようと彼の目を見たんだ。
Aも、最初からオレの表情をうかがっていたから、目と目があった瞬間に、アイツの口が動いた。
『俊哉、信じてくれっとは言わない、お前の気持ちも、何が言いたいかも想像がつく。』
『とにかく、聞いてくれ、オレの話を・・』
『最後までオレの話をきいて、オレがおかしくなってると思ったら、正直に言ってくれ、ダダ、先ずはオレの話を聞いてくれ』
そういうAの目は、普通にオレの目に焦点を合わせていた。
その目を見ても、Aとの関係が浅ければ、オレは直ぐに彼に心療内科に行く事を勧めたかもしれない。
だけど、Aは違う。アイツはオレの親友だから・・・。
その時、個室の扉が開き、『生グレープフルーツサワー2杯お待たせいたしました』と声が聞こえた
『ハイ』
オレが襖を開けると、愛想の良い女性店員が大きなジョッキを両手に持っていた。
オレは、この日友人Aの夢に出て来る鮫島洋太を知る事になったんだ。




