泥棒
「あら、嫌だわ。あの子忘れ物をしていったわよ。」
そういうエルロイドの目線の先にはミラが居た。
エルロイドは、従僕に手を差し出すと従僕はエルロイドの掌に眼鏡ケースを置いた。受け取ったエルロイドはふたを開けると、中からチェーンを付けた眼鏡を取り出し掛けた。その眼鏡チェーンには小さな宝石が綺麗に並べられていて色もエルロイドの瞳の色に合わせるようにサファイヤからタンザナイトやアクアマリンなどがグラデーションを出すように並べられていた。陽の光を浴びると反射した色がまた綺麗に色合いを出している。
そのチェーンを見たケニアがあっ、と小さく声を漏らすと、エルロイドはケニアに微笑みかけた。
「そうよ。マティスが貴女からだと言ってくれたのよ。小さな宝石だから重くはないけれど、良い石で作ってくれたのでしょう。輝きが違うもの。サロンに持っていくとね、評判が良いのよ。わたくしにまで気を使ってくれてありがとう。その優しさにいつかお礼をしなければいけないと思っていたのよ。」
エルロイドの言葉に、ミラの視線は眼鏡チェーンに釘付けになった。ケニアは、エルロイドに微笑み返して、
「ルチェイン侯爵夫人には、いつもご助力を頂き、その感謝の御しるしですので、お気になさらないで下さい。」
「貴方はいつも謙虚ね。その数分の一でもレナーリアと、この子に欲しかったわねぇ。」
そういうとまた視線はミラへと流れた。
しかし、ミラは眼鏡チェーンに釘付けになっていて気が付いてはいなかった。
エルロイドは、視線を持っていた紙に移すと、
「なんでこんなバカなことを思いつくのかしらねぇ。それで、貴女・・・・・何て言ったかしら?」
「ミラ嬢ですね。」
アンゲルが応えると、
「ああ、そうミラ嬢、ミラ嬢?」
エルロイドは二回ミラを呼んだ。二回目で自分が呼ばれていることに気が付いたミラは慌てて返答をした。
「は、はい。何でございましょうか。」
「これはレナーリアが一人で考えたことなの?」
気が漫ろなミラは、簡単に応えてしまった。
「いえ、伯父さまと義伯母様がお考えに。私は言われた通りに動けば、公爵家の財産は私の物だと言われて。」
エルロイドとアンゲルとルーベンスは、残念な子を見るような視線をミラに向けた。もし仮に結婚出来たとしても、ミラに公爵家の財産を好き勝手には出来ない。なぜなら、そうならないように生前にマティスが手を打ってしまっていたからに他ならない。
ランドルフの女難を見ていたマティスは、もしケニアが自分が亡くなった後、離縁してしまった場合には、ランドルフの財産とオルゲーニ家の財産を分けてオルゲーニ家の財産に関しては、エルロイドの承認がなければ自由に出来ないように法的手続きをしてあった。もし、エルロイドに何かあった場合にはルチェイン侯爵家の当主がその任に当たるようにまで、してあるので、ランドルフと結婚をしても自由になるものはなかった。
「この際だからはっきりと言っておきましょう。ランドルフと仮に結婚をしたとしても、貴女はオルゲーニ公爵家の財産を勝手にすることは絶対に出来ませんよ。させるわけがないでしょう。だからこんな紙は無駄なのよ。」
そう言うと、エルロイドは立ち上がり、暖炉の方へと歩み寄り、マッチを手に持ち皿の上でマッチをするとマッチの火に紙を当てて燃やしてしまった。燃えカスは皿の上に置いて水をかけた。それをメイドに指示をして片付けさせると、眼鏡をテーブルに置いて、アンゲルとルーベンス、ランドルフの傍によって話を始めた。ケニアはこの間は自分には関係ないとお茶を飲み始めた。
その四人の動作を確認したミラは、あるロイドの眼鏡に手をかけた。そしてチェーンを取り外してポケットに入れると、そっと部屋を出て行こうとした。しかし、その行動を目端で見ていたルーベンスに引き止められた。
「これは、泥棒だからね。」
ポケットから眼鏡チェーンを取り出して、ミラの手首を強く掴んだ。
ミラは、大仰に大声で叫び出した。
「きゃー助けてぇー!」
その声にレナーリアがバックを持ったまま入って来た。
「ちょっ、ちょっと!貴方!女性にする行為ではなくってよ!何をしているの!」
「泥棒を捕まえただけですよ。」
エルロイドの言葉にレナーリア怯んだ。泥棒とはどういうことなのか?この部屋にはとるものなど何もないはずだ。そしてルーベンスの手が持っているものを見て気が付いた。そこに並んで嵌め込まれている宝石を。レナーリアの腐っても元公爵家の令嬢なので、品物良し悪しは解る眼を持っていた。
「それは、どういう・・・・。」
「義伯母様ぁ。酷いんですぅ。助けて下さいぃ。」
その状況はレナーリアでもさすがに分が悪いことに気が付いた。助けようもない事も。
「お、伯母様、こん、今回だけは見逃して貰えませんか?ミラは、わたしが連れて帰りますから。」
「そんなことは当たり前でしょう。」
エルロイドの冷たい視線がレナーリアの心に突き刺さる。今は、反論はしてはいけない時と言う事だけは、理解が出来ていた。
「義伯母様、ダメよ。うち破産してしまうわ。没落は嫌です。このままでは没落してしまう。」
ミラはレナーリアにだけ聞こえるように耳打ちした。今回の王都での買い物の金額を言っていることは解っている。レナーリアも同じ立場だから。しかし、レナーリアたちは、王都から少し外れた田舎に住んでいるのだから、王都を出る前に買ったものを質屋に売るつもりでいた。そうすることで少しの金額の損失で済むはずだった。しかし、若いミラがそんな方法を知っているはずもなく、没落してしまう。どうにかしなければ。という焦る気持ちで動いてしまったのは、教えなかったレナーリアのせいである。しかも、ミラを置いたまま自分だけ帰ろうとしてしまっていたのもレナーリアだった。
可愛がっていたはずの義姪であっても、自分よりも可愛い存在では無かったことが露呈してしまう行動であった。
「ミラ、悪いことをしたのだから謝りましょう。ね。私も一緒に謝るから。」
「私のせいじゃないじゃない!伯父様と義伯母様が考えたことに私は巻き込まれただけなのに。なんで私が謝らなきゃいけないんですか?謝るなら義伯母様でしょう!」
今は謝罪の時だというのに、訳も分からず自分のせいだと攻め立てるミラにカっとなったレナーリアは頬を打った。
「人の物を取るなんて泥棒のする事よ。だから謝るというのに、そんなことも分からないの?」
「私は悪くないもん!義伯母様のせいだもの!」
ミラの自分理論にレナーリアは苛立ちが増していった。
「なら、好きにしなさい。私は自分のことで一杯一杯だから、もう帰るわ。貴女は警備兵にでも連れて行かれたら良いんじゃない。では伯母様今生ではもうお会いすることもないと思いますが、息災でお過ごし下さい。それでは失礼致します。」
レナーリアはすっと立ち上がるとミラを置いて出て行ってしまった。ミラは経費兵につかまりたくはないという気持ちで縺れる足を動かしながら、バックを掴んでレナーリアの後を追っていった。レナーリアの名前を叫びながら謝罪の言葉も叫んでいた。
「煩いのが居なくなって、やれやれね。」
エルロイドの言葉にその場にいた全員が大きく息を吐いた。
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