魔物退治2
エルロイドは、驚愕した表情で立ち尽くすレナーリアに座るように促した。しかし、久しぶりに会った苦手な伯母を前にレナーリアは直ぐには動くことが出来なかった。そこに無作法を体現するミラが走って食堂へ入って来た。
「義伯母様。ただいま帰りました。あら?どうして立っていらっしゃるの?・・・・まぁ卑しい泥棒猫がまだおりましたの?昨日追い払いましたのに!早くお帰りなさい。もう離縁されたのだから。本当に女々しい人ね。」
「一つ、訂正を入れさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はぁ?聞きたくないんですけど。」
ミラは胸の前で腕を組んで背を逸らせて不遜な態度を取った。
「離婚はしましたが、されたのではなくて、私から離婚をしました。そこは、小さいようですが、大きな間違いです。」
「どっちでも同じよ。だって、ランドルフ様に相手にされないで白い結婚の証明で離婚をされたのでしょう。社交界で有名なお話よ。だったら、離婚されたも正解よ。」
「違いますよ。白い結婚であっても、私が申し出なければ離婚には至っておりませんでした。」
「同じよ!貴女は相手にされなかった。これが現実であり、周りの評価なのよ!」
「違う。それは、僕のせいであって、彼女の落ち度ではない。何も知らない君が言う事ではないしね。今の言動は彼女に対して謝罪を求める。」
ランドルフが毅然とした態度でミラに言い放った。ミラは唇をぎゅっと噛み歪んだ表情でケニアを見た。
「謝罪は、人から言われてするものではありませんよ。ランドルフ。強要はいけないわ。する気がない謝罪ほど不快なものはないのよ。ねぇレナ。貴女はそれが、得意なのよねぇ。したくもない謝罪をするとき、ほらその子と同じ表情をするのよね。親子なのかしらと思う位によく似ていてよ。」
レナーリアは、この状況が不味いと思い、話を変えることにした。
「私の食事を用意してちょうだい。」
しかし、エルロイドは攻撃を辞めることはなかった。
「随分と不遜なお客様ねぇ。こんな時間に起きて来て、食事の用意を要求するなんて。招かねざる客の貴女にどうして食事の用意が必要なのかしら?」
「私は、ランドルフの婚約者であるミラの後見人として参っておりますのよ。いくら伯母様でもそれは失礼というものですわ。」
この言葉にエルロイドは口端を上げた。
「ランドルフはそんな約束はしてはいないと言っているのよ。どういう事かしら?」
レナーリアは嬉しそうな表情を浮かべてミラの方へと手を伸ばした。察したミラはバックから紙を出してレナーリアへと差し出した。
その紙をレナーリアはエルロイドへと差し出した。
その紙こそが、ミラがランドルフの婚約者だと主張する誓約書だった。
エルロイドは、目を通すと、大きく溜息を吐いた。
「バカなの?いや、バカなのはマティスが存命なうちから知っていたけれどもね。まず、誓約書というけれど、何故、ランドルフが控えを持っていないの?」
「街中で会った時に書いて下さったからですわ。」
ミラが自信満々に胸を張って言い放つが、これに反論したのはルーベンスだった。
「紙もペンも持ち歩かないランドルフ殿がどうやって?」
「バカね。貴女知らないの?貴族の男子はねえ紙とペンを持ち歩いているのよ。おしゃれな宝飾が施されていたり、彫刻をされていたりするものをね。」
ミラが侮蔑の表情をルーベンスに向けるが、ルーベンスは表情を崩すことなく反論する。
「それはないよ。彼は紙もペンも持ち歩くことはなかったんだ。面倒くさいから。先日文具店へ出かけた時に彼自身が周りは持っていたけれども自分は持っていなかったと話したばかりだからね。」
「そ、そ、え、えっと、その時には、私が持っていましたのよ。」
「へぇ。常に持ち歩いているの?」
「当り前じゃないですか!淑女の嗜みです。」
ミラが言い訳を必死に考えて返した。ルーベンスは掌を上に向けてミラに差し出した。出された掌に自分の指先を乗せると、その指先を払い除けてもう一度掌を差し出した。
その行動に自分を欲していると勘違いをしたミラは顔を真っ赤にして怒鳴り出した。
「なんなのよ!せっかく乗せてあげたのに!」
「今の流れでどうして指先を置いてくるのか理解に苦しむよ。本当によく似た二人だね。」
ルーベンスは、視線をレナーリアに送ると、昨晩自分もルーベンスの掌に手を置こうとして逃げられたことを想い出してミラと同じように顔を真っ赤にした。
「ペンを出してって言っているんだよ。淑女の嗜みでいつも持ち歩いているというなら、今も持っているよね。出して。」
まさかペンを出せと言われるとは思わずミラは狼狽え始めた。周りをキョロキョロと見渡してレナーリアと視線が合うと助けを求める視線を送るが、レナーリアは首を横に振るだけだった。
「こ、今回慌てて来たので、バ、バック、になくて。」
視線を泳がせながら答えた。その答えにルーベンスは侮蔑の視線を送った。
「と言う事は、当日もっていたのは怪しいよね。」
ミラはドレスを握りしめて俯いた。レナーリアも口元で両手を握りしめて周りを窺っていた。
「それから、この誓約書の文字は明らかにランドルフ殿の物ではないよね。筆跡鑑定するまでもない。ランドルフ殿の字も綺麗だけど、この字は全く違う字は体を表すというけれど、女性の字、だよね。レナーリア様。貴女が昨日買い物をした場所から請求書のサインを預かって来ましたよ。貴女の癖字にそっくりです。」
請求書のサインをエルロイドに渡すと、エルロイドは両方を見比べて頷いた。
「これは、偽造ね。レナーリア公文書偽造という言葉を知っていて?」
「こうぶんしょぎぞう?」
「そうよ。誓約書も請求書も公に約束をすることに対しての書類を勝手に作る事よ。犯罪だから。」
エルロイドが発したその言葉に震え出したのはミラだった。ミラは震えを抑えられず、レナーリアへ視線を送ると、レナーリアは固まったまま動かなかった。犯罪を犯しているという意識が全くなかった。
「請求書だって、これはオルゲーニには全くかかわりのないものよ。」
「そ、そ、そんな、そんなことはありませんわ!だって、ミラはランドルフと結婚をして社交界にデビューをするためには必要な経費です。み、ミラの後見人であるわたくしだって、オルゲーニ家の為に必要ですわ。」
「だから、それがそもそもの間違いでしょう。ランドルフはそのお嬢さんとの結婚は望んではいないのよ。だから誓約書を偽造したのでしょう。偽物を持って来ても応じられないし、先ずそこまで言うならランドルフの気持ちを聞いてみましょうよ。」
水を向けられたランドルフは、表情を引き締めて、レナーリアとミラをしっかりとしてから、ミラにはっきりと告げた。
「僕はケニアを愛しているし、ケニアとやり直したい・・・・違うな。ケニアと今度はちゃんと向き合っていきたいと思っているから君には微塵も愛情はないよ。君と結婚なんて御免だよ。やっと僕はお金を学んで経済を本当の意味で回そうと思っている。ただの散財者は傍には置けない。僕は領地民を守る義務があるからね。」
レナーリアは、ランドルフを睨みつけていた。ミラはそんなレナーリアを震えながら見つめていた。そんな空気の中エルロイドは拍手を送りながら、ランドルフに微笑みかけた。
「良くぞ言いました。マティスに聞かせてやりかったわね。草葉の陰で喜んでいることでしょう。解りましたか?レナーリア。」
レナーリアは、唇を噛んで顔を歪めながら俯いた。
「それから。」
アンゲルが、申し訳なさそうに発した。
「昨日と今日のお買い物に関してですが、オルゲーニ家では一切の支払いを拒否させて頂きました。新たな請求先は、ボルグ伯爵家へと回しておきました。」
「どうしてよ!」
レナーリアが直ぐに反応した。しかしアンゲルは臆することなく淡々と告げていく。
「まず、オルゲーニ家の買い物ではない事。公文書偽造までする相手に情けを掛ける事など出来ません。」
「それから叔母様、いえボルグ伯爵夫人、貴方は金輪際オルゲーニ家と関わることを断固拒否します。二度とこの家の敷居は跨がないで頂きます。」
「どういう事よ!」
「出て行けと言われているのよ。レナーリア。」
エルロイドは、引導を渡しように扇を扉に向けた。レナーリアは怒気を隠しもしないで扉を閉めるのに大きな音を出して、出て行った。ミラを残して。
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