女難
ランドルフは、メイドを呼びアンゲルとルーベンスを呼ぶように言付けた。その間もミラはランドルフの手を取り放さない。ランドルフ自身は手を抜き取るが、また手を取るという事の繰り返しだった。
ノックオンに返事をすると、ルーベンスとアンゲルが連れ立って入ってきた。
「おやおや、お盛んで。」
ルーベンスは目を細めて楽しそうにランドルフに言い放った。
「違う!離さないんだ!」
「当り前でしょう。婚約者なんですもの。」
「婚約者?」
アンゲルが訝し気な視線をミラに送った。
「そうよ。ほら見て下さいな。」
ルーベンスは誓約書に目を通すと、つまらなそうな表情をみせた。その誓約書はそのままアンゲルの手に渡る。アンゲルも誓約書を見ると、怒気の表情を浮かべるが、ミラには伝わっていなかった。
「今日から私がこの屋敷の女主人よ。」
ミラが胸に手を当てて背を逸らしながら、二人に語る。二人はランドルフを見ると、
「こういう女性が好みなら、ケニアに声をかけないで欲しいのですが。」
「坊ちゃま。懲りませんねぇ。」
「だから違うんだ!」
三人のやり取りを見ていたミラはルーベンスを視界に入れた。
「あら、貴方もイケメンなのね。」
ミラの呟きは三人の耳には届いていなかった。ミラはランドルフの手を離すと、ルーベンスに近寄って耳元に口を近づけた。
「良いわよ。貴方は私の恋人にしてあげる。これからはこの屋敷の女主ですから、私の言うことを聞いた方が、貴方の為よ。」
ルーベンスは、ミラから距離を取り袖口でミラが囁いた耳を拭い始めた。
「ランドルフ殿、ケニアはどうした?」
「私が追い出したわよ。あんな女を傍に置くなんて!私との誓約があるくせに。」
ルーベンスの問いに答えたのは、ミラだったが。しかしその物言いにルーベンスは、冷たい視線を送っていた。
「ランドルフ殿。熱は下がったのか?」
「あぁ、先ほどよりは楽だと思う。」
「この令嬢は、どちらの令嬢なんだ?」
「あら、わたくしまだ名乗っておりませんでしたわね。オルゲーニ公爵の叔母様のご主人の姪にあたるミラ・アントレアと申します。」
「と言うことは、レナーリア様の義理の姪後様ということで宜しいでしょうか?」
「そうよ。」
「なるほど。レナーリア様は息才でいらっしゃいますか?」
「ええ。お元気でいらっしゃいますわよ。もう直ぐいらっしゃると思うわ。」
アンゲルは、小さく息を吐いた。
「ランドルフ様はとりあえず体調を戻すことに専念してください。私はルーベンス様と地固めを致します。」
アンゲルの言葉にランドルフは無言で頷いた。視線での会話は出来ていた。
アンゲルとルーベンスは一緒に部屋から出て行った。
「それで、その叔母様というのは?」
ルーベンスの問いにアンゲルは声を落として答えた。
「オルゲーニ家を食いつぶす勢いの方でマティス様の妹御でいらっしゃいます。」
「また、散財ちゃん?」
「はい、到着が遅いところを見ると、既にブティックや宝飾品店やらに立ち寄られているかと思われます。」
「わぁーお。サイテー。絶対に自分の懐じゃないだろう。」
「・・・・・多分。」
「しかし、あれが誓約書だと思っているのか?」
「見た所、・・・・バカの二乗だと思われますから、いけると思っているかと。」
「他には?親族は?」
「オルゲーニから出られたマティス様の伯母様にあたるルチェイン侯爵夫人がいらっしゃいます。」
「元気なの?レナーリア様と同レベル?」
「違います。女傑という位の方です。お元気な方ですよ。」
「いいね。では招待状を送ろう。明日朝一番位にはお越し頂けるようにね。」
ルーベンスとアンゲルは肩を並べて、執務室へと歩き出した。
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