恋敵
ケニアがやって来てから3時間が過ぎて昼間近に、ルーベンスがアンゲルと共にオルゲーニ邸へとやって来た。
メイド達に案内をされて、執務室へやって来ると、ケニアが書類の処理を行っていた。
未処理の書類の山よりも処理済の書類の山の方が大きくなっているところを見ると、ケニアが一人で熟していたようすが窺える。
「遅くなって悪かったね。」
明るく話すルーベンスに返ってきたケニアの表情は怒りが窺えた。
「やり過ぎです。」
「何が?」
何に対してだか判らないルーベンスは、聞き返した。思い当たることはいくつもあるが、どれもケニアにばれてはいない自信があったが、どこから情報が漏れるかは判らない。自分の側近たちは裏切るようなことはないが、恨みを買った相手からだって漏れることはある。
「オルゲーニ邸への経済的制裁というのは何ですか?」
「何それ?」
ルーベンスは、経済的制裁をオルゲーニ邸へ課す訳がないと、その言葉に疑問を持ったがすぐに思い出した。
「あぁダンヒル子爵に対してだね。解除を忘れていたよ。」
「ダンヒル子爵?」
「そう、ここにダンヒル子爵とエメ嬢が居座っていた時にケニアの商会へ買い物に来て、ツケで沢山購入をしようとしていたからサントスが機転を利かせてその時には、現金のみの対応にしたんだけど、お金を持っていないから支払えないと言うんでね、ほかの商会でもオルゲーニのツケで沢山購入されては困るから、オルゲーニ邸へは現金のみの対応で少額の身の取引をという枷をつけて貰っていたんだよ。彼らが好き勝手をしたツケをランドルフ殿が支払うのは違うからね。裁判後で伯父上たちがやって来たからすっかり忘れていたよ。」
「着たら屋敷内が寒くて薪が高騰していて買えていないというからびっくりしたわ。」
「ごめんよ。失念していたよ。」
「そういう理由なら仕方がありませんわね。でもお兄様が忘れるなんて珍しい。」
「僕だって人間だからね。で、ランドルフ殿の体調はどうなんだい。」
「私が付いた時には高熱でしたが、1時間前には少し下がった気がしますわ。」
「アンゲルとお兄様が来たのなら私はランドルフ様のご様子を窺ってきますね。」
「えっ。ケニアが行くの?」
「そのために私が来たんですよ?」
ケニアは首を傾げてルーベンスを見た。不思議そうに自分を見るケニアにルーベンスは何とも言えない感情を抱く。
ランドルフ自身は悪い人間ではないが、自分からケニアを横取りしておいて二年も放置をしていた恋敵。人としては好意を持てるが、恋敵としてどうしても見てしまう。最近は婚姻時のケニアに対しての振る舞いを忘れて、積極医的にアピールをして来る。その人物の看病となると、気持ちが騒いてしまう。
「アンゲル。後は頼んだわ。私に判るものは処理をしておいたから確認はしておいてね。」
「御意。」
アンゲルに、指示を出すと、ルーベンスの顔を見ずに執務室を出て行ってしまった。
「嫉妬はむき出しにしない方が、良いかと・・・・。」
「無理でしょう。男女が二人きりの部屋なんて。」
「病人には何もできませんよ。」
「寝ぼけて何かするかもしれないじゃないか。」
アンゲルとルーベンスのやり取りをケニアは知る由もなかった。
☆☆☆
ランドルフの額に手を置くと、かなり熱は下がってきた様子だった。
「良かった部屋を暖かくしたから、汗をかき始めて熱が発散されているのね。」
額に置いてあるタオルを桶に入れて水を絞り、額へ置くとランドルフの瞼が上がった。
「おはよう。・・・・ケニア。」
「もう、午後ですわ。」
ランドルフが眩しい笑顔をケニアに向けると、ケニアは頬を赤く染めながら、応えた。
(イケメンは、この状態でもイケメン過ぎて困るわ。)
「僕の奥さんはなんて綺麗な人なんだろう。」
「ち、ち、違います!綺麗なのは、あ、貴方で、わ、私は奥さんではありませんわ。離婚していますよ。」
「うん・・・・。そうだね。僕が馬鹿だったら。・・・・何で人の話にばかり耳を傾けて自分で考えようとしなかったんだろう。そうしたら、今も君は僕の妻だったのに。」
愁いを帯びた儚げな表情は、ケニアのハートに突き刺さった。
(だ、ダメよ。今は病気で心が弱っているだけだもの。信じちゃだめよ。)
ケニアの心を読んだかのように、ランドルフは、両手でケニアの手を握ると、目線を合わせて
「ちゃんと君だけを見ていくから。これからの僕を見て行ってくれないか?」
と懇願してきた。ケニアの心臓が早鐘を打ち始めると、いきなり扉が勢いよく開かれて何かがすごい勢いでケニアの横を突き抜け、ケニアを突き飛ばした。床に尻餅をついたケニアは、呆然とランドルフへと視線を向けていた。
ランドルフの首に回された白い腕とピンクのドレスが視界には飛び込んできた。
「お加減が悪いと伺って飛んできましたのよ。それなのに浮気なんて酷いわ。妻の私を除け者にして。」
妻・・・・
その言葉がケニアの頭の中で木霊する。目の前にいる男は先程何て言ったかしら?
(ちゃんと君だけを見ていくから。これからの僕を見て行ってくれないか?)
先ほどそう聞いたはずだったが、何か自分は聞き間違いをしてしまったのだろうか。ケニアは頭の中をフル回転した。
「誰だ!君は!」
「嫌だ。忘れてしまわれたのですか?離婚したら、私と結婚してくださるって仰ったではありませんか。分家筋のミラ・アントレアですわ。誓約書もありますわよ。」
ミラが後から追って来た従僕に手を翳すと、従僕が掌に丸められた紙を置いた。
それをランドルフに渡すと、ランドルフは開いて読み上げ始めた。
「私、ランドルフ・オルゲーニは妻と離婚をした際には、ミラ・アントレアと再婚をすることを約束する。こんな約束したことはない!」
ランドルフは起き上がって反論をするが、ミラは勝ち誇ったように
「約束ですからね。そこのあなた人の夫を取ることは悪い事だって知らないの?早く出て行って下さらない?」
ケニアの方へと首を向けて下卑た笑みを向けて来た。
「そうでしたか。それは失礼いたしました。では、公爵様大変失礼いたしました。」
「待って!待ってケニア。僕はこんな約束しないから!いかないで!」
「さぁさ。ランドルフ様、横になってこれからは私が看病いたしますから。妻の務めですからね。」
二人の言葉を背で聞きながらケニアは扉を閉めてオルゲーニ邸を後にした。
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