犬種が違う
帰宅後、自室で少し寛ぎ夕食を全員で食べてから、ケニアは机に肘を置いて頬杖を突き考えた。考えても何も先には進まない気がして、厨房へと足を向けた。
厨房の奥へ行くと使用人たちの休憩室兼食事の部屋がある。ケニアは迷わずにそこへ向かった。
ドアを開けると、男性は誰もいなくて、メイド達がお茶を飲みながら雑談をしていた。
「私も仲間に入れてくれる?」
扉からヒョコっと顔を覗かせて、全員の意思の確認をすると、腕を引かれて、椅子に腰かけさせられた。ケニアの前にはホットミルクが置かれた。
「私も今日はミルクなんですよ。胃の調子が悪くて。」
オルゲーニ邸で一時期ケニアと同室だったアセナが苦笑しながら置いた。
「今日はどうなさいましたか?」
同じく同室だったランが訪ねた。
「今日ね。お兄様とランドルフ様達と街へ買い物に行ったのだけど。変な話ね・・・・ランドルフ様とは夫婦だったのに全く接点がなかったじゃない?離婚してから興味を持たれて・・・。」
「あぁ。迷惑ですか。ヴィヴィ様に言って辞めさせますか?」
ランが、元の主であっても容赦なく吐き捨てた。
「違う、違うわ。・・・何ていうかどう接していいのか判らないのよ。」
「そうですよね。」
「ズレてんのよね。」
ヴィヴィの次に古株のシーナが同意して、ルルが非難。
「偶にね、犬に見えちゃうのよ。」
「あぁゴールデンレトリバー?」
「違うでしょ。ラブラドールでしょ?」
「ロングチチワじゃないの?」
「あんな大きな人が小型犬な訳ないでしょ?」
「だって、女の人に抱えられて移動する感じじゃない?」
「「「「ああぁ」」」」
全員が脳内でイメージして納得した。
「私は、グレート・ハウンドに見えるのよ。」
「「「「どこが?」」」」
全員が怪訝そうな顔をした。
「ほら、軍用犬て、スラっとしてカッコいいじゃない?」
「ランドルフ様で一致するのはすらっとした部分だけですよ。」
「あんなにストイックなカッコ良さはないわね。」
「ストイックさで言ったらルーベンス様じゃありません?」
「解る!ランドルフ様よりもしっかりしていらっしゃるし。」
全員から否定の言葉ばかりが出てくる。
「違うかなぁ。」
「何が違うのですか?」
振り返ると、ヴィヴィがケニアの背後に立っていた。
「私ね、偶にランドルフ様が、グレート・ハウンドに見えるのよ。」
「ランドルフ様は、グレート・ハウンドではありませんね。」
「「「「ですよねぇ。」」」」
「飼い主に忠実な軍用犬みたいな?」
「今はケニア様に忠実な・・・ゴールデンでしょうかね。」
「ほら!ですよねぇ。」
「ゴールデンかぁ。」
「ゴールデン・レトリバーは遊び心が強く、頭が良い子ですから、教えたことはしっかりと覚えます。ただし、一歩間違うと駄犬になります。」
「ランドルフ様じゃない。」
ランがゲラゲラ笑い始めた。
「品がありませんよ。メイドの品の無さは主の品の問題に繋がりますからね。」
ヴィヴィはランを窘めながら、ケニアの隣に座った。
「ケニア様は、ランドルフ様が不快ですか?」
「不快ではないけど。彼の同意を得ずに離婚したから少しだけ後ろめたいわ。」
「そこは気にする必要はありません。本来後ろめたさを感じなければならないのはランドルフ様です。二年もの間働きもせずに、愛人と自分をケニア様に養って貰って居たのですから。それこそ、どの面下げてこの屋敷へ出入りをしているんだって話です。」
「でも、ヴィヴィもアンゲルもランドルフ様が可愛いし好きでしょ?そんな人を無碍には出来ないわ。」
「私たちの事はケニア様には関係ありませんよ。幼い頃から見てきましたから可愛いと思うのは当然です。でもそれは私たちが勝手にランドルフ様を思っているだけのことです。ケニア様にはケニア様の思いがあるじゃないですか?何も私たちに合わせる必要はないんですよ。」
ケニアは俯いた。
「ケニア様、余計な事かも知れないけれど、ランドルフ様よりもルーベンス様に目を向けてあげてよ。ずっとケニア様に結婚してから付いてきて、寂しくないように傍に居てくれたじゃない?好きだから出来たことだと思うわよ。」
ケニアは、何か心の中にすとんと入って来たものを感じた。
「忍耐力は必要よね。」
「ランドルフ様を気にかけてくれるのは、元主筋ですから嬉しい事ですが、ケニア様を大切にして欲しいです。」
アセナが、ケニアの顔を覗き込みながら、ゆっくりと語りかけた。
ケニアは、ホットミルクを飲み干すと
「ありがとう。・・・ランドルフ様は、これからはゴールデンだと思うようにするわ。」
と斜め上の言葉を口にしながら立ち上がり、部屋を後にした。
「あぁ、これじゃぁランドルフ様は失恋確定じゃない。」
ヴィヴィが皆を横目で見ると、
「恋なんて、いつ始まるか解りませんよ。」
とアセナが応えた。それぞれに三人を思い浮かべて冷めたお茶を口にした。
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