犬と人間1
食堂で夕食を食べているときに、デルタは、嬉しそうに提案をした。
「ケニア、明日は父と一緒にカフェにでも行かないか?」
「行きません。」
「なんで?なんで?」
「明日は商会で小会議があります。」
「予定ずらせないのかい?パパ帰っちゃうんだよ。」
「僕もお姉さまと出かけたい。」
「えっ。ハンスも?」
「私だってケニアと一緒に出掛けたかったわ。帰る前に。」
「お義叔母さまも?それなら、会議をずらそうかしら?ルーベンスお兄様に調整して頂けたら問題ないのだけど。今は、あちらは晩餐中だし。」
「それなら、大丈夫だよ。明日はベルとハンスの為にケニアの予定を調整しておくように伝えてあるから。」
「流石はエドガーだわ。ありがとう。」
「可愛い奥さんの為なら、何でもするよ。」
「パパの時には、そんなこと言わなかったのに。ハンスとベルの為には動くんだね。ケニアは。」
解り易くデルタがいじけると、ケニアは困った顔をデルタに向けた。
「一人というよりは大勢の意見だとそちらに動いた方がいいかなと思っただけですよ。」
「ハンスとベルに言われたからだろう。良いよ。父親なんてそんなもんなんだ。」
「明日は、久しぶりにお父様ともショッピングがしたいわ。」
「・・・・・そうかい?パパもショッピングがしたいなぁ。何が欲しい?」
「私は、欲しいものはありません。でも春にハンスが王都の学園に通うならいろいろと必要なものがあるでしょうから、今からでも購入しても大丈夫なものは購入しておきたいじゃないですか。勿論お父様の冬の外套も用意して差し上げたいと思うし。」
デルタは、表情を明るくした。
「パパにも?パパも思ってくれているんだね?」
「当り前でしょう。お父様も叔父様もお義叔母様もハンスもみんな同じように大切よ。」
「あら、ルーベンスは?入れてくれないの?」
ベルの問いかけに、ひゃい。と可笑しな言葉を発した後ケニアは顔をイチゴよりも真っ赤に染め上げた。
「おや?」
「あら?」
エドガーとベルはケニアの反応に少し驚いた。
((これは期待が出来るのでは?))
「る、ルーベンスお兄様は、えっと、ほら、今は接待中で、ね、ほら、ここには居ないでしょう?ね、居ないから名前を、出さなかっただけで、ね、解るでしょう?」
明らかに動揺しているケニアの態度に全員がニヤついた表情になるが、動揺しているケニアは、気が付かなかった。
((((明らかに異性として意識をし始めたね。良かった。良かった。))))
「おや、皆で談笑中?」
ルーベンスがアンゲルとランドルフを伴って食堂へやってきた。
「明日、皆でショッピングに行くことになったんだよ。」
「あぁ父上がケニアの予定を調整して欲しいって言っていましたね。ケニア小会議は既にずらしてあるから問題はないよ。」
「・・・・・ありがとう。」
「顔が赤いね。熱でも出たの?」
ルーベンスは自分の額とケニアの額に掌を当てて発熱の確認をしたが発熱は認められなかった。
「熱はないよ。どうした?」
ルーベンスが、顔を覗き込むとさらに顔を真っ赤にして、目線を逸らした。
ルーベンスはエドガーに近寄り耳元で囁くように問いかけた。
「僕、何かしました?」
「したと言えばしたんじゃないか?ケニアが意識するように。ほら、」
エドガーの言葉にケニアに視線を送ると真っ赤な顔で俯きながら上目遣いにたびたび自分に熱視線を送るケニアにルーベンスは赤の行動が功を奏していることに嬉しくなった。
「良かった。人間のままで。」
「はぁ?」
息子の言葉にエドガーは理解が出来なくて困惑した。
「ふーん。じゃぁ犬も頑張らなくちゃね。」
ランドルフのつぶやきは、誰も拾うことなく空気に溶けていった。
翌日の朝、全員が出かける準備を終えて、用意された大きな8人乗りの馬車に乗り込むとルーベンスの指示で王都の大きなマーケットへと向かった。
馬車に揺られて久しぶりに家族全員で会話を楽しみながら進んでいくとあっという間に着いてしまった。停車場に停めて貰い、デルタ、エドガー、ルーベンス、ハンス、ベル、ケニアの順に降りた。ベルはエドガーが手を差し伸べてエスコートをした。ケニアには、ルーベンスが手を差し出したが、ケニアは一瞬躊躇してしまった。ルーベンスがケニアの顔を見ると首まで真っ赤になっていた。
「あれ、皆さん奇遇ですね。」
大きな聞き覚えのある声の方に顔を向けると、そこにはランドルフが立っていた。
「どうなさいましたか?」
ケニアの問いに
「僕もご一緒しようかと思いましてね。ほら、夫婦の時には家族関係を大切にしていなかったから、離婚はしてしまいましたが、今からでも皆様にと懇意になりたくて。・・・・・・ダメ、ですか?ケニア。」
ケニアの視界に入って来たランドルフは、いきなりケニアの中で従順なグレート・ハウンドに様変わりをした。
「お兄様、この子をこのまま此処に置いておけませんわ。」
ルーベンスは片掌で両目を覆い天を見上げて、
「ランドルフ殿は、犬ではないよ。ケニア。」
と声をかけたが、その時には、ケニアはランドルフにしがみ付いていた。
自分にしがみ付いてきたケニアを見て、ランドルフは一瞬笑みを浮かべてから、
「ダメなの?ケニア?」
と悲しげに首を傾げた。それを見たケニアは、一瞬のうちに頬を赤く染めて
「大丈夫よ。私の傍にいれば問題はないわ。」
ケニアの言葉にまた表情を明るくしたランドルフは、ケニアが差し出した掌の上に軽く丸めた自分の手を重ねた。
「この子凄く頭が良いわよ。お兄様。」
「犬じゃないからね。」
と言葉を重ねたが、ケニアには届かず、リードなしの犬を連れて歩くようにケニアは皆を置いてランドルフを横に颯爽と歩き出した。
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