再婚
翌日の夕方にカナガン伯爵と弟のエドガーがケニアの屋敷に到着した。
ケニアとルーベンスが先頭に立ち、後ろにベルとハンスが立ちその両端を使用人たちが立ち並ぶ。カナガン伯爵は、嬉しそうにケニアに微笑んだ。
「元気にしていたかい?」
「はい。お父様は少しお腹が膨らんだ?」
クスクスと笑いながらケニアが言うとカナガン伯爵はお腹を撫でて苦笑した。
「兄上のお腹にはケニアへの愛情が膨れ上がってしまったんだよ。ストレスという名のね。心配していたんだよ。」
エドガーがケニアに優しく語り掛けた。ケニアは解っているという様に頷き返した。
「今日は晩餐会にしましょうね。シェフにうんと頑張って貰っていますから楽しみにしていて下さいね。」
「嬉しいね。今日をどれほど楽しみにしていた事か。ルーベンスもありがとう。苦労を掛けてしまったね。」
「全然。楽しくてあっという間の二年でしたよ。」
カナガン伯爵の労いに嬉しそうに応えるルーベンスを皆が微笑ましく見ていた。
メイド達に部屋を案内して貰って、エドガーもカナガン伯爵も部屋へと移動していった。ベルは、エドガーの横にぴったりと寄り添い仲睦まじさをアピールする。ハンスは、カナガン伯爵の傍には寄らずにケニアの横にピッタリと寄り添いカナガン伯爵が、ケニアに近寄ることを許さなかった。
晩餐会の時間になり、メイド達に案内をされたエドガー夫妻とカナガン伯爵とハンスが食堂へやって来た。扉を開けてカナガン伯爵とエドガーは驚きを隠せなかった。
そこには胸に手を当てて礼を取るランドルフの姿があった。
「オルゲーニ公爵、で宜しいでしょうか?」
デルタが恐る恐る尋ねると、ランドルフは、はい。と眩しい笑顔で応えた。
「何故貴公がこちらへいらっしゃるのでしょうか?ケニアとは、・・・・・離縁された、と。記憶しておりますが。」
「はい。知らない間に離縁されていました。」
あっけらかんと答えるランドルフ二使用人たちは、全員俯き息を吐いた。アンゲルは、片手で額を抑えている。
「知らない間とは、また、不穏な言葉ですね。」
エドガーは、眉間に皺を寄せた。
「うーん。僕が知らない間に起きてしまった事ですから。それ以外に言いようはありません。」
(違う!見限られてしまったんですよ!知らないも何も奥方を忘れていたでしょうが!)
アンゲルは心の中で突っ込みを入れた。
「そうでしたか。まぁ、立ち話もなんですから、折角ケニアが晩餐会を開いてくれたというのですから、食事をしながらお話をしましょう。」
カナガン伯爵はエドガーを片手で制して、止めた。メイド達に促されて、席に着いた。いつもは主の席に堂々と座るランドルフも今日は、カナガン伯爵にその席を譲った。
「今日は、こちらに座られるのですね。」
ベルは、チクリと棘を刺した。ランドルフは、ケニアの右隣で、伯爵の傍になる。ケニアよりも上座にはなるが、オルゲーニ公爵なので上座は当たり前とエドガーもカナガン伯爵も思っていたが、いつもというワードが気になった。
表情で察したルーベンスが、説明に回った。
「裁判の事もあり、オルゲーニ公爵は此方の屋敷の客間に今はお住まいです。裁判は終わりましたが、家宅捜索中で、まだ屋敷への出入りを止められている為にこの屋敷住まいとなっております。今日昼に明日帰宅しても良いとの返事をいただきましたので、明日には帰宅をされる予定だそうです。」
「朝食はまた来るよ。日課だからね。」
「自宅に使用人を雇われてはいかがでしょうか?お金はあるのでしょうから。」
ランドルフの当たり前のような言葉ににベルが、反論した。
「お義叔母様ただではありません。お金は頂いておりますから。大丈夫です。」
「全く大丈夫ではありませんよ。別れた夫が毎朝朝食を食べに元嫁の屋敷へ通うなんて、醜聞でしかないのよ。」
「そんなものですか?レストランで食べる感覚だと思っていたのですが。」
「全く違うから!考えを改めて!これから、再婚となった時には新しい夫が可哀想でしょう。」
ベルが、涙を浮かべてケニアに訴えると、ケニアは、気まずそうにした。
「再婚ですか?」
「再婚でしたら、大丈夫ですよ。僕ともう一度やり直せばいいのですから。ご安心ください。
ランドルフが、笑顔を向けると、ベルの眉間には深い皺が寄った。
運ばれて来る食事に手を付け始めながら、エドガーが切り込む。
「君はケニアが年下で嫌だったのだろう。それで離婚をしたのだからそれで終わりで良いじゃないか。」
「いえ、こんなきれいな方だと知っていたら、頑張りました。二年間馬鹿をしたと思っています。」
「でも顔を見もしなかったじゃないか。挙句に賭け事の対象だったよね。」
「賭け事になっていたのは、僕の不徳と致すところですね。」
「そんな軽いもんじゃない。」
「でも終わったことはどうにも出来ません。二年前に戻る事も出来ませんし。」
エドガーとランドルフの応戦は続いた。しかし、ここでカナガン伯爵が出て来た。
「二年前・・・・もし、二年前に戻ることが出来たのなら、私は結婚を許可しない。あんな思いをするために、あんな悲しい思いをさせる為に私はケニアを嫁に出したわけではありません。」
カナガン伯爵は料理に預けていた視線をランドルフに移した。
「貴方は、結婚式では、ヴェールも上げずに、醜女な嫁であると広めて、披露宴ではケニアを一人ぼっちにして、ご自身は、楽しまれていたのではありませんか?ケニアはどんな気持ちだったか考えましたか?そんな思いをした人に二度も嫁がせる訳はありません。」
カナガン伯爵はきっぱりとランドルフとケニアの未来はないと告げた。
「これからの僕を見て欲しいとケニアにはお願いをしています。」
「そうですか。」
ランドルフの願いをデルタはあっさりと受け流した。
「今日は、楽しく食事をしましょうよ。」
カナガン伯爵は、これ以上話をしたくはないという様に話を切り上げた。
それ以降は、復縁について触れることは無かった。
他愛もない話をして晩餐会は終了となった。カナガン伯爵は、そのあと、ケニアを部屋へと呼び寄せた。
「少しやせたね。心配をしていたんだよ。階段から突き落とされたと聞いた時には、相手を殺してやりたいとまで思ってしまった。それ以上に嫁に出した不甲斐ない父親の自分も呪ってしまったよ。」
苦笑する父親の眦には涙が零れ落ちそうだった。
「心配をかけて、ごめんなさい。」
俯くケニアをそっと抱きしめた。
「無事で本当に良かった。悪かったね。」
ケニアはただただ。首を横に振った。
「それで、ケニアには悪いが結婚をして領地へ戻って貰いたい。」
いきなりの再婚話にケニアは驚いてデルタを見つめた。
「あ、相手は知っているのですか?私の、・・・・・事を。」
「あぁ、全部知っているよ。私以上に知っているんじゃないかな。」
「どなたですか?」
「ルーベンスだよ。」
デルタは、満面ね笑みで応えた。
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