法廷劇場3
「先程、ランドルフ様の収入がなかったことをご存じでは無かった。ということでしたが、ランドルフ様の一日は毎日同じルーティーンであったと本人も言っており、そのタイムスケジュールは、9枚目に記載をしてあります。」
ルーベンスが資料を指し示すと、法廷内の資料を持っている人達のページを捲る音が、静寂な法廷内に響き渡る。そして、少しの静寂の後には、
「は?」
という声が、法廷内の至る所から起きていた。
「朝は、朝とは呼べないが、14時頃の起床で、シャワーを浴びてから朝食とも呼べないブランチを15時に食べて、身支度をして、買い物へ行き夜は夜会若しくは、舞踏会へ行き、帰宅は朝の5時若しくは6時・・・・という事で間違いはありませんか?」
「そうですね。そういった生活でした。」
傍聴席の平民からは、
「貴族ってのは、こんなに遊んだ生活をしているのか?」
「俺たちが働いたお金で納めている税金で遊んでいるのか?」
「いや違うだろう。さっき元奥さんが稼いだお金で遊んでいるって…」
同じ傍聴席に居る貴族たちは、自分たちが遊んでいると思われたくはない。でも、法廷で声も上げる事も出来ずにもどかしい思いをしていた。
「此処で、誤解をしてはいけないのは、貴族は遊んでいるわけではないという事です。」
ルーベンスが、高らかに言い放った。
「本来、夜会や舞踏会という所は、貴族たちが社交の場として集う場であり、その社交とは、お互いの領地経営で協力し合うことが出来て幅を広げて収入を得る様に働きかける場で在ったり、事業や投資を始めようとした時に協力し合うことが出来るか。という情報交換や仕事面での繋がりを持つ為に行われる場所であるのです。そこで収益を得て、領民の為に貴族も頑張っているのです。ただ、今回私の依頼人であるランドルフ殿は、勘違いをしておりました。夜会や舞踏会は遊びのための場所であると。それは、傍に居ながら諫めることが出来なかった大人たちのせいでもあります。そして社交界では家同士の繋がり為の政略結婚の場でもあります。それを勘違いされていたのは、エメ嬢とラビィ嬢でしょう。そちらは、また後にご説明をさせて頂きます。貴族が、ドレスやスーツを作ることでブティックはお金が入ります。宝飾店も然りです。貴族は得た収入を皆さんに還元するには買い物ももちろん必要です。」
「言われてみればそうか。」
と賛同の声がちらほら上がった。その声に中には、安堵する貴族たちもいた。
「ただ、エメ嬢。貴方は先程、ドレスが自由に作れないと言っていましたが、これだけ作っておいて、自由ではなかったというのは、あとどのくらい必要だったのですか?」
「え?・・・・どのくらい?」
「何枚作られたかお分かりですか?」
「いきなり言われても解らないわよ。」
「左様ですか。」
「それから・・・・・」
ルーベンスが、続けようとすると
「お待ちください。」
ダンヒル子爵が遮った。
「これでは、我が娘の公式断罪になってしまうではありませんか!本来責められるのは、子供を認知しないランドルフ・オルゲーニ公子であり、悪の根源である元妻ではありませんか!」
「ダンヒル子爵にはそのように映るのですか?」
「そうではありませんか!うちの方にも証人は用意してあります。家の証人も出して下さい。」
ダンヒル子爵の物言いに、裁判官は額に手を当てて項垂れた。断罪式ではなくて、これは裁判で在り、公平な場所であることを理解していないのか。と頭が痛くなってきた。
「宜しい。ではその証人を前に。」
エメと入れ替わりに呼ばれたナナがおずおずと出て来た。
「失礼いたします。私は、ダンヒル子爵家で侍女をしており、エメ様の乳母をしておりました。ナナと申します。」
「ナナさんあなたはどのような証言をして下さるのですか?」
「はい。私は、お嬢様がいかに清らかで、オルゲーニ公子の元奥様がいかに非道であるかをお話ししたいと思います。」
「ほう。では、知りえる限りをお話しください。」
裁判官は話をしなさいと促しただけだったが、これが何を意味するのかは、ダンヒル子爵もエメもナナも解らなかった。
「お嬢様は幼い頃より、奥様や旦那様が多忙で在った為に、私がお育て致しました。幼い頃から明るく愛らしく何方からも好かれる方で・・・・」
「ナナさん申し訳ないが、そのような個人的な感想は要りません。証拠になるお話をお願い致します。」
裁判官に遮られて、ナナは呆然としてしまった。自分が語ろうとしていたエメの姿は他人からしたら、個人的感想になってしまうのかと。
「あの、では、私は、・・・・どのようなお話をしたら、宜しいのでしょうか?」
「元妻が悪妻であったというのはどうしてですか?」
裁判官が促すと、理解したように表情を明るくして、応え始めた。
「皆さまご存じのように、エメ様とご一緒に暮らしていたラビィ・ハント様やモニカ・エッセル様は元奥様が仕込んだ毒によって他界されました。私のお嬢様もその頃お腹の赤ちゃんが元奥様にバレた事が、原因で元奥様に命を狙われていて、旦那様が先手を打たれて、護衛を雇った為にお嬢様は助かりました。」
「成程、それは危険でしたね。先程エメ嬢令嬢は、元奥様に階段で突き落とされそうになられたという事でしたが、そちらはご存じでしたか?」
裁判官の質問に、いいえ。と短く応えた。
「では、そちらも併せて、真実をお伝えしなければなりません。此方はその証拠です。」
ルーベンスは、手紙を手に立ち上がり、裁判官へと証拠を提出した。
封を開けた裁判官は、目を見開いた。ダンヒルは、封筒を見て、驚愕した。
「読み上げましょう。」
裁判官が言うと、ダンヒルは、手を伸ばして、待ったをかけた。
「女が渡した金を前金とする。残りは、必ず事後に支払う。ラビィ・ハント及びモニカ・エッセルを速やかに処分お願いする。方法は任せる。暗殺依頼ですね。」
「違う!知らない!」
ダンヒルが叫ぶと、
「ダンヒル子爵どうなさいましたか?あなたが書いたとは、誰も言って居ませんよ。」
裁判官の声が響き渡る。
「次に階段から突き落とされたのは、エメ令嬢ではなく、元妻であったケニア・カナガンです。此方はその時の調書であり、こちらは既に法務省も同じものを保管されています。この時に負ったけがは酷く、ケニア・カナガンは暫く動くことが出来なくなりました。そして、離婚のきっかけにもなりました。皆さん想像してみてください。夫婦の財産は共同財産として、自分が働いたお金を湯水のように愛人たちに使われて、その愛人から命を狙われる身を。ご自身だったらどのように思われますか?しかも、自分たちが暗殺指示を出したものまで、知らないうちに罪を着せられる。このような非道があっていいものでしょうか?」
法定は三度ざわついた。
「悪いヤツじゃないじゃないか。」
「やっぱり悪女だな。」
「あの悪魔を育てたと言っていたあの女の育て方に問題があったんじゃないのか?」
ダンヒル子爵が叫び出した。
「嘘だ!騙されるな!」
その言葉に裁判官は静かに諭した。
「裁判で大切なことは証拠です。」
「捏造かも知れないじゃないか!」
「では、これが捏造だという証拠は?」
ダンヒル子爵は拳を握っただけで応えなかった。
「では、証拠もお出ししましょう。」
ルーベンスは片側の口角を上げた。視線で警備兵に促すと、警備兵は頷いて扉を出て行ったが、直ぐに扉を開けて中へ入る様に促した。現れたのは、綺麗なドレスに身を包んだモニカと囚人服で手枷、足枷を嵌めたラビィ・ハントだった。
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