奪還準備
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ランドルフは、帰宅後自室の机セットの椅子に腰かけ呆然としていた。
タラレバを考えて行くとキリがなかった。
間違いだらけの自分の行動を悔いても、時間は戻ることは無い。でも考えてしまう。
「全くもう!好い加減にして下さいよ!あなたには余り時間がないのですよ。」
ノックもせずにいきなり入って来て、叱責したのはオルゲーニ家の家令だったアンゲルだった。
「何でアンゲルが居るの。」
自分を追って来てくれたアンゲルに嬉しい感情と、不貞腐れる感情が入り混じりながら、言い募る。
「私はカナガン家から貸し出されている身なのですよ。貴方に合わせていたら、貴方は公爵家を継ぐ事も出来ず、領地経営も出来ずに家なき子になりますよ。好い歳して何を考えているんですか。やる気がないなら二度と来ませんよ。」
本気で怒るアンゲルに、ランドルフは少しビビる。
「やる気ならあるよ!」
「偉そうに。二年間奥様に自分と愛人たちの生活を見させていて良く言いますよね。やるなら早く支度を変えて下さい。国王陛下に謁見をして、爵位継承の承認を得なければ、領地経営は出来ませんよ。」
今まで自分に悪態なんか吐いたことがないアンゲルの言葉に驚く。
「今までアンゲルは僕にそんなこと言わなかったのに。」
「そんなことはありませんよ。ただランドルフ様が聞き流していただけです。そんな事どうでも良いから早くして下さいよ。」
胸元から懐中時計を出してふたを開けて時間を確認する。
「僕の支度は誰が手伝ってくれるの?」
「はぁ?マナーハウスに連れて行ったメイド達はどうしたんですか?」
「知らない。最近見てない。」
アンゲルは額に手を当てて、はぁ。と大きく溜息を吐いた。
「一人では出来ないのですか?」
「出来るよ!着るものさえ出してくれれば。」
最後の方は言葉が尻窄みになっていた。
アンゲルはクローゼットに向かうと、真新しい白い礼服を出してきた。
「綺麗だね。ヴィヴィが用意してくれたのかな。」
アンゲルは、ランドルフを一瞥すると、
「ヴィヴィにそんな権限ありませんよ。奥様がされていた事です。」
というと腕に服を乗せた。
「三十分で着替えて来て下さい。外の馬車の前で待っていますから。」
それだけを言うと、足早に去って行った。ランドルフは一人で礼服に袖を通して、身なりを整えると、姿見で自分の姿をチェックした。襟に施された金の刺繍や生地の手触りからして上質の物で誂えてあるこの服を用意してくれた妻の気持ちを慮ると、情けない気持ちで心がいっぱいになる。この服に見合う男にならなければ。そう心に誓い部屋を後にした。
玄関を出ると、懐中時計に視線を落としたアンゲルが、馬車の前に立っていた。
「取り敢えず、時間は守りましたね。良く出来ました。では参りましょう。」
アンゲルは馬車の扉を開けて、ランドルフを先に入るように促して、あとから乗車した。御者に小窓を叩いて発車の合図をすると、馬車はゆっくりと動き出した。
「ねぇアンゲル。僕の奥さんの横にいる執事若いし、可笑しくない?」
アンゲルは伏せていた瞼を上げて、呆れた顔をランドルフに向けた。
「可笑しくなんてありませんよ。彼は元奥様の従兄弟です。」
「いや、従兄弟だって普通未婚の男性が嫁ぎ先に一緒には来ないでしょう。」
ランドルフが得意げに、自分は合っていると主張すると、
「貴方のせいですよ。旦那様は最初断られましたよ。しかし、彼がランドルフ様が、三回お嬢様を傷つけるようなことをしたら自分は執事としてやって来ると、言うと旦那様はランドルフ様がそこまで馬鹿じゃない。と受けてしまわれて。まぁ、ご存じかは知りませんが、五回もやらかして下さいまして。結果カナガン伯爵家はご立腹。そして彼は執事としてやって来た訳です。」
自分が結婚式で五回も人を傷つける行為をしていた事は全く気が付いていなかった。
「あんなに可愛い子で、優しい子だって知っていたら。家に帰ったよ。」
少しふくれっ面で応えると、アンゲルは直ぐに否定した。
「あり得ませんね。貴方はエメ嬢とラビィ嬢に夢中だったじゃないですか。だから旦那様の話は一切聞かなかったでしょう。それが今となって言うには、ご自身に都合が好過ぎませんか?」
「僕は彼女を見た時に一目惚れをしたんだ。結婚式でちゃんと会っていたら、こんな事には成らなかったよ。」
「でも、ちゃんとしなかったのも、ランドルフ様ですよ。大体トーニア嬢の時から一目惚れ一目惚れと言いますが、どこに惹かれたんですか?一目惚れというくらいだから顔じゃないんですか?」
ランドルフは、ぐっと押し黙った。
「顔に惚れるのも良いですけどね。中身はどうなんですか?トーニア嬢は北の修道院に終身の身となりましたよ。悪女としてこのままでは放置出来ないとね。彼女のせいで貴族家が多々没落しましたから。ラビィ嬢は詐欺で捕まりもう世間には出てくることは無いでしょう。エメ嬢はどうか解りませんが、揃いも揃って悪女ですよね。」
「父上と母上は、お互いに思い合っていたし、お互いに生涯ただ一人だったけど、一目惚れをしたと言っていたよ。だから一目惚れでも生涯の伴侶は成り立つんだよ。」
「あぁ忘れておりましたが、亡き公爵様達は政略結婚で、互いが初めての顔合わせの時に色々と話をして意気投合をされたと旦那様から伺っておりましたよ。そうですか。そこをお手本に。成程、成程、結果ろくでなしと知り合い、没落へと頑張って来られた訳ですね。」
アンゲルは、態とらしく拍手をして貶す。
「でも、僕の奥さんは間違いじゃなかったよ!」
「今となっては元奥様ですがね。」
ランドルフは、またもぐっと押し黙る。
「その元奥様に、一目惚れと言って誰が信じますかね。疑わしいことこの上ありません。先ず執事の彼が黙っていませんよ。彼に打ち勝つことが、今のランドルフ様に与えられた。チャンスではないでしょうかね。」
ランドルフは顔を真っ赤にして、
「あぁ勝ってやるよ!そして奥さんを取り戻してやる。見てろよ!」
「そうですか。それは楽しみです。一万歩の差が出ているようですが、頑張って下さい。」
アンゲルは、適当に流してしまった。それを見たランドルフの闘志は燃え盛っていた。
「そろそろ着きますよ。しっかりと謁見やって下さいね。」
アンゲルの言葉にランドルフは再度身なりを整えだした。
奥様奪還の第一歩で躓く訳にはいかなかった。
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