デビュタント準備
続きは明日10時頃更新予定です。
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挙式から二年が経ち、ルーベンスは、執事として働きながら、弁護士の資格も取得をして、伯爵家の法律部門と公爵家の法律部門を担っていた。なるべくケニアの傍から離れずに、ケニアの手伝いをしていた。
この頃になると、ケニアは、公爵家の領地経営を請け負いマティスから教えて貰った投資の知識を使って、財産を増やしていた。が、ケニアの私的財産を食い荒らす人物もいた。未だに公爵家には戻らずにマナーハウスで、エメとラビィと暮らしているランドルフである。
結婚前の知識として、
結婚後は、財産は共有するものであり、夫の財産は妻の物でもあり妻の財産は夫の物でもある。
と教わっていたケニアは、自身の財産の2/3をランドルフとエメとラビィに使われていた。
しかし、投資の知識はマティスに教わったものであり、ランドルフは息子である。そう考えると余計に拒否が出来なくて、湯水のように使われていた。
☆☆☆
「ねぇランドルフ。この書類に貴方のサインが必要なんだけど、サインしてくれない。」
ラビィが応接セットのテーブルにランドルフがサインする場所が空白の紙を置いた。
内容は、上に置いた書類で見えなくしてある。その書類を見ると、これから作るドレスの見積もりにしか見えなかった。ドア越しに見ていたエメは、口角を上げてニヤリと不敵な笑みを浮かべて、部屋に戻り紙を持ってランドルフに差し出した。
「ランドルフ私もネックレスが欲しいの。サイン頂戴。」
自分の前に置かれた紙の中身もきちんと確認もしないでランドルフはサラサラとサインをしてしまった。
「これで良いかい?」
得意げに二人にサインをした紙を渡す。優しいほほえみを浮かべたランドルフとは真逆のうちに何かを秘めた不敵な笑みでエメとラビィは、ありがとうと告げて紙を回収した。
マティウスはランドルフとケニアの挙式後から、心労で体調を崩していた。ベッドから起き上がれない日が多く、その為にケニアがアンゲルとルーベンスに手伝って貰って、領地経営を行っていた。
「領地の税収入が可笑しくない?こんなことあるの?」
「無いですよね。坊ちゃまが領地に居らっしゃるのでしょうか?しかし、勝手に
税収入を上げる事は出来ない筈ですよ。これは明らかに可笑しいですよね。」
ケニアとアンゲルが数字を見て訝しむ。
「これは、実際に領地を見に行った方が良くないか?」
ルーベンスも明らかに可笑しな数字に、実際に見に行くことを推奨する。しかし、誰が行くのかという話になる。来月にはケニアのデビュタントが控えている。ケニアを行かせる訳には行かない。かといって家令のアンゲルでは、出来ることが制限されてしまう。そうなると、ルーベンスが適任になるが、ルーベンスがデビュタントに間に合わなければ、ケニアのパートナーが居なくなってしまう。本来は婚約者が担うものだが、ケニアは夫が居て、その夫は愛人たちと暮らしている。だから執事のルーベンスが担う事になっていた。
「でも、このままには出来ないわ。ルーベンスお兄様。お願い出来ますか?」
ルーベンスは大きな溜息を吐いて、
「解った。行って来るよ。もし、僕が間に合わない時には伯父上にでも頼んでデビュタントには参加するんだよ。欠席なんかダメだよ。」
ケニアは、大丈夫ですよ。と笑い飛ばした。
翌日早朝に、ルーベンスは馬でオルゲーニ公爵領に向かった。絶対にケニアをデビュタントに行かせてあげたい。結婚式のような惨めな思いはさせたくはなかった。
ルーベンスが公爵領地へ行ってから、三日後にケニアは専属メイドのサリーとルーナと侍女のシンシアを連れてブティックへ向かっていた。デビュタントで着るドレスが出来上がったというので、最終チェックしてその後は、ルーベンスからプレゼントをされたデビュタントのドレスに合わせたネックレスとイヤリングを宝石商に引き取りに行く予定だった。
「最高級のシルクで出来たデビュタントドレスどんな感じになったのでしょうね。」
「ダイヤモンドを付けたじゃないですか。シルクだけでも輝くのに、シャンデリアに照らされて反射するダイヤモンド最高ですよね。お嬢様以外に身に着ける方はいらっしゃいませんよ。」
「贅沢だけどね。」
サリーとルーナが興奮している横でケニアが苦笑しながら応える。
本来はデビュタントへ行くこと自体を辞めようと思っていたが、ルーベンスに説得をされて参加することにした。
(休みなく働くお兄様が参加することで喜んでくれるなって思って行く事にしたけど・・・。)
ブティックに着いて、馬車から降りると、ブティックの中から令嬢たちの声がする。
「ランドルフ様の奥様も参加されるんでしょう。馬鹿よねぇ。とっても醜くて流石のランドルフ様も見たくはなくて、結婚式でヴェールすら上げて貰えなかった人でしょう。」
「どんなブスだか皆が見たくて手を拱いているっていうのに。」
「エメ様もラビィ様もランドルフ様に愛されていて羨ましい限りですわ。このドレスも今回のデビュタントの舞踏会の為でしょう。」
「そうなのよ。ランドルフが奥様よりも愛されていることを示すように作って来て良いよって言って下さったのよ。」
「奥様はどちらのブティックで作られるのかしら?」
「でも、エメ様は何を着ても似合われるわねぇ。」
「デビュタント用のこのドレスでも通ってしまうのが愛らしさを表していますわね。」
デビュタント用という言葉にサリーとルーナとシンシアと一緒にケニアも行儀はなっていないが、ブティックの窓から中を覗き込むと、ケニアが頼んでいたドレスにエメが袖を通していた。
「なっ!あれは、ケニア様のドレスではありませんか!」
「あぁ、やっぱり。そうよね。」
ケニアが応えると、サリーとルーナとシンシアは怒りを爆発させる。
「このブティックは何を考えているのでしょうか!」
「注文主よりも先に他人に袖を通させるなんて、何を考えているのでしょうか!」
「これはご報告案件ですわね。さぁケニア様参りましょう。」
ケニアは三人の方へ向き直り
「えっとぉ、この中に入っていくの?」
「「「当然です!」」」
三人の気迫に負けて、入店した。中には七人の令嬢が占拠していた。
「あら、見たことがない方ね。」
「商家の娘でしょう。」
「身分を弁えなさい。此処は今エメ様が貸切っていらっしゃるのよ。」
「そうですか。」
ケニアは短く応えると奥に目を向ける。店内奥には、この店の店主が居てケニアと目線が合うと、震え出した。此処に自分が留まることは良くないと察したケニアは三人の方を見て
「貸し切りのところに入る訳にはいかないわ。帰りましょう。」
と扉へと歩いて行った。店主は後を追って駆け出して来た。ケニアは馬車の踏み台に足を置いていた。
「奥様。申し訳ございません。」
店主は頭を下げるが、ケニアよりも先にシンシアが口火を切った。
「あのドレスは、ケニア様がご注文をされたものです。それを愛人に袖を通させるなんて何を考えていらっしゃるのかしら。これは公爵様にご報告をさせて頂きます。勿論奥様のドレスを今後こちらに発注することは致しません。どうぞ、あの方をお大切に。あのドレスのお支払いは致しませんし、今後は此方では、ドレスを作ることもございませんから、勿論、今後のお支払いも致しません。あの方から直でお支払いをお願いして下さいね。今後一切公爵家に請求書を回すことはなさいませんように。此方は公爵家にも出入り禁止です。」
ケニアは、今回に関しては、マティスが用意してくれたドレスを、自分を貶めるために使われたこと。そして、結果的にその手伝いをしたブティックを許すことは公爵家を侮辱した人を許すことになるので、シンシアの発言に対して、訂正をすることはしなかった。
ブティックの店主は、路上に膝をつき震えながら、ケニア達の馬車を見送っていた。
あのドレスの金額は今までに類を見ない程の高額ドレスとなっていた。
ケニアは、なんとなく嫌な予感をさせながら宝石商へ向かうと、宝石商の中から争う大きな声が聞こえて来た。中へ入ると、
「ラビィお嬢様。申し訳ございません。そちらは、カナガン伯爵様からのご依頼品でございますので、オルゲーニ公爵家のものではありませんのでお引き渡しは出来ません。」
「だから、言っているでしょう。これは奥様が使用するものだから、ランドルフにとって来て欲しいと言われているのよ。」
「ですから、オルゲーニ公爵家とは関係が御座いませんので、お引き渡しは出来ません。」
そのやり取りが聞こえて来て、ケニアは大きく息を吐いた。
此処でもなのね。もうデビュタントに参加することを嫌がる夫の妨害策だと認識したケニアは、シンシアに使いを頼み、自分は早々に馬車に乗り込んでしまった。
使いを頼まれたシンシアは、宝石商へ入店をすると言い争いをしているラビィと店主の横をすり抜けて、店員にケニアの伝言を耳打ちした。
「奥様からの伝言です。あちらの商品は欲しい方にお渡しください。との事でした。そもそも何故、奥様のアクセサリーをあの方がお持ちなのでしょうか?」
ラビィの耳に届かないように店員に耳打ちをすると、察した店員もシンシアに耳打ちをした。
「新人の店員に予約品を取りに来た。と仰ったので、お持ちした所を店主が、気が付き取り返そうとしているのです。」
理解をしたシンシアは、小さく頷き、
「後程、ルーベンス様よりご連絡がいくように手配しておきます。」
それだけ告げて、宝石商を後にした。
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