終了のデビュタント1
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帰宅する馬車の中は行きとは違い四人共に無口になった。三人は怒りが強すぎて、言葉を選ぶことが出来なくて、黙っていた。ケニアは、公爵にどう伝えるべきか悩んでいた。
考え事をしていたせいか、気が付くと馬車は公爵邸の前に停車していた。
余りに早い帰宅に侍女長のヴィヴィやメイド達、アンゲルは驚いて玄関先まで駆け寄った。
「お早いお戻りですね。ドレスはいかがでしたか?」
しかし、メイドのサリーもルーナもシンシアも手ぶらである事に全員が訝しんだ。
「お義父様にご報告して来るわ。」
そういって、ケニアはマティスのところへ歩き出した。
残されたヴィヴィやアンゲルは、シンシアに問いただすと、
「予約していたドレスは既にご友人達と入店していたエメ嬢が袖を通してご友人達にこのドレスを奥様のデビュタントの日に着ると宣言をされていたので、もう引き取ることが出来ませんでした。」
全員が、はぁ?と怒りの籠った声を出す。
「何でもランドルフ様からのプレゼントだそうです。あのブティックには今後奥様は行かないそうですので、今回のお支払いも致しません。そのように手配をお願い致します。」
アンゲルを見て告げると、アンゲルは大きく首を縦に振った。
「そして宝石商はハンス家のラビィ様が、ルーベンス様が奥様にご購入された品物を強奪する最中でして。」
此処でも全員が、はぁ?と怒りの感嘆を漏らす。シンシアは皆の顔を見た後で小さく息を吐いてから、
「店主とラビィ嬢のやり取りの中でやはり、ランドルフ様からのご指示で、奥様の宝飾品を取りに来たと仰ったので、奥様はそれ程までにデビュタントに参加することを拒まれるのであるならば、参加はしないという事になり、宝飾品も受け取らずに帰宅されることとなりました。」
全員の怒りは凄まじかった。結婚式の再来かと。
「酷い。余りにも酷過ぎます。坊ちゃまが失恋した時には、お可哀想とも思いましたが、坊ちゃまの奥様に対するなさりようは余りにも酷い。流石にもう自分で考えても良いお年です。しかも、自分は奥さんに養ってもらっている立場でありながら、奥様を無下にし過ぎです。アンゲルさん。奥様は共有財産だと申しておりますが、最早共有財産なんてありませんよ。坊ちゃまの口座を凍結して下さい。」
ヴィヴィが、怒りを堪えることもせずにアンゲルに感情のまま告げると、アンゲルも頷いた。
「甘やかしし過ぎましたね。公爵様にも色々とご提案をさせて頂きましょう。」
アンゲルは、モノクルを掛け直して、執務室へと歩き出した。
「ヴィヴィ様、私達にも奥様の為に何か出来る事があったら、何でもお申し付け下さい。」
「なんだってやりますよ。マナーハウスの大掃除にでも参りましょうか。」
メイド達が、口々に物騒な事を発し始めたので、ヴィヴィは
「その時が来たら、あなた方にも指示を出します。」
と述べて、手を叩いて各々の持ち場へと向かわせた。
内心では、
(マナーハウスの大掃除。良い案だわ。)
と、同意をしていた。
☆☆☆
マティスの部屋へ行くと、顔色が昨日よりも白くして、頬がこけたマティスが笑顔でケニアを迎え入れた。
「ドレスはどうだった?私は、ケニアのエスコートが出来ないから屋敷内で来て見せて欲しいな。」
ケニアは俯き、言葉を選び終えると、顔を上げて笑顔を作った。しかしその笑顔は苦笑でしかなかった。
「デビュタントは、いけなくなりましたので、ドレスはお断りしました。お義父様申し訳ございません。折角用意して下さったのに。」
ケニアの表情を見たマティスは、何かあったと推測をした。多分息子が何かをしたのだろうと。
「正直に答えて欲しい。何があったんだい。」
マティスは優しくケニアに語り掛けた。
「お義父様が作って下さったドレスですが、ブティックへ行くと、エメ様が既に袖を通されていて、そのドレスを着るとご友人に公言をされていらっしゃったので、私が購入する事は出来ませんでした。ランドルフ様からのプレゼントと言われてしまうと、どうする事も出来ません。」
公爵家の中では、ランドルフを廃嫡したわけではないので、マティスの次に権限があるのは、どうしてもランドルフになってしまう。ケニアはランドルフの嫁でしかないので、ランドルフの名前を使われてしまえば、公爵家の名義の物であれば、ランドルフにも権限が出てしまうことがある。しかし、ドレスに関しては、本来は別である。マティスの指示で作らせたのだから、ランドルフの名前を出しても、マティスに伺いを立てなければならない。それをブティック側が蔑ろにした事になる。
「私が病に倒れたとでも噂が流れているのだろうね。では、今からでも他のブティックで新たに作るかい?」
「もう何もないんです。宝飾品もランドルフ様が、ラビィ様に与えてしまわれたので、もう無理です。」
マティスは、ケニアが言っていることの意味が直ぐに解らなかった。何故なら、宝飾品に関しては、オルゲーニ公爵家が頼んだ品物ではなくて、ルーベンスの私財で購入したものなのに、それをランドルフの名前であってもケニアから取り上げる事は出来ない。
流石のマティスも、ランドルフに未来がないことを悟った。
「すまない。私はケニアにとんでもない事をしてしまった。あなたの未来を摘み取ってしまった。もう良いランドルフと離縁してくれ。本当に申し訳ない。」
ケニアは俯き、瞳から一粒、二粒と雫を落とす。もう雫が零れ落ちないように、瞳をぎゅっと瞑ってから瞼を上げて、笑顔を作りマティスを見た。
「お義父様、でしたらお義父様が元気になって、領地経営が出来るようになった時には、離縁させて頂きますね。」
そういってマティスの細くなった手を両手で握りしめた。
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