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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
六章 ヴェリルク動乱大戦
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年末の学園生

 〈日本都市〉は大晦日を迎えていた。

 学園での授業もなく、大半の生徒が任務に出ることも無く休暇をとっている。

 そんな静寂に包まれた校舎の中、実は生徒が皆無という訳では無い。

 むしろ、彼らがいるせいで本来静かだったはずの学園は少し騒がしいくらいだった。


「__おい響弥テメェ、やるんならちゃんとやれよ」

「やってるだろぉ!?」

「……ダメね、こっちまだ甘いわよ」

「ムキィィィッ!」


 ジト目で高所から見下ろし厳しい指摘をするのは猛だ。

 辛辣な言葉に心外だと抗議の声を上げる響弥だったが、残念ながら杏果の追い打ちで頭を抱えて苛立たしげに叫ぶ。

 やはりと言うべきか、響弥に細かい作業は向いていないようだ。

 そんな様子を見て溜息をつきながら猛は視線を外し__校舎の教室の清掃を再開する。

 大晦日と言えば大掃除、と言うのはよくある話だが、これは猛に課された罰のようなものだった。




 もうひと月前になるが、ダンジョンで一悶着があった時、猛は仲間たちを裏切り敵に回った。

 その経緯は全員が理解していたし、仕方がない事だったと誰一人として咎めるつもりはなかった。

 しかし当の本人はそうではない。

 本心からでは無いとはいえ、仲間を傷つけたという事実を彼自身が許せなかったのだ。

 だから猛は学園長である柚葉に、改めてダンジョンで起きた事件の報告をすると共に罰を要求した。


「……みんな気にしてないって言ってんのに、そうまでして裁かれたいの? ひょっとしてマゾなの?」

「アホな事言ってるとアンタでもシバくぞ」

「冗談よ」


 真尋が目覚めたことによってかなり丸くなったものの、柚葉相手にも一歩も引かないふてぶてしさは健在で、本当に反省や後悔があるのか怪しい所だが、どうにも罰がないと納得出来ないようだった。

 とは言え事情を理解している柚葉もまた、猛にこれといって裁きを下すつもりはなかった。


 その結果与えられた罰が大掃除だったのだが__何故か全員、着いてきてしまったのだ。

 猛としては罰の内容も罰と言えるものでは無い上に、ここまで手伝って貰っては不服でしかない。

 校舎の大掃除と言っても、大して掃除するほど汚れていないからだ。


(……ったく、馬鹿どもがよ)


 ちなみに全員と言うのは、普段から連んでいる第一から第四小隊の面々だ。

 第二小隊に関しては退屈しのぎの任務代わりに来ているらしいが、こことは別の場所を掃除しているところなのだとか。


 慌てることは無いとはいえ、大掃除の進捗は残念ながら順調とは行かなかった。


「__ふぇっくしゅっ!」

「うひゃぁ!」

『あっ』


 近場で掃除をしていたリンのくしゃみに驚いた佳奈恵が廊下に水をぶちまける等のトラブル、駄弁りながらのんびりとやっていたからなど、理由は色々だ。

 結局、一人で掃除をするよりは早かったものの、人数をかけた割には時間がかかった事実には猛も呆れを隠せなかった。


「お前らなぁ、手伝いに来たんじゃねぇのかよ。実は邪魔しに来たのか?」

「なわけねーだろ」

「まあそう言うなよ。な?」

「テメェが一番雑だったろうが」

「まあ確かに……」

「ひでぇ!」


 呆れたような視線と共に相変わらずの辛辣な言葉を浴びせられ、響弥はショックを受けたように大袈裟なリアクションをする。

 ちなみに同意した将真はというと。


「じゃあ将真はどうなんだよぉ!」

「コイツは……何だかんだしっかりやってたしな」

「そ、そんな馬鹿な……」

「何がそんな馬鹿なだ失礼な」


 驚愕を見せる響弥の反応に、思わずジト目を作って刺すような視線を向ける将真。

 彼も猛同様に根は真面目な為、やるとなれば掃除に集中してしまっていた。

 それこそ他の面々と比べてもだ。


「それより、これからどうするの?」


 パン、と軽く手を叩くと、話を切り替えるように美緒が問いかける。

 朝から始めた掃除が終わった現在、時刻は昼を回って少し経った頃だ。

 空腹も感じ始めている彼らの答えは昼食以外に無いが、この時期は学生寮の食堂も動いていないのだ。


「飯だよなぁ。どこで食うよ」

「んー……まあ、年越し蕎麦でいいでしょ」

「こっちにもちゃんと年越しの概念があるのはなんか安心するな……」


 将真も〈裏世界〉にきてそれなりに日が経っている。

 それゆえ〈表世界〉には当然のようにあっても〈裏世界〉には無いイベントがそれなりにある事は分かっていた。

 だが年末年始の概念くらいは〈裏世界〉にもあるようで、将真が安堵の息をつく。


「……その前に病院寄っていいか?」

「真尋ちゃんも連れてくの?」

「……まあ、そのつもりだが」


 意図が透けて見えるような猛の発言だったが、簡単に見透かされたのが気恥しいのか、佳奈恵から目を逸らして口篭る。

 無論、反対する理由は無い。

 猛にとっては実の妹だが、それなりに関わりを持った今となっては一同にとっても妹のようなものだ。

 後から合流してくる第二小隊の面々も文句はないだろう。


 そうしてこの後の予定が決まったタイミングで、不意に将真の端末に連絡が入る。

 一瞬嫌な予感が過ぎるが、予想は外れて連絡を寄越してきたのは華蓮だった。


「……どうもです」

『何だその不満そうな声は』

「いや別にそんな声出したつもりは……」

『まあいい。それよりダンジョン探索でぶっ壊したお前の魔道具、そこから出た鉱石のお陰で修繕が終わったから取りに来い。どうせ暇だろうし』

「……年末に仕事してんですか?」

『仕事はしてるが魔道具の修繕は仕事じゃなくて趣味だ。あくまで我々の、だが』


 我々というのは彼女の研究室を指しているのだろう。

 確かに誰もが休暇を取っている訳では無いのだが、折角の年末であることを思うと少し呆れ混じりの反応を返してしまう。

 ちなみにダンジョン探索は最終的に、分身ではなく瑠衣本人が都市に帰還して早々、直々に出向いてコアを回収してきたらしい。

 そこからでてきたアイテムは大半が鉱石系だったが、難易度が高いだけあってかなり純度の高いレア物だと自警団の研究陣が湧いていたのだとか。

 将真の魔道具の修繕に当てられたのは、それらの一部らしい。


 今から昼食に行こうという時だったこともあり、どうしようかと視線を友人たちに向ける。


「……じゃあ、私たちは真尋ちゃんを迎えに行くから、将真くんたちは一先ず受け取ってきたらどうかな?」

「ボクはいいよ」

「自分も大丈夫ッス」

「んー……まあ、それでいいか」

「じゃ、飯の場所は俺らで探すわ。決まったら将真と猛の端末に連絡するわな」

「おっけー了解」

「おう」


 そうして方針が決まると、彼らは各々目的の場所へと一度解散する。

 街中はやや閑散としているが、それでも将真たちが急ぎ足で向かうには地上は危険すぎる。

 誰かに衝突して怪我でもさせたら大変だからと、彼らはいつも通り建物の天井を飛び移り目的地まで一気に駆けていく。

 それは最早競走の体をなし、到着した頃には涼しい顔の莉緒に対し、将真とリンはやや疲れた表情で息を切らしていた。


「やっぱ……走るので、莉緒に勝つのは、無理だな……」

「そう、だね……」


 とは言え、ここまで飛ばしてきたのだ。

 学園からのんびり歩いていれば、ともすれば数時間かかる距離を、三人はものの十数分で走破していた。

 将真とリンの呼吸が整うのを待つと、第一小隊は自警団本部に入出許可を取って華蓮の研究室まで足を運ぶ。


「……華蓮さん、来ましたけど」

『__ああ、思ったより早かったな。良いぞ、入っても』

「じゃあ失礼します__」


 扉に触れると、機械的な音と共にスライドして扉が開かれ__三人は思わず絶句した。

 部屋が汚かったからではない。

 それについては今更だ。

 問題は、入出許可を出したにも拘らず華蓮が着替え中だったことにあった。


「よく来たな。もう少し遅くなると思っていたが」

「せめて着替え終わってから言ってくれませんかねぇ!?」


 呑気な華蓮の態度に対し、将真は慌てて顔を逸らした。

 それを見て苦笑を浮かべるリンと莉緒。

 更にそんな三人の様子に、華蓮は呆れたようなため息をつく。


「別に気にするような事じゃないだろう」

「気にしてくれよ!」

「仕方の無いやつだな……ほら、これでいいだろう。それより早く中に入れ」


 華蓮の言葉を疑いながらおそるおそる視線を戻すと、下着の上に白衣を着ただけと言う、先程と余り変わらない姿だった。

 前は閉めているのがせめてもの救いだろうと、将真は頭を押さえながら諦めの表情を浮かべた。

 そうして入室すれば、つい先日猛と訪れた時と変わらない散らかり具合でやはり呆れずには居られない。

 部屋に入って直ぐに呆然と立ち尽くす三人の事など気にせず、華蓮は一度部屋の奥へと入ると直ぐに戻ってきた。

 その手にあるのは、修繕が完了した将真の魔剣だ。


「ほれ」

「うお……と?」

「……ふっ、冗談だ」


 華蓮が魔剣を放り投げようと腕を振り上げるものだから思わず将真は警戒して構えるが、華蓮の手にはまだ魔剣が握られたままだった。

 揶揄われたのだと気づくと将真はムッとした表情を見せた。


「……ちょい」

「悪かったよ。せっかく直したんだ、そんな乱暴に扱うわけないだろう。ほれ」

「どうも」


 不機嫌そうな将真を見てくつくつと笑いながら、華蓮は言葉通り、丁寧に将真へと魔剣を手渡す。

 そして受け取った瞬間、将真は直ぐに以前とは違うことに気がついた。

 一番の違いは__重量だ。


「……少し重くなってる?」

「ああ。今度は簡単に壊してくれるなよ。前よりはだいぶ丈夫になったろうが、修繕に使った魔鉱石がかなり貴重なものだからな」

「ほぉー……ちなみに、何使ったか聞いてもいいッスか?」

「うん? お前たち聞いてないのか。例のダンジョンの最深部から出たレア鉱石だよ。アダマンタイト」

「へぇ、アダマンタイト……アダマンタイトォ!?」


 将真の手に渡された魔剣に触れながら、感心したように眺めていた莉緒だったが、その名称を聞いた途端に首をぐりんと華蓮に向けて目を剥いた。

 むしろその驚きようにリンも将真も驚く程だが、将真も名前くらいは聞いた事がある。


「それって確か……めっちゃ硬い魔鉱石、だったか?」

「認識甘すぎ……ていうかそもそも希少性が高過ぎるんスよ」

「そうなの?」

「将真さんはまあともかくとして、リンさんも知らないのは問題ッスよ」

「うっ……」


 学園で習ってはいるはずだが、これでリンは実の所、座学が余り得意では無い。

 その辺りを指摘されて彼女は気まずそうに視線を逸らす。


「しょうがないッスねぇ。まず魔鉱石が取れる場所っていうのは、鉱石が取れる場所で尚且つ魔力濃度がそれなりに高いって特徴があるんスよ。でも現実はそうもいかなくて……」

「そもそも魔力濃度が高過ぎるからな。そういう場所は軒並みダンジョン化してる事が多いから魔鉱石の採取すら簡単じゃない。中でもアダマンタイトの魔力親和性は魔鉱石の中でミスリルに並び最高クラス……硬度にいたっては最強だ。こいつが取れる場所はかなり深いところでな。だから必然、希少性が跳ね上がるわけだ」


 莉緒の説明に追従するように、椅子にもたれかかった華蓮が口を挟む。

 魔鉱石が取れるような洞窟のかなり深い場所。

 それ即ち、魔戦師にとって行動がしにくい程の魔力の濃度に加え、強力な魔物や魔獣と遭遇しやすい場所でもある、という事だ。


「なるほど……」

「無論、そんなレア鉱石全部使って修繕したわけじゃない。ミスリルも混ぜて直してみた。だから重くなったと言っても使用には差し支えない程度のはずだ」

「ミスリルも? でもあれも確かレア鉱石だろ?」

「ミスリルに関しちゃ沢山出てきたからな。数は少ないがヒヒイロカネだとかオリハルコンだとか、色々出てきたぞ」

「……マジで昔の宝物庫だったんじゃねーの?」

「と言うかそうなだろうな。逆にそれ以外は何も出てこなかったし」


 将真の推測に確信を持ったように断言する華蓮は、少し勢いをつけてその場を立ち上がると、将真たちの横をすり抜けて扉の前に立つ。


「さて。じゃあ使用感でも試してみるか?」

「……試す?」

「そうだ」


 そんな華蓮の提案に、三人は顔を見合わせる。

 ここに来た目的は将真の武器の回収だ。

 ありがたい提案だが、この後はまた友人たちと合流する約束がある。


「……あの」

「うん?」

「飯だけ食ってきてもいいですか?」




 真尋を連れた猛たちと合流して昼食を終えた後、第二小隊とも合流した将真たちは、時間を潰しつつ三時間後にある場所を訪れた。


『なら場所を取っといてやろう。人も誰か確保しといてやる』


「……って言われてきたんだけど」


 やってきたのは南区に幾つかある闘技場の一つだ。

 主にちょっとしたイベントの会場になったり、自警団や学園生の鍛錬の場に使われるのだが、その中央に立つのはちゃんとした服を着た華蓮ともう一人。

 但しそれは、華蓮とよく行動を共にしている彼女の妹のらん……ではなかった。


 スレンダーな容姿に、赤茶色のはねっ毛なショートヘアーが特徴的な快活な雰囲気の女性は、一同を視界に収めるとにこやかに手を振ってくる。

 その人物を、将真は知っているような気がした。


「ようやく来たか」

「やぁやぁ学園生諸君、よく来たねぇ」

「えっと……」

「……誰?」

「……なんでいるんですか美玲さん」

「あっはっは、そうつれない事言いなさんな」


 珍しくムッとした表情を見せる遥樹に、軽い調子で笑いかける美玲と呼ばれた女性。

 会うのは初めてだが、それでも将真はその名前にも聞き覚えがあった。

 どこで彼女を見て、どこで名前を聞いたのかは直ぐに思い出せなかったが__


「君らの事は知ってるよ。特に将真」

「え、俺ですか?」

「うん。君のお姉さんとは友達だからねぇ」

「…………あっ」


 そう言われて、将真はようやく思い出した。

 美玲のことを聞いたのは他でも無い、彼女自身が今口にした姉の柚葉からだった。


「それじゃあ改めて自己紹介しよっか。私は赤羽美玲。こう見えて実力にはそれなりの自信があるよ!」


 ニッと快活な笑みを浮かべ、美玲は力こぶを作るようにガッツポーズを握った。

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