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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
六章 ヴェリルク動乱大戦
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二人の現状

「__はぁ。また言わなきゃダメか?」

「いや、あの……ほんとすいません……」


 ため息と共に威圧的な態度を取る華蓮を前に、萎縮して肩をすぼめ将真は謝罪を口にする。

 その場に居合わせるのは、同じく診察を受けに来て、将真より先に終えその光景を目の当たりにし困惑した様子の猛。

 そして将真の姉である柚葉と、華蓮の妹であり自警団副団長の一人、出雲藍いずもらんだ。


「あれほど、魔王の力を全開にするのは避けろと言っただろうに」

「り、理解はしてます……」

「全く……いいか? 確かに今すぐ、魔王化する訳じゃあない。けどな、また目に見えて侵食が進んでる。これは良くない傾向だ」

「そ、そんなに状態悪いんですか?」

「いや、まだそこまで深刻じゃないがお前の迂闊さは深刻だ」


 華蓮の辛辣な評価に、将真の表情は気まずそうに固まる。

 彼女の指摘は、辛辣である以上に尤もであったからだ。


「このペースで魔王の力を全開で続けたら、学園生のうちに魔王化する事になるぞ? まあそうなる前に多分上の連中に確実に消されるだろうが」

「うぐぅ……」

「長生きしたきゃもう少し自重する事だ」

「わ、分かってます……でも」

「ん?」

「後悔はしてません」


 今回かかっていたのは猛たち第四小隊の命と言っても過言では無い。

 結果として、瑠衣に助けてもらわなければどうにもならない事態に直面こそしたが、優さえ出てこなければ、バスタード及び紅麗のクローンの大群はどうにかなっていたのだ。

 それも、将真が一人で何とか猛を抑えられたからと言っていいだろう。

 それどころか、猛には勝ててしまったのだが__


「躊躇った結果、みんなが死ぬようなら、絶対に死ぬほど後悔する。だから……馬鹿やったとは思うけど、後悔はしてません」

「……そうか」


 真剣な将真の顔を見て、華蓮は沈黙を挟みそう零すと、立ち上がってゆっくりと将真の目の前まで歩み寄ってくる。

 そして何をするかと思えば、華蓮は躊躇いなく将真の脳天に手刀を振り下ろしてきた。


「うぐぉっ……!」

「いい顔で何言ってんだ大馬鹿者。それでお前が魔王化でもしたら猛や優以上に手がつけられんわ」

「は、はい……以後、気をつけます」

「あぁ、ぜひそうしてくれ。期待薄だがな」


 呆れたため息を零しながら、言葉通り大して期待もしていない口調で華蓮はやや乱暴に椅子に座り直す。


「……なぁ、出雲先生。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 そして二人の会話が終わったところで、猛が珍しく遠慮がちな態度で問いかける。

 そんな様子に意外そうな表情を向けつつも、華蓮は話を聞く姿勢を作った。


「いいぞ。何が聞きたい?」

「……三ヶ月前の話になるけど、チーム戦の時、俺がめちゃくちゃしてこいつを暴走させた事があっただろ?」

「ああ。もう二度とやってくれるなよ?」

「やらねぇよ……その時のコイツの実力を思えば、少なくとも魔王因子を手にした俺には、魔王の力を全開にしたところで敵わないはずだった……少なくとも、俺の体感はそうだった。だってのに実際は……」

「将真の勝ち、だったな」

「そうだ。でもどういう事だ? 魔王の力を全開にしてるんだろ? そりゃホントの魔王が将真程度の力だとは思わねぇけど、全開の状態にまだ上があんのはおかしくねぇか?」

「ふむ……」


 既に全開の状態の力に、上なんて無いはずだ。

 それが猛の考えだろう。

 そしてその考えはあながち間違いとは言えない。

 確かに魔王の力は全開になっているのだから。


「お前の言ってる事は間違っちゃいない。ただ、将真がその力を十全に使えるかどうかは、また別の話だろう?」

「……どういう事だ?」

「えっと、その話俺も気になるんだけど……」

「なんだ、気づいていなかったのか。まあそんな気はしていたが……」


 聞き捨てならない事を聞いておずおずと手を上げる将真に、再び呆れた様子を見せる華蓮。

 流石にそう何度も呆れられるとものも言いたくなるが、抗議して話を遮るのも憚られ、将真は納得いかないという表情を表に出すだけに留める。


「そうだな……これはあくまで例えだが、魔王の力の封印段階を容器で例える。一つ解放すればコップ一杯分、二つ解放すればペットボトル一本分、三つ解放すればバケツ一杯分、全部解放すれば風呂一杯分、としよう」

「はぁ……」

「だが、それを掬う器の大きさは、将真の実力が影響している。一つ二つならともかく、恐らく三つ目の解放段階の時点でそもそも、魔王の力の全てを掬いあげられている訳では無い」


 そう、今の将真の実力では、三段階目を解放したところで、バケツの中身を全て掬えるかどうかも怪しい。

 まして風呂ともなればより一層だ。

 解放段階を上げれば掬いあげる器の大きさも多少増すと言っても。


「なるほどな……じゃあこいつが強くなったように感じたのは……」

「そのまま、強くなったって事だ。強くなった分、以前より掬いあげる力の総量が増えた。まあ、それだけなら喜んでもいいところだが……」

「……まだ何かあるんですか?」


 言い淀む華蓮に、不安げに問いかけるのは柚葉だ。

 今回もそうだが、最近柚葉は振った任務によって生徒たちが事件に巻き込まれる事態に、強く責任を感じていた。

 加えて、弟である将真にこれ以上まだ負担があるとなれば心配にもなるだろう。

 現に、華蓮が言い淀んだのはそれが喜べない事象だからだ。


「……ある。魔王の力がより強くなったのは将真の実力が上がっただけじゃなくて、魔王の力に同調している……侵食が進んでいる証拠だ。猛、将真の状態はお前のとは似て非なるものなんだよ」

「それはまあ、理解してるが……」


 猛の魔王因子は、彼自身の無茶な力の行使によって短期間でその身に強く根を張ってしまった。

 その除去を、将真の魔王の力を用いた力技で執り行ったのだ。

 勿論、力技と言っても慎重を期して安全に除去したのだが、残念ながら侵食した魔王因子を全て取り除くことは出来なかった。

 とはいえそれも悪いことばかりではなく、猛の体には良い変化も起きていた。

 潜在能力だけなら学園でもトップクラスだが、最近の猛は伸び悩んでいた。

 それもあってより一層の焦りがあっただろうが、今はその潜在能力が限界まで引き出されているのだ。

 それだけでなく、力の底も深さを増していた。

 加えて、魔属性の魔力を行使することも可能となった。

 尤もこれは、肉体に大きな負担をかけるために切り札として使うべきものだが、まさにこれが将真との違いだ。


「将真。お前、全開で魔王の力を行使したにも拘わらず、体への負担は以前と比べてマシになってるだろう?」

「……あー、言われてみりゃ確かに」

「ようはお前の体に馴染んできている……これもまた、侵食が進んでいるという事だ。対して猛。お前は魔王因子の残滓のお陰で以前より強い力を引き出す事が可能になった。それによる肉体への負担は大きくとも、将真のように侵食のリスクがある訳でもない。ほぼノーリスクで魔王因子の恩恵を、一時的に受けられるわけだ」

「そうか……前よりも強い力、か」


 大切な人を守れるほど強く。

 それは猛が少し前まで喉から手が出るほど欲しかったものであり、魔王因子を受け入れた要因の一つでもある。

 だと言うのに、猛の反応は思いの外淡泊なものだった。


「なんだよ猛。嬉しくないのか?」

「嬉しくないこたァねぇけどな……まあ、真尋も目を覚ましてくれたからか、長らく感じていた焦燥感が今は不思議と感じねぇ。これからは、アイツらにもこれ以上迷惑かけねぇ程度に上を目指すだけだ」

「……そっか。そりゃよかった」


 以前ほど鬼気迫る様子はなく、むしろ穏やかさすら感じる猛に将真は微笑を浮かべた。

 真尋も目を覚ましたのだから、無理をしてでも猛を救った価値は間違いなくあったと改めて実感を得たのだ。


「柚姉もありがとな。自分で言うのもなんだけど、無茶ぶりだっただろ?」

「そうねぇ。実際、なにか出来た訳じゃないし、私がやったのは団長に頼んでみただけだもの」


 尤も、それで真尋が助かったのだから彼女の功績もあるだろう。

 加えて、柚葉の発想から他にも数人、目覚めさせることが出来た患者もいるのだから。

 故に目を覚まさせる事が出来た剣生の働きは絶大なのだが、いずれまた礼を言う必要があるだろう。


「……おっとそうだ猛。お前の妹について、幾つかわかったことがある」

「わかったこと?」


 診察を終えて立ち上がり、部屋を出ようとした所へ思い出したように声をかけてくる華蓮に、猛は怪訝そうな表情を向ける。


「そうだ。だからってそんな警戒するな」

「いや、そんなつもりはねぇんだけど……」

「真尋だがな。未だ魔力体が酷く損傷しているから、以前の状態まで完全に戻れるかは分からんが、どうやらかなり強い力を持った聖人だったらしい」

「……は?」

「えっ、マジで?」


 信じられない、と言うような声を零す猛の隣で、将真もまた驚きに目を剥いた。

 魔人同様、聖人の数はさほど多くない。

 それでも〈風間家〉のように血筋を継承している例はあるが、彼らでもそれほど長くは生きられない故に希少な存在なのだ。

 聖人の寿命は短くないどころか、一般人の倍はあるという彼らが長く生きられない理由は単に、強い力を持つが故に最前線で困難な戦いに身を投じることが多いからだ。

 加えて、外気の有毒なレベルの魔力濃度に対する耐性は非常に高いが、魔人と違い親和性を持たない。


 そんな様々な理由があって、魔人に並ぶ希少性のある聖人、それも血の繋がりがある猛が普通の魔戦師である事を踏まえれば、真尋が突然変異的に誕生した聖人であるのは明らかで、その珍しさはより一層のものだ。


「これは考えすぎかもしれないが……お前が元いた集落に、真尋を除いてそんな存在はいたか?」

「…………いや、わからねぇ。少なくとも俺は知らねぇけど……おい、その前置きはまさか……」

「察しがいいな。そうだ、お前の集落が襲われた理由は__真尋の存在だったかもしれない」


 残酷に突きつけられた可能性。

 或いはそれが真実であれば、そうでなくとも疑いがあるだけでももしかしたら、猛が真尋を見る目が変わってしまうのではないか。

 そんな心配をして、将真はチラッと横目で猛の表情を見る。

 結局、それで猛の心情がわかった訳では無いが、視線に気がついた猛は不愉快そうに眉を顰めた。


「……なんだテメェ、その目は」

「いや、まあ……お前の、妹を見る目が変わっちゃったらって」

「ぶっ飛ばすぞテメェ」

「怖い事言うな!?」


 キツい言葉を浴びせられた将真だったが、それはむしろ将真にとって安心に繋がった。

 どうやら、愚問だったようだ。


「あんな理不尽、早々起きねぇとは思う……が、あの事件に理由があったならまた同じことが起きる可能性があんだろ。元より腹は決まってる。むしろより一層、今後こそ守り抜いてやるだけだ」

「……そうだな。お前なら出来るよ__いって!」

「ったりめぇだバァカ」


 臀に衝撃を受けて何事かと思えば、不機嫌そうな眉で、しかしながら愉快そうに笑う猛に蹴飛ばされたところだった。


「……蹴るこたないだろ」

「テメェがバカ抜かすからだろ」


 納得いかないと顔を顰める将真に、鼻を鳴らしてそっぽを向く猛。

 そんな二人のやり取りを、大人たちは呆れつつも暖かい目で見ていた。


「……さて、診察も話も終わりだ。用があるんだろう? なら早く帰るんだな」

「いてて……はい」

「助かったよ先生。ありがとう」

「……目上相手とはいえお前が素直に礼を言うとは」

「うるせぇな素直に受け取れよ」

「はいはい悪かったよ。ほらさっさと帰んな」


 年上相手でも変わらず生意気な態度に華蓮は苦笑を浮かべ追い返すように手を払い、将真と猛は漸くもう一つの用事の方へと足を向けていった。




「__で、どういう状況だこれは」


 少し足早に、伝えられていた場所へと到着した二人は、目の前の光景に困惑を隠せないでいた。

 と言うのも、アルコールの匂いがして、素面なのは遥樹と真那、静音くらいのものだ。

 どうやら飲んでいるらしく、佳奈恵と美緒は撃沈し、真尋は捕まったように逃れられない状態だった。

 そして杏果にしばかれる響弥を見て笑い声をあげる紅麗。

 リンはうとうとと船を漕いでいたが、莉緒と響弥が将真たちの到着に気がついて駆け寄ってくる。


「将真さん、漸くきたッスねぇ。ほら、早く席つきましょう」

「お、おぉ……なんか顔赤いけど」

「そんなにッスか? そりゃ自分も飲んでるッスけど」

「いや、そもそも何で飲んでんだよ……」


 これ程地球の、それも日本の文化と似通っていながら、〈裏世界〉の成人年齢は十五歳という扱いだ。

 魔力持ちは確かに一般人に比べればアルコールに強く、若いうちから飲むことが許可されているというのは分かるが、将真は未だ常識の違いに慣れないでいる為、今まで口にした事はない。

 そして将真の隣では、出来上がった様子の響弥が猛に絡みに来ていた。


「遅かったなぁ猛ぅ。お前ら遅いから先に始めちゃったぜぇ?」

「それは分かってんだよ鬱陶しいな。いつもより割増でうぜぇし酒くせぇから離れろ」

「ひでぇ!」


 肩に回された手を辛辣な言葉と共に振り払う猛に、大袈裟にショックを受けた様子の響弥。

 実際はさして気にも止めていないだろうが。

 そんな響弥を放っておいて、猛は真尋の元へと足を進める。

 猛に気がついた真尋は、浮かない顔でソワソワと身動ぎをしていた。


「真尋、楽しんでるか?」

「……お兄ちゃん、トイレ行きたい」

「いや、なら行けばいいだろ、なんで……おい。おい佳奈恵、起きろ」

「……ん、ふぁ……?」


 真尋の幼い子供のような訴えにやや呆れた猛だったが、どうやら動けない原因があったことに気が付き、急いで佳奈恵の頬を数回軽く叩いて起こす。

 寝ぼけ眼を擦りながら目を開く佳奈恵。

 恐らく酔ってそのまま眠ってしまったのだろうが__その間、ずっと真尋の腰を抱き枕にしていたのだ。

 動けないわけである。


「お前がずっと抱き締めてるから真尋がトイレに行けないだろ」

「……えっ、あ、ごめんね真尋ちゃん!?」


 酔いも眠気も覚めたようで、慌てて真尋の腰から手を離す佳奈恵。

 これで真尋も動けるようになった訳だが、なかなかその場から動こうとしない。


「……佳奈恵」

「う、うん?」

「限界っぽいから真尋連れてってやれ。間に合わなかったらお前の額にデコピンで済ませてやる」

「ひぇ……ご、ごめんね真尋ちゃん。今連れてくからね!」

「うぅ〜……」


 真尋を抱え上げて、揺らさないようにパタパタと早足でトイレに向かう佳奈恵。

 その騒動で佳奈恵同様に眠りこけていた美緒も目を覚ました。


「……あれ、猛いつの間に……おかえり」

「ああ。ただいま」

「てかお前ら全然食ってねーじゃん……居酒屋に来てるわけじゃねーんだぞ」


 莉緒に招かれて席に着いた将真は、机に広がるはいいもののあまり消費されていない肉の山に呆れてため息をついた。

 酒ばかり飲んで騒いでいたのだろうが、あんまり騒がしいのも店側に迷惑だろう。


「ほら、もう酒は終わりにしとけよ。なんの為にこの店選んだよ肉を食え肉を」


 そうして将真は、大きな網の上に躊躇いなくどんどん肉を広げていく。

 その肉の匂いにつられて、眠気が飛んだらしい美緒やリン、酒を片手に騒いでた響弥たちも改めて席に戻る。

 そうして待っている間に、真尋の手を引いて佳奈恵が戻ってきた。


「……どうした真尋、しょんぼりして」

「間に合わなかったぁ……」

「き、着替えはすぐ終わらせたよ?」

「そうか、そりゃ助かる。じゃあ額出せ」

「うぐぅ……あ、あんまり強くしないでね__あだぁ!」

「約束だからな」


 ビシッと良い音を立てて放たれたデコピンに、佳奈恵は額を抑えて悶絶する。

 そんな佳奈恵に、猛は可笑しな物を見るような、少し子供っぽい笑みを浮かべた。

 少しの間悶絶していた佳奈恵も、その表情を見た他の面々も、意外すぎる猛の表情に思わず目を見開く。

 そして猛はその視線に気づくことも無く、真尋に視線を向けると自分の膝をポンポンと叩く。

 すると真尋は誘われるようにのそのそと足を進め、猛の足の間にすっぽりと収まった。


「ほら、真尋もそんな落ち込むな。大した失敗じゃねぇだろ。それに今日はお前の快気祝いでもあるんだから、ちゃんと楽しんでおけよ」

「……んー、わかった」


 まだ気にしているようだが、ニコッと笑みを見せた真尋の様子からそんなに引き摺る事は無いだろうと、一同も安堵の笑みを浮かべた。

 こうして全員揃ったところで、莉緒はグラスを掲げて立ち上がる。


「じゃあ自分らはさっきやったッスけど、改めてもっかいやっと来ましょうか」

「お、いいなぁやろうぜ!」


 莉緒の提案に、未だ酔いの覚めきらないテンションで同じくグラスを掲げる響弥。

 残りの面々も、そして将真と猛も賛同するようにグラスを持って、莉緒の音頭に続いて声を重ねた。


「__乾杯!」

『乾杯!』

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