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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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リトライ

「__将真」


 佳奈恵による猛の衝撃の過去を聞かされた後、一同は再出発の準備を終えて自警団本部へと集まっていた。

 転移の魔法陣で南支部へと一気に飛ぶためだ。


「……ごめん、柚姉。ありがとう」

「ホントよ全く……帰ってきたら説教確定だからね」

「うっ……肝に銘じます……」


 溜息をつきながらの宣告に、将真は頬を引き攣らせ目を泳がせる。


 当然と言えば当然だが、将真と佳奈恵も行くと言い出した時には全員が反対した。

 更に言えば、猛と戦ってダメージが大きい響弥や、少し無茶をして体に負担がかかっている莉緒も、柚葉としては安静にして欲しいところだった。

 だが、彼らの報告から猛は勿論のとこ、もしかしたら美緒もこれ以上救助が遅れればかなり状況が怪しいことが分かっていた。

 そして都合の悪いことに、報告に聞いた戦力に十全に対抗出来る小隊は未だ別の任務等に出向いていて動けない。

 あと一日かそこらで団長の剣生と副団長の瑠衣が帰ってこられる見込みがあるのだが、それでもかなり時間は怪しいだろう。


 だから、柚葉は説得を断念した。

 無茶する事は分かっていても、無茶をしないようにと繰り返し念押して。


「……行く前に、これを渡しておくわ」

「……これは」


 そう言って手渡されたものを見下ろし、将真は目を見開く。

 その一つには心当たりがあった。

 剣の形をした魔杖だ。


「……もう出来たのか」

「まだ試作段階だし試験もろくに出来てないけどね。それでも武器生成魔法で出来たやつより数段丈夫なはずよ」

「そりゃありがたいな」


 最近になって漸く、剣の形に見えなくもない程度に武器生成魔法もマシになってきた将真だが、それでもやはり耐久性に難があるのには変わりない__と言うより、そもそもこの魔法自体が耐久性に欠点を抱えているのだ。

 将真の魔力量を考えれば無限の武器を生み出せるという強みはあれど、ダメージが与えられなければ意味が無いのだから、やはりまともに機能する武器は必要だ。

 そして、将真の魔法をより強化する為の杖も。


「……で、こっちの黒い玉は?」


 手渡された二つのもののうち、将真はもう一つに目を落とす。

 ガラスのような材質だがかなり頑丈で、中も透けて見えるが濁ったような黒が僅かに蠢くようだった。


「それは……それも試作品よ。切り札っていうか……ここぞという場面で使ってくれればいいわ」

「試作品が切り札ってのはちょっと怖いな……これ、俺が持ってていいのか?」

「ええ。あなたでいいの」

「……わかった。そういう事なら、俺が持ってることにするよ」


 柚葉の答えに頷いて、将真はその黒い玉をポーチへとしまい、改めて足を転移の魔法陣がある部屋へと向ける。


「私が動ければよかったんだけどね……ちゃんと帰ってきなさいよ」

「猛を連れ帰るって言ったろ。勿論わかってるよ__行ってきます」


 そして一同は再び向かう。

 ウィザードの手によって占領されたダンジョンへと。




「__来ましたねぇ」




 急ぎダンジョンへと足を踏み入れた十人の道程は、前回同様に真那が階層の床をぶち抜いて短縮させた。

 そうして再び復活していたガーゴイルたちに目もくれず迅速に駆け下りて__第八階層へと辿り着く。


『__ッ!』


 そしてそのフロアの中心に棒立ちになる人影を見て、一同はここまで一度も止める事のなかった足を止めた。

 そんな気はしていたが、そこに立っていたのは猛だった。

 先日会った時と比べるとかなり落ち着いているようで、どうやら正気は取り戻しているらしい。

 それでも変わらず、彼が一同の中見据えるのはただ一人__将真だ。


「……将真。本当に一人で相手する気かい?」

「ああ。心配しなくても負けはしねーよ」


 ここに来るまでに、彼らは作戦を練ってきていた。

 将真が一人で猛の相手をすると言い出したのはその時だ。


 それが出来れば佳奈恵だけでなく響弥もバスタードとの戦いに参加出来る。

 疲労は解消されきっていないが、それでも前回よりはマシに戦えるはずだ。

 とはいえそれも、将真が本当に一人で相手取れること前提だが、当然普通にぶつかり合うだけでは勝ち目はない。

 それでも、今度こそ絶対負ける訳には行かない。

 彼を倒して何としても都市へと連れ帰る、その為に。


(……無茶でもなんでもやってやる)


 将真の決意は固い。

 その表情を見て遥樹はそう判断した。

 同時に、彼が何をするつもりなのかも理解出来て、遥樹の口から諦めたようなため息がこぼれた。


「……本当は任せっきりにはしたくないんだけど、そうも言ってられないね。じゃあ……任せた」

「おう」

「みんな、行くよ」


 遥樹は将真を除く八人を先導し、猛のすぐ側を駆け抜けていく。

 勿論、猛を警戒していない訳では無いが__


(……やっぱりね)


 近くを通り抜けていく遥樹たちに、猛は一瞥をくれた。

 但し、遥樹たちから敵意も戦意も感じないとわかると、その視線を直ぐに将真へと戻す。

 前回同様、まるで将真以外には興味が無い、と言ったように。

 遥樹たちの姿が階段の奥へと消えていったところを確認し、将真は口を開く。


「……よう。精々、二日ぶりって所か?」

「……あぁ」

「正気に戻ってくれたみたいで助かったよ。出来ればこのまま俺と戦わず、こっちに戻ってきて欲しいんだけどな?」

「ハッ、馬鹿言え」


 予想していた回答ではあったが、将真の提案に猛は鼻で笑い武器を向ける。

 応じる気はさらさら無いようだ。


「……猛、まず謝っとく。ごめん」

「何言ってんのかわかんねぇな。手心でも加えて欲しいのか?」

「……佳奈恵から聞いたよ。お前の話を」

「__そうかよ」


 将真の申告を耳にしたその一瞬、猛から放たれた異様な気配に鳥肌が立つ感覚を覚えた。

 だが本当に一瞬の事で、猛はまるで何事も無かったような口調で応じる。


「で? 聞いたらなんだよ。同情でもしたか?」

「……するよ。するだろ。俺は〈表世界〉で生きてきた人間だぞ。あんな話聞かされて、何も感じないなんてあるもんか」

「だったらどうするよ。俺のために……死んでくれるのかぁ?」

「それこそ馬鹿言え。冗談じゃねー」


 おどけた様子で小馬鹿にするように笑いかけてくる猛に、将真も笑みを浮かべて魔杖剣の切っ先を猛に向けた。


「元より、連れ帰るつもりだったんだけどな……尚更、連れて帰らない訳には行かねー。お前を妹と再会させる為にも、死んでも連れ戻す!」

「__ッ!」


 将真の宣誓と共に体から溢れ出す膨大な魔力。

 それは今の猛でさえも息を飲むほどの強烈で禍々しい気配だ。

 だが、むしろ猛は嬉しそうに獰猛に歯を向いて笑う。

 やっと将真がやる気になったと分かったからだ。

 おぞましい魔力は霧のように将真を包み込み、魔力の繭が霞んで消えていったかと思うと、右腕の侵食が肩まで進んだ状態で魔王の力を顕現させる将真の姿が露わとなった。


「……もう帰る気なんざねぇってのにな。いいぜ、やってみろよ__!」


 僅かに浮かべた悲しげな表情はすぐに消え、怒気と歓喜を孕んだような複雑な感情で猛は将真へと突貫を仕掛けた。




 将真と猛の戦闘が開始してほんの少し経った頃、遥樹たちも目的の第九階層へと辿り着いた。

 その階層は前回来た時と同様に壁が吸血鬼たちで埋め尽くされ、中央ではバスタードとユニが美緒の前に立ち塞がるように立っていた。

 一同がここに来る事を知っていたかのようだった。


(……いや。猛の様子を見た感じ、知ってたんだろうな)


 猛が待ち構えていたのはバスタードの指示があったからなのだろう。

 バスタードであれば遥樹たちが遺跡に侵入する前には気づいて準備しておくのも難しくはないはずだ。

 佳奈恵から聞いた、猛を傀儡にする過程であったというやり取りの中で、明らかに他のウィザードとは格が違うと分かる内容があったのだから。

 そうでなくとも、猛と美緒を取り残しておくはずがないと言う推測もあったかもしれないが。


「お待ちしておりましたよぉ。絶対に来ると思ってましたぁ」

「ったりめーだろうがよ。仲間が捕まったままなんだぞ」

「いやぁ、私にとっても実に都合がいいので構いませんがぁ……普通、もっと実力のある者に救出を任せるものなのでは?」

「残念ながら人手が足りてなくてね。満足出来ないかもしれないけど、僕たちで相手させて貰おう」


 言葉を締めくくると、遥樹は腰の剣をゆったりと鞘から抜き、落ち着いた様子で構える。

 ただし全身から放たれる殺気は、否応なく本気であることをその場の全員に知らしめていた。

 一拍遅れて、残る面々も臨戦態勢を取る。

 その様子を始終眺めていたバスタードは、ニヤリと笑みを浮かべた。


「__いぃえぇ、構いませんとも。むしろあなた達は子供とは思えないほど優秀ですからねぇ……実験体には、都合がいい!」


 バッと手を前に突き出し、バスタードが魔法を行使する。

 将真がよく使うような黒い魔球。

 それを合図にユニが飛び出し、前回とは違い周囲の吸血鬼たちも一斉に動きだした。

 相変わらずさほど速くはないが、それでもこの数は脅威に変わりない。


「行くよ!」

「ええ、やるわ!」


 遥樹に応じ、彼と共に最初に飛び出していくのは紅麗。

 彼女がユニと接触すると、遥樹はその隣を駆け抜けて魔法を切り落とし、バスタードへと迫る。


 彼らの作戦は非常に単純で、遥樹がバスタードを、紅麗がユニを相手にしている間、なるべく邪魔が入らないように残るメンバーで紅麗のクローンたちを一体でも多く減らす。

 そして隙を見て莉緒が美緒を救出する、というものだ。


 予定通りに二人がそれぞれの相手と戦闘を始めると、そこに間髪入れずに莉緒が美緒に向かって駆け出していく。

 十字架にかけられた美緒へと手が届くまであと少し__


「うぐっ……!」


 そんな莉緒の動きを止めたのはクローンたちだった。

 その数は五体。

 四肢を拘束され、まともに身動きも取れないまま地面に叩きつけられる。

 そして抵抗も許されない状態で莉緒の体のあちこちに牙が突き立てられる。

 だが、莉緒とて前回と同じ轍を踏むつもりはさらさら無い。

 しっかりと対策はしてきた。


 遥樹の相手をしながら、横目で拘束された莉緒を確認しニヤリと笑うバスタード。

 その目の前で__莉緒の体が閃光と共に弾け飛んだ。


『__ッ!』

「なっ……」


 クローン体たちが声にならない悲鳴をあげ、バスタードも少し驚いた様子を見せる。

 当然ながら、莉緒は自爆した訳では無い。

 遥樹たちにとっては作戦通りの展開だ。


(……贋作人形フェイカードール。莉緒の使える特殊な分身魔法だ。発動と同時に対象者への隠蔽効果があるから、探知するのは簡単じゃないよ)


 実際、遥樹にもほぼ探知不可能で、この面々の中で探知出来るとしたら佳奈恵くらいのものだ。

 加えて、分身に更に手を加えた事で起きたのが先程の現象。

 さらに間髪入れずに再び出現した莉緒が、より一層クローン体たちに混乱を与える。


「……あれも、偽物ですかぁ。なるほど、なかなか厄介ですねぇ」

「そうだろう? それに、余所見をしている余裕は与えないよ__!」

「ぐっ……やりますねぇ、流石は〈風間家〉と言った所でしょうか」

「……」


 振るった剣を杖で受け止められながら、やはりかと遥樹は考える。

 前回の戦闘中に名前は呼ばれたが、家名を呼ばれた訳ではなく、バスタードに対して名乗りを上げた訳でもない。

 それにも拘らず遥樹を〈風間家〉の人間だと判断できて、精神干渉魔法を得意とするなら、やはり彼は〈花橘家〉の魔戦師だったのだろう。


 遥樹は視線を少しだけ紅麗の方に向ける。

 彼女も苦戦しているようで、お互いに浅い傷を負っては治癒されていくの繰り返しだ。

 しかしながら、余裕のない表情の紅麗に対してユニは何処吹く風と言った涼しい表情のまま変わることが無い。


「……聞いてもいいかな」

「何でしょう?」

「紅麗と張り合うほどの強さ……他のクローン体とは明らかに違う。デイウォーカー……だったかな? だとしても、そこまで突出して強くなるものなのかい?」

「そこに気づくとは目敏いですねぇ。ええ、その通り。彼女は他の個体とは違うんですよぉ」


 嫌な笑みを浮かべるバスタードを前に、遥樹は自分の想像が正しかったことを知る。

 ならばその手段も想像は着くが__出来れば、外れていて欲しいという希望的観測もあった。


「……何が違うのか、教えて貰えるのかな?」

「聞きたいですか? いいでしょう聞かせてあげますよ!」


 バスタードは遥樹の剣を弾くと距離をとって、他の面々にも聞こえるように、嬉々として声高らかに語り出した。

 その動作につられたようにクローン体たちも動きを止めて、必然、戦闘の手が一時的に止まる。

 紅麗とユニを残して。


「あなた達は『蠱毒』というものを知っていますかぁ?」

「……こどく?」

「あたしは……知らないけど」


 心当たりがないと言うように首を傾げるリンに、同じくそれを知らない杏果が視線を遥樹に向ける。

 そして杏果は、遥樹が険しい表情を浮かべている様子を目にした。


「……そうだね。簡単に言えば、同じ場所で飼育して共食いをさせて、強い力を持った一体を生み出して使役する……って感じだったはずだ。その話をするって事は……」

「そう。そういう事ですよぉ」


 遥樹の回答に、バスタードはニタァと嫌な笑みを浮かべる。

 要するに、吸血鬼の特性を活かして、ユニも含めたクローン同士で殺し合わせ、その力を一体に集約させた結果がユニの強さなのだ。

 ただ、その時はまだユニは大した力を持たない、戦闘能力で言えば他のクローン体の変わらない強さだったはずだ。


「……正気じゃないね。色んな意味で」

「大事なはずの実験体すらコイツにとっては玩具なんでしょ」

「そうですねぇ。まあとても貴重なデイウォーカーですがぁ、失った所で残念ってだけですからねぇ。結果は……見ての通りですが」


 ちらりと視線を紅麗とユニの方へ送るバスタード。

 つられて一同もそちらへと視線を向けるが、丁度ユニの猛攻を受けて堪らず紅麗が後退するところだった。


「__くっそ!」

「……紅麗。今の話、聞いてたかい?」

「聞いてたわよ、全く……何体喰ったらこんな化け物になるのかしらねぇ!」


 苦戦というレベルではない。

 それほど大きな差はないが、それでもユニの方がおそらく強い。

 勝てなくは無いかもしれないが、困難を極めるだろう。


(……やはり、バスタードを優先して倒すべきか)


 決意を改めると、遥樹は小声で後ろの仲間へと語りかける。


「……響弥、杏果。ごめん、急だけど協力してくれるかな」

「……俺と杏果がか?」

「足引っ張っても知らないわよ……」

「大丈夫だよ。君たちの戦闘能力は高い。僕が保証するよ。それにバスタードはやはり、先に倒してしまった方がいい」

「……まあ」

「確かに俺らは集団戦苦手だから、クローン連中相手には期待出来るほどの戦力にはならんだろうしなぁ」


 一応、広範囲を攻撃できる魔法はあれど、二人が得意とするのは決闘形式だ。

 ならば遥樹と共にバスタードを倒す方が早いかもしれない。


「……作戦会議は終わりましたかぁ?」

「あぁ。みんな、改めてそっちは任せるよ。それじゃあ響弥、杏果__行くよ!」

「おう!」

「りょーかい!」


 遥樹の合図に合わせて、響弥と杏果は一息に踏み出した。

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