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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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撤退

「__おいおい、イキった割にはそんなもんかテメェら」

「……ぐぅ」

「はぁ〜……ヤバすぎだろお前……」


 呆れたように、或いは失望したような口調で散々な事を言われた二人は、既に満身創痍と言っても過言ではない程にボロボロだった。

 将真は膝をつき荒い呼吸を繰り返し、響弥は壁にめり込んでその場に大の字で寝転がって中々立ち上がれない。


(分かっちゃいたけど、それ以上だ。マジでシャレになんねー……!)


 響弥ならまだしも、本当なら将真では素の状態の猛にも勝ち目は無い。

 ましてこれほどの変貌を遂げた彼を前に、まともに戦っていては命が幾つあっても足りないだろう。

 だからこそ正面衝突は避けていたのだが、どうにも避けられないだけでなく手加減までされて何とか生きている状況だ。

 更にはこれだけ強烈な殺気と殺意をばら撒いておいて、愉しんでいるのか甚振るに留めてなかなか殺そうとはしなかった。

 無論、殺されたらそれはそれで困るのだが。


(正面からじゃ俺の武器では二合と持たずに壊される……そうでなくともほぼフルパワーの響弥の一撃を受けきるパワー……くっそ、まじ詰んでんな……)


 正直、弱音を吐きそうだ。

 口に出せばいよいよ諦めてしまいそうで、だからこそ口にする気は無いものの、今にも折れそうな心を虚勢で繋いでいる状態なのだ。


「……おい、将真。お前、とりあえず下がってろよ」

「……はぁ?」

「しんどいだろ? 俺が変わりに戦うからよ……」

「……はっ、馬鹿言え。ならお前が引っ込んでろ」


 フラフラと立ち上がる響弥の気遣いを、将真は振り払って同じくふらつきながらも立ち上がり構える。


「……そう来なくっちゃなぁ」


 そんな二人の様子を見て、猛も口角を上げる。


(そもそも猛の狙いは俺なんだ。響弥が傷つく理由は本当はないのに、俺に力が足りないせいで……)


 実際の所、将真はまだ持てる力の全てを出し切っている訳では無い。

 だが当然、あらん限りの力を振り絞るという事は、魔王の力を全解放するという事だ。

 タダでさえ事態は深刻なのに、ここでもし将真が暴走しようものならそれこそ収集がつかなくなる。


 何より、今度こそ将真が将真でなくなってしまうかもしれない。


(それは流石に嫌だ……けど、この体たらくじゃマジでいつまで持たせられるか分かったもんじゃねー!)


 情けない話だが、打開策も思い浮かばない以上、後は遥樹たちが引き返してくるまで耐え忍ぶしかない。

 とは言えそれも、ここに来るまでに感じた気配からしても望み薄ではあるだろうが。


(アイツらもアイツらですぐに助けに戻ってこれるとは思えねー……いざとなったら躊躇うつもりはねーけど、使い所は慎重に考えねーとな)


「今なぁ、すげぇ気分がいいんだよ。今までにねぇくれぇになぁ。だからまだ簡単にやられんじゃあねぇ__ぞ!」


 愉しげに笑いながらの隙だらけの突貫。

 だが、今の二人にその隙をつく余裕はなかった。




 将真と響弥を除く中隊七人と、バスタード率いる吸血鬼のクローンの大軍。

 両者の戦いは混戦を極めていた。


 リンの風が大群を可能な限りその場に留めたり密集させたりして、その敵の塊を杏果の地の魔法が潰していく。

 更に潰れたクローンから溢れた血液すら利用して、莉緒と共に最前線で紅麗が大剣を振り回して暴れていた。

 我を忘れている訳では無いが、まるで辛い思考を振り切るような鬼気迫る表情で声を上げながら。

 真那と静音は後方からの攻撃に徹していた。

 基本的には前で戦う面々の攻撃網から抜けてきた相手を狙いつつ、手が空けば大軍の片付けにも手を貸していく。

 遥樹はそんな二人の護衛をしつつ、二人と同じように後ろからサポートしながら気休め程度にクローンを潰していった。

 当然、遥樹が先頭に出ていれば中隊の攻撃力は格段に上がるが、後衛の防御が一気に手薄になる。

 相手の数があまりに多すぎる以上、この配置になるのは仕方がない事だった。


 とは言え階段__退路を背にしている事もあって背後からの襲撃には猛を警戒していればいい程度。

 クローンによる奇襲はなく、戦況は意外にも遥樹たちの方が押している。

 お互いの個の力にある差が大きいのだから当然と言えよう。

 それでも、数の不利をひっくり返すにはまだ相当な労力が必要になりそうだった。


「……やはり不完全なクローンでは大した戦力にはなりませんかぁ」


 その戦場を、クローンたちに戦わせながら眺めるバスタードが呑気に呟く。

 彼としても理解していた事だが、やはりただ増やしただけのクローンでは戦力の足しにならない。

 それに関してはバスタードの実験の特異な成功例であるユニも同じ事だったが__


(……ふむ、やはり喰わせなくては使い物になりませんねぇ)


 その点、ユニは期待以上の働きを見せてくれていた。


 大群を相手しながらユニの相手をするのは莉緒と紅麗。

 莉緒の速度には及ばないものの、ユニの反応速度は尋常ではない。

 それは紅麗も同じ事なのだが、犠牲となったクローンから無限に血液を補充できるのは、何も紅麗だけでは無いのだ。

 結果、血装の力を十全に震えるユニの装甲を突破できず、決定打は与えられていない。

 それでも、今の莉緒がもう一度神技を放てば大きなダメージになるだろう。

 紅麗にも、血液に干渉する強力な魔法があるのだから、何も勝てないという訳では無いはずだ。


(逃げないという事は勝算がある、ということでしょう。しかし、この危機的状況においても切り札を切らない。何を考えているのでしょう……ん?)


 不思議そうに首を傾げながらも、バスタードの視線は先程から七人全員を何度もぐるぐると視線を移して観察していた。

 そしてふと、気づいてしまった。

 気づかてしまった。

 一人の少女の、その異様さに。

 信じられないというように目を瞬かせるが、バスタードは目を見開き、感激したように少しずつ、口角を大きく歪めて上げていく。


(なんと……こんな事が有り得るのでしょうか。あの少年モルモットですら他の者と比べて魔への耐性が高い程度だったというのに……これは耐性などでは無い。なんという親和性……素晴らしい! 是非欲しい!)


 ヨダレでも垂らしそうな表情で、バスタードはフラフラとした足取りで、然しながら間抜けは犯さずしっかり気配を押し殺し魔法で姿を隠しながら少女に近づく。

 そしてその手が少女を捕まえようとした、その時。


「おっと、何のつもりか知らないけどさせないよ!」

「むぅ!?」


 手首を切り落とす勢いで振り下ろされる剣を前に、思わず手を引き後退する。

 驚いた少女もまた、その場で目を見開いてよろめきころびかけて__


「ちょっと、危ないわよ!」

「すまないね。でもこうでもしないともっと危なかったから。大丈夫かい__リン」

「え……う、うん。なんとか……」


 険しい表情の二人に戸惑いながら、リンは安心させるように微笑を浮かべた。

 と言ってもそれは、戸惑いのせいで引き攣って苦笑に見えてしまうのだが。

 ちなみに杏果と遥樹では険しい表情の理由が違った。

 杏果は単にリンの身を案じてのものだった。

 では遥樹の場合はなにか。


「__チャンスだ!」


 珍しく遥樹が声を大にして叫んだ。


「分かってるわ!」

「当然ッス!」


 バスタードが前に出た事により、捕虜となっている美緒と佳奈恵の奪還を阻む者は、一時的にユニのみとなった。

 他のクローン体もいるが、そちらは問題にもならない。

 この時のために、莉緒も温存しておいたのだから。


(リミットも近いこの状況……ベストもベストッスねぇ!)


「〈日輪舞踏〉__〈八重桜〉!」


 莉緒の踏み込みが神速を生み出し、花が咲くように強烈な八連撃がユニに叩き込まれる。


「__ッ!」


 今度の攻撃は血装の上から大きなダメージを与える事に成功し、虚ろなユニの表情が初めて変化を見せた。

 その隙を紅麗は逃さない。


「……悪いわね。ここで終わりにしてあげる!」


 血装が効力を発揮しなければ、吸血鬼の体は人間より遥かに丈夫でも魔族の中では柔い方だ。

 ましてクローンとなれば__血の大剣を防ぐ手立てはない。

 ユニの体は一撃で切り落とされ、膝が地に落ちて地面に倒れ伏す。


「「__よし!」」


 莉緒と紅麗は顔を見合わせて軽くガッツポーズを作ると、そのまま即座に前進。

 美緒と佳奈恵の拘束を一瞬で切り捌いて解除すると、二人を抱えてその場から颯爽と離脱を始めた。


「……逃がしませんよぉ? 実験体モルモット足り得ずとも重要な道具なんですからねぇ!」


 その光景に、バスタードの様子が少し変化を見せた。

 本心は定かではないが、怒りを滲ませているようにも見える。

 更に彼の声に従うように、クローンたちが前進の速度を上げた。

 数の物量で追い込む気だろう。

 そしてそれは十分に可能だ。

 かなり奮闘したとはいえ全員が全員、体力と魔力をかなり消耗した状態で、それでも良いとこ半分くらいしか削れていないのだ。


(目的は果たした。これ以上無理に戦う理由はない!)


「殿は僕がやる! 撤退だ!」


 遥樹の指示に従い、一同は迷う事無く前にいた者から回れ右をして階段に足をかける。

 そんな彼らを見てクローンたちがまた速度をあげる。

 その速さはもはや緩慢とは言えない。


「簡単には逃がしませんよぉ?」

「いいや、退かせてもらうよ__〈神気霊装〉第二解放」

「くぉっ!?」


 遥樹の体から溢れ出す魔力に、バスタード含めたクローンたちが怯んで動きを止める。

 ただの魔力ならまだしも、その属性は『聖』だ。

 魔族にとって__中でも、吸血鬼にとっては天敵中の天敵。


 〈神気霊装〉第二解放による容姿の変化は、完全な解放状態と比べるとさほど変化は無いが、遥樹の変化は少し髪が浮いて白い外套マントを身に纏うに留まった。

 この場において、この状態の遥樹を見た事があるのは同じ小隊である紅麗と真那のみで、他の面々は初めて目にした。

 つまり、今まで誰も彼の本気を引き出せた事がなかったということでもある。


(あれが遥樹さんの……とんでもない魔力ッスねぇ)


 先頭で美緒を抱えて駆け上がる莉緒は、僅かに視線を向けてその姿を一度だけ視界に捉えると、すぐに顔を背けて駆け上がる速度を上げていく。


(敵ならともかく、味方ならこれ以上心強いもんはなかなかないッスけど!)


 これで、莉緒たちも背後を気にせずに済む。

 といっても、それも長くは続かない。

 聖属性の魔力を持つ〈聖人〉の特徴として、対極に当たる〈魔人〉に匹敵する魔力を有する事。

 魔力の消耗が魔属性含む他の属性と比較しても消耗が控えめなこと。

 その代わり__消費した魔力の回復は、全ての属性の中で最も時間がかかることだ。


 だから遥樹は普段から本気を出さない。

 確かに圧倒的な力を引き出せるが、長期戦には向かないからだ。


「__さて、じゃあ少し付き合ってもらおうかな!」

「……生意気ですねぇ」


 バスタードは言葉ほどに苛立ちを見せることもなく、むしろ最早馴染みのある嫌な笑みで立ちはだかる遥樹に応じる。




「……うっ」

「美緒!? 目が覚めたんスか!?」


 階段を駆け上がる最中、身動ぎを始めた美緒にすぐ気がついて、莉緒が切羽詰まったように声をかける。


「……いしきは、あったよ……ぼんやりとだけど……」

「体は大丈夫ッスか?」

「……あんまり、だいじょうぶでは、ない……かなえちゃん、は……?」

「佳奈恵さんはそっちッスよ」


 莉緒は視線と顎で紅麗の方を示す。

 紅麗に担がれている佳奈恵は未だ意識も戻らぬままだ。

 それでも、死んでいてもおかしくない状況を考えれば、生きているだけで十分過ぎるというものだ。


「……りおちゃん……おねがいがあるの……」

「なんスか?」


 まだたどたどしいが、少しずつハッキリとした口調に戻りつつある美緒に一安心しながらも莉緒は問い返す。


「……たけるを、たすけて……」

「それは……勿論そのつもりッスよ。それに今は将真さんと響弥さんが二人がかりで猛さんを抑えてくれてるッス。二人とも助けられた以上わざわざ長居する理由もないし、猛さんも引っ張って連れ戻すッスよ」

「……そうじゃないの。たけるは……たけるのこころは……」

「莉緒! もう着くわよ、警戒しなさい!」

「っと!」


 紅麗の声に肩を揺らし、終わりが見えてきた階段の先を見据える。

 後ろには変わらずリンたちが着いてきているが、遥樹の姿はまだ見当たらない。

 少し無茶をしているのだろうか。

 だとしたら、彼も直ぐに撤退出来るように、猛を早いところ正気に戻さなければいけない。


「__よしっ、到着……って!」


 一息に階段を登りきり、顔を上げた瞬間目に入ってきた光景に思わずギョッと目を剥いたのは莉緒だけでは無い。

 先程別れた時と比べても明らかに異常な方向へと変貌が進んでいる猛が、ちょうどボロ雑巾の如き様相の将真の胸倉を掴んで、魔剣を振り上げているところだった。


(ヤバッ、これは間に合わな__)


 驚愕に足が止まり、美緒を抱えているということもあって出だしが遅れた。

 今から止めに入っても、莉緒の足でもおそらくギリギリ間に合わない。

 そう思った矢先、莉緒の隣を彼女ですら驚くような速度で飛び出して行く人影が一つ。


「__リンさん!?」

「__させないよっ!」

「ガァッ!」


 なりふり構わず勢いよく突っ込み、リンの飛び蹴りは猛の体に綺麗に突き刺さり、派手に後方へと吹き飛ばした。

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