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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
83/118

豹変する少年

「テメェ!」


 地面に沈み込む杏果を見て激昂し、飛び込んで行ったのは響弥__だけでは無い。

 そもそも初めに飛び込んでいったのがこの顔ぶれの中で最速の莉緒では無かったことに将真は疑問があったが、どうやら死角に回り込んで挟みこもうという算段のようで、猛の背後から迫る。

 意図した訳では無いが、響弥の怒りを滲ませた声と敵意に反応して猛の意識は彼の方に向けられ、莉緒に気づくのに少し遅れる。

 そして莉緒の速度があれば捉えるには十分だ。


「チッ、めんどくせぇ真似しやがって……!」


 回避は間に合わないと悟った猛は、苛立たしげに舌打ちをすると全身に炎を纏う。

 ただの炎ではなく、将真が魔力球を生成する時に発生するような黒い炎。


「__ぅあっちィッ!」


 それも将真の見てくれだけのものとは違い、火属性を得意とする莉緒でさえ怯むほどの熱量を放つ炎だ。


 加減をしていては攻撃が効かないであろう事は響弥も悟っている為に躊躇はないが、彼に関しては速度で猛に劣っている。

 それでも__振り切る前に腕を掴み取られるとは予想していなかったようで、響弥は目を丸くして驚愕した。


「んなぁ!?」

「__オラァ!」

「うぎぃ!」

「うぁッ!」


 掴んだ腕を力ずくで振り回し、半周した響弥の体が莉緒と接触したタイミングで猛は手を離すと、物の見事に抵抗すら出来ないまま、響弥は莉緒を巻き込み投げ飛ばされてしまった。


「……三人」

「ったく、何なのよコイツ……!」

「__装填〈雷砲サンダーカノン〉」


 悩ましい表情を浮かべながらも、紅麗が血装で鋭い爪を持つ副腕を形成し、更に剣と小さな盾も形成して猛に向かって突撃していく。

 加えて血の弾丸をばら撒きながら接近を試みる彼女を援護する為に、真那が高密度の魔力を溜めていく。


「私もやるよ!」


 静音もそんな二人を見て、魔力を注ぎ込んだ苦無を複数投げる。


「……鬱陶しいな」


 ギロッと冷たい目で周囲を見渡すと、再び炎を体に纏う。

 ただ、今回はそれだけに留まらなかった。


「__発射(ファイア)

「__ラァッ!」


 まるで力を溜め込むように体を縮こまらせると、溜め込んだものを解放するように上体を反り腕を広げる。

 同時に放たれた強烈な熱波は目前に迫っていた紅麗を吹き飛ばし、苦無は届く前に勢いを減衰させられて全て落ち、真那の砲撃すら一瞬で散らされた。


「えっ」

「な……」

「そんなデタラメな!」


 目に見えて動揺を明らかにする三人__その傍をリンが疾走する。

 無策に突っ込んでいく訳では無く、未だ制御が怪しいものの神技である半透明な盾を前面に置いた突進だ。

 リンの両目は赤く染まり、本気の目をしていた。


「……お前の力は、ちと危険だなァ」


 素早い接近だが、莉緒の攻撃を回避できなかったとはいえ気づくことは出来た猛にダメージを与えられるほど速くはない。

 その場で片足を軸にして回転し、盾めがけて回し蹴りを見舞う猛。

 そして蹴りが盾に叩きつけられる瞬間__リンは盾を寝かせて、猛の蹴りを綺麗に受け流した。


「なっ……」


 驚愕を見せる猛だが、その気持ちは見ていた将真も分からないではなかった。

 猛とて、漫然と蹴りを放った訳では無い。

 確かに普段の彼らしからぬ力押しの雑さはあるが、それでも確実に蹴り飛ばす目的を持って、明確に狙って放たれた強烈な蹴りだ。

 それも、彼女の反応を見るにむしろ単純な攻撃を誘っていたようであった。


「……正面から本当に蹴られたら踏ん張れる自信はないからね。すごい強い力を持ってる今なら深く考えてないと思った__よ!」

「グッ……テメェ……!」


 更に盾を少しずらして体をはみ出させると、至近距離から放たれる鋭く正確な連続の突きが猛を襲う。

 それは猛の肌を掠め、初めて猛に傷をつけてダメージを与える事に成功した。


(……これは驚いた。確かにリンは不調に陥った分を埋める為にかなり鍛えていたけど、今の猛を出し抜く程とはね)


 遥樹ですら予想していなかった事だが、今なら猛を止める事が出来るかもしれない。

 千載一遇のチャンスに遥樹は躊躇なく接近を開始。

 その様子に気づいた猛は明らかに嫌そうに表情を顰めていた。


「クッソ、邪魔くせぇ……!」


 ギリっと歯を鳴らすと、一瞬だけ遥樹に向けた視線を直ぐに外し、再びリンへと足を向ける。

 蹴りを警戒したリンは再び受け流す体勢に入るが、実際の狙いは違った。

 寝かせた盾を足蹴にして退避し、リンと遥樹に挟まれる事を避けたのだ。


(……みんなの攻防と違って明らかに退いていった)

(という事は、全く効かないわけではなさそうだね)


 リンと遥樹は同じ結論に至っていた。

 確かに劇的に強くなっている猛だが、付け入る隙がない訳では無い。

 とは言えそれも、かなりの苦労を要するのだが。


「……ったく、油断も隙も__ッ!?」


 無い、と愚痴のように零しながら少し離れたところに猛が着地する寸前。

 横殴りの強烈な衝撃が彼の側頭部を襲い、体が宙を浮いて吹き飛んだ。


「お……」

「うっ、げほっ……なぁに、もうやった気で、いんのよ……オェ……」

「き、杏果! お前大丈夫か……?」


 猛を殴り飛ばしたのは杏果の戦斧。

 ただし刃のついていない方で、それも怪力とはいえ満足に力の入らない状態だった。

 だからと言うべきか。


「大丈夫じゃ、ないわよ……まあ、とりあえず、めっちゃ吐いたから……多少は楽になったわ……ウブッ」

「嘘こけまだダメージあるじゃねぇか!」

「そ、それより、警戒しなさいよ……あんな半端な一撃じゃ……」

「__マジで油断も隙もねぇなクソッタレが」


 未だに吐き気を催し嘔吐く杏果を慌てて支える響弥だが、彼らの視線が集まる中、杏果の懸念通り猛は立ち上がった。

 どころか、緩慢とした動きながらも、殴られた部分をトントンと軽く叩きながら忌々しげに呟くその様子からしても、思っていたよりずっとダメージが少ない。

 全力が出せなかっただけでなく、猛の異様なパワーアップも原因だろう。

 改めて将真含め一同は猛を見据える。


(白髪に浅黒い肌。黒い目の中に金の瞳。服の上からじゃわかりづらいけど侵食もあるっぽいな。俺とは違って腕からの侵食じゃないみたいだけど……間違いない。何でか知らんが猛が使ってんのは魔王の力だ!)


 同じ力を振るう者同士だ。

 特に将真はそれをよく理解できたが、それだけに他の面々よりも強く脅威を感じていた。

 全開ではないとは言え将真の力を軽く上回り、遥樹も押し込むほど。

 二ヶ月前とは状況が違う。

 魔王の力を全開にしても何処まで戦えるか。


 戦慄を抱く一同を見渡し、実に面倒臭そうにため息をつくそのわかりやすい仕草は、普段の猛からは想像出来ない姿だった。

 彼が露わにする感情で、怒りや苛立ち以外を余り見た事がないからと言うのが大きいのかもしれない。


「……おい、お前ら邪魔すんなよ。俺が用あんのは将真だけだ」

「……そういう訳にも行かないな。君のその姿も気になるし、それに君の仲間はどうしたんだい?」

「__黙れ」

「おっと……」


 遥樹の言葉が琴線に触れたようで、殺気が剥き出しになる猛に今一度、一同は警戒を強めて構える。

 一連の攻防で猛に対抗する手段はない訳では無いと分かった。

 それでも、今の彼を倒しきるのは非常に困難だろう。

 出来てもかなりの時間がかかってしまいそうだ。


「……莉緒。お前さっき、美緒の気配を感じるって言ってたよな」

「え? ……ええ、言いましたね。まだ生きてるのは間違いないッス」

「そうか……」


 だが、ここで時間をかけてしまったら間に合わなくなる事もあるかも知れない。

 そもそも、恐ろしく優秀であっても普通の魔戦師である美緒にこの魔力濃度の高い外の環境に長居する事はそれほどいい事では無いはずだ。

 それは、美緒同様に生きているであろう佳奈恵にも当てはまる。


 そして猛の狙いは将真ただ一人だ。

 邪魔をすれば反応するが、恐らく何もしなければ将真以外の面々など眼中に無いだろう。


(……なら、やる事は決まってんな)


 正直、将真に自信はない。

 それでも、猛も含めて残る二人を助ける為には、こうするのが一番いいのだ。


「……こっからは俺一人でやる。その間にみんなは美緒と佳奈恵を救出してくれ」

「……正気かい?」

「うっせ。無茶だってのは分かってんだよ」


 遥樹の指摘に将真は顔を顰める。

 言われなくても分かりきったことだが、将真とてあっさり負ける気は無い。

 魔王の力もそうホイホイ全開で使っていいようなものでもないが故に勝算はないのだが、負けないだけなら何とかやれないことはないだろう。

 馬鹿正直に戦っていては勝ち目がないのは目に見えている。


「だからってここで皆して足止め食ってたら二人を助けられないだろ。それにお前らならサクッと済ませてこっちに戻ってきてくれるだろ?」

「…………全く、しょうがないな。正直不安要素しかないけど、とりあえず任せるとするよ」


 悩ましげな表情で少しの間沈黙する遥樹だったが、将真の言うことも尤もだと判断して渋々と了解を示した。


「そういう事だからみんな。僕らは先を急ごう」

「……なら俺も残るぜ。俺にとっても猛はダチだしな」

「……さっきめっちゃ怒ってたのに?」

「それはそれ、だろ」

「……オーケー、じゃあ二人で何とか耐えきるか」


 将真と響弥は前後で猛を牽制するように立つ。

 一応将真が狙いらしいが、ここで先を急ぐ遥樹たちに矛先を向けさせない為だ。

 二人を除く一行は第九階層へと続く階段に足を向け、その後ろについて行く前にリンが不安そうに将真の方を振り向いた。


「……二人とも気をつけてね」


 動き出す遥樹たちを横目で一瞥しながらも、その視線は殆ど興味が無さそうなもので、加えて動こうともしない。

 どうやら猛は、本当に将真以外には興味が無いらしい。


(……嫌われてんのは分かってたけど、そこまで恨まれるようなことしたかぁ?)


 流石にそこまでの事をした覚えはないが、何処まで猛の怒りに触れた出来事があったか判別に困るにしても、今までの行動その全てが原因だと言うのであれば最早呼吸すらするなと言われているに等しい。

 つまり、どうしようもないのだ。


「……響弥。テメェもあっちに行ってりゃここで痛い目を見ることもなかったろうになァ」

「へっ、余計なお世話だな」


 無論、響弥も猛を舐めている訳では無い。

 将真には向けている殺意も、響弥に対してはせいぜい敵意程度にしか向けていない。

 それでも響弥は、これ以上無いくらいに気を引き締めている。


「……なら勝手にしろ。死んでも文句言うんじゃねぇぞ?」


 盛大なため息の後に放たれる強烈な殺気。

 響弥に興味が無いのは変わらずだが、立ちはだかるなら容赦はしないと言いたげの態度だ。


「……ああ、いいぜ。相手になってやる!」

「まあ少なくとも俺は正面からやり合って勝てるとは思ってないけどな……」

「上等だ。ならまとめてぶっ殺してやるよ!」


 殺気を撒き散らし、迷うこと無く猛はまずその矛先を将真へと向けて凶行を再開した。




 第九階層へと続く階段を降りる最中、一同はひしひしと感じ取っていた。

 今まで漠然と感じていた嫌な気配が近くまで迫っている事に。


「……この感じだと気配の元は九層で間違いなさそうだね」

「美緒の気配もかなり近いッス。佳奈恵さんも一緒なら、二人にも九層で何とか会えそうッスね」

「何事もなく……とは行かなそうだけどね」


 近づくにつれて分かってきたのは、やはり相当な数がいるであろうということ。

 そして一つ一つの気配が決して弱くはないということだ。


 将真の判断は間違いでは無いが、今の猛相手にたったの二人では無謀であることに変わりない。

 遥樹たちも困難な事態に向き合う事になるだろうが、早く美緒と佳奈恵を救出して再び将真と響弥に合流しなければ手遅れになる。

 猛との再戦では勿論負けは許されない。

 勝利し、第四小隊全員を無事に連れ帰る。


 遥樹ですら考えるだけで憂鬱になりそうなほど難しいが、それでもやるしかないのだ。

 一体何が待ち構えているのだろうかと警戒しながらも、一同は第九階層へと到達した。


「__美緒!」


 そして真っ先に、莉緒は部屋の奥の方でその姿を確認して声を上げた。

 慌てて遥樹もじっと目を凝らして、予想通り佳奈恵と共にいる所を確認出来た。

 二人は__木製の十字架に磔にされていた。


「あ、悪趣味な……」


 真っ先にその感想を呟いたのは杏果で、それは同時にこの光景を見た全員が思った事だった。


「今助け__」

「待つんだ莉緒」

「グエッ!」


 その場から飛び出し、美緒の元へと駆け寄ろうと膝を曲げて地面を蹴り出そうとした、そんなタイミングで襟首を掴まれて首が絞まった莉緒は苦しそうな呻き声を上げた。


「なっ……何するんスか!?」

「落ち着いて冷静になってくれ。これは少し……いや、だいぶ不味いかもしれない」

「不味いって……」


 完全に落ち着くなんて事は現状、到底無理な話だ。

 それでも何とか思考が回る程度には落ち着きを取り戻して莉緒は周囲を見渡す。

 他の面々は既にそれに気がついて戦慄しているところだったが、莉緒も遅まきながら気がついて息を飲んだ。


「……こ、これは」


 莉緒とて全く気づかなかった訳では無い。

 第九階層は今まで通ってきた他の階層と比べても一際暗いフロアだった。

 そのせいか何処と無く狭さを感じていたのだが。


(よくよく考えたらおかしな話ッスよねぇ……)


 迷宮型のダンジョンは程度に差はあれど、下に行けば行くほど階層の広さが増していく構造になっている。

 まして第九階層に本来いるはずの階層主はヒュドラだったはずなのだ。

 こんなに狭いはずがない。

 そうして意識を向けてみれば、この暗がりにはすぐ説明がついた。


「何スか、この数は……!」


 暗がりの正体は、階層の壁や天井すら見えないほどに密集した、貧相な黒いローブを身に纏う無数の魔族。

 じっと目を凝らしてみれば、そのフードの内から赤い瞳がこちらを見ているのがよくわかる。

 赤く鋭い目、と言われて真っ先に思いつく魔族など一つしかない。


「吸血鬼……!」

「いや……これはおかしいでしょ! 吸血鬼なんて一部を除いて協調性なんてあったもんじゃないわ! こんな数が集まるなんて……!」


 この中で唯一吸血鬼の血を引き、彼らについて他人よりよく知る紅麗が特に強い動揺を見せた。

 ただそれは、紅麗以外でも知っている事だった。

 おかしいのはそれだけでは無い。

 この無数の吸血鬼からは一切の殺意も、それどころか敵意さえ感じない。

 こちらを見ているにも拘わらず、近づいてくる様子もない。

 圧倒される光景ではあるが、その不自然さに一同が疑問を抱き始めたまさにその時。


 捕まった美緒、佳奈恵と遥樹たちの間に、ゆらりと突如人影が現れた。

 それも、一つではなく二つ。


「……なっ」

「どこから……?」


 気配を感じさせない何者かの登場に惚けたように紅麗が口を開き、傍では険しい表情の真那が絞り出すような声を漏らす。

 人影のうち片割れは小柄で、他の吸血鬼同様黒いローブを羽織っていて良く見えない。

 だがもう一人は長身痩躯の男である事がひと目でわかった。


「……ふふふ、ようこそと言うべきでしょうか。とはいえまさか、馬鹿正直に釣られるとは思いませんでしたがねぇ……」

「……何よアンタ。それに、どういう意味?」

「いえいえ。まさか仲間を助けるために、ノコノコと死地にやってくるとは、と。自己紹介を後回しにしてしまったことは謝りましょう」


 胸に手を当て仰々しく一例をする男は、スっと体を起こしてニタァと嫌な笑みを浮かべた。


「我が名はバスタード。魔王軍所属のウィザードにして研究者にございます」

「……魔王軍だって? 何でそんな奴がこんなとこにいるんスか?」

「たまたまですよぉ。まあ、あの御方から聞き及んでの行動ではありますがねぇ」

「あの御方?」

「それをあなた方に語ってあげる義理はありません」


 あの御方が誰を指すのかは非常に気になるが、話す気がないのならとりあえず今は放置だ。

 それより、ウィザードの名を聞いてから紅麗が強ばったように固まって硬直していた。

 明らかに様子がおかしい。


「……紅麗、どうしたんだい? 大丈夫かい?」

「だ、大丈夫よ。大丈夫だけど……まさかその面、また見る事になるなんてね」

「えぇ、それはこちらとしても同じ事ですよクレイィ?」


 嫌悪感を滲ませる表情で睨む紅麗に、変わらず嫌な笑みを張りつけながら視線を返すバスタード。

 紅麗の出身は魔王軍の領土だから、顔見知りであってもおかしくは無いが。


(……かなり強いな。バスタードとかいったっけ)


 じっと視線を向けてバスタードを観察する遥樹。

 とは言えそれでもこの面々なら勝てないことはない。

 問題は周りを囲う無数の吸血鬼と、バスタードの傍らに立つ、明らかに強い気配を放つフードの人物。

 こっちは正直、バスタード以上に苦労しそうだった。

 余裕を繕う遥樹の顔がやや引き攣るくらいには、かなり厳しい状況と言ってもいい。


「……不味いね、本当に」

「……顔見知りってんなら、少し思ってた事があるんスよねー……紅麗さんを逃がしたのってわざとッスよね? 何でか聞いても?」

「莉緒?」

「……ふむ」


 莉緒の問いの意味が理解できなかった紅麗は、妙な表情で彼女を見返す。

 だが、問われたバスタードの方は興味深い視線を莉緒に送っていた。


 紅麗は魔王軍から命からがら逃げてきて自警団に拾われたのだという。

 その話を聞いていた時に莉緒は思ったのだ。

 実験体として優秀だった紅麗を、果たしてそう簡単に逃がすだろうかと。

 無論、色々な状況が重なり奇跡的に助かった、莉緒の考え過ぎだとすればそれが一番いいのだが。


「……いいですね。頭の回る者は好ましく思いますよぉ」

「あんま好かれても嬉しくないんスけど」

「そこまで察しがつくなら、答えは大体想像がついてるんじゃないですかぁ?」

「……考え過ぎ、なだけだといいんスけどねぇ……後ろの黒ローブッスか?」


 バスタードの隣に立つ、黒ローブから感じる紅麗に似た気配。

 そうして莉緒の指摘を受けて、バスタードの笑みは更に大きく歪んだ。

 傍で聞いていた紅麗は、そのやり取りの意味がまるで理解出来ていない。

 出来ていたとしても遥樹くらいのものだろう、他の面々も紅麗と同様に理解しかねるといった表情だ。


「いい! 素晴らしいですねぇ!」


 高らかに手を掲げ、それが合図だったかのように周囲の吸血鬼とバスタードの後ろに立つ者がフードをとった。


「…………な、何で、そんな……」


 遥樹と莉緒の顔がキッと鋭さを増し、残る一同が戸惑う中、紅麗が一際強い動揺を見せた。

 フードの下に隠れていた顔は、本人と比べて虚ろな表情という違いはあれど、まさに紅麗そのものの見た目だったのだ。


「そう! クレイを逃がしたところで問題が無くなった! 私の最高傑作__人工のデイウォーカーが誕生した事で不要になったからこそ、あなたを逃がしたのですよぉ!」


 高笑いするバスタードの背後で紅麗を見つめる吸血鬼の瞳が、青く淡い瞬きを発していた。

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