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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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最悪の邂逅

 流石に第五階層の床までは抜けなかったようだが、それでもたったの一撃で四層分の床をぶち抜いたのだから、真那の火力の凄まじさがよく分かる。


「物質生成魔法じゃなくて魔道具として作られてる特別性の弾丸だから数に限りがあるし、クールダウンしなきゃだから暫くこれを使えなくなるデメリットもあるよ」


 真那が言う「これ」とは、彼女が普段から扱う魔道銃器の事だ。

 ともあれ、莉緒ですら単独でという条件をつけても一時間近くかかる距離を、ほんの数秒で済むという大幅な時間短縮に成功し、第五階層まで到着した。

 当然だが二十メートルを超える深さの穴に飛び込む経験など殆ど無く、着地に不安はあったが、意外と大したことも無く無事に着地出来たあたり、魔戦師として成長している自分が如何に人間離れしているのかを将真は思い知った。

 ここに至るまで可能な限り迅速な行動を取れているお陰か、想定よりもかなり早くここまで辿り着くことが出来た。

 ちなみに真那による一撃が不意打ちとなったようで、ガーゴイル同様復活して戦わざるを得なかったはずのガーディアンは、残骸を残し沈黙していた。

 第五階層の床が抜けなかったのはむしろガーディアンがそれだけ頑丈だったのが原因かもしれない。


(つまり邪魔がなければ五層の床までぶち抜いた可能性があるって事だけどな……)


 自分に向けられた訳でもないのに、その威力を思い出すだけでゾッとする。


「……これは、ちょっとヤバいかな?」

「そうね、めっちゃ何かいるわね。多分下の方だと思うけど……」


 遥樹の呟きに紅麗も同じような苦い表情で応じる。

 将真たちでも確かに何となく程度だが感じる、嫌な気配。


「数は……百どころではないね。下手したら千もありそうだ」

「……わ、分かるの? 索敵魔法もないのに?」

「確かに、正確な数までは把握出来ないけどね」


 どうやら適当な事を言っている訳では無いと理解した静音は思わず遥樹に引いてしまった。

 索敵魔法もなしに、大体とはいえ数まで把握できるというのはそれほど異常な事なのだ。


「俺らが来た時はこんな気配なかったぞ……」

「じゃあこれがイレギュラーな事態かな? 確かにこの数だと彼らでも厳しいかもしれないね」


 何度も言うが第四小隊の実力は相当な高水準で、小隊としてのバランスも良く非常に強い。

 だが戦いとは数が物を言う。

 いくら彼らが優秀であっても、この数の差を覆す事は困難どころではないだろう。

 仮に撤退に失敗したと言われても、充分ありうる可能性だ。


「……そもそも生きてんのか? いや、生きてて欲しいけど……」

「生きてるッスよ」

「莉緒……?」


 重苦しい声でボヤくような将真の言葉に、莉緒はやや食い気味な少し強い口調でそう断言した。


「いや、気持ちはわかるけど確証は……」

「あるッス。弱ってはいるみたいッスけど、間違いなく美緒の反応を感じる……流石に、猛さんと佳奈恵さんの反応は分からないッスけど」

「……なら、生きてはいそうだね」


 莉緒と美緒は双子の姉妹だ。

 だからと言って確実に知覚できるものなのかは疑問だが、それでも莉緒が気配を感じとっているというのならばそれに賭けるしかない。

 残る二人の反応は分からないという点も、逆に莉緒の感覚が正確である可能性を高めていた。


「……よし、急ごうか。これより下、階層がいくつまで続いているかはちょっと判断できないからね」

「うぅ、ちょっと怖いかも……」

「心配しなくても、何かあったらあたしが守ってあげるわよ」


 ここまで来ておいて少し情けない事を口にするリンに、杏果がやや呆れつつも頼もしい言葉をかける。

 だがそれは余計なお世話だったようで、リンの表情がキッと鋭い目で杏果を見返す。


「大丈夫だもん。足手纏いにはならないよ!」

「そんなこと思ってないけど、ならいいわ。行きましょ」


 既に他の面々は心の準備を終えていた。

 促すような杏果の言葉に頷き、遥樹が先導して第六階層への階段へと踏み込み、一同はそれに続く。


 将真たちが来た時は、体力も相当限界が来ていてのんびりと下って行ったのだが、今回は体力を十分に残した状態で駆け下りているのだ。

 彼らはほんの数分で第六階層へと辿り着いた。

 じっと奥の方を見つめる遥樹を真那が見上げて小さく口を開く。


「……どう?」

「……異様な気配はここじゃないね。それはそれとして、サイクロプスはいるみたいだ」

「突破出来なかったのか……?」

「或いは、上の奴ら同様に何らかの原因で復活したとかだろうな」

「……だよなぁ」


 響弥の言う可能性よりも、将真の上げた可能性の方が余程高かった。

 彼らの実力なら、この階層より下があるなら恐らくいるであろうミノタウロスくらいまでは十分に倒せるはずだ。


「仕方ないね。まあこれだけのメンバーが揃ってるんだ。この階層を突破するくらいわけないさ」

「……そうッスね」


 流石に自重しているが、戦うとなれば真っ先に飛び込んでいきそうなほどに莉緒の神経は張り詰めていた。

 生きているとわかった以上、時間をかければかけるだけ焦燥に駆られる。


「……急ごう」


 莉緒の忍耐の限界を感じた遥樹は苦笑をしつつ小さく息をつき先導を始める。


「じゃあ自分、先に行くッスね__」

「あっ、ちょ……莉緒ちゃん!」


 そんな慎重な行動にいよいよ痺れを切らした莉緒が凄まじい速度で疾走を始め、サイクロプスの前に姿を晒す。

 彼女に気がついた巨躯が雄叫びを上げ、まともな戦闘配置も無いままに戦いが始まった。




 その頃、ダンジョンコアのある部屋にて。


「……おや」


 下の階層まで届く轟音。

 その後も小刻みに続く戦闘音と思わしきものが耳に届いて、天井を見上げるのは如何にも怪しげなローブを被った人物。

 この暗がりに加えて目深に被ったフードのせいで顔は分からないが、それでも淡い光に照らされて僅かに見える口元がニィッと弧を描いた。


「……ふふ、予想通りの展開ですねぇ。想定外があるとすれば早すぎるくらいですが……まあその程度なら問題にもならないでしょう」


 その人物が動き出そうとすると、周囲の暗がりが生き物のようにゆらりと揺らめく。

 そして傍らに立つ一人の少年もなにかに気がついたように天井を見上げ、自覚があるか否かは分からないが僅かに歪んだ笑みを浮かべていた。


「何かを感じ取りましたか? ふふ、いいでしょう。先に行くといい」

「……あぁ」


 低い声でフラフラと数歩歩いた直後、膝を曲げて体を深く沈めた彼は、一瞬にしてその場から姿を消す。

 暗がりだから見失いやすいというのもあるが、相当な速さだ。


「……さて、私も出迎えの準備をしなければ。ふふふふふ……」


 謎の人物の不気味な笑い声が暗がりに反響して、余計に気味の悪さを加速させていた。

 飛び出した少年が将真たちと接触するのは、もう間もなくの事だった。




「__これでトドメだ!」


 出来る限り使わずにいたかったが、第八階層に辿り着いて戦う羽目になったファフニールを相手に、通常の将真ではまだ足手纏いだった。

 結局、魔王の力を使う事で将真も漸く戦いに参加できるくらいになったのだが、解放段階は第二までに押えていた。

 これ以上の解放は魔王の力を更に大きく使用してしまうため無闇に行えない。


「……将真くん、無理しなくても良かったんだよ?」

「うっ……た、確かに任せて置けばよかったのかもしれないけどさ……」


 皆が第四小隊を助ける為にこうしてここまで来たのだ。

 魔王の力を無闇に使えないとはいえ、ここで戦わずして見ているだけでは何のために来たのか分からない。


「いや、でも正直助かるよ。三連続もこのレベルを相手取るのは流石に疲れるからね」

「にしてもとんだ詐欺だよなぁ。何だっけ、測定結果は『あっても第三階層まで』だったんだろ? もう八層だってのにまだ嫌な気配の元にすらたどり着いてねぇぞ?」


 ここまで来れば、遥樹や紅麗が感じた嫌な気配というものを他の面々もかなり明確に感じ取れるようになってきた。

 それでもこの期に及んで辿り着けないというのだから、〈迷宮型〉のダンジョンの中でも特に深いと言われている十層まで届きかねない。

 もしそうだった場合、その難易度は本来学園生が担当するようなものでは無いのだが、彼らにとっては最早今更というかいつも通りという感じですらあった。


「だとしても今更撤退はできねーだろ」

「そりゃそんな気はねぇけどよぉ。正直手遅れでもおかしくはねぇ……ッ!?」


 やや眉を顰める将真に、当然と言いつつため息混じりに返答する響弥だったが、不意に感じた気配の方向へと勢いよく首を向ける。

 それは彼だけではなかったようで、一同の視線は下へと続く階段へと向けられた。


「……何か来るね」

「かなり強い気配ッスよ。しかも速い」


 先頭に立つ遥樹と莉緒が警戒レベルを引き上げて険しい表情で構える。

 やがて階段の奥から彼らの前に飛び出すように現れたのは一人の少年だった。

 相当強いその気配は、将真の魔王の力にかなり近しいものを感じる。

 その身体状態も装いも、将真が魔王の力を大きく解放した時の装束によく似ていた。

 そして他の面々には目もくれず、歪んだ笑みを貼り付け将真目掛けて突っ込んでいくその少年を一同は知っていた。


 そもそも彼は、要救助者の一人であったのだから。


「……猛!? お前何を__」

「くたばれ将真ァ!」

「ガッ……!?」


 ほんの数日の間に豹変した仲間の姿を見てギョッと目を見開く将真に構わず、猛は雑な体勢でありながら強烈な蹴りを放つ。

 あまりに急過ぎる展開に頭が追いつかない。

 結果、将真は反応が遅れ攻撃を受けきれずに、相当な勢いできりもみ状態になりながら数十メートルを滑空し地面を転がった。


「お、前……何してんだよ!」


 遅れて我を取り戻した響弥が猛に手を伸ばす。

 だが、猛はその様子を冷たい目で一瞥すると伸ばされた手を払い除けて、彼らに構うことなく再び殺意を剥き出しにして将真へと突っ込んでいく。

 将真はまだ、攻撃を受けたダメージで動きが鈍っていた。

 これでは次の攻撃を躱す事は出来ない。


「将真くん!」


 リンの悲痛な呼び掛けに将真は顔を上げるが、猛が今まさに振り下ろさんとする斬撃を防ぐ手立てはない。

 意表を突かれたこの状況では、流石に莉緒の速度でも間に合わない。

 最低でも、響弥と同じくらいのタイミングで冷静さを取り戻していなければ__


「__させないよ」

「ッ……!」


 間に合わない、と誰もが思ったその時、二人の間に割って入ったのは遥樹だ。

 彼は遅れながらも、莉緒をも凌駕するような速度で猛に追いついてきたのだ。

 猛も既に攻撃に入っていて動きを止めることは出来ない。

 振り下ろされた剣は__遥樹が横に構えた剣で防がれてしまった。


「チィッ!」

「む、くぅ……!?」


 邪魔しやがって、と言いたげな舌打ちをして、構わずそのまま力ずくで押し切ろうとする猛。

 この瞬間、遥樹は二つの想定外の展開に驚かされていた。

 まず、彼の得意な後出しのカウンターが決められなかったこと。

 傍目からはギリギリ割って入ったように見えただろうが、少なくとも遥樹自身の想定では余裕が無いという程ではなかった。

 タイミングをズラされたというわけでもない。

 ただ猛の身体能力が遥樹の想定を上回ったというだけの事だ。

 そしてそこから二つ目。


(舐めていた訳では無いけど、この凄まじい力は……!)


 得意のカウンターが失敗に終わったとはいえ、その程度で押されるほど遥樹は甘くない。

 だが、現実は遥樹の力を持ってしても猛が押し切ってしまいそうな程だ。


(将真が振るう魔王の力に近いこの感覚……本当に一体何があったんだ?)


 ともかく、このまま押し切られる訳には行かない。

 今目の前にいる猛は少し前までの彼とは違うのだから、同じ認識でいては負ける可能性も有り得る。

 意識を切り替えると、遥樹は全身に魔力を循環させていく。

 単純な身体強化魔法だが、遥樹が使えばかなりの強化が期待できるだけでなく、魔属性への大きな耐性も期待できる。


「はぁッ!」

「ぐッ……!」


 力を増した遥樹は猛を負けじと押し返し、猛が不快そうな表情を見せた。


(……まさか、まさかこれ程とはね)


 そして尚押し返しきれない状況に、遥樹でさえ戦慄を覚えた。

 二人の力は互いに拮抗するに留まっていたのだ。

 更にこれも長くは続かない。

 ようやく将真は立ち上がるだけの体力を取り戻したが、その目の前で少しずつ、本当に少しずつだが遥樹の方が力負けして押されていたのだ。


「……おいおい、マジかよ」

「う、ぐ……この、力ッ……猛、君はッ、何に手を出したんだ……ッ!」

「……ハッ! うるせぇんだよ!」

「うぁッ……!?」

「なっ……うげッ!」


 説教臭い遥樹の口調に、苛立たしげに剣を振り切る猛。

 その力に耐えきれず遥樹は後方へと飛ばされ、すぐ後ろにいた将真はその煽りを受けた。


「いってぇ……」

「くっ……すまない、将真。これはかなりまずいよ。まだ全力ではないけど、僕でも手に余るかもしれない……」

「お前で手に余るならもうどうしようもねーだろ……」

「なぁにゴチャゴチャ喋ってんだァ!?」

「げっ……」


 フラフラと立ち上がる二人を待たずに、再び猛が飛びかかる。

 だが、今度は残りの面々も流石に追いついてきた。


「そう何度も好き勝手させると思うんじゃないわよ!」


 真っ先に攻撃を仕掛けるのは杏果。

 大振りの攻撃だが、彼女の膂力を思えば掠めるだけでも危険だ。

 豹変した正気を疑う状態であっても猛である事には変わらず、危険性を理解している猛は即座に全身を下げる。

 猛の頭上スレスレを通り過ぎる僅かな瞬間、大きな戦斧は逆に杏果の死角になっていた。

 とは言えそれも僅かな時間。


「__か、ふっ……!」


 そんな隙を猛は突いた。

 死角になったその瞬間、杏果の鳩尾に肘を入れたのだ。

 制服は半端な鎧より丈夫とは言え、今の猛の力を考えれば大した防御力にはならない。

 戦斧から手を離し、杏果は衝撃に吐きながら腹を抱えて蹲る。


「まず一人__」

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