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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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救出作戦

 第四小隊が出発して二日が経っていた。

 そんな折に呼び出されたものだから、将真は嫌な予感がしてならない。

 第一小隊だけでなく、昨日漸くダンジョン探索の許可が降りた第三小隊も朝一で呼び出された点を考えればより一層だ。


「おっす将真! 俺達も漸くダンジョン行けるようになってよぉ」

「おはようさん。知ってるよ」


 一番気が合う同性の友人とはいえ、響弥の絡みはややウザさがあって、逆にそこが憎めないところでもあるのだが、将真は少しぞんざいに返答する。


「思ってたより時間かかったな?」

「いやぁ、やっぱ俺ら集団戦苦手だわ。広範囲の安定した攻撃手段は今後も課題だな」


 彼ら自身に自覚がある通り、第三小隊の主力である響弥と杏果は高火力だがほぼ近接のみだ。

 杏果に関しては広範囲の攻撃手段も持っているとはいえ、ダンジョンで使えば味方を巻き込みかねない代物であり、安定した手段とは言えない。

 唯一遠距離攻撃ができる静音も、範囲と火力を両立する攻撃手段をそもそも持っていない。

 そうなれば彼らが手こずるのは当然の事だ。


「まあお疲れ。それはまた祝うとして、今回呼び出されたのってなんだと思う?」

「祝うほどの事はねぇけどよ。そうだな……新しいダンジョンの探索とかじゃねぇかな」


 殊更に明るく答える響弥だが、その笑みはややぎこちない。

 取り繕ってはいるが、将真と同じ不安を抱えているようだ。


「だったらまだいいけどな」


 正直、それは楽観的な思考に思えてならないが、希望としては当然その方がいい。

 だが、学園長質に到着して扉を開けた時、先に訪れていた遥樹たち第二小隊を見た瞬間、将真は確信を得た。


 残念な事に、嫌な予感と言うものはよく当たるものだ。


「……来たぞ柚姉。顔色ひでーな」

「そりゃそうでしょ、また私のせいでこんなことになってるんだから……」

「まあ大体の想像つくけど……それで要件は?」


 暗い表情でジトッとした視線を将真たちに送る柚葉。

 別に何か物申す事がある訳ではなく、それが今の彼女の余裕のない心境の現れなのだ。


「……一昨日ね、第四小隊の子たちに、将真たちが探索してきたダンジョンの探索の続きをお願いしたんだけど……」

「なるほど、連絡が無い、と」

「察しが良くて助かるわ……」


 はぁ、と大きなため息をつくと、柚葉は行儀悪くそのまま机に突っ伏した。


「いいのよ、私が心配性なだけで、たまたま報告が滞ってるってだけなら。でも……不安なのよね」

「つまり僕らに頼みたい事と言うのは、第四小隊の救出って事でいいですか?」

「ほんと、話が早いわね……まあ、言わなくてもわかるか」


 将真たちですら察していたのだ。

 遥樹がそれを十分理解していたとして、何一つ不思議なことは無い。


「私の懸念ならいいんだけど、逆に最悪、手遅れって事も考えられる。ただ、私もダンジョン探索は経験があるから言えることだけど、正直あの子たちが危機的状況に陥るほど難易度が高いとは思えないの」


 仮に手に余ると判断しても、引き際を見誤るとは思えない。

 確かに第四小隊は行動力のある猛を中心に動く事が多いが、そもそも小隊のリーダーは美緒だ。

 猛の調子が普段と違っても、美緒がヘマをするとは考えにくいのだ。


「考えられるのは二つ。一つはやっぱり私の考え過ぎで、そう遠くないうちに連絡が入る。もう一つは……」

「想定外のトラブルが起きている?」

「……なるほどね」


 柚葉に続いて将真が口を開き、遥樹が思考を廻らすように腕を組んで片手を顎に添える。

 実際、それくらいしか将真たちも思いつかない。

 普段なら頭の切れる莉緒も、美緒の身が危険かもしれないと分かると気が気じゃないようで集中力が散漫だ。


「……でも、いいのかよ」

「何が?」

「うちの小隊……リンも調子は悪いけど、それ以上に俺をそんな危険が潜んでる所に送り出していいのかって」

「……え、なに? 怖いの?」

「違うわ!」


 柚葉が驚いたように目を見開いて視線を向けてくるが、将真も想定外の解釈に思わず声を荒らげた。


「猛たちが危ないかもしれないんだろ? ぶっちゃけ、なりふり構わず助けに行きたい。けど、流石に何度も言われりゃ理解もするよ」

「……そうね」


 将真の懸念は魔王の力だ。

 第四小隊ですら対応出来ないトラブルに遭遇した時、もしかしたら将真が魔王の力を使わずには居られない状況に陥るかもしれない。

 力を使えばそれだけ侵食が進み、魔王の目覚めが早まる。

 いくら不可抗力と言えど、それは出来るだけ避けたい事態だ。


「……まあ、あなた達なら調子に乗ってヘマもしないだろうし、この際ぶっちゃけるけど」

「え? あ、ああ……何を?」

「あなた達百期生が、例年を遥かに超えてレベルが高いって話は知ってるわね?」

「そうですね」


 柚葉の確認するような言葉に遥樹が頷き肯定を示す。

 実際は例年どころか、特に優秀とされていた現在の三年、そして翌年それを更新した現在の二年よりも更に上。

 しかも個人の実力は勿論のこと、それだけの能力を持つ生徒の数、そして小隊としての強さ、どれをとっても学園史上最強の代なのだ。


 そしてそれは、彼らが高等部に上がったばかりの頃に言われていた話であり、今の話ではない。


「今のあなた達ね、既に自警団の上位層に並ぶくらい強いのよ」

「……マジで?」

「マジよ」


 目を丸くして呆然と呟く響弥に、やや呆れたようにオウム返しに答える柚葉。

 響弥が驚くのもよくわかるし、遥樹ですら少し驚いた様子を見せているのだから、残る面々の反応はわざわざ言うまでもない。


「将真、あなたの懸念は当然のものよ。実際、状況次第では自警団の誰かに行ってもらう手はある」

「え? じゃあなんで……」

「だから今言ったでしょ。あなた達の実力は今や自警団のトップクラスに並ぶほど強いのよ」


 そしてその中でも、第四小隊の練度は百期生の中でも第二小隊と並ぶほど、つまりは学園でも最強クラスの実力を持つ小隊だ。


「そんな彼らが不測の事態に巻き込まれているんだもの。如何に経験豊富な自警団の小隊を送り込んでも、半端な実力ではむしろ二の舞になりかねないわ。加えて、頼めそうな上位の小隊や団長、副団長に至るまで今は都市を空けてるし、私も動ける状態じゃないの」

「……なら即席の小隊を組んだ自警団員を行かせるよりも、せめて小隊単位で出撃できる僕らを、更に中隊として送り出した方がまだマシって事ですね」

「マシって言うか、一応これでも今可能な余裕を持った人選のつもりなんだけどね」


 柚葉の言うことが事実であれば、確かにこれだけの顔ぶれで対処出来ないことがあるとはそうそう思えない。

 そしてこれだけのメンバーを揃えたという事は、将真が魔王の力を使いすぎないことを前提に考えているのだろう。

 それほど切羽詰まった状態にはならないか、或いはなったとしても将真以外で対応が間に合うか、そんなところか。


「……行っていいなら俺は行くよ。見捨てるなんて元より選択肢にない」

「……ええ、頼むわ。不甲斐ない私に変わって、あの子たちを助けてあげて」

『__了解!』


 沈痛な面持ちで改めてお願いされた一同は改めて姿勢を正し、声を揃えた。


「それじゃあ早速__」

「待ちなさい」


 慌てた様子で先んじて出ていこうとする所を呼び止められ、莉緒は柚葉にジト目を送る。


「……なんスか? 急がないと間に合わないかもしれないんスよね?」

「ええ。でもどれだけ急いで準備して出発したとして、あなた達でも南支部までは半日近くかかるでしょ?」

「それは仕方がない事ッスよね?」

「……本当はホイホイ使用を許可してもらえる物じゃないんだけどね。いざと言う時のために溜め込んでる都市の魔力をそれなりに消費しちゃうし」

「……何の話だ?」


 莉緒が慌てる理由はよく分かる。

 将真たちですら急がねばという焦りがあるのに、妹である美緒の消息が怪しいのだから。

 故に、回りくどい話を聞いている余裕はあまりないのだが。


「まあ、今がまさにいざという時と言うか、緊急事態だもの。私の権限で使用許可を下ろさせるわ」

「だから何の話__」

「転移装置よ」

「……あ」


 失念していたその存在に、将真は呆然と声を漏らす。

 今にも慌てて動き出そうとしていた一同は落ち着いて、柚葉の言葉に耳を貸す。


「準備は当然必要よ。今すぐしてくれて構わないわ。問題はその後なんだけど、あなた達が準備してる間にこっちも準備を整えておくから、終わったら本部まで来なさい。ほんの数秒で全員送り出してやるわ」

「……分かった。じゃあ今度こそ準備してくる!」

「ええ。待ってるわね」


 柚葉に見送られて、一同は急いで学園長室を飛び出すように駆け出した。


「……あんまり校舎内で慌てるんじゃないわよ」




 流石に南支部から一瞬でダンジョンに辿り着く術はない。

 それでも急いでる現状で半日短縮できただけでも相当大きく、本来より早くダンジョンの近場の浜に到着した。


「__それじゃあ行ってきます。出来るだけすぐ戻ってくるつもりなので、待機していて貰っても?」

「了解。頑張れよ学園生」


 南支部から付き添ってくれた自警団員は遥樹の要請に了承を示し彼らを見送る。

 目立つ事も構わず、先頭を少し距離を離しながら走るのは莉緒だ。

 その表情には焦燥が浮かんでいる。


「莉緒ッ、落ち着けよ!」

「ちゃんと落ち着いてるッスよ!」

「嘘つけ!」


 幸いだったのは、魔物たちに絡まれることもなく済んだ事だ。

 相当力を持った集団だと、本能的に理解したのかもしれない。

 そうして彼らは立ち止まることなく順当にダンジョンへと続く洞窟へと辿り着き、先頭の莉緒はそのまま躊躇うことなく駆け込む。


「ちょ、おい! 気をつけろよ!」

「分かってるッス!」

「全く……!」


 気持ちはわかるが、普段の冷静さがまるで見受けられないその様子に将真は心配を覚えた。

 そんな彼の隣を、後ろから追いついてきた遥樹が並走する。


「さっき南支部に連絡をとってみたけど、第四小隊からの報告は何もないようだ。やっぱり何かあったかな」

「……無事でいてくれよ」


 一同の速度は莉緒に合わせて更に上がる。

 正直、彼女の足の速さに合わせるのは相当過酷なものなのだが。

 そしてダンジョンに辿り着いて足を踏み込んだ瞬間、彼らは想定外の事態に直面した。


 ガーゴイルが湧き始め、彼らを襲ってきたのだ。


「はぁ!?」


 思わず声を上げ足を止める将真だったが、莉緒は変わらず走り抜けていく。

 目の前を塞ぐガーゴイルの群れを切り裂きながら。

 それでも驚いていない訳では無いらしく、驚いたような表情を見せている。


「なんで湧いて……!」

「くそッ、急いでんのに!」


 動揺して動きを止めてしまったが、当然莉緒を放置など出来ず、将真たちも少し遅れて参戦する。


「……君たちは第五階層を突破したんだよね?」

「そうだよ!」


 ガーゴイルの制御を司るのは、階層が浅ければダンジョンコア、そうでなければ第五階層のガーディアンだ。

 第一小隊が成したのは後者の撃退。

 これにより、ガーゴイルの出現とトラップは機能を停止するはず。

 事実、将真たちが帰還する際にガーゴイルの出現はなく、トラップも機能を停止していた。


 ところが現在、ガーゴイルの群れは将真たちの前に立ちはだかる。

 明らかに異常事態だ。


「……あいつらが対応できなかったのはこれか?」

「んな馬鹿な! 俺らでも対応できるくらいのもんだぜぇ!?」


 生成した歪な剣でガーゴイルを倒しながら呟く将真の言葉に、気合いと共にガーゴイルを複数体まとめて切り飛ばす響弥がそれはないと叫ぶ。

 口にはしたものの、将真も第四小隊がこの程度でやられるとは思えない。

 それはそれとして__


(ガーゴイルの湧きは大体十秒で一人につき三体。今九人いるから、同時湧きは二十七体! 多すぎてなかなか進めねー!)


 迷宮型ダンジョンの通路はそれほど広くない。

 そんな中を九人で広がりながら、壁のように四方から群がる二十七体のガーゴイルを相手にするのは至難の業だった。


(……だったら!)


 将真は作戦を思いつくと、近づいてきたガーゴイルを切り落としてその場から響弥の元まで飛び退き耳打ちする。


「……なあ響弥。お前、戦わなけりゃ俺を抱えて走って逃げることは出来るか?」

「……おう、その程度なら余裕だぜ。けど何する気だよ」

「すぐ分かる。莉緒! 皆を先導して突っ走れ! 前のガーゴイル以外は無理に相手することは無い!」

「おっ、将真さんアレやるんスね。了解ッス!」

「みんな行こう!」

「え? え、ええ……」


 将真がやろうとしていることを理解しているのは、実際にそれを見た事があるリンと莉緒だけ。

 他の面々は戸惑いながらも、この状況を打開出来るならと指示に従って駆け出し速度をあげる。


「ねぇ、何する気なのよ」

「ん? あー……後ろ見たらわかると思うッスよ」

「後ろ?」


 なんと説明したものかと考えた結果、見てもらうのが一番早いと結論づけた莉緒の言葉につられて紅麗は視線を背後に移す。


「……なっ」


 そしてその光景を見て絶句した。

 最後尾を走る響弥に抱えられた将真が、背後を向いた状態で両手を前に突き出し、巨大な魔力球を生成しているところだったのだ。

 第一小隊だけでこのダンジョンに挑んだ時とは違って魔杖を自警団に預けているため、あの時よりはスムーズにとは行かないが、それでも集中できる状況が出来ているのなら同じ事をするのは可能だ。


「__よし、吹っ飛べ!」


 魔力球の完成と同時にそれを放つ将真。

 背後に溜まっていたガーゴイルは、通路を埋めつくさんばかりの魔力球の直撃を受け、その部分だけがごっそりと削り落とされて消滅した。

 その光景に、紅麗はますます飛び出んばかりに目を見開いて明らかに引いていた。


「な、何よアレ!? 将真あんた、あんな魔法使えたの!?」

「おう、使えるようになったんだよ。魔法名は特に決めてないけどな」

「普通に〈魔弾〉とかじゃダメなのか?」

「それならいっそ他の技に合わせて〈黒弾こくだん〉とか……」

「その話は後でいいわ……」


 この状況で呑気に魔法名について語り合う男二人に、呆れたようにため息をつく杏果。

 ともあれ、これで確かに劇的に楽にはなった。

 だが、これでもまだ少し時間がかかりそうなのはもどかしいものだ。

 一度探索を進めているから道は分かっているのだが。


「……よし、みんなちょっとストップ。ショートカットしよう」

「はぁ?」

「そんな手段あるの?」

「うん。将真が奥の手を見せてくれたなら、こっちもやれるだけやってみようと思う」


 真那の提案に、今度は一同揃って足を止め、結局は真那の準備が整うまでガーゴイルと戦い足止めをする羽目になった。

 真那を守るように展開する彼らの中心で、彼女がポーチから取り出したのは一つの弾丸。

 かなり大きく、まるで砲弾のようだ。

 事実、彼女は砲弾として利用するつもりなのだろう、いつも使用している武器は今までに見た事がないほど大きな銃口で、それを地面に突き立てる。


「〈付与魔法エンチャント〉、〈貫通〉、〈破壊〉。装填__〈爆裂弾エクスプロージョン〉」

「……は?」


 気のせいかと思うほど物騒な単語が幾つも耳に入ってきて呆然と声を漏らす将真。

 だが、どうやら気のせいではないようだった。

 いつの間にか取り出していたヘッドホンを耳に当て、真那は引き金に指をかける。


「みんな。耳を塞いで、口を開いて__伏せて」

「げっ!」

「ちょっ__」

「__〈発射ファイア〉」


 慌てて行動する一同だが、真那はそれを待たずに引き金を引く。

 直後に発生したのは凄まじい轟音と衝撃だった。

 爆煙が晴れた時に視界に映ったのは、人一人なら余裕で飛び込めそうな、下まで続く大きな穴。


「……確かダンジョンの壁とかってめちゃくちゃ固くなかったか?」

「なんつーバ火力だ……」


 信じられない光景に確認するような呟きをする将真。

 響弥も思わず引くほどの火力は、先ほどの将真の魔力球よりも遥かに凄まじい光景だ。


「やろうと思えば将真もできると思うけど……遥樹。こっから時短しよう」

「助かるよ。ありがとう真那」

「……ん」

「よし、みんな行こう!」


 ガーゴイルたちに感情はない。

 例え目の前で驚きの光景が広がろうとも、その進行が止まることは無い。

 だからこそ、無理に付き合う必要は無いのだ。

 遥樹の先導に従い、彼らは一人ずつ穴へと飛び込んで行った。

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