表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
79/118

真那の生い立ち

 任務中に親が亡くなり孤児になってしまう例は、それほど多い訳では無いが残念な事に珍しいという程でもない。

 それでも近年では減ってきたのだが、例えば杏果もその不幸な例に当てはまる。

 尤も、彼女は家族ぐるみで懇意にしていた響弥の家に養女として引き取られた為に、〈風間園〉のような児童養護施設に入る事はなかった。


「お母さんは私を産んだ時に亡くなったみたい。だから私はお父さんを初め、色んな人たちの支えがあって育てられてきた。でも、そのお父さんも任務中に命を落として……引き取ってくれるような人もいなかったから」


 そしてその時点で彼女は既に、全属性マルチタイプの適正者だと判明していた。


 〈日本都市〉にある児童養護施設は全部で三つ。

 〈時雨家〉が支援する最小規模の、一般人の孤児を引き取る〈時雨園〉。

 〈美空家〉が支援する都市最大規模の、魔力持ちで将来魔戦師や技術者として活躍する可能性のある子供を引き取る〈美空園〉。

 そして〈風間家〉が支援する約百人ほどの規模の〈風間園〉。


 この〈風間園〉には、将来魔戦師としての活躍を約束されているような才能を持つ子供たちが引き取られていて、その対象に当てはまる真那はすぐにでも〈風間園〉に入る事となった。

 その頃には既に遥樹がよく遊びに来ていたこともあり、二人が顔を合わせたのは間もなくの事だった。


「__初めて会ったばかりの頃は本当に酷い顔だったよ。幼子とは思えないほど暗くて、今以上に表情が無い……と言うより、死んでいたからね」


 子供たちの夕飯を作り置きしておく為に台所へと呼び出された将真も、遥樹と同じ話をしているところだった。

 今でも、付き合いの短い者から見れば真那の表情の変化は正直わかりにくい。

 それを、一番付き合いの長い遥樹ですら大袈裟にも聞こえるような表現をするのだから、当時の真那の心中は察するに余りある。


「正直、あの歳の頃の子供っていうのは、親が死んだなんて言われてもはっきり理解出来る子の方が少ないよ」

「まあ、確かに……」

「でも真那は聡明な子だったみたいで、それがむしろ仇になったのかな。普通の子よりもずっと深く傷ついていたんだ」


 来たばかりの頃の真那は、ずっと膝を抱えて顔を伏せて隅っこで蹲ってばかりいた。

 子供らしからぬ、血の気の引いた酷い顔色とまるで動かない、生気を感じさせない表情で。


「__私、体はチビだけど、精神的には大人びてるって昔から言われたよ」


 真那自身にそんな自覚はなく、見た目も相まって基本は子供に見られがちだが、それなりに関わりのある者から見るとどうもそうらしい。

 懐かしむような、遠くを眺めるような表情で真那は当時のことを思い出す。

 あの頃、遥樹はすぐに真那に気がついて声をかけてきた。

 当時の遥樹はまだ将真と同じく黒目黒髪で、真那とは別の意味で子供らしからぬ大人びた少年だった。


『__ねえ君、どうしたの? すごい顔してるけど、なにか辛いことでもあったの?』

『……おとうさんがしんじゃったの』

『そっか……いやじゃなかったら、ちょっと隣にいてもいいかな?』

『……うん』


 彼は特別、真那に何かをした訳では無い。

 ただ彼女の傍に寄り添っていただけだ。

 だが、そもそも彼は〈風間園〉の子供たちと遊びに来ていたのだ。

 だと言うのに、暫く経って真那が持ち直すまでただ寄り添うと言うのは、大人びていたとはいえ楽しい事ではないだろう。

 真那を他の子供たちの所に連れていくということも出来たが、他事に気を割く余裕もなく、何をして欲しいとも望まなかった彼女にとって、遥樹の在り方は少なからず救いになっていた。


 少し持ち直して麻痺していた感情が戻ってきた頃、その辛さに堪え切れず、真那は何度も遥樹に縋る事があった。

 その時も彼は、何も言わずにただ受け入れて真那の支えになってくれていたのだ。

 それは凡そ、幼い子供の行動とは思えないようなものなのだが。


「……そんな遥樹が、ある日を境に変わらざるを得ない出来事があって、多分その時に初めて自覚したのかな……」

「そ、そっか……」


 想像以上に真那の重い過去を聞き、リンは言葉に悩んで沈黙してしまう。

 その隣で、莉緒は真那の言葉に少し引っかかるところがあって首を傾げていた。


「……真那さん、遥樹さんが変わらざるを得なかった出来事って、聞いてもいい事ッスか?」

「大丈夫……だけど、私も実は詳しい話は知らないの。七年前の話なんだけど」


 七年前。

 それは〈日本都市〉に住む多くの人の人生を狂わせた大事件があった年だ。

 となればその出来事も間違いなく、そこに付随しているものだろうという事は容易に想像がついた。


「遥樹が突然、〈風間家〉の次期当主に選ばれたんだって」


「__大人びている、どころか子供らしくないって言うのは結構昔から言われてきたけどね、それは僕が兄や姉を見て育ってきたからなんだよ」

「へぇ、兄弟がいたのか」


 遥樹が言うには、八つ年上の兄と三つ年上の姉がいるらしい。

 二人は揃って優秀で、姉は今年自警団に入団し、その序列は特に強いと言われている百位以内、その中でも上の方だと言うのだから流石は〈風間家〉出身の魔戦師だ。

 そして彼の兄は更に強かった。


「兄さんは高等部二年生の時点で学年序列は三位だった。でも正直、今でも勝てる気はしないな」

「……そりゃとんでもねーバケモンだな」


 将真がそう思うのも無理はない。

 何せ、遥樹は現状学年最強で学園で見ても最強クラスなのは間違いない。

 それより強いというのは正直想像がつかない。

 ただ、それほどに強い遥樹の兄で三位だったというのなら、上の二人は誰だったのかと気になるのは自然な事だった。


「なぁ、当時のお前の兄より上の二人って、わかってたりするか?」

「勿論……というか、君も知ってる人たちだよ」

「へ?」


 そして遥樹の予想外の返答に、正直は間抜けな反応をしてしまった。

 それをつつかないのは気にも止めて居ないのか、或いは優しさなのか、特に言及もなく遥樹は続ける。


「二位は現在自警団の団長である剣生さん。一位は七年前に亡くなった日比谷樹さんだよ。この二人に兄さんも含めた小隊は、まだ当時高等部二年生でありながら自警団の上位の小隊と比べても遜色ない強かったんだって」

「おぉ、確かに俺でも知ってる人たちだな……あれ? でも確かその三人って……」


 将真がそれを知っているのは、七年前の事件で何があったのかを柚葉から聞いていたからだ。

 その話では、確か生き残りは剣生だけで、樹は柚葉の手にかかって亡くなり、そしてもう一人は__


「……消息を絶ったのは、お前の兄だったのか」

「うん。だから僕が自動的に、次期当主の最有力候補に上がったんだよ」


 確かに遥樹の姉は優秀だが、その実力は残念ながら今の遥樹と戦っても五分と言ったところだそうだ。

 まだ将来性のある遥樹には及ばず、また彼女も望まなかったがために、遥樹はまだ初等部三年生の頃にその知らせを受けたのだった。


「__別に激変したわけじゃない。少年らしさが殆ど無くなって、初等部の生徒でありながら〈風間家〉の次期当主として恥ずかしくない人間に変わったんだよ」

「それは……別に悪い事じゃないわよね?」

「うん。でもまだ十歳くらいだよ? 遥樹の性格からして、望まれた訳ではなく自主的に必要性を感じての変化だったと思うけど、それでも重圧は凄かったんじゃないかな」


 あれ以来、遥樹が子供のような屈託のない笑顔を浮かべるところも見た事がない。

 笑顔が無い訳では無いが、昔ほど自然さはなく、真那には少し無理をしているように見えていた。


「実際の所は分からない。もしかしたら無理なんて全然してなくて、自然な振る舞いをしてるのかもしれない。私の思い違いかもしれない。でも、散々世話になったんだもん。せめて少しでも恩返し出来れば……そう思ってたんだけど、難しいよね」


 実際は今でも世話になりっぱなしなように思えてならない。

 その事が真那にとっては少し悔しくて申し訳なさも感じていた。

 相手が遥樹ともなれば比べる相手が悪いというか、遥樹も真那も十分、優秀過ぎると思うのだが。


「それでも……私がそうだったみたいに、傍にいれば支えになれるかもしれないし、何より私が一緒にいたかったから。だから私は、昔から遥樹と一緒にいるの」


 そう締めくくる真那の表情は変わらずあまり変化を感じなかったが、それでも何処か、力強い想いを、決意を感じさせた。


「そっか……うん。よく分かったよ。よく分かったけど……」

「……なんか変な事でも言った?」

「えっと、そうじゃなくて……聞いてるボクの方がちょっと……顔が熱くなって来ちゃって……」

「ごちそうさまッス」

「む……」


 渋々だったものの特に躊躇うこと無く胸の内を吐露した真那だったが、リンの反応や莉緒の言葉で遅れてやってきた羞恥に少し顔を赤らめた。

 それでもリンの方が赤くなっているくらいだが。


「……はい、私の話はおしまい。次、紅麗ね」

「げっ!」

「私に喋らせといて逃げるなんて言わないよね? うん?」

「わ、分かったわよ……」


 グリグリと人差し指を頬に押し付けられて、紅麗も逃げられないと諦めて話し始めた。


「あたしもまぁ……き、嫌いじゃないわ」

「素直じゃない」

「うっさいわね! ……実際、真那以上に物理的に世話かけてるし」

「……あぁ、もしかして吸血行為の事ッスか?」

「そうよ」


 夏場の〈海蛇シーサーペント〉退治の時に莉緒たちも目撃していたのだが、半分とはいえ吸血鬼の紅麗はやはり吸血行為が必要になる場面があるらしい。

 普通に生活している分には問題ないのだが、血装を使い過ぎて消耗するとどうしても血が足りなくなり、吸血衝動に襲われる事がある。

 その衝動を落ち着かせる為に毎度協力してくれているのが遥樹なのだ。


「初めはむしろ、嫌いな方だったんだけど……」


 紅麗が遥樹と出会ったのは中等部に入ってからで、真那ともまもなく顔見知りとなるのだが、彼女は元々〈日本都市〉の住人ではなかった。

 それは莉緒でも知らない事で、知っているのは遥樹と真那、そしてごく一部の人間のみ。


 紅麗は、魔王軍管轄の吸血鬼の領地で誕生した、言わば敵側の存在だった。

 ただし母は〈日本都市〉から連れ去られた魔戦師の女性だったようだ。


「あー……その件なら知ってるッスよ。と言っても、一件二件じゃなかったし他国でもあったみたいなんで、ちょっと個人の特定は調べなきゃできないッスけど」

「気になるならあたしの名字で調べてみたら出るわよ。母の苗字そのままだし」


 魔王軍の実験体モルモットとして、吸血鬼の母体にされた複数の人族の女性の中から生まれた子供たち。

 その中でも特別、父である吸血鬼の力を色濃く受け継いだ、実験の最大の成功例が紅麗だったのだ。

 そして彼女もまた、更なる実験の為に色々と体を弄くり回されて苦痛の日々を繰り返していた。

 そんなある日、母に命懸けで逃がされて魔王軍の領地から命からがら抜け出し、自警団の魔戦師に拾われたのは齢十二の頃。

 紅麗は初等部に通ってこそいないが、都市にやってきたのは同学年の子供たちが六年生の時だった。


 半分とはいえ、紅麗が受け継いだ吸血鬼の力は当時の時点で相当強く、危険を覚えた自警団に当初は尋問すらされていたが、母の遺志を継いで生きたいという紅麗の意志を、自警団の面々は信じることに決めた。

 その場に居合わせていたのが、当時の団長たちだったという点も大きかったのかもしれない。


 とはいえそんな経験をしたせいで、彼女にとって〈日本都市〉の人間の印象と言うのはあまりいいものではなかった。

 紅麗が味方に着くなら将来的には〈日本都市〉のメリットはかなり大きい。

 半吸血鬼の紅麗が、将来的に魔人と同等レベルまで成長する事は目に見えていたからだ。

 実際、恩がある為紅麗に裏切るという選択肢はなかった。

 だが、中等部から学園に入り始めたばかりの頃、差別的な扱いを受ける事がよくあったせいで暫くは問題を起こすことも多かった。


「確かに当時は結構有名になってたッスねぇ」

「うん、ボクでも聞いた事あるよ」


 莉緒だけでなく、紅麗同様に中等部から学園に入り始めたリンですら認知していた程、彼女の悪名は学園中に轟いていた。

 当然それは彼女のせいでは無かったのだが。


「あいつとあったのはそんな頃よ」


 最早日課になりつつあった他生徒との喧嘩。

 紅麗もあちこちに傷を作っていたが、それでもやはり吸血鬼の力を継いでいるだけあって直ぐにほぼ完治。

 対する複数の生徒たちは、命に別状はない程度にボロボロの状態だった。

 そんな場所に、一際異様な雰囲気を纏った遥樹が丁度姿を現したのだ。


 その頃には、既に彼の容姿は現在の金髪碧眼へと変化を遂げていた。


『__君が黒霧紅麗さんだね』

『……なに、あんた』

『僕は風間遥樹。君に話があるんだよ』

『……へぇ。風間、ね』


 紅麗も、当時の時点で四大名家については理解していた。

 その中でも特別強い〈風間家〉が首を突っ込んでくるのだから、ついに目をつけられたのだと紅麗は理解した。


『話って何? 言っとくけど、向こうからつっかかって来てんのに、やめろなんて言われたってやめないわよ』

『うん。そう言われるのは想定してたよ。だからね__』


 一体何を言い出すつもりか。

 紅麗は黙って続く言葉を待つが、出てきた言葉は意外なものだった。


『僕と決闘して欲しい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ