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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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意外な遭遇

 柚葉に杖を渡した翌日。

 第一小隊は再び学園長室に訪れていた。


「学園長、これ改めて報告書ッス」

「……ん、お疲れ様。体の方は……十分休められたみたいね」


 送られたデータを確認し、三人の様子を見て柚葉は優しく微笑んだ。

 彼女の言葉通り、休息は十分取れたし今日からでも普段通りの活動が可能だ。

 だがそれはそれとして、今日は外での任務を認めては貰えないようで、第一小隊が柚葉に命じられた任務は予想していないものだった。

 その内容を簡潔に言い表すならば。


「……児童養護施設で子守りをしろって事ッスか?」

「そうよ」


 児童養護施設__別の言い方をするなら孤児院での任務だ。

 どうやらそこの先生たちが体調を崩してしまい、子供たちの面倒を十分に見られない、人手が足りないということで依頼を受けているらしい。

 ただ、厄介な事にそこの子供たちは魔力持ちで、将来的に魔戦師として活躍できる可能性を秘めているらしい。

 なんならここから初等部に通っている子もいるそうだが、ともあれ魔力持ちでやんちゃ盛りの歳頃の子供の面倒を見なければいけないというのはともすれば__


「……下手したら討伐系任務より大変ッスよこれ」

「あはは……」


 少し顔を顰めてポロッと零れた莉緒の本音に、思わず苦笑いを浮かべるが否定はしないリン。

 そして将真も、あまり気乗りしないというように険しい表情をしていた。


「将真くんも小さい子は苦手なの?」

「んー、まあ……遠慮がないからなー」


 ちなみに、先生たちの体調不良がなくとも依頼はよく出ているらしい。

 実の所、彼らも魔力持ちではあるがそれほど力はないのだという。

 その為、子供たちの相手をするのはかなり大変なのだ。


「そんな顔しなくても大丈夫よ。行くのはあなた達だけじゃないから」

「そうなのか……まあ拒絶するほどじゃないけどさ」

「ちょっと大変そうだけど、何とかなるよね」

「確かに外の任務と比べりゃ遥かに安全ッスけど……とりあえず了解ッス。やりましょうか」

「ええ、頼むわよ」


 やや渋々ではあるものの、第一小隊は柚葉の指示に従い児童養護施設へと足を向けた。




 都市の中にある児童養護施設は一つでは無い。

 今回はその中でも、魔戦師になれる素質をもつ孤児ばかりが集められている所らしく、名称は〈風間園〉。

 西区に広がる住宅街にあるのだが、学園からはやや離れている為のんびり歩いているとなかなか辿り着かず、やや駆け足で向かって計二十分程で到着した。

 駆け足と言っても彼らの速度を一般人に照らし合わせた場合、マラソン選手の終盤くらいの走りにはなるだろうが。


 〈風間園〉から子供たちが楽しそうに騒ぐ声が聞こえてきて、入口から敷地内を覗いてみるが、そこで見た光景に将真たちは目を丸くした。


「……なんでいんの遥樹」

「……うん? やあ将真。数日ぶり」


 それは、子供たちに群がられていいようにされているという、あまりに意外すぎる第二小隊の姿だったのだ。




「そうか、学園長が言っていたのは君たちの事だったんだね」

「なんて言ってたんだよ」

「うん、『追加で人員補充したから好きに使っていいわよ』って」

「こき使う気満々じゃねーか。まあその為に来たんだけど……」


 遥樹と将真は、少し離れたところで作業をしながら会話をしていた。

 第一小隊が近づくや否や、子供たちは警戒心丸出しで魔力球を生成して撃ち込んで来るという暴挙に及んだ。

 とは言え、遥樹たちの友人だと理解すると警戒心も和らぎ、ほんの数分で打ち解けてしまった。

 今は女子たちが子供たちの相手をしていて、リンも莉緒も、真那や紅麗同様にもみくちゃにされているところだ。


「にしても意外って言うか……お前らは結構戦ってばっかだと思ってたよ」

「そうかい? 僕らだって休息はとるさ。今日はオフだしね」


 言われてみれば、第二小隊の三人は制服ではなくラフな格好だった。

 特に遥樹は〈風間家〉出身でしかも次期当主、さぞかしいい服を着ているのだろうと思っていたのだがそんなことはなかった。

 将真でも着ているようなシンプルな私服だ。

 第二小隊にいつもと同じ点があるとすれば、真那が被っている帽子くらいか。


「折角のオフなのにガキンチョの面倒見てんのか」

「まあね。ほら、ここの名前で察しは着くだろう?」

「ん? えーっと確か〈風間園〉……あぁ、そうか。お前んとこが支援してるのか」

「そういう事だよ」


 加えて言えば、ここは昔から何度も足を運んだ、遥樹にとっての遊び場でもあるらしい。

 だからここの職員や子供たちとは大体顔見知りなのだそうだ。


「……紅麗は違うけどね、真那はここ出身なんだよ」

「そうなのか?」

「紅麗も伴うようになったのは高等部に上がってからだけど、二人では中等部に上がってからも何度も来てるんだ。あの子たちの相手をしたり、今日みたいにご飯を作ってあげたりね」

「はー……それで俺らは今、おにぎり大量に作ってんのな」


 納得した、と言うように気の抜けた声を出しながら、将真は自分の手元に視線を落とした。

 もう昼時は過ぎているが、腹を空かせるであろう子供たちのために将真と遥樹は二人がかりでおにぎりを作っていた。

 それも大量にだ。

 子供たちでさえこんなに食べるのだから、将真もつい幾つかつまみ食いしているのだが。


「みんなで作った方が早くねーか?」

「紅麗と真那は料理できないんだよ」

「いやこれは料理ってレベルじゃねーだろ……」


 言いつつも、第一小隊もリンは料理出来ないし、莉緒は一応作れるが、大体寮で何か自分たちで作って食べる時は将真が作っていた。

 〈表世界〉ではほぼ一人暮らしのようなものだった為、将真は人並みには料理が出来る故だ。


(つってもやっぱおにぎりに料理出来る出来ないはあんま関係ないと思うんだけどなぁ……)


 という考えは中々拭えないのだが。


「そういや、真那はここ出身だって言ったな。あいつ孤児だったのか」

「うん。悲しい事だけど珍しい事ではないんだよ。親が任務中に命を落として、身寄りをなくしてしまう子供が出てくるのは」


 真那もそんな不運な子供の一人だった。

 彼女が〈風間園〉に連れられてきたのは十年ほど前だというが、当時の彼女は酷くやつれてごっそりと表情が抜け落ちて、全く笑いもしなかったらしい。

 あまり関わりが深くない将真たちからしてみれば真那の表情の変化は正直わかりにくい。

 それでも幼馴染の遥樹から見ると、かなり表情が表に出るようになったのだ。


「昔は殆ど無表情の割にずっと膝を抱えて泣いていたイメージしかないからね。今にして思えば、あの歳で両親の死をあんなに引きずるというのは聡い子だと思うけど、真那が持ち直すのに一年以上はかかったかな」

「そうか……真那もそうだけど、お前も大変だったな」

「僕は大したことは出来てないよ」


 謙遜するように微笑む遥樹。

 その視線が子供たちと、その相手をする少女たちに向けられ、将真もつられて視線を向けた。

 確かに普段は無表情である事が多い真那も、ここでは少し表情が柔らかいような気がする。

 と言ってもやはり、数ヶ月程度の関わりでは差程分からないが。


「……よし、早く片付けて僕らも混ざろうか」

「混ざるのか? ……まあ、了解」


 変わらずもみくちゃにされる少女たちと予想外の台詞を口にする遥樹を交互に見ながら、やや気が重いという様子を見せつつも応じる将真。

 そして再びその視線を向けた時。


「__きゃあああっ!?」

「ほあぁっ!?」

「ぶっ!」


 リンと紅麗のスカートが子供たちの悪戯で捲り上げられ、その光景を目にしてしまった将真は思わず吹き出し慌てて目を逸らすのだった。




 散々騒いでおやつ代わりのおにぎりを食べた子供たちは、室内に戻るとすぐに眠りについてしまった。

 それにより、寝ている子供たちの面倒を見ながらだが、将真たちは一時的に役目から開放される。


「……将真くん、さっき見てたよね?」

「悪かったけど不可抗力だろあれは……それにリンはいいだろアンスコ履いてんだから」

「あたしはモロに見られたんだけど?」

「いやだから不可抗力……」

「__将真、ちょっといいかな……って、どうかしたのかい?」

「遥樹ナイスタイミング……!」


 キレ気味の紅麗に詰められて思わず仰け反る将真だったが、遥樹に呼び出されてそそくさとその場を退散する。


「ちょっとぉ! ていうか遥樹も見たでしょむごっ!」

「紅麗、しーっ。みんな起きちゃう」

「むぐぅ……」


 部屋から立ち去る遥樹と将真に憤慨して立ち上がる紅麗だったが、真那に口を塞がれて納得いかないという様子ながらも怒りを鎮めた。


 遥樹がわざわざ呼び出したということは、何がやる事でも出来たのだろう。

 漸く落ち着いたというのに働き者だと、紅麗はいつも通り呆れ交じりに感心していた。

 ともあれ、眠っている子供たちを除けば今この部屋にいるのは女子四人だけだ。


「……暇だし、なんかお喋りでもしない?」

「子供たち起こさない程度にね」

「わ、わかってるわよ……」


 人差し指を口元に当てて「静かに」とジェスチャーで示す真那に、ムッとした顔で紅麗は応じた。


「やー、でも喋るっても何喋るんスか? そりゃ黙ってるよりは楽しいでしょうけども」

「何言ってんの。ガールズトークの定番と言ったらやっぱ恋バナでしょ!」

「んー……いや、自分は特にないッスね」

「ボクもない、かなぁ……」

『え……?』

「えっ、なに? なんかおかしなこと言った?」


 三人から驚いたような視線を向けられて動揺を見せるリンだったが、特に紅麗と真那は真剣に驚いていた。


(あれ、この反応ってもしかして……)

(嘘でしょ、アレで無意識だっていうの……?)

(あー……やっぱ自覚ないッスよねぇ)


 二人に対して莉緒はそれほど驚いた訳でもなく、一瞬の事だった。

 特に普段から近くで様子を見ているのだから、莉緒は他人よりリンの事を理解している。

 とはいえ、自覚がないものをつついた所で何も出てこないだろう。

 ちなみにリンは、今なお紅麗と真那から向けられる視線に戸惑いを隠せないでいた。


「……まあそういうわけなんで、言い出しっぺからどうぞ」

「げっ! や、やぶ蛇とはこの事ね……」


 リンにしても莉緒にしても、何かしらあるだろうと踏んでいた為に、まさか何も無いとは考えてもいなかったようだ。

 更に今の紅麗の反応を見れば、莉緒だけでなくリンでも何となく察しがついた。


「……もしかして紅麗ちゃん、いるの?」

「まあ、遥樹さんくらいしかいないッスよねぇ……」

「うぐっ……べ、別に普通よ、普通!」


 二人の言葉で分かりやすく動揺を見せる紅麗は、更に微笑ましいものを見るような視線を向けられて怒りと羞恥が綯い交ぜになったように顔を赤くしていく。


「な、何よその目は……わ、私の事はいいでしょ!」

「いやいや言い出しっぺじゃないスか」

「大体、それを言ったら真那だって……」

「ねぇ、凄いとばっちりだと思うんだけど」


 話は終始聞いていたとはいえ、参加する気もなさそうだった真那は思わず表情を顰める。

 と言っても、やはりそこまであからさまに分かるような変化では無いのだが。


「私何も言ってないんだけど」

「そうじゃなくて遥樹の……あ、いや、あたしは普通よ普通だけど」

「まあそんだけわかりやすい反応見せるなんて意外だったッスけど」

「う、うっさいわよ……!」


 ともあれ、少なくとも紅麗から見た場合の、遥樹に対する真那の想いが言及されてしまった以上、この場で逃げ道は失われてしまった。

 期待するような視線がリンと莉緒から注がれていたからだ。


「紅麗、後で覚えといてね」

「うぐ……」


 いつにも増してジト目で睨まれて思わず紅麗は肩を竦める。

 真那に恐れを抱く訳では無いが、つい咄嗟に真那を道連れにした罪悪感はあるのだ。

 しょうがないと小さくため息をつく真那は、リンと莉緒の視線に観念したように口を開く。


「……正直、私自身どう思ってるのか分からないけど……でも、うん。多分遥樹の事は好き……なんだと思う」


 表情にあまり変化はないが、頬がやや朱に染るその様子は最早答えのようなものだった。

 答えを待っておいて何だが、その反応にはリンと莉緒もつられて赤面してしまう。


「え、えっと……」

「……いつからなんスか?」

「んー……」


 動揺して言葉が出てこないリンに変わっての莉緒の問いかけに、真那は思い出すように目を伏せて少しの間沈黙する。


「……多分、あったばっかの頃、かな」

「それって確か……真那が〈風間園〉に来たばかりの頃?」

「え?」

「そうだったんスか?」

「あー……うん、そうだよ」


 紅麗の言葉に驚きを見せるリンと莉緒。

 真那が〈風間園〉出身の孤児だとは知らなかったのだが、調べた所で出てくるようなものでもないのだから仕方がない。


「私がここに入ったのは、初等部に入る前だったんだよ」

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