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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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ダンジョンからの帰還

 ガーディアンとの戦闘開始から二時間が経過した。

 攻めては退いてを繰り返し、順番に軽く休憩をとりながらの長時間の攻防で、流石に将真たちの体力も限界が近い。

 しかしながら、それはガーディアンも同じ事だった。

 再生が間に合わず、全身に大きなヒビや欠けが目立つようになり、コアが僅かであるが露出している状態だ。


 ここまで追い詰めていく間にガーゴイルの召喚までの間隔が短くなったり、攻撃の手数が増えたりと非常に厄介ではあったが、ガーディアンが倒れるのはもはや時間の問題だ。


「これで決めるッスよ__」


 ガーディアンの頑丈さを考慮しつつ莉緒は構え、地面を踏みしめる。


「〈八重桜〉!」


 自身の体に強烈な負担を強いる神速の一撃がガーディアンの体に叩き込まれる。

 その斬撃はガーディアンの体に大きな裂傷を刻み込み__それでもコアには届かなかった。

 そしてやはりと言うべきか、どれだけ警戒していても特に手にかかる負担が大きく、痛みに顔を歪めながら莉緒は悔しそうに歯噛みする。


「こ、のォ……!」

「任せろ、俺が仕留めてやる!」


 そんな莉緒と入れ替わるように、ずっと後ろでサポートに回っていた将真がここで前に出た。

 ガーディアンに魔杖を構えて将真が生成したのは、濃密な魔力で形作られた砲弾だ。


 巨人族との戦いで将真は新技を会得したのだが、あの技は威力が高い反面、将真にも相当な負担を強いるものである事が後に判明した。

 負担なく使用するには魔王の力を三段階目まで解放しなければならないようで、そうなれば結局リスクを背負う羽目になる。

 だがそれ以外の条件下で使えば、将真の手が壊死しかねない程のダメージを負う。


 これを解決したのが、魔力球のように直接触れることなく生成して放つという案だ。

 とはいえ普通に魔力球を生成するのとは訳が違う。

 それほど複雑な形状ではないとはいえ、普段と違う球体では無い形を生成しなくてはならない。

 それは予想通り難しく、始めのうちは手に握って普段の剣擬きを生成し、変形させる事で解決させていた。

 そしてそれを中空に浮かせて渦を纏わせる。

 これに慣れるまでにどれだけの時間を要したことか。


 結果として形状は予定していたものより短く太くやや厳つい、まるで砲弾のようになってしまったが、黒い閃光の如き軌道を残して標的を貫く特徴は変わらず、負担のない形で技として完成した。


「__穿て、〈黒閃こくせん〉!」


 中空で生成された砲弾状の魔力の塊。

 渦を纏い高速で回転していたそれは、将真の合図で黒い軌跡を残して狙い違わずガーディアンのコアへと吸い込まれるように飛来する。

 そして接触と同時に鈍い音が響き、ついで岩が砕けるような音を発して魔力の塊は弾け、ガーディアンのコアごと体の大半を吹き飛ばした。


「__よし!」

「やったぁ!」


 攻撃の命中に将真はガッツポーズを作り、リンもつられて喜びの表情を見せる。

 普段ならその迂闊で隙だらけの二人に注意を促すところだが、莉緒も警戒は解かずとも安堵したように息をついた。


『……し、しし、しん、こ、こくな……だ、だめだめ、じをか、かく、に、ん……しゅうふ、く、ふ、ふ、かの……きの、をてい、し、てい、ていし、し、ま__』


 ガーディアンはまるで壊れた機械のように痙攣しながら何かを呟いていたが、やがて両目の淡い光が消えてただの石塊へと崩れてしまった。

 それと同時に残っていた数体のガーゴイルもまた、地に落ちてただの砕けた石像に成り果てる。


「……これにて、第五階層の攻略完了……ッスねぇ」

「うん」

「二人とも、おつかれさん」

「将真さんもッスよ」


 三人は互いに歩み寄りハイタッチで賞賛すると、気が抜けたようにその場で崩れ落ちるようにへたり込んでしまった。


「あー……流石にヤバいわ。めっちゃ疲れた……」

「今まで、こんなに長時間ぶっ通しで戦い続けることなんて、なかったもんねぇ……」

「でも将真さんの調子が相当良かったお陰で第五階層まで……想定以上に攻略が進められたのはかなりデカいッス」

「俺は正直、魔杖の使いやすさにびっくりしたけどな」


 将真が頻繁に攻撃魔法を使うようになったのはここ最近の話で、それまでは魔杖が必要になるほど使ってはいなかった。

 だから魔杖による魔法の使いやすさというものを今まで経験したことが無いのは当然だ。

 そしてここ数ヶ月、共に鍛錬をしてきた遥樹の見立てでは、実は将真は術師向きだという話だから、魔杖の利便性を知っておけたのは収穫と言えるだろう。


「……さて、問題はこの先がどうなってるかッスね」

「あー……まだ下があるかもしれないのか」

「ボクもうこれ以上は無理だよぉ……一旦帰らない?」

「もちろんそのつもりッスけど、様子は確認しておきたいんスよ」


 第五階層の下がダンジョンコアならそれでいい。

 そうでなくても、一応様子を覗いていく程度の余力は残っている。


「……なら、行くか?」

「うーん……そうだね、早く済ませちゃった方がいいよね」

「じゃあ行きましょうか」


 三人揃って疲労が顔に出ているものの、しょうがないと言うようにため息をついて、将真たちはゆっくりと次の階層に向かう。

 そして階段を下り始めて十数分。


「……今までの階段よりだいぶ長いな?」


 今までの階層を繋ぐ階段は、駆け足だったとはいえ五分とかからず上り下りが出来てしまうくらいだった。

 それでも普通に考えれば長いのだが、今回は歩きとはいえ更に長い。

 加えて、少しずつ暗さを増している。

 これで夜目が効かなかったら本当に何も見えなかっただろう。

 灯りも莉緒が使える火属性の魔法で確保している状況だ。

 将真はまだ使えてないし、リンに至っては不調以前にこの暗がりに怯えているようだった。


「……なぁ、リン。その……ちょっと近くないか?」

「わ、分かってるんだけど……ボクもよくわかんなくて、ただ無性に怖くて……」


 将真の腕にしがみつくリンの両目は青に染っていた。


(……思ってたより無理させてたんかな)


 平常心を保つよう自信に言い聞かせながら、リンの変化に申し訳ないような気持ちになる。

 こうなっている時のリンは臆病で弱気だ。

 特に今はかなり疲弊していることも影響しているだろう。

 普段ならば、ただ暗いだけの場所に怯えるような事はないはずだ。


「……リン。莉緒の方にしがみついてた方が良くないか?」

「えっ……り、莉緒ちゃん先導してくれてるし、邪魔にならないかなって……それとも、ダメ?」

「いや、ダメって言うか……当たってる、んだけど……」

「……あ、う……い、今はいいの。ちょっとだけ、こうさせて」

「わ、わかった……」


 暗がりの中でも夜目が効く現状、リンの顔が赤くなったのは見えてしまったが、それでも将真を頼って縋っているのだ。

 こんな弱々しいリンを放置は出来ない。


 更に十分ほどかけてゆっくりと階段を下り、漸く将真たちは第六階層へと辿り着く。

 構造は第五階層に似ていて、だだっ広い部屋になっているようだ。


「……どうだ、莉緒?」

「ちょっと待って下さいッス」


 将真の問いにすぐには答えず、莉緒は右手の親指と人差し指で円を作り、そこに魔力のレンズを生成する。

 そこから奥の方を覗き込み、何を見たのか一瞬息を飲んで右手を下げた。


「……いますね。普通にいますね」

「六層だとなんだっけ、サイクロプスだったか?」

「まさにその通りッス」


 巨人族のような巨躯、頭に大きな角を生やした一つ目の怪物で、魔物にカテゴリーされているサイクロプス。

 頑丈でパワーも相当なものだが、動きは単純でまだ比較的戦いやすいほうだ。

 正直、今の疲労を残した状態でも倒せなくは無いかもしれないくらいには。


(とはいえ……)


 莉緒は視線を背後に向ける。

 心身ともに疲弊が大きく、更に暗がりと異様な雰囲気に怯えている今のリンは、残念ながら戦力として期待できない。

 将真にしても、魔力だけならまだ余裕はあるだろうがかなり疲弊している。

 そしてそれは莉緒も同じだ。

 元々、これ程深いダンジョンだとは予想されていなかった事を考えれば成果としては十分、これ以上無理してまで進む必要は無い。


「……今日のところは帰りましょうか」

「そうしようぜ」

「う、うん……」


 莉緒の提案に、将真もリンも安堵したように息をついた。

 勿論、聡明な莉緒が現状を把握して突撃を選択するとは思っていないが、疲労で正常な判断力が鈍っていたりと万が一という事もある。

 実際、将真でも行けなくは無いかもしれない、と思ったくらいだ。

 莉緒が突撃を選択しても、もしかしたら拒否しなかったかもしれない。


 ちなみにこの距離とはいえ、第五階層以降のフロアは階層主に気づかれたら戦闘が終了するまで階層が封鎖されて、撤退も出来なってしまうのだそうだ。

 そんな事になっては溜まったものでは無いので、三人は出来る限り物音を立てないよう、慎重に階段を戻った。


 ダンジョンを出るまでの間、行きでは鬱陶しいほど湧いたガーゴイルは、予想通り出現しなくなっていた。




 ダンジョンを脱出して一日が経過し、漸く第一小隊は帰還した。

 といってもまだ〈日本都市〉ではなく、自警団南支部に到着しただけなのだが。


「__よく戻ってきてくれたね。無事で何よりだよ」


 夜人に迎えられた三人はぐったりした様子で力なく笑って反応を返した。

 船に乗り込んでから一気に疲れが襲ってきて、南支部に到着するまでずっと死んだように眠りこけていたのだ。

 約半日もぐっすり眠っていたのだから十分休まったと思っていたのだが、どうやらまだ疲れは残っているようで、特にリンは足取りが覚束ずにずっとふらふらしているような状態だ。


「想定外はあったみたいだけど、その分大きな成果を上げてくれた。詳細は都市に帰ってから学園長が話してくれるだろうから、今日のところは休みなさい」

「そうさせてもらいますね……」


 莉緒ですらしょぼしょぼした目で力なく答えるほど頭が働いていないようだ。

 これならまだ将真の方が体力を残している方だが、それは魔力に余裕があるせいかもしれない。


「浴場で汚れを落として、何でもいいから適当に食べておくといい。こちらで手配しておいてあげよう」

「ありがとうございます……」


 ふらふらと支部長室を立ち去る将真たちを見て、夜人は小さく失笑しながら、手の空いている部下へと連絡を取る。

 結局将真たちは風呂に入るまでが限界で、何も食べることなく深い眠りに落ちてしまったのだが。




 更に翌日。

 疲れはまだ少し残ったままだが、動けるくらいには回復した。

 回復した以上はいつまでも残っている訳には行かない。

 柚葉にも報告しなければならないし、聞いておかなければ行けない話もある。


 そんなわけで、改めて夜人に礼を伝えてすぐに第一小隊は都市へ帰還する為に南支部を出発した。

 ダンジョンの攻略の間に尋常ではない成長を遂げた将真がいた事で、道中ですれ違う魔物は相手にならなかった。

 莉緒と二人がかりで魔法をぶっ放していくのだから当然と言えば当然だ。


 結果、日は落ちてしまったものの、第一小隊はその日のうちに都市へと帰還する事が出来た。

 そこからまた自分たちの寮部屋で泥のように眠り、翌日の始業後くらいに目が覚めて、慌てて準備を終えた三人は遅まきながら学園長室へと足を向けた。


「し、失礼します……」

「……あら、漸く来たわね寝坊助たち」

「す、すいませんッス。気づいたらこんな時間で……」

「冗談よ。疲れは取れた?」

「流石にあんだけ寝たから、もう大丈夫だ」


 気まずそうな莉緒の隣で、将真がぐるぐると肩を回してみせる。

 これでもまだ万全とは言えないものの、もう殆ど疲労は抜けた。

 リンの両目も、実は都市に戻った頃までずっと青いままだったのだが、今朝目が覚めた時には普段通りに戻っていた。


「それなら良かったわ。それにしても災難だったわね。向こうの支部長から報告受けた時は私も驚いたわよ」

「いやぁ、まあ……」

「あなた達が帰ってくる前に調べて貰ったわ。詳細は省くけど、観測装置の不具合で正常な値が出なかったみたい」

「……なるほど、そりゃ災難だわ」


 我ながらついてないと、将真も思わず引き攣った笑みを浮かべた。

 そして柚葉は、微妙な表情の三人に対してやや呆れつつも安堵したようなため息をついて見せる。


「だからって、無理して攻略を進めることもなかったのよ。事前情報と違うってわかった時点で、一報入れて戻ってこればよかったんだから」

「い、いいだろ別に……大した怪我もなく五層まで攻略して帰ってきたんだから」

「それについてはよくやったと言っておくけど……将真。あなたの働きが大きかったんだってね」

「そりゃ杖があったからだと思うんだが……」

「いや、杖があるだけでどうにかなるレベルじゃなかったッスよ」

「ボクもそう思うな」

「えぇ……実感ねーんだけど」


 つい突っ込みを入れる莉緒とリンだったが、当の本人は認識が甘く、困ったように後頭部を掻く。

 実際、将真にとって比較対象になるのは、回りにいる優秀な同期ばかりだ。

 自身の能力を正しく認識できていないというのは編入組あるあるなのだが、将真の場合はそれが原因で他の編入組とは逆の意味で正しく認識出来ていない。


 つまり進級組から見た将真は、他の編入組と比べて自身の実力を控えめに見ている節がある、ように見えている。


 普通、編入組は自分の力を過信している節があるし、来たばかりの将真もその例に漏れなかった。

 ところが編入組の中でも特別強かったはずの彼は、来たばかりで二戦連続でボロカスにされたせいで想定よりもかなり早い段階で謙虚になってしまったのだ。


 無論、自惚れるよりは遥かにマシなのだが。


「……ちょっとその杖見えて貰ってもいいかしら」

「ん? おー、別に構わねーけど」


 少し考えるような仕草をした柚葉からの要請に、断る理由もない将真は素直に従い、ポーチから杖を取り出し投げ渡す。


「おっと……ちょっと。普通物渡す時に投げる?」

「いや、つい……」

「全く……まあいいわ」


 学園では互いに学園長と生徒の一人という関係性を心掛けているが、実際は二人揃って姉弟の感覚が抜けきらず、それが普段通りになってしまっていた。

 再び、それも今度は純粋な呆れによるため息をついて、柚葉は受け取った杖をまじまじと観察する。

 ただ見るだけでなく角度を変え、魔力を流したりして使用感を確認した後、小さく頷くとそれを机の上に置いた。


「素材も良さそうだし、魔力の通りもいい……いい杖ね。何処でこれを?」

「リンの槍と同じとこ」

「ふぅん……」

「出来れば将真さんの戦闘スタイルに合わせて、魔剣と魔杖を合わせたものがあるとベストなんスけどねぇ」

「……中々面白いこと言うじゃない。いいわ、なら少しコレ預かるわよ」

「え?」


 莉緒のボヤくような発言に柚葉はニッと笑みを作り、その柚葉の言葉には将真が惚けたような声を漏らした。


「預かるって……なんで?」

「別になくても、すぐには困らないでしょ? 勿論私は何か出来る訳じゃないけど、そういう話なら自警団の研究者連中の領分だわ。やらせてみようじゃないの」

「えっと……剣と杖を足したような武器をって事か?」

「そうよ」


 確かに、それが出来るなら将真にとってはベストだ。

 今までは前衛しか出来なかったのに対して、今回のダンジョン探索で後衛に徹していた将真の働きは十分すぎた。

 これで前衛をしながら魔法を同様に扱えるようになれば、将真の戦闘能力は更に劇的な進歩を遂げるだろう。


「どの道今日明日は外の任務に出す気は無いし、問題ないでしょ」

「むっ……それなら確かにすぐいる訳じゃねーけど」


 当然柚葉の言葉は将真たちを案じてのもので、将真もそれは理解しているのだが、つい行かせないと言われては表情がムッとしてしまうのも仕方がない。


「明日は良さげな任務を見繕ってあげるわ。今日は二限目からでも参加して、もう少し体を休めなさい」

「……はぁ、しょうがねーか」

「じゃあそうさせて貰うッスかね」

「うん」


 残念そうにため息をつく将真を見て小さく笑う莉緒は大人しく柚葉の指示に頷き、リンもそれに同意する。

 その日は言われた通りに途中から授業に参加。

 教室に入った時には響弥たちの喧しい出迎えを受ける事になったが悪い気はしなかった。

 珍しく突っかかってくることがなく、いつもの雰囲気とは違う猛には少々戸惑ったが、特に何事もなく一日は終わる。


 そして翌日、午前中の授業を終えて与えられた任務地で、意外な人物と顔を合わせる事になり、将真は目を丸くして呟く。


「……なんでいんの遥樹」

「……うん? やあ将真。数日ぶり」

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