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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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対決、ガーディアン戦

「なあ莉緒。この先で相手にするやつについてなんか知ってたりするか?」

「ん? そうッスねぇ……」


 階段を駆け下りる最中、将真の問いに莉緒は記憶を遡る。

 おそらく将真やリンは知らないであろう、この先に待つ相手の知識を、莉緒だけは持っている。

 とは言え将真の発言はそれを見越してのことではなく、単純に普段から知識面で頼りになる莉緒を当てにしての事だろう。

 少しして、莉緒も以前聞いた事がある話を思い出してきた。


「確か、ガーゴイルと同じで動く石像らしいんスけど、見た目はどうやらガーゴイルほど厳つくはないって話でしたね」

「へぇ……」

「やっぱ知ってたか。どっかで聞いたのか?」

「まあ、家の方ッスね」


 将真とリンも訓練の時に少しだけ聞いているが、当然それだけでは理解出来ない。

 だが、莉緒だけは〈鬼嶋家〉の方で経験者から話を聞いている。


「で、行動パターンには一貫性がないみたいッスけど、何してくるかは大体知ってるッスよ」

「流石莉緒ちゃんだね」

「褒めても何も出ないッスよ」

「でも実際助かる。俺らはざっくりとしか知らないわけだしな」


 尤も、莉緒が知る情報もそう多い訳では無いが。

 まず、ガーゴイルたちとは違い〈ガーディアン〉と呼ばれている。

 防衛機能の大元になっていると言うが、もっと言うならダンジョンの脳に近い存在だ。

 倒してしまえばこの先に階層がまだ残っていようとも、もうガーゴイルが湧くことは無くなる。

 更にはトラップの起動もなくなるのだから、先の有る無しに拘わらず第五階層の攻略はかなり大きい。

 そしてガーディアンがとる行動として莉緒が知るのは三つ。


「一つ目はガーゴイルの召喚ッス」


 一度に五体まで召喚してくるらしいが、そのスパンまでは把握出来ていない。

 もしかしたら五体が倒れるまで次のガーゴイルは召喚しないかもしれないし、道中のようにある程度時間を置けば関係なく召喚してくるのかもしれない。


「そして二つ目は……ちょっと自信なくて申し訳ないッスけど多分、地属性の魔法ッス」


 聞くところによると、どうやらダンジョンの壁や支柱を自由に操ることが出来て、腕や触手のように自由に動かすことも可能らしい。

 勿論、ぬるぬる動いたとしても材質上、かなり頑丈なのだが。


「三つ目は割とシンプルで、魔力を圧縮して放つ熱戦ッスね」


 だが同時に、一番殺傷能力が高い危険な攻撃でもある。

 尤も、魔力の収束はわかりやすいらしく、範囲もそれほどでは無いという事で回避もそう難しくはないそうだ。


「ただ、さっきも言ったように行動パターンに一貫性がある訳じゃないんス。だからこの知識もどこまで役に立つか……」

「大丈夫だよ、すっごく助かるよ!」

「そうだよ、十分すぎるくらいだぞ?」


 誰も知らない状態で挑むよりも、遥かに大きなアドバンテージだ。

 自信なさげな莉緒を励ますように将真とリンは背中を軽く叩き、二人の行動に莉緒は少し暗かった表情を消してニッと笑った。


「そうッスね。それじゃあ__」


 長い螺旋階段を駆け下りて数分、三人は漸く第五階層へと足を踏み入れた。


「サクッと攻略して、大したことありませんでしたって余裕の報告を持ってってやりましょうか!」

「うん!」

「おう!」




 将真たちが順調にダンジョンを攻略している間に、都市の方でも少し動きがあった。

 きっかけは響弥の問い。

 あれから柚葉も、時間に余裕を見つけては少しずつ調べていた。


(猛の出自は私も多少知ってる。あの子が都市にやってきたのは、あの事件からまもなくの頃だった……)


 当時、一番大切な者を自ら手にかけることとなってしまった柚葉は酷く消沈していた。

 その上、特に事件と関わりもなかったため、詳しく知っている訳では無い。

 むしろ彼について知ったのは後になってからの事だった。

 結局、今でも多くを知っている訳では無いが、昔とは違い今の柚葉は学園長と言うだけでなく自警団所属の団員でもある。

 その強さは団長や副団長にも見劣りしないほどで、実力に見合った権限も持っている為、余程の機密情報でもない限り調べていくのは容易い。


 猛の情報は、正直柚葉であれば簡単に調べることが出来た。

 だからこそ、何度見ても疑問に思う。


(……響弥の報告からして、多分猛は落ち込んでるかそれに近い状態。あの子の精神状態に特に大きな影響を与えられるとすれば将真と……この子だと思うんだけどねぇ)


 悩ましい表情を浮かべる柚葉の目の前のモニター。

 そこに映し出されているのは一人の少女の簡潔な情報だ。

 これと言って特徴がある訳では無い、普通の可愛らしい少女。

 強いて特徴を上げるとするならば__猛を女々しくしたような顔立ちをしているという事だろうか。


 彼女の情報を視線で追っていくが、ただでさえ情報が少ないというのに、最後の文言がこれだ。


『現在、入院中』


(しかも、もう何年も追記をされた様子がない。正直、データバンク漁っただけじゃわかんないわね。当時の日報見ても大した情報は得られなかったし……)


 小さくため息をつき、背もたれに体重をかけながら体を伸ばす柚葉。

 最後に脱力して深く座り込み、疲れたようにポツリとこぼす。


「……やっぱ、考えすぎなのかしらね」


 そうは言ってみたものの、妙な胸騒ぎは未だ継続中なのであった。




 第五階層に足を踏み入れた第一小隊。

 どうやら、踏み込んですぐに戦闘が開始される訳では無いようだった。

 部屋の先に目を凝らしてみると、ガーディアンと思しき石像が見えた。

 確かにガーゴイルと比べて遥かに人型に近く、膝を抱えて顔を埋めた姿勢で、将真たちの存在に気がついている様子はない。


「……これってあれか? こっそり近づけばバレない感じか?」

「いやー、それは楽観視し過ぎじゃないッスかね。多分、一定の距離まで近づいたら戦闘になると思いますよ」


 そもそも、ダンジョンの防衛機能であるガーゴイルが起動していて、気づいていないとは考えられない。

 改めて辺りを見渡し警戒をするが、少なくともトラップはないようだ。


「これならちかづけそうッスね。ただ、その前にちょっと不意打ちをしかけてみましょうか」

「不意打ちって……何をするの?」

「んー……じゃあとりあえず、将真さんの魔法をブッパなしてみるのはどうでしょう」

「適当だなオイ。まあやるけど……」


 やや呆れつつも、将真は杖を握り締めて狙いをガーディアンに定める。

 密集したガーゴイルをまとめて吹っ飛ばした時と同じように、大きな魔力球を生成する。

 その動作はこの数日で繰り返していたがために、以前よりもスムーズになっていた。


「……よし、吹っ飛べ__!」


 十分に溜め込んだ魔力球を、ガーディアンに向けて放つ。

 直径数メートルにも及ぶ大きさだからということもあるが、魔力球は狙い違わず飛んでいき__一定の距離に到達したところで周囲の支柱から石材の職種のようなものが高速で伸びて魔力球を防いだ。


「……うおっ!」

「わぁっ!」

「むぐっ!」


 防ぎ切れずに触手は焼け落ち、衝撃によって発生した突風は三人の元まで届いたが、ダメージになることは無い。

 ただし、今の一撃でガーディアンを起動させてしまったようだ。

 体育座りのような状態から顔をゆっくり上げると、両眼が機械的な淡い光を放つ。


『侵入者の存在を確認。これより撃退行動を開始します』

「……な、なぁ、アレって」

「やっば! 二人とも回避ッスよ!」

「うぉぉぉッ!?」

「ひえぇ!」


 ガーディアンの目が不自然に瞬き、魔力が収束した瞬間を確認すると、命の危機を感じた三人は咄嗟に回避行動をとる。

 ガーディアンの両眼が煌めき、直後に放たれた熱戦は、やや行動が遅れたリンの髪先を少し焦がして背後の壁に直撃した。


「「「……」」」


 三人は恐る恐る振り向いて、熱戦が直撃した場所を確認すると、壁には溶解したような穴が空いていた。

 コントロールが上手くいかなかった時にたまたま掠めて確認出来たのだが、将真の魔力球ですら殆ど影響を受けなかったダンジョンの壁が、である。


(魔力を圧縮して放つ熱線……って、目からビームかよッ!?)


 熱戦による攻撃があるとは莉緒も言っていたが、予想外の攻撃方法と火力に将真は危機感と焦燥感を覚える。

 ガーディアンとの距離は五十メートル程はあったはずだが、回避があと少しでも遅れていればあの熱線に貫かれていた。

 確かに攻撃の前兆はあったのだが。


(範囲は狭いが殺傷能力は高い……そりゃそうだ、食い気味に殺しに来てるじゃねーか! あんなん発射を見てから回避するんじゃ間に合わねー、避け損じたら即消し炭だ!)


 さらに事はそれだけに留まらない。

 将真たちが戦慄に足を止めている間にガーゴイルの召喚がなされた。

 ただ、どのタイミングでどうやって召喚したのかは見ても全くわからなかった。


「……もしかして、ガーゴイルの召喚には予備動作がないの?」

「マジかよ、勘弁してくれ……!」


 立て続けに起きる想定外の出来事に、思わずリンも将真も足が竦む。

 そんな状況下で、莉緒は難しい表情を貼り付けながらも装いを変えていく。


 〈神気霊装〉の第二解放状態__どうやら莉緒はやる気らしい。


「将真さん、リンさん。今までの階層通りに行きましょう。自分が突っ込んで撹乱するんで、サポートをお願いするッス」

「……そういう事ならリンは連れてった方がいいと思うぞ。流石に莉緒一人じゃキツいだろ」

「それは……そうかもしんないッスけど」


 台座の上に座っていたガーディアンは、今までのやり取りの間にゆっくりと立ち上がり、その淡く光る両眼で三人を無表情で見据えていた。


「将真さんはどうするんスか?」

「ガーゴイルを処理する。ついでに余裕がありゃアイツにもちょっかいかけてみるさ」

「……リンさん、動けそうッスか?」

「う、うん。ちょっとびっくりしちゃったけど……大丈夫、行けるよ!」


 少し表情は固いものの、長槍を握りしめながらリンは莉緒の問い掛けに力強く頷く。

 不調なのは変わらず、緊張気味な彼女の身を案じながらも、その様子を見た莉緒は共に前に出て戦う事を決意した。


「それじゃあ、もう一回熱戦が来たらその瞬間、飛び込みましょう」

「了解!」


 まだ殆どガーディアンの挙動を見れていないが、石材の触手は第一小隊が立つ場所まで伸びてくることは無いようだ。

 ただしガーゴイルはお構い無しに接近してくる。

 今回、その対応をするのは将真の役目だ。


(落ち着け。ここ数日何度もやってきた事をやるだけだろ)


 自信にそう言い聞かせながら、将真は落ち着いて魔力球を生成する。

 今度は数メートルに及ぶような巨大な球体ではなく、五十センチもない程度の手頃な大きさだ。

 その数、一度に五つ。


「__いけっ!」


 握った杖が空を薙ぎ、五つの魔力球は向けられた先のガーゴイルに狙い違わず向かっていく。

 そして的確にコアがある心臓部を吹き飛ばして機能を即座に停止させた。


「……よし!」

「ナイスッスよ、将真さん!」


 召喚されたガーゴイルが全て撃退された。

 それにも拘わらず、ガーディアンは先程から立ち尽くし、その場から移動しようとしない。


(と言うより多分、移動出来ない……?)


 おそらく行動範囲が決まっているのだ。

 それだけでなく、触手による攻撃範囲も。

 ガーゴイルを除けば、この距離でガーディアンが攻撃を届かせる為に取れる手段は一つ。


 莉緒の予想通り、再びガーディアンの両眼に魔力が収束していく。


「くる!」

「カウント行くッス! ……2、1、回避!」


 莉緒のカウントダウンに合わせて三人はタイミングよく熱線を回避。

 莉緒に関して言えば少し前進しながらの回避である分、ガーディアンへの接敵が早い。

 その後ろを少し遅れてリンがついて行く。


 そこまで近づいてしまえばガーディアンの攻撃範囲に入ってしまい、二人を石材の触手が襲いかかる。

 だが、その速さは到底莉緒を捉えられるようなものでは無い。

 襲い来る触手が到達する前に駆け抜けて、あと数メートルという至近距離まで近づくことに成功した。


「〈日輪舞踏〉__」


 両手の短刀を逆手に構え、一度深く沈みこんで地面を蹴る。


「__〈七輪華〉!」


 軌跡を残して、神速の七連撃がガーディアンを襲う。

 はたして、攻撃を受けたガーディアンは__表面がやや欠けただけでほぼ無傷だった。

 むしろダメージを受けたのは莉緒の手の方だった。

 予想外の痛みに思わず膝をつき、両手から力が抜けて短刀を取り零す。


「っ……か、かたぁ……!」

「莉緒ちゃん!」

「だ、大丈夫ッス……! それより、リンさんも気をつけて……!」


 痛みに耐えながら苦悶の声を漏らすが、ここで浮き足立って迂闊な動きをすれば二人揃って危険だ。

 現にリンは、無数に襲い来る触手を躱しきれずに、辛うじて迎撃に応じられて直撃を避けているギリギリの状況なのだ。


「リン、少し待ってろ! 今援護する!」


 後ろから将真は魔力球を再生成すると、リンが対応しきれない分の迎撃を始める。

 援護に気がついたリンは、無駄な動きを避けてその場で触手を迎撃し、少し遅れて着弾した魔力球によって一時的に触手は全滅した。


「よし!」

「リンさん、チャンス!」

「うん!」


 攻撃が止んだその隙をついて一気にガーディアンに接敵。

 莉緒が入れた攻撃でついた僅かな傷に狙いを定めた。


「__せぇい!」


 気合いと共に放たれた強烈な突きは、見事に小さな傷に命中する。

 それだけでなく、長槍の穂先は三分の一ほどガーディアンの体に差し込まれ、確かに大きなダメージを与えた。


「よし!」

「リンさん、ナイスッス!」

「うん、このまま__!?」


 二人から賞賛を受けながら更なる追撃を仕掛けようとするリン。

 だが、その瞬間彼女は戦慄を抱いた。

 原因は二つ。

 一つは、ガーディアンの内側から感じる異様な魔力の高まり。

 そしてもう一つは__


「あ、あれ……」

「リン?」

「どうしたんスか!?」

「……ぬ、抜けない。固すぎて抜けない……!」


 突き刺してダメージを与えたはいいが、長槍が食いこんで中々抜けないのだ。

 その間にもガーディアンの内側で魔力は高まっていき、焦燥感がリンを襲う。


「う、むぐうぅぅ……!」

「危ねーぞリン!」

「そうッスよ! 一旦槍は諦めて離れましょう!」

「そんな事したら、戦えなくなっちゃうぅ……! あっ、抜け__」


 リスクを承知で粘り続けていたのが功を奏したようで、何とか長槍を抜き出すことに成功するリン。

 その直後、至近距離で無防備になっていた彼女の体を、ガーディアンの全身から生えた無数の石材の針が襲った。


「うぐぅっ!?」

「なっ……!」

「リンさん!」


 体を突き刺す痛みに呻き声を漏らすリン。

 その光景に焦るような声を上げる将真と莉緒。

 幸いだったのは、長槍が抜けたと同時にガーディアンの体を蹴って後退を始めていた事だ。

 お陰で、それほど大きなダメージにはなっていない。


 キッと睨むような視線をガーディアンに向ける将真。

 そんな視線を向けたところで、ガーディアンが何かを感じ入ることないのだが、それ以上に将真は厄介なものを目にしてしまった。


「……マジかよ。こりゃかなりめんどくせーな」


 莉緒とリンの二人がかりで何とかつけた傷が修復されていたのだ。

 更に将真たちが足を止めている間に、ガーゴイルの再召喚が完了する。


(……至近距離だったとはいえ、リンさんの傷は思ったより浅い。ならまだ、撤退はしなくてもいいッスかね)


 そう判断すると、莉緒はリンに手を貸して立ち上がらせ、やや引き攣った笑みを浮かべながらも構え直す。


「これは……長期戦になりそうッスねぇ。二人とも、改めて気を引き締めて下さい」

「はっ、言われるまでもねーよ」

「うん、大丈夫。全然戦えるよ」


 莉緒に似たような表情を浮かべる将真の前で、リンは飲み干したポーションの容器から口を離して腰を落とす。

 距離をとっていた彼らに放たれたのは、やはり魔力の収束砲。

 それを回避した彼らは、再びガーディアンを攻め直すのだった。

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