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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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探索開始

「__南支部へようこそ。私は夏目夜人なつめやひと。ここで支部長を勤めている者だ」

『よろしくお願いします!』


 将真たちが先ず招かれたのは支部長室。

 そこで支部長である夜人と顔合わせをする為だった。

 見た目は柔和な壮年の男性だが、何と実際は六十を超えていると言うのだから、魔戦師の体というのはもはや神秘で、将真は何度見ても慣れない。

 更に自警団序列は三十位以内という話だから相当な手練、歴戦の将だ。


 緊張気味に背筋を伸ばす三人の返事に、夜人は微笑みながら感心したように小さく頷いた。

 まるで孫でも見るような穏やかな目だが、歳の差を考えればおかしくは無い。


「いい返事だ。ああ、こちらこそ。君たちの事は本部から聞いているよ。だから任務については改めてこちらから言えることはない。その代わり、出発前に幾つか確認しておこうか」

「了解ッス」


 おそらく莉緒は予想していただろうが、将真とリンにとってはあまり深く考えていなかった部分を掘り下げるように夜人は確認を始めた。


 まず、船は現地に到着して将真たちを降ろしたら直ぐに南支部へと戻ってしまう。

 片道で半日、つまり往復では一日かかるのだから、何かトラブルが起きても迅速な助けは期待出来ず、基本的に自己責任と言うわけだ。

 そして現地で任務に従事する際、最低でも一日に一度は報告を入れること。

 これは任務の進行状況もそうだが、特に生存や無事を確認する為という面が非常に大きい。

 これを怠るとトラブルが発生したと見なされ、直ぐに救援が寄越されるのだそうだ。


 尤も、海上で襲われでもしない限り船の速度をあげる訳では無いから、本当にトラブルが発生した場合はまず助からない。


 そして勿論、帰還する際にも連絡は必要だ。

 そこから半日近く待たされるのは大変かもしれないが、そこはもう仕方がないと諦める他ない。


「訓練を受けているならば、ダンジョンの危険性はよく理解しているね?」

「勿論ッス」

「ならばいい。私から特に言うことはもう無いよ。では君たちの健闘を祈る」


 そうして送り出され、三人の自警団員が付き添いで共に船へと乗り込んだ。

 間もなく船が出航した頃、将真が少しソワソワとし始めた。


「……どしたんスか」

「あっ、もしかしてトイレ?」

「ちげーよ! いや、船に乗るのって初めてだから、ちょっと落ち着かなくてな……」

「あー……何となくわかるかも」

「自分も乗るのは初めてッスけど、そんな大したもんじゃないでしょう?」

「俺はそーでもねーんだよ」


 なんでもない事のように莉緒は言うが、将真は〈表世界〉でも内陸部の田舎町出身だ。

 海を生で見る経験すら片手で数えられる程度もあるか怪しい将真が、海上で船に乗っている現状に少し興奮を覚えるのも仕方がないことだった。


「それにさ……」


 海を覗き込むように手すりから乗り出し、将真はその光景に驚いていた。

 まだ出発してそれほど経っていないから大きな変化はないが、魔力に汚染されているという海が予想よりもはるかに綺麗だったのだ。

 浅い所ならば珊瑚礁も見えるくらいだ。

 尤も、海中のとんでもない魔力濃度の中で発生している珊瑚礁なのだから、あれも一種の魔物と言っても差し支えはなさそうだが。


「外の海って、都市とあんま変わんないって言うか、むしろ場所によっては都市よりも綺麗なんじゃねーかな」

「まあ、景観だけなら確かにそうかもしれないッスねぇ」


 この魔力濃度の中で珊瑚礁が発生しているのは、やはり魔物とそう変わらない原理らしく、魔力に晒され続けて変質した生き残りが繁殖したした結果なのだ。

 例えば地上には猪や狼のような姿をした魔物がいるが、これらも元を辿ればやはり普通の動物としての猪や狼だったらしい。

 この珊瑚礁も同じように、元は普通の珊瑚が魔物化したものから形成されているのだろう。


 勿論、海に存在するのは綺麗な珊瑚礁だけではなく、普通の魚とは思えない厳つい魚影が幾つも船の下を泳いでいるのだが。


「魔戦師ですら蒸発するような魔力濃度の中を普通に泳いでるとか信じらんねー……」

「落ちないように気をつけてくださいねー。落っこちたらこうなるッスよ」


 ぼんやりと海を眺める将真の隣で、莉緒がポーチから何かを取り出して海に放り投げる。

 それは何の変哲もない、野営用のコップだった。

 それが海に着水した瞬間、コップは一瞬焼けるような音を立てて跡形もなく消滅し、将真の横で見ていたリンが思わず青ざめる。


「ヒェ……」

「おいおいここまでやべーのか……」

「まあ人体には魔力体に魔力回路もあるんでこんなすぐには溶けないッスけど、浸かればそう変わんないッスね」


 あっけらかんに言うが、その光景に将真も引き攣った表情を貼り付けていた。

 そうして暫く三人で海を眺めていたが、時刻はもう夜更け頃だ。


「なんか……眠くなってきたね」

「……そッスね。そろそろ休みましょうか」

「……そうだな」


 莉緒の方針に頷き、将真とリンも船の中へと戻って直ぐにベッドに潜り込んだ。

 三人が寝付いたのはまもなくの事だった。




「……なんか、頭揺れてる気がする」

「ボクもちょっと……」

「うーん、船酔いッスかね?」


 目的地に到着して船から降りた将真とリンは、頭を抱えて呻く。

 対する莉緒はケロッとしていて、一番症状が重い将真は少々恨めしそうに莉緒を睨んでいた。

 とは言え暫く休めばリンは勿論、将真の体調も任務続行できるくらいに回復した。

 到着までにかけた時間は予定通りの半日ほどだ。


 問題のダンジョンだが、どうやら洞窟の中にあるらしい。

 では洞窟型のダンジョンかと言われれば違う。


 ダンジョンのタイプは大きくわけて三通りある。

 それほど強い魔物や魔獣は出ないが不可思議な現象が頻発し、他二つと違い登っていく構造で最上階にはダンジョンの守護者が現れる『塔』。


 強力な魔物や魔獣が発生しやすい魔素溜まりと化し、緩やかに下っていく為に階層というべきものが存在しない、蟻の巣状の『洞窟』。


 そして今回の任務地である、人工的な遺跡のような構造を下っていく、無数の迷路や幾つもの階層に分かれている『迷宮』。

 慣れてしまえば、五階層に到達するまではそれほどの難易度でも無いらしいが、五階層及びそれより下の階層が存在する場合、劇的に難易度が上がるのだという。

 そもそも、探索にかかる労力も相当なもので、他の二つと比べてもとても楽とは言えない。


 この迷宮型が、今回は洞窟の奥にあるという話だから非常に紛らわしい。


 ともあれ、海岸から森に入り一時間とかからずに、第一小隊は目的地のある洞窟の前に到着した。

 ここまでは消耗を抑えるために可能な限り戦闘は避けてきたが、この先はそうもいかないだろう。


「……中は、とりあえずいきなり囲まれるようなことは無さそうッスね」


 慎重に洞窟を覗き込む莉緒。

 その背後を守るようにリンと将真が洞窟の外を警戒する。

 外側も周囲に魔物の気配は無く、莉緒の言葉通りなら、ダンジョンの手前で即危機的状況に陥る心配は無いはずだ。


「……じゃあ、行きましょう。先行するんで、ついてきてくださいッス」

「おう」

「うん」


 いつも通りのやり取り。

 二人は出来る限り声を潜めて莉緒の誘導に応じ、慎重かつ迅速に洞窟の中へと足を踏み入れた。




 洞窟内に生息する魔物というのは意外と多い。

 それでも予想を大きく上回るようなことはなく、三人は問題なく対処に当たっていた。

 よく見るのは狼や虫系、特に多いのが蝙蝠型の魔物だ。

 夜目が効くから暗くとも何とかその姿が見えているが、五十センチほどあるその蝙蝠の体毛は赤黒い。


「〈閻魔蝙蝠〉って言われてるんスけど、攻撃を受けると傷口から焼けるような痛みを発する呪いが侵食して、放置したら一日で死ぬッスよ」

「ヒェ……」

「おっかねーな……」

「魔戦師の自然治癒力ですらギリギリ追いつかないですからね。まあでも……」


 莉緒は実際に受けた傷口を見せてくるが、先日の準備で買っておいた薬を取りだして直接かける。


「ッ……ちょっと染みるッスけど、これで呪いの方は解呪できますからね」

「それなんだっけ?」

「〈キュアポーション〉ッスね。〈ヒールポーション〉に近いッスけど、タダでさえ自分たちは大した回復魔法も使えないのに、解呪なんてできないッスからねぇ」


 呪いをかけてくるような魔物はそう多くないが、いざと言う時のために備えておく必要はある。

 特に洞窟に潜る時は、この〈閻魔蝙蝠〉に出くわす可能性が上がる為より一層だ。


 ちなみに将真も受けた傷口に使ってみたが、そもそも呪いも効いてないようで、効力を自分の目で見ることは出来なかった。


「__オラッ!」

「せぇい!」

「……お、見えてきたッスよ!」


 気を取り直し、向かって来る魔物を蹴散らしながら前進していくと、第一小隊はようやく目的のダンジョンへと辿り着いた。

 莉緒が端末を開くと、都市では日が高くなり始める頃合だろうという時間が表記されていた。

 現在地だと時差があるから同じではないのだが。

 そのまま南支部へと現状報告を送信すると、莉緒は端末をポーチに片付けた。


 改めて向かってきた方を振り向き、奇襲してくる魔物がいない事を確認して三人は顔を見合わせる。


「……さて、心の準備はいいッスね?」

「……おう」

「すー、はー……よし、行けるよ」


 莉緒の問いかけに、緊張した面持ちの将真と深呼吸をするリン。

 二人が了解を見て莉緒も頷き、ゆっくり腰を浮かせて駆け出す。


「じゃあ、探索開始ッスよ!」


 先行する莉緒に続き、リン、将真の順で三人はダンジョンへと足を踏み入れた。




 ダンジョンの中でも、迷宮型が最も難易度が高いと言われる理由。

 それは、約十秒感覚で侵入者を中心に直径十メートル外の範囲で出現する守護者の存在がいるからだ。

 守護者と言うには禍々しい、怪物のような姿から〈ガーゴイル〉などと呼ばれているが、当然魔物ではない。

 その数は一人に対して三体。

 小隊の場合は、九体のガーゴイルが十秒感覚で、各々から直径十メートル離れた位置から出現するという事だ。

 倒すのに手間取ると、いつの間にかとんでもない数になって襲ってくるのだから、初見での対応は困難だ。


 だがガーゴイルの攻撃手段は単純で、遠ければ中級程度の魔法を放ち、近ければ体を使って攻撃する。

 シンプルで合理的であるが故に、数の割には対応がしやすい。

 そして一体の強さは再生能力を想定しない〈上級グレーター〉クラスの吸血鬼ほどだから、今の第一小隊ならば十分に相手取れる。


 その情報を訓練で事前に知っていたから、三人は当然固まって行動していた。

 もし距離を開けてしまったら、例えば将真の湧き範囲判定に中途半端にリンや莉緒が被った場合、彼女の至近距離でガーゴイルが発生する可能性があるからだ。

 勿論、その逆も然りである。


 仄暗い中を夜目を便りに、現状は莉緒を先頭にリン、将真と続くいつもとは反対の陣形をとってガーゴイルの群れを打ち倒しながら三人は突き進んでいく。


「……よし、これでも喰らえ!」


 特に効果的なのは将真の魔法だ。

 これといった名称のない黒炎を纏った魔力の球体は、ガーゴイルを数体まとめて吹き飛ばす程の威力があった。

 そしてそれを、細かい制御の効く三つまで生成して放つ。


「フゥッ!」


 対照的に活躍出来ていないリンだが、不調続きで攻撃魔法を発動するにももたついてしまうのだから仕方がない。

 それでも莉緒と共に接近戦でガーゴイルを倒せているのだから、働きとしては十分だろう。

 問題は、今の戦い方ではリンの体力が長続きしないであろうという点だ。


「リン、あんま無理すんなよ!」

「ふー……うん、分かってる。でもまだ大丈夫だよ!」


 今回、リンは満足に戦えないであろう事を見越して、別の重要な役割を担っている。

 それこそ、彼女がダウンしてしまえばダンジョンの攻略に支障をきたすくらいには。


(まあ無理して欲しくないのはそれだけじゃねーけど……)


 制服はやはり見た目以上に丈夫だが、露出した肌までは完全に守ってはくれない。

 リンの体には、小さな傷がいくつも生まれていた。

 同じく前線で戦っている莉緒は無傷であるのに。


(訓練の時もそうだったけど、これじゃあ三人揃って消耗が早い。となると……)


 目の前に迫るガーゴイルに警戒しながらも、将真は後ろの二人に視線を向ける。

 訓練中はなかなか上手くいかなかったが、成功すればおそらく消耗を抑えられるであろう作戦を思いついたのだ。

 試してみる価値はあるだろう。


「……リン、莉緒!」

「うん!?」

「どうかしたんスか!?」

「いや、どうもしてねーけど……安地エリア見つけるまで、構わず突っ切れるか?」

「……えーっと」

「やるだけならまあ、出来ないことはないと思うッスけど……」

「じゃあやって貰っていいか? 考えがある」

「……了解ッス!」


 実は、迎撃に専念し過ぎて足が止まっているタイミングが何度もあった。

 そのせいで満足に探索が進まない状態に陥っているのだが、それを打破できるならと莉緒は地面を蹴りだし、それに続いてリンも駆け出す。

 将真は素早く、一度ガーゴイルを退けて距離を取り、二人から離れないようについて行く。

 そうなると、相手にする必要があるのは進行方向に現れるガーゴイルだけだ。


「やぁッ!」

「よっと!」


 それをリンと莉緒はテンポよく打ち倒していく。

 特にリンを庇うように前に出て戦う莉緒の様子は危なげなく、調子もいいようだ。

 将真としても、今のリンには出来るだけ下がってて貰えた方が安心出来る。


「__見えた!」


 数分ほど走り続けていると、莉緒は壁の横側に人が入れる程度の四角い空洞を見つける。

 他の通路とは違う、訓練時も何度も世話になった安地のある場所だ。


「将真さん、あったッスよ__ってちょっと、どうなってんスかそれ!?」

「え? ……ひぃっ!」


 後ろを振り向き驚愕する莉緒と、それにつられて背後を振り向いて悲鳴を上げるリン。

 だが無理もない反応だ。

 彼女らの視界に映った光景は、増え続けたガーゴイルの大群が将真の背後に迫っているというものだったのだから。


「考えがあるんじゃなかったんスか!?」

「大丈夫だ、安地見つかったんだろ?」

「いや、でも入ったってガーゴイルが消えないってのは訓練中に分かってるはずッスよね!?」

「分かってる分かってる。心配すんな、嘘はついてねーよ」


 引き攣った表情のリンの前を、慌てた様子を見せながらも足を止めないで走り続ける莉緒。

 その様子に少し呆れを見せつつも、将真はまるで慌てていない。

 その反応に莉緒も、将真が敢えて倒さずにおいたという事は理解した。

 理由までは検討がつかなかったが、それもすぐ分かることになる。


 将真はくるっとその場で反転し、後ろ向きに走りながらも手を前に突き出す。

 実は安地が見つかるまでの間、ずっと魔力を集中させていたのだ。

 そうして将真の前に出現した、いつもと同じ黒炎の如き魔力球。

 数はたった一つだが、通路を埋め尽くさんばかりの大きさに莉緒とリンは目を剥いた。


「「なっ……」」

「__喰らえ!」


 絶句する二人の目の前で将真はその一撃を放つ。

 それは将真の予定通り、通路の奥に見えなくなるまでガーゴイルたちを吹き飛ばし続けていった。

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