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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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第二小隊と共に

忘れていましたが今回も3日に1度の更新です。

「……お、リンさん。真那さんもお疲れッス」

「あ、うん。莉緒ちゃんもお疲れ」

「私はあんまり疲れてないけど」


 二人に気がつくと、莉緒は上体を起こし服の襟で汗を拭う。

 全員、その格好は学園支給の運動着ではあるが、莉緒はその下に普段通り、ハイネックの黒インナーに黒タイツを身につけていた。

 この時期であればむしろ暖かそうではあるが、彼女ほど激しく動くとなればやはり暑そうだと思ってしまう。


 尤も、莉緒や美緒が言うには複数の便利な魔法効果が付与されていて、運動着同様に防寒、耐熱効果も持ち合わせているとの事らしい。

 だから、見てくれよりは平気なのかもしれない。


「……紅麗、大丈夫?」

「だ、だいじょうぶに、みえる……?」


 未だに呼吸が整わない紅麗は寝転がったまま、真那の問い掛けに苦しそうな表情で答える。


 紅麗は十席に入れればそれでいいと、普段から目標に届けば試合を棄権している為に、実力の程はあまり知られていない。

 だが、あくまで鍛錬とはいえこの結果を見れば、流石に学年序列三位の莉緒には勝てなかったのだろうという事は分かる。


「はぁー……ようやく落ち着いてきたわ」

「どうしたの、本当に」

「どうしたもこうしたも、見ての通りよ。負けたの」


 お互い、本気でも全力でも無かったのだが、その上で莉緒の方が紅麗を圧倒したのだ。

 やはり莉緒の速さは尋常ではなく、紅麗でも着いていくので精一杯なのだから、これほど疲弊しているのはおかしな事でもない。


「いやホントマジで、どうなってんのよあんた……半分とはいえ、あたし吸血鬼なんだけど?」

「そうッスね」

「吸血鬼が追い縋るので精一杯とかどんな速度よ! ホント人間か!?」

「いやまあ、若干別のものが混じってるッスけど……」


 紅麗の随分な物言いに、やや戸惑い苦笑を浮かべて応じる莉緒。


 〈鬼嶋家〉の人間には、かつての人体実験の名残が脈々と受け継がれていて、彼女の代に至っても尚、魔物の血が流れている。

 それでも精々一割未満と言ったところだろうが。

 そしてその力を特殊な薬で強制的に呼び起こす〈魔物化モンス・フォース〉と言う一族特有の能力があるのだが、これは体に絶大な負担がかかる為に持続時間も短い。

 命をかける覚悟すら決めた時の、決戦用の切り札とも言える代物だ。


 だが、逆に言えば薬なしでは魔物の力などあってないようなものなので、紅麗を圧倒したのは結局、莉緒の素の身体能力でしかない。


「全く、末恐ろしい身体能力フィジカルだわ。吸血鬼を凌駕するとか人間やめてるわよ、ホント……」

「そこまで言われると素直に喜べないッスね」

「ていうか、美緒でもそんな速くはならないでしょ」

「美緒はほら、魔法があるッスから」

「あー……そうね」


 姉の莉緒が都市でも指折りの速さを持つなら、妹の美緒は都市でも最高クラスの魔力制御力を持つ。

 魔力制御力が高ければ同時に展開できる魔法の数も多く、無駄な魔力の消費も減らせる。

 結果、総合的に魔法火力が高くなるのだ。


 一つの魔法に消費される魔力量は基本決まっているが、一般的な学園生くらいだと普段の行動や魔法発動の際に無駄な魔力を消費している事も珍しくない。

 莉緒も学園生にしては高い魔力制御力を持っているものの、優秀な生徒が揃う百期生の中ではまあまあと言うところだ。

 そして鍛錬や実践を重ねた自警団員でさえ、それを完全に克服しきる事は難しく、そう考えると美緒も大概常軌を逸しているのだ。


「__ほっ、と。なるほど……姉妹揃って化け物って事ね」

「だーれが化け物ッスか」


 ようやく回復したらしく、勢いをつけてその場から立ち上がり失礼な発言をする紅麗には、今度こそ莉緒も納得いかないと唇を尖らせた。

 その様子にリンは微妙な笑みを貼り付け、真那は呆れたようにため息をつく。


「紅麗。終わったんなら遥樹のところに行こう」

「そうね」

「じゃあ、自分たちも行くッスかね。将真さんの様子を見に」

「うん」


 そうして四人が足を向けるのは山の中。

 将真と遥樹が鍛錬しているのは、リンが通りがかったところから少し離れた、自警団本部の前だった。




 疲れない程度の速度で駆け上がりながら、四人は数分ほどで目的地に辿り着く。

 すると、真っ先に気がついた遥樹が彼女たちに顔を向けて微笑を向ける。


「やぁ、みんな。一旦休憩かな?」

「将真くぅん!?」

「将真さぁん!?」


 だが、そんな爽やかな遥樹の問い掛けよりも、将真の状態に気を取られた二人は思わず声を上げた。

 殆ど疲れた様子もなく、少し汗が滲んでいる程度の遥樹に対して、将真はうつ伏せで地面に突っ伏していたのだ。

 ピクリとも動かず、さっきの紅麗よりも一層酷い。


「ちょ、ちょっと将真くん大丈夫!?」

「生きてるッスか将真さん!」

「……お、おおげさ、すぎ……」


 身体を揺さぶられ、少し辛そうに首だけ横に向ける将真。

 動けないくらいコテンパンに打ちのめされたようで消耗は激しいが、それでも休めば回復する程度だ。

 苦しげな表情で何とか身動ぎする将真だったが、それでも起き上がる事は出来ず仰向けに寝転がる。


「くっそ……はるき、おまえ……いつか、ぜったい、なかせてやる……」

「ふふ、楽しみにしておくよ。でも今は僕らも、一先ず休憩にしようか」

「おう、りょーかい……」


 息も絶え絶えではあるが、遥樹の提案に応じるように軽く手を上げる。

 ここ一ヶ月、真那や紅麗ともローテーションで何度も鍛錬に付き合って貰っているのだが、ここまで疲弊させられるのは遥樹が相手の時だけだった。


(まあそうでなくとも最近は、ちょっと疲労溜まり気味だけどな……)


 そんな事を胸中で呟き、将真はため息を零す。

 その原因は、二ヶ月ほど前から時折、任務の代わりに入れている実戦訓練によるものだった。


 〈巨人族〉率いる魔王軍の軍勢の侵攻により、チーム戦は途中で中止となってしまった。

 それでも試験が完全に白紙になった訳では無い。

 結果としては、将真たち第一小隊を含めた七つの小隊が成績優秀と認められ、地下迷宮ダンジョン探索の認可が降りたのだ。


 だからといって、いきなりダンジョンに入れるかと言われればそうでは無い。

 認可が降りて初めて、自警団が所有する『探索済みの未攻略ダンジョン』での訓練が出来るようになり、そこで自警団側が問題なしと評価するまでは、未探索のダンジョンに挑ませて貰えないのだ。


 だが、実戦訓練を体験すればそれが正解だと直ぐにでも理解した。

 何の準備も情報も心構えもなく足を踏み入れようものなら、小隊程度では秒で全滅するだろう。

 ダンジョン探索とは、そういう難易度なのである。


 それでも、何度も繰り返している事でダンジョンに慣れつつある第一小隊だったが、任務と交互に訓練を挟んでいるせいか、体を休めているつもりでも疲労が抜けきらない。


「……つったって、歯が立たないにも程があるだろ……」

「うん? まあ一ヶ月もやってれば癖もわかってくるからね。それに、君の実力も大体把握出来たよ」

「そうか……お前から見たら、俺はどんなもんなんだ?」

「そうだね……」


 将真の問いに、少し悩む様子を見せる遥樹。

 配慮して言葉を選んでいる訳ではなく、単に話す内容を整理しているだけなのだろうが。


「まずはそうだね。身体能力だけど、どうもそれほど高くないみたいだ」

「……マジかぁ」

「パワーはある方だけど、それでもリンや莉緒よりもちょっと強いくらいかな。男勢だと響弥は勿論、僕や猛にも及ばない。でもって総合的な身体能力は莉緒どころかリンにも届いていないくらいだよ」

「別に勝ってるって思ってた訳じゃねーけど、少し凹むわ……」

「君には魔王の力があるからね。それで今まではどうとでもなっていただけさ」


 遥樹の言う通り、将真が十席に並ぶほど強いのは魔王の力があるからだ。

 それでも結局、力を全解放して暴走でもさせなければ猛には敵わなかった。

 編入生やそこそこの強さの同期に比べれば強い方だが、上位層と比べると将真個人の実力だけではまだ未熟ということなのだろう。


「ただ、編入生とは思えないほど戦い慣れしてる。確か剣道をやってたって聞いたけど、その経験がむしろ足枷になってまだ動きに硬さは残ってるかな。でもその上でそれだけ動けるって事は、〈表世界〉でただ剣道をやってただけじゃないね?」

「まあ……向こうで言えば俺の身体能力って常軌を逸してた訳だしな。他の武道だとか、暇潰しに山に潜って野生動物と闘り合うことはあったけど……」

「それ、〈裏世界〉だと魔物と戯れてるのとそう変わんないと思うんだけど?」


 将真の口から出た回答が予想外だったのか、引き気味に思わず口を突っ込む紅麗。

 当時の彼は勿論そんな認識は無かったのだが、そんな反応をされればをかつての自分がいかに危険なことをしていたのかがよく分かる。

 引き攣った表情で顔を背ける将真に苦笑を向けて、遥樹は言葉を続けた。


「戦い慣れてるだけじゃない。学習能力も高いし成長速度も尋常じゃない。確かに編入生はそういう傾向があるけど、それにしてもあまりに極端だよ」

「そうは言っても、まだまだお前らには及ばないだろ?」

「どうかな。魔王の力を抜きにしても、二年に上がった頃には相当な強さになってると思うよ。根拠もある」

「へぇ、遥樹がそこまで言うなんて……」

「ちなみにその根拠ってのはなんスか?」


 遥樹が他人を高評価するのが余程珍しかったのだろう。

 紅麗は戦慄を滲ませる難しい表情を浮かべたが、紅麗ほど遥樹を知っている訳でもない莉緒は気にせず疑問をなげかける。

 すると遥樹は一瞬、将真に視線を向けてすぐ莉緒の方に向き直る。


「僕の得意なスタイルは知ってるよね」

「まあ、何回か負かされてますしねぇ。一般的には万能型オールラウンダーって認識されてるみたいッスけど……実際は反撃カウンターが得意……だったッスよね?」

「そうだね。その通りだよ」


 攻守共に、近中遠距離何処でも高水準で戦える正真正銘の万能型の遥樹だが、特に強いのはやはり剣を用いた近距離戦闘だ。

 そして自分からはあまり攻めに動かず、相手を誘い出し動かして、向かってきた所に反撃カウンターというのが、彼が好む得意な戦い方なのだ。

 その戦い方で莉緒をも打ち破るほど強いのだから、遥樹の反応速度は凄まじく、人間離れしていると言っても過言では無い。


「あー……そうなのか。だから尽くこっちの攻めがまるで通らねーんだな……」

「そういう事だね。でも将真。君、途中から反撃カウンターが見えてよね? 何なら対応できそうになってたと思うよ」

「うそぉ……」


 今度は紅麗の隣で、真那が信じられないというように呆然と呟く。

 分かっていても、一度攻めに転じてしまえば遥樹に反撃カウンターを許してしまう為に、対応するのは莉緒でさえ容易ではない。

 それどころか、序列を見ればわかるように、都市最速の虎生ですら勝てないのだ。

 素人が反撃カウンターを受ければ、何をされたかも理解する余裕すら与えられず敗北しているだろう。


 鍛錬中は遥樹も全力ではなく、繰り返し挑戦が可能とはいえ、素人同然の将真が反応できるようになりつつあるのだから驚くのも無理はない。


「つっても、結局一回も反応出来なかったし、全部この身で受ける事になったけどな」


 尤も、コテンパンにされたこともあって将真は謙虚なものだったが。


「あとはそうだね。目に見えて魔力制御力が上がってる事かな」

「あー、それは確かに。ボクたちでも見ててわかるよ」

「そんなにか?」

「まあ……やっぱり異常だとは思うッスね」

「そんなにかッ!?」


 遥樹に同意しただけのリンはともかく、わざと強調して言う莉緒の酷い口振りには将真も抗議を示すように声を上げた。

 だが、〈裏世界〉出身の者たちからすれば、やはり将真の魔法の上達は異常と言ってもいいほどに早い。


 リンと莉緒は任務を共にしているのだから当然、将真が魔法を使う所を目にした事が何度もある。

 チーム戦の時に戦った遥樹でも、当時は少なからず戦慄を覚えたものだ。

 あの時は三つの魔力の球体を生成するので精一杯だった将真は、今では四つまでは生成した上で、狙いもかなり安定するほどになっていた。

 生成する、と言うだけならば五つまでは行けるのだから、今はまだ甘くとも飛躍的な成長を続ける潜在的な魔力制御力は、美緒並である可能性もある。

 今回の鍛錬中も、風属性の魔法〈加速強化アクセルブースト〉を模した魔法で遥樹に追い縋っていた。


 魔力量だけなら学園生の中でもずば抜けている将真だから、現状は宝の持ち腐れでも将来的にとんでもない強さを手にする可能性は高い。

 その事実は以前にも増して明確に、遥樹にも戦慄を抱かせるものだった。


 だが、当の本人にその自覚はなく、最初に指摘された身体能力の物足りなさを気にしているのか、ムッとした顔で腕を曲げて力こぶを作る。


「……魔法もそうだけど、もっと体鍛えなきゃなぁ」

「それはそうなんだけど、もしかしたら君は肉体を鍛えるより魔法を鍛えた方が強くなるかもしれないね」

「それはやってんだけど……魔属性だと魔法式がないからなぁ。感覚でやるしかねーよ……」

「出来てるから上達してるんじゃないかな?」

「……まあ、遥樹がそう言うなら、出来てんのか」


 自信なさげにボヤきつつも、掌を上に向けて魔力を集中させ、徐に黒炎の球体を生成する将真。

 拳を握ればパッと消滅した魔力の球体を見て、遥樹は静かに笑みを浮かべて腰に手を当てた。


「将真、ひとついいかな」

「んー? なんだよ」

「やっぱり君は、猛の戦い方を参考にしているのかな?」

「んー、あー…………はぁ!?」


 適当に聞き流しかけた遥樹の問い掛けに、ようやく理解が追いついた将真は声を上げ、遥樹を含めた五人はその様子に少し驚いたように目を見開くのだった。

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