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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
五章 ダンジョンの激闘
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冬の足音

お久しぶりです

結局4ヶ月くらい空いてしまいました…

本日からまたしばらく更新していきますのでよろしくお願いしますねぇ(*´ω`*)

 〈日本都市〉から少し離れた場所に、小さな集落があった。

 廃墟に手を加えた不格好な住居が幾つか転々としているようなやや原始的な住処で、集落の住民もちょっと野性的な、何処にでもある集落だ。


 遠すぎる訳でもないから都市側もその存在を認知していて、何度か都市への移住も提案していたが、その集落の住民たちは一度も首を縦にふらなかった。

 長年の仕来りもあるのだろう。

 彼らの決断を尊重し、〈日本都市〉は不用意に干渉しすぎないように気をつけていた。


 ところが、〈日本都市〉で大きな事件が起きたその数日後。

 その集落は何者かの襲撃を受け、壊滅していた。


 都市と違って結界で守られていない集落は、常に魔獣の大群に襲われるだけでも容易く壊滅する危険性を孕んでいた。

 だがそれでも、襲撃されていることに気がつき、遅れて救援に来た自警団員たちは、あちこちから火の手が上がり血の海が広がる光景に息を飲まずには居られなかった。

 それほどまでに、凄惨な光景だったのだ。


「……これでは、生存者はいないか」


 都市側の援助も望まず、自分たちの力で生きてきた集落の民は、序列の低い自警団員よりも余程強く、戦い慣れていた。

 それをこれほどまで凄惨に全滅させられるというのは、一体どれほどの化け物の襲撃を受けたのか。

 何れにせよ、そんな何者かが生存者を残しているとは到底思えなかった。


「__だれか! だれかいないのか!?」


 そんな中、壊滅した集落の中に響いたのは舌足らずな少年の声。

 おそらく、唯一の生き残りだろう。

 絶望的な光景の中で奇跡的に一命を取り留めた者の元へと、団員たちは急いで向かう。


 そこにいたのは血だらけの少年だ。

 だが、その大半は彼の血ではなく返り血だった。

 少年の腕の中で、事切れそうになっている幼い少女の。


「__っ!」

「……たのむ、たのむよ……」


 絶句する団員たちを見上げる虚ろな表情の少年は、呆然と呟くように助けを懇願した。


「いもうとを……たすけて……」


 何者かによる集落襲撃の、たった二人の生き残り。

 その片割れである少年の妹は、七年経った今なお、目覚めること無く眠り続けていた。




「__くしゅッ」


 肌寒い風に撫でられて、小さくくしゃみを一つする。

 鼻をすすりながら眠たげに目を擦るリンは、自警団本部が建っている山を見上げていた。

 冬の足音が近づいてきたこの季節の朝は、流石に冷え込んできている。

 加えてリンの服装は半袖にショートパンツという学園から支給された運動着姿で、この季節では寒そうな格好だ。

 とはいえ、多少の防寒効果は持ち合わせた服の為、見た目ほど寒くはないのだが。


「ん……うーっ……ふぅ、よしっ」


 背伸びして身体を解すと、今度は両足で軽く弾むように跳んで調子を確かめ、足を止めた時にはだいぶ目も冴えてきた。

 右手を翳すと、手の甲の魔法陣が淡く光を放ち、馴染みの長槍が彼女の手の中に握られる。

 左手はポーチから端末を取り出してタイマーを起動し、それを静かに地面へと置く。


「すぅ……フッ!」


 腰を落として一度大きく息を吸い、吐き出すと同時に地面を蹴り出し森の中へと飛び込むように疾走を始めた。

 高速で山を駆け上がり、目の前に迫る木を躱しながら切りつけ、槍の射程外にある木には簡単な魔法で攻撃を当てる。

 暫くそうして駆け抜けていくと、森が開けて自警団本部の壁が見える場所へと辿り着く。


 すると今度は、その場でぐるっと回って元きた道へと向きを戻す。

 そして勢いはそのままに、先程とは逆で来た道を駆け下りつつ、同じように木々を切りつけたり魔法で攻撃を当てていく。


 これは普段から彼女が習慣にしている、山の中の道なき道を駆け上がり、そして駆け下りるという至ってシンプルな鍛錬だ。

 その間、仮想敵に見なした木々に攻撃を加えていくことで集団戦を想定した鍛錬にもなっているが、攻撃魔法も使うようになったのはここ二ヶ月ほどの、最近の話だ。

 そしてただ山を上り下りしているだけではなく、彼女はその時間を計測していた。


「……くぅっ!」


 下り切る直前、リンの表情は少し苦しげに歪む。

 負傷した訳ではなく、想定よりも速度が上がりきらないせいだった。

 森の中から飛び出し地面を滑るようにして着地すると、勢いよく顔を上げて、ゆっくりと歩きながら呼吸を整える。


「ハァ、ハァ…………ふぅ……」


 呼吸と鼓動が落ち着くと、リンは近くに置いていた端末の時間を確認する。

 そして表示された数字を見て難しい表情を浮かべた。


「うーん……やっぱり縮まないなぁ……」


 魔王の器であるが故に将真の身柄が狙われて、争奪戦が勃発してからもうすぐ半年。

 その頃を境にリンは不調に陥り、今日に至るまで殆どタイムが変わらない。

 身体強化や簡単な魔法ですら、高速で動きながらだと難しく感じるし、日によっては記録が落ちることもあった。


 実は、魔法戦が不安定になっている分をカバーするように鍛えている為か、リンの素の身体能力はここ数ヶ月で飛躍的に向上している。

 それでも魔法の調子は相変わらずで、成長を実感できずにいた。

 仕方がないとはいえ、不本意な結果に少し不機嫌そうに唇を尖らせる。


「__リン」

「……あっ、真那ちゃん」


 そんなリンの元へ、少し慌てたようにやってきた真那が声をかける。

 その姿を視認するとリンはより一層眉を顰め、その様子に少し気圧されて、普段は表情の変化がわかりにくい真那が珍しく動揺を見せた。


「もー、遅刻だよ!」

「ごめん。悪かったけど、みんなが早すぎるの……ふぁ……」


 少し怒った様子のリンの苦言に目を逸らしながら、真那はまだ眠そうに目を細めて小さく欠伸を交えて応じる。


 ここ最近、第一小隊は第二小隊と共に早朝鍛錬をするようになっていた。

 勿論、ちゃんと理由があっての事だ。


「__じゃ、やろっか」

「うん。お願いします!」


 眠たげな表情は変わらず、真那は魔銃を両手に携え、リンは問い掛けに頷くと跳躍して距離をとる。

 その先で、いつも通り腰を落として槍を構え、何時でも動き出せる体勢をとった。


「__装填〈雷散弾サンダーブレット〉」


 突きつけられた銃口から放たれるのは、雷属性の魔力で形成された小さな無数の弾丸だ。

 一つ一つがそれなりに威力を持つ上に、一発でも直撃すれば体が麻痺して動きが鈍ってしまう。


(……でも躱せないほどの速度じゃない!)


 飛来する弾丸を僅かな瞬間目視すると、リンはステップを踏むように軽やかに地面を蹴り、体の向きを小刻みに変えて真那に向かって前進していく。

 その様子を見ながら、まだそれほど激しく動いていない真那の頬を汗が伝う。


(うわぁ……おいそれと回避出来るようなものじゃないと思うんだけど)


 リンくらいの動体視力や身体能力があって初めて可能な芸当だが、広範囲に及ぶタイミングがバラバラの攻撃を回避するのは容易ではない。

 そんな無茶をせずとも、折角覚醒したのだからここは神技を使用してもいい所だと思うのだが、その回避力には真那も思わず引くレベルだ。

 序列は変わらないが、少なくとも身体能力だけならリンの方が上で、半年ほど前に戦った時よりも差が広がっている。


 そして一度弾幕が途切れると、リンは一気に加速して距離を詰めていく。


「__せぇい!」

「むぐっ……」


 突き出した槍は、大きな銃器へと転換した真那の魔銃によって防がれてしまうが、めげる事なくリンは回り込んで、横から再び隙間を縫うような一閃で真那を狙う。


「うわっ、ちょ、ちょっと待って、まだ寝起きなのに本気過ぎ……!」


 容赦のないリンの追撃をギリギリで回避して、慌てて逃げるように後退した先で少し息を切らす。

 そんな真那の抗議に、リンは再びムッとした表情を顔に貼り付けた。


「だってこっちはもう体温まっちゃったんだよ。将真くんも莉緒ちゃんも、とっくに遥樹くんと紅麗ちゃんと鍛錬してるって言うのに……」 


 逃がさないと言うように、攻勢に出る間も与えず距離を詰めて、ぶつぶつと文句を言いながらも正確な鋭い突きで真那を追い詰めていく。

 だが真那も少しずつ頭が冴えてきて、魔銃を取り回しのいい大きさへと戻し、身体をずらしながら魔銃の側面で槍を受け流し直撃を避けていた。


「だって、時間になったら遥樹に起こしてって言っておいたのに起こしてくれなかったし……」

「せめて紅麗ちゃんに頼むとこじゃない?」


 いくら信頼している仲間とはいえ、寝ている間に年頃の男子を部屋に招くことに抵抗がないのだろうかと思わず疑問を抱く。

 もしかしたら、遥樹はその辺を考慮して敢えて起こさなかったのかもしれないが。


「というか、ちゃんと自分で起きればいいじゃん!」

「そうなんだけど、出来てたら苦労はしない__よっ」


 リンも先程までの様子を見ていれば気づいていたが、真那はどうも朝に弱いようだ。

 それでも、リンの鋭い突きを大きく弾くと、その隙に後方へと逃げるように跳ぶ。


「逃がさない!」

「__いいよ。来るならおいで」


 追いかけようと、地面を強く踏み締める。

 そして膝が伸び切って地面から足が離れようとした瞬間、真那は魔銃を円筒形へと転換させる。

 リンの範囲から逃れる為の後退__ではない。

 むしろ真那は、自らの都合のいい距離をとり、誘い出して攻勢に出たのだ。


「やばっ……」


 追撃という判断が失敗だと気づいても、今更行動を中断する事は出来ない。

 自らがとった行動には逆らえず、真那へと向かって飛び出していく。


 勿論真那は、このチャンスを逃すような間抜けではない。

 思ったよりも速いリンの速度に合わせて更に後退し、しっかりと構えて狙いを定め、攻撃を放つ。


「__〈水砲ウォーターカノン〉」

「__プァッ!」


 容赦なく放たれた一撃は狙い通り見事にリンの顔面に直撃し、爆ぜた水球によって勢いを失速させられた彼女はそのまま反動で少し吹き飛ばされてひっくり返った。


「……ぷはっ! ハァ、ハァ……うへぇ……」


 仰向けに寝転がり、びしょ濡れになった顔を拭って顔を顰めるリン。

 彼女の戦意が解けた様子を確認すると、真那はひょこひょことリンに近寄り顔を覗き込むように見下ろした。


「……大丈夫?」

「うん、大丈夫。大丈夫だけど……悔しい……」


 自分の迂闊な行動を呪いながらリンは苦笑を浮かべ、そんな表情を向けられた真那もつられて微笑を作った。


「そのままじっとしててね……えい」

「わぷっ!」

「あれ、ちょっと強かった?」


 真那が使ったのは温風を継続的に発生させる魔法だ。

 元より全属性に適性がある真那だが、これは火と風の初級魔法の合わせ技なのでさほど難しくはない。

 強いて言うなら火を発生させないように熱だけに留めるのが少し難しいが、所詮は初級魔法。

 猛がよくやる、魔剣の内に炎を押し留めるような難易度の高いものでもなく、少し集中する余裕があればリンだってできる。


 尤も、風量の方はそれほど使ったことがある訳でもない為、ちょっと強過ぎたようだったが。


「……うー、もう、髪がボサボサだよ……」

「ごめんごめん。ただ、あのままだと風邪ひくかもしれないかなって」

「そうだね……ありがとう」


 魔戦師の体は魔力が循環していて、一般人より遥かに強い免疫力がある。

 それでも、体が弱れば病気になる可能性もある。

 この寒くなってきた時期に濡れたままというのは、幾ら服に防寒効果があっても体調を崩しかねないので、真那の気遣いはむしろありがたい事だった。


「……どうする? 私、休憩がてら紅麗と遥樹の様子も見に行こうかなって思うんだけど」

「うーん……じゃあちょっと早いけど切り上げよっか。ボクも二人の様子見に行きたいし」

「ん、じゃあ行こうか」


 真那から差し出された手を取って立ち上がり、ボサボサに散らかった髪を手櫛で整えつつ応じるリン。

 一先ず、同じように山の手前で鍛錬しているはずの莉緒と紅麗の元へと、二人は並んでのんびり歩く。


 リンも小柄な方だが、最後に身長を測ってから半年以上が経過していて少し背も伸びていた。

 そんなリンと並んで歩くと、真那の小柄さはより一層際立つが、彼女がそれを気にする様子はない。


「……でもやっぱり、リンは強いね」

「う、うーん……負けちゃったのにそう言われると……」

「まあ……あれは迂闊に突っ込んで来たから。それでも、莉緒くらい速いと多分、追いつかれてたと思うけど」

「流石にそんな速くは動けないなぁ……」


 リンも相当速い方とはいえ、学園生の身で都市最速クラスの莉緒と比べられては流石に形無しだ。


 対する真那は、それほど速くはない。

 それでも、得意とする遠距離からの砲撃を主体とし、近距離、中距離でも一応戦える。

 更に遥樹と何度も任務を共にすることもあって、彼女自身の判断力も中々のものだ。

 視野の広さは遥樹ほどでは無いため自分自身の対応限定になるが、惚けているように見えて真那の頭もかなり切れるほうなのだ。


 それをきちんと理解していれば、あんなに迂闊に、射線に飛び込んでいくことも無かったのだが。


「流石に莉緒と比べるのは酷だと思う。言ったのは私だけど。その上でやっぱり強いと思う」

「そ、そうかな……」

「十席に届いてなくたって、そもそも今年が異常だって言われてるし。それにもう一ヶ月くらい一緒に鍛錬してるからわかる。私との差は経験値とリーチくらいで、近距離戦だけなら私じゃその内直ぐに対応できなくなる」

「……そっかぁ。でも、今すぐには難しいかな?」

「うん。まだ行けるね」


 淡々とした様子で上げて落とす真那の物言いに、ガックリと肩を落とすリン。

 その様子は、表情の変化に乏しい真那が思わず小さく笑うくらいにはおかしかったようだ。


 そうして話していると、直ぐに探していた二人の姿が見えてくる。


「おーい、莉緒ちゃーん、紅麗ちゃーん……って」


 近づきながら二人に呼びかけるリンだったが、その光景を見て思わず言葉を失う。

 別段、おかしな光景が広がっている訳では無い。

 そこにあったのは、両膝に手をついて呼吸を整えている莉緒と、先程のリンのように、仰向けにひっくり返って荒い呼吸を繰り返す紅麗の姿だったのだ。

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