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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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二十一話「一難去って」

 撤退後間もなく、自警団の援軍と合流出来た将真たちは、軍勢の相手を彼らに任せて漸く一息つくことが出来た。

 緊張の糸が切れてしまったのか、第三小隊はその場で意識を失ってしまったし、遥樹と第五小隊を除く全員は意識を手放しはしなかったものの、崩れ落ちるように動けなくなってしまうほどの疲労が溜まっていた。


 ともあれ、今回の騒動は団長不在でありながら、二人の副団長とその他多くの自警団員、及び百期生の生徒の尽力があって無事に解決したのだ。


 学園生たちはすぐ病院に叩き込まれたが、翌々日にもなれば、特に大きなダメージを受けた杏果と響弥以外は退院の目処がたった。

 そして将真は__その翌々日、退院した日に自警団本部へと呼び出しを受けていた。


 何のことは無い。

 将真の魔王の力に再封印を施す為だ。

 以前同様、応急処置をされていた事もあって、暴走した力は落ち着き、容姿も元に戻っていた。

 とはいえやはり即席の封印では、魔王の力を抑え込むには脆く不十分だ。


「__全く、気をつけろと言っただろ」

「いや、その……ホントすんません、お手数かけます……」

「まあまあ姉さん。今回はしょうがなかったと思うわよ」

「あのさぁ、藍。しょうがないで済ませられるような力じゃない事は、お前の方が分かるだろう?」


 将真を責めるような発言から庇うように、その場に居合わせた藍が口を挟むが、華蓮は呆れたようにため息をついてジトっとした視線を向けた。


 華蓮とて、力の暴走の経緯は報告を受けている。

 だから、しょうがない部分はあるということも理解しているのだが、しょうがないで済ますには魔王の力は危険過ぎる。

 そのしょうがないと言われるような事態そのものを避けるべきなのだ。

 例えそれが無茶振りであったとしても。


「……まあいいさ。今回のところは何事も無かった……と言うより、魔王の力に随分と救われたようだからな。あれだけの戦力を前にまさか全員生存とは、報告を聞いた今でも信じられない」

「そうね。やっぱり今年の一年生はまともじゃないわ」


 感心と呆れが混じったような様子を見せる華蓮に、彼女の背に手を当てて封印に必要な魔力タンクの代わりを務める瑠衣が同意する。

 将真たちとは別で足止めをしていた残りの生徒たちも、負傷はあったが死に至るようなものではなく、数日入院すれば直ぐにでも元の生活に戻れるようだ。


 まあそもそも入院という措置は、血気盛んな生徒たちを休ませる為の口実という側面も大きいのだが。


「……体の方は何ともないか?」

「うーん……まあ、今はめちゃくちゃダルいくらいですね」


 戦闘終了直後は右手が焼かれるような、それでいてねじ切られるような尋常ではない痛みがあったが、それも応急処置で封印を施した際に落ち着いていた。

 尤も、暫くは余韻のように激痛が残っていたのだが。


「……むぅ、やっぱあんまりよくはないな」

「何がですか?」

「侵食状態だよ」


 右腕を中心に将真の体を触診していた華蓮が、その診察結果に顔を顰める。

 将真自身は体のだるさ以外の問題は感じないのだが、華蓮が言うのなら不味いのだろう。


「思いの外、侵食が進んでる。今回みたいな無茶をあんまり繰り返すようなら……持って後二年って所かな」

「……持って二年っていうのは」

「決まってるだろう。侵食に精神が限界を迎えて、お前の体を使って魔王が覚醒するまでの期間だよ」


 具体的な上に、そう遠くない時期の予想。

 これには将真の顔も思わず引き攣った。


(そりゃおいそれと暴走させるつもりは無いけど、流石にちょっとキツイな……)


 自分が自分で無くなることも恐ろしいが、それ以上にこの体で魔王が目覚めたら仲間を傷つけ、或いは殺めることもあるだろう。

 それを想像すると恐怖しかない。


「……まあ、そんな都合のいいことは無いだろうが、あくまで今後全く暴走させることがなくても、長くて四年だ」

「それだってあんまり遠くはないですよね……」

「馬鹿言え。そんな頃には魔王の力をお前の中から叩き出す手段がとうに見つかっているだろうよ。七年前の悲劇を繰り返さないためにも、こう見えて私を中心に研究陣がかなり尽力している」

「それは……ありがたい話です」


 それは将真が戦う力を失う可能性を示唆しているのだが、もしそうだとしても、やはりこんな危険な力は持ち続けていたくないものだと、改めて実感したのだ。


(……まあ、この力がなきゃあの怪物を倒すのは無理だっただろうけど)


 遥樹ですら、〈巨大化〉が使える〈巨人族〉に致命的なダメージを与えるのは困難なのだ。

 魔王の力の無い将真では、大したことも出来なかっただろう。


「お前の為だけじゃない。柚葉の願いもある。それに、世界を滅ぼさせる訳にも行かないからな」

「__私がどうかした?」

「あら、柚葉__と、鷹虎も一緒だったのね」

「ああ」


 丁度華蓮の研究室の扉を開けて現れ、彼女の言葉に反応した柚葉。

 それに反応して瑠衣が顔を上げると、柚葉のすぐ後ろには頭二つ分ほど背の高い大男が立っていた。


(……この人が、瑠衣さんと同じ副団長の一人)


 将真もつい先日、その姿を画面越しで初めて目にした。

 その時は特に何かを感じることもなかったが、実際にその姿を目の当たりにすると、畏れを抱くほどの威圧感に思わず唾を飲み込んだ。

 そして将真に向けられる視線を、鷹虎は真正面から受け止め見下ろす。


「……お前が、器だそうだな」

「……そ、そうです、けど……」

「……あまり、こいつに心労をかけてやるな」


 将真に言い聞かせるような口調で軽く背中を叩いてくる鷹虎に、柚葉は少し驚いたような表情を向ける。

 そんな様子に目をくれることも無く、鷹虎はその場で踵を返した。


「あ、あの、鷹虎さん……?」

「なんだ」

「ここに用事があったんじゃ……」

「お前の弟__魔王の器の様子を見に来ただけだ」


 それだけ告げると、呆然とした一同を前に、鷹虎はその場を立ち去ってしまった。

 少しの間、その様子を惚けた様子で眺めていた柚葉だったが、すぐに気を取り直して将真の方へと向き直る。


「……しょーくん、体は大丈夫?」

「その呼ばれ方は結構久々だな。出来れば人前では恥ずかしいから遠慮して欲しいんだけど……」

「うーん……まあ悪いけど、私は気にしてないから」

「はぁ……華蓮さんたちには伝えたけど、まあダルいくらいで特別酷い症状があったりするわけじゃないよ」

「そっか。それなら、良かった」


 安堵したように息を着くと、椅子に座る将真の目の前まで歩み寄ってきた柚葉は、彼の頭に手を置いて優しく撫でた。


「……柚姉、人前なんだけど……」

「分かってる。分かってるわよ」


 柚葉はそう口では言うものの、本当に理解しているのかが疑わしい。

 事実、頭を撫でるだけでは飽き足らず、将真の体をゆっくりと抱き締めるまでし始めたのだから、流石に気恥ずかしさで将真の顔も熱くなってくる。


「……柚姉、どうしたんだよ」

「……どうもしないわ。ただ、いつも通りで安心したってだけ」

「あ…………そうか……」


 仕方がないと分かっていながらも、将真が魔王の力を使い続ける事を一番良しとしないのはおそらく柚葉だろう。

 それは彼女にとって最も愛しい人が過去、将真と同じ状況下にあって、そして失われてしまっているからだ。

 その話はもう、将真も柚葉の口から聞いている。


 恥ずかしくて面と向かって言うのは難しいが、将真にとっても実姉の柚葉は大切な存在だ。

 そんな彼女を、宿主を殺めさせるという、七年前と同じような形で苦しめるつもりは当然ない。


 彼女が言う心配したというのは、ただ弟の身を案じる姉としての言葉だけではなく、鷹虎が言った、あまり心労をかけるなと言うところにも関係してくるだろう。


(魔王の力の暴走なんて、柚姉にしてみりゃ心臓に悪いもんだよな。気をつけなきゃ……)


 今回はやはりしょうがない事態ではあったが、今後は軽率に魔王の力を暴走させることのないよう今一度肝に銘じ、将真は柚葉を優しく抱き返した。




 華蓮の研究室前から立ち去った鷹虎は、あの襲撃以降ずっと考えていた。

 おそらく、グレイスを逃がしたのであろう、魔王軍側の人物について。


 〈日本都市〉側にはそれなりの負傷者が出たものの死者はなく、敵の部隊を壊滅させ追い返す事が出来たのだから、成果としては十分過ぎる。

 それでもやはり、グレイスほどの戦力をあの場で仕留めきれなかったのは惜しい。


(だがそれ以上に、助けに来たらしき何者かは相当に強かった)


 あのままもし戦闘になっていれば、かなりの被害が出ていたかもしれない。

 鷹虎がそんな想像をするくらいの相手。

 そしてその気配にも覚えがあった。

 脅威度としては相当なものになることは間違いなく、明確に記憶していないことが悔やまれる。


(俺でも覚えがある奴……敵側にそんなのがいたか?)


 少なくとも、鷹虎にそんな記憶はない。

 今まで相対した敵は全て打ちのめして来たのだから、少なくとも以前接触した時は敵ではなかったはずだ。

 無論、取り逃した、或いは見逃した取るに足らないほどの弱い敵が逃げ延びて成長した可能性もあるが。


(感知魔法が得意ではない俺でも覚えがあるなら、元味方か? だとすれば、身近の誰かのはずだ)


 あまり考えたくない可能性だが、それでも彼は考える。

 果たして、最近消息を絶った知り合いがいるだろうかと。

 考えても中々思い当たるものでは無い。

 死んでいった者たちは何人かいるし、敵側に寝返ることが分かっていたなら間違いなく始末している。


 魔力に覚えがある知人で、死者でも始末された裏切り者でもない、敵側に流れ着いた消息不明者。


「…………まさか」


 数年前まで遡り、その人物に思い当たってしまった鷹虎は、驚愕に表情を強ばらせ、思わず心の声が出てしまっていた。


(これがもし本当なら、酷い話だな……一度、団長あいつに話を通しておくか)


 杞憂なら構わないのだが、もし的中してしまえば非常に頭の痛い問題だ。

 盛大なため息をつく厳しい表情は、鷹虎から放たれる威圧感をより一層強めるが、近くに誰もいないことだけが幸いだった。




 その頃、退院した第四小隊にて。


「…………ねぇ、機嫌戻してよぅ」

「……別に、俺ァいつも通りだ」

「そうは見えないよ」


 不機嫌が全く隠せていない猛の様子に佳奈恵はオドオドとして、美緒は呆れたような口調で窘める。


 正直、退院したばかりの今はまだ体を休めるべきではあるのだが、精々体力と魔力が回復しきっていないだけだ。

 怪我はもう完治し、動けない訳では無い。

 むしろ、体を動かす分には支障がないのにじっとしているのは猛の性分に合わず、体が訛ってしまわない為にもすぐに学園にある鍛錬室を借りていた。


 尤も、何部屋かある鍛錬室も普段から埋まっている事が多く、今回借りられたのはたまたまでしかないが、だとしても猛は別の場所で鍛錬に打ち込んでいただろう。


「ねぇ、何でそんなに怒ってるの?」

「……怒ってねぇ」

「だから、そうは見えないんだってば。私たちに……佳奈恵にまで、隠し事?」

「…………チッ」


 美緒の少し卑怯な攻め口に、猛は僅かに表情を引き攣らせる反応を示して舌打ちをする。

 他人に対しては傍若無人な振る舞いが見受けられる猛だが、仲間に対してはそうでもなく、誠実に接しようと努力しているのを佳奈恵と静音は知っていた。

 まして、その二人に詰め寄られる形ともなれば、猛も黙りを決め込んではいられなかった。


「…………俺は、〈巨人族〉相手になんも出来なかった」

「で、でもそれはみんな一緒だよ……?」

「なわけあるか。アイツが……将真だけが、倒す術を持ってやがった」

「それこそ、猛やみんなの頑張りがあったから出来たことじゃない?」

「……だとしてもだ」


 確かに、猛を含めた六人の尽力があって〈巨人族〉に隙を作る事が出来て、将真の手によって仕留めるチャンスが生まれたのは事実だ。

 だが、あの時の将真の攻撃は、咄嗟の防御に間に合ってしまった〈巨人族〉の腕ごと、急所を貫いていたのだ。

 その光景を見た時から、猛は考えていた。


 本当に、隙を作る必要があったのか。

 自分たちがわざわざ手間をかけずとも、将真一人で倒しきれたのではないだろうかと。


 そして将真は立て続けに、三十メートルクラスの〈巨人族〉を二体も仕留めてしまった。

 無論、トドメは手の空いている面々で実行したのだが、将真がいなければ、倒す事は先ず不可能だっただろう。

 それどころか、最終的には大半の面々が限界に達して、魔王軍とまともに戦うことすら困難な状態に陥っていたはずだ。

 将真がおらず、足止めが長引いていたら、本当に全滅していてもおかしくない場面は幾つもあった。


 結局、将真に救われた形になるのだ。


(……アイツはいつもそうだ。まだ魔戦師として学び始めて、戦い始めてたったの半年だってのに。魔王の力がなきゃ大したことは出来ねぇ癖に……!)


 それでも、使用者本人も忌々しく思うその魔王の力で、将真は何度も窮地を救ってきた。


「アイツがいなかったら、俺らは無事じゃ済まなかったかもしれねぇ。まただ。また……俺は、勝てなかった!」

「それは……でも、将真くんが魔王の力を使ってるからで、本当なら猛の方が__」

「んなこたァ分かってんだよ! だからだ……だから、魔王の力を使ってる時のアイツに勝てなきゃ意味がねぇ」


 編入生組である将真はまだ、魔戦師としての実力も経験も浅く、普通に戦えば猛の方が圧倒的に強い。

 そんな分かりきった勝敗に拘るのは意味が無い。

 将真との戦いにおいて、猛にとって価値のある勝利があるとすれば、それは魔王の力を暴走させた、封印がない状態の将真に勝つ事だ。


 猛にとってはあまり認めたくない事実ではあるが、将真は〈裏世界〉に来たばかりの時から既に〈表世界〉出身とは思えないほど戦い慣れていて、思いの外高い水準にある戦闘能力を認めざるを得なかった。

 そして魔王の力を解放してしまえば、猛を凌駕するという事実も。


 それが猛には許し難いのだ。

 必死で努力し、足掻いて築き上げてきた自らの力が、数年間が、否定されているような気分になるから。


「これ以上、何度も負ける訳にはいかねぇ。誰が何と言おうと、俺自身が認めねぇ。次は絶対に……叩き潰してやる」

「猛……」


 怨嗟すら滲ませて悔しげな表情を剥き出しにする彼を見て、佳奈恵はそれ以上何を言えばいいのか分からず、手を伸ばそうとして途中で辞めた。

 何も言葉をかけられないのは静音も同じだった。


 幾ら猛でも、全解放された魔王の力に抗おうと思ったら、それこそ同じ土俵に立たない事には無理だろう。

 それでも、二人は彼を止める事は出来ない。


 猛が過剰なまでに強さを求める、その理由を知っている二人には、無責任な事は言えなかった。

これにて四章完結です!

お付き合い頂きありがとうございます!

多分五章は早くても二ヶ月後くらいになってくるかと思いますが待ってて貰えると幸いですm(_ _)m


ブクマや評価、感想等あればぜひよろしくです!

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