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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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十八話「〈巨人族〉との死闘」

 少し遅れて動き出したにも拘わらず、莉緒はいつの間にか先頭を疾走していた。

 やはりそれだけ、彼女の足の速さは群を抜いているという事だ。


 だが、そんな物はあくまで莉緒の持ち味として分かりきっている事で、当然彼女も、あの魔王軍の襲撃事件から成長している。


 それは、莉緒を知るものからしたら目に見えてわかるほどの成長で、つい先程も遥樹を相手に見せつけたところだ。


「さあ、行くッスよ__」


 莉緒の足が、強烈な力で地面を踏みしめる。

 その直前、彼女の体を魔力が覆い、瞬く間にその装いを変化させた。

 〈神気霊装〉の第二解放状態だ。


(神技〈日輪舞踏〉__)


 莉緒の神技は、最大火力をいきなり放つと体にかかる負担が大きいために、本来なら順番に段階を上げて体を慣らす必要があった。

 ところが先程の遥樹との衝突時には、段階を踏まずにいきなり七段階目を打ち出して見せた。

 尤もそれは止められてしまったのだが、以前からの鍛錬が実を結び、遂に大幅に段階を飛ばす事ができるようになったのだ。


 それでも、火力と負担が段違いに大きい八段階目以降は飛ばせないのだが、この事態を想定していなかったとはいえ、最大火力を打ち出す為の布石は既に打たれている。


「__〈八重桜〉!」


 莉緒の足が地面を離れ、目前まで迫っていた〈巨人族〉の足へと、神速の八連撃が一瞬にして叩き込まれた。

 同時に、ガラスが砕け散るような音も響く。


「ぅげ……」

「ヌゥ!?」


 脛部分を切り刻まれた〈巨人族〉は、痛みに少し顔を歪めながら、ようやく近づいてきていた彼らに気がついたらしく、視線を足元に落とす。

 莉緒たちからすれば、与えた傷は出血して肉まで見えるほどで、相当酷く痛々しく見える。

 だがそれも、〈巨人族〉の巨体の前ではそれほど大きな傷にはならなかった。

 加えて、短刀が一撃で砕け散るほどに硬く、莉緒は思わず顔を顰めて呻いた。

 とはいえ魔力で生成した武器は魔道具に比べると脆く、むしろたった一撃与えるだけでも耐えた事の方が驚きだ。


 これで紅麗がいたならこの場は勝利で収められただろうが、この場に彼女はいない。


「矮小な人間風情が、良くもまあ俺の体に傷をつけられたものだ……だが所詮はその程度よ__グォッ!?」


 五十メートルという脅威的な高さに位置する頭部に笑みを張りつけた〈巨人族〉だったが、唐突に顔の前で起きた爆発に不意をつかれ、少し仰け反った。

 目の前の爆煙が晴れて、〈巨人族〉が睨めつけるような視線を向けた先にいたのは、莉緒とは少し離れた位置で魔法を放った静音だ。


(私の魔法ではどうしたって〈巨人族〉にダメージが通るほどの攻撃はできない。でも気を逸らす程度なら……!)


 素早く森の中を縦横無尽に動き回り、静音が投げているのは苦無だ。

 魔法を仕込んだ苦無を投げる事で、彼女の場合は普通に魔法を放つよりも早く標的に届いて炸裂する。

 無論、静音の想定通りダメージにはなっていないが、それでも繰り返し顔を狙われているせいか、苛立ちが募っている様子は見て取れた。


「ヌゥ、鬱陶しいぞ人間……ガァッ!?」


 羽虫を追い払うように腕を振り回し苦無を蹴散らす〈巨人族〉だったが、今度は明確に顔を顰めて痛みに声を上げた。


「よぅし、多少は効いてるな!」

「いいからさっさと動く!」


 今度は、杏果と響弥の二人がかりによる重い斬撃だ。

 響弥もかなりのものだが、学生の身でありながら杏果の火力は都市でも有数なのだ。

 見た目より素早い〈巨人族〉であっても、二人の攻撃なら当たればダメージにはなる。

 それでも、人間で言うなら脛をちょっと強めにぶつけた程度のものだろうが。


「鬱陶しい奴らよ! フンヌッ!」

「うぉっ」

「ちょおっ……」

「うわっ!」


 苛立ちが限界に達しようとしていた〈巨人族〉が足を振り上げ、体重をかけて地面を踏み抜く。

 その結果、局所的な大地震のような効果を生み出し、地面は大きくひび割れて地形は崩壊し、地に足をつけていた杏果と響弥の足が大きく浮いた。


 次点で近くにいた莉緒と静音は、木の上を駆け回っていた為に杏果たちほどの影響は受けなかった。

 だが、木も根っこから捲れ上がって軒並み倒され、途端に安全な足場を失う事となった。

 更に、止むを得ず酷く変わり果てた地面に足をつける静音を狙って、〈巨人族〉の足が伸びてくる。


「__まずは貴様だ、煩わしい人間ッ!」

「う、くぅっ!」


 やはり見た目に反して素早いが、それでも躱せないほどでは無い。

 地形に足を取られそうになりながらも、静音は苦しげに何とか回避する。

 それでも条件は杏果たちと同様になり、〈巨人族〉の踏み込みの二次災害を受けるようになってしまった。


 その結果。


「……あっ、だッ!」


 〈巨人族〉の方にばかり意識が向いて、足元への注意が疎かになり、崩れた足場で大きく足を踏み外してバランスを崩して転んでしまった。

 それだけならば何の問題もないのだが__静音の頭上には、〈巨人族〉の足が迫っていた。


(しまった! まずい、逃げなきゃ__いっ!?)


 すぐに上体を起こして立ち上がろうとするが、足に痛みが走り静音は表情を歪める。

 どうやら踏み外したせいで足を捻挫してしまったようだった。

 勿論、ただ捻挫したくらいなら大したことは無いのだが、今はあまりに状況が良くない。


(だめ、間に合わない……!)


 動けないことはないが、動きが鈍ってしまった。

 〈巨人族〉の足は相当大きく、人間の少女一人を踏み潰すくらいは容易で、ちょっと移動しただけでは躱せない。

 迫ってくる巨大な足に、悪手だと分かっていても思わずその場で縮こまってしまう。

 度重ねた失敗に後悔しながら死を覚悟し、恐怖と痛みに耐えるように、ギュッと強く目を瞑る。


「__させるかァ!」

「諦めんじゃ、ないわよ静音ぇッ!」


 そこに割って入ってきたのは響弥と杏果。

 降ってきた巨大な足を、二人は声を上げながら武器を掲げて迎え撃つ。

 だが、二人の膂力が如何に人並外れていようとも、〈巨人族〉の重量に対抗するのは容易いことではない。


「ぐぅ……!」

「いぎッ……!」


 接触と同時にかかる重みに、二人は耐えきれずに片膝をついた。

 それだけでは済まず、力み過ぎて鼻や耳や目と、あちこちから血が流れ出す。

 更に踏み潰されるギリギリで踏み止まる二人の体のうちでは、骨が軋みひび割れ、筋繊維が切れるような不快な音が鳴っていた。


「な、なんで二人とも……」

「ばか、いうんじゃ、ねぇ……!」

「なかまを……みすてる、わけ……ないでしょ……!」


 静音の失敗の結果とはいえ、彼女は元より一番リスクを負う立場を受け持った。

 囮になるくらいしか、出来ることが思いつかなかったからだ。

 間に合わないと言うならまだしも、そんなリスクを背負ってくれた友を見捨てるという選択肢を、杏果も響弥も持てなかったのだ。


 それに二人は、わざわざ死にに来た訳では無い。

 咄嗟に体が動いてしまったのは確かだが、ここから押し返せる見通しも一応持っていた。

 それでも、どちらか一人だけでは決して耐えきれなかったのだが。


「じ、んぎ……〈雷槌ミョルニル〉……!」

「〈グランド……ピラー〉!」


 響弥の体から凄まじい稲妻が迸り、強烈な雷が〈巨人族〉の足から体全体を伝っていく。

 更に杏果は地属性の魔法で、重量を支える為の支柱を複数、地面から生み出した。


「グオォォッ!」


 これにより二人の負担は激減し、強烈な雷で〈巨人族〉が大きくのけ反ったことで、杏果と響弥は尋常ではない重力から開放された。


「っしゃあ!」

「ざまぁ、ないわね……!」


 血を撒き散らし、息も絶え絶えになりながらも、二人は強気に声を上げた。


「……ごめんね。ありがとう、響弥、杏果」

「気に、すんなよ……こちとら、人よりは丈夫、だかんなぁ……」

「それに……礼を言うのは、まだ早い、わよ……」


 静音の言葉に答えながらも、呼吸を整えて僅かでも体を休める二人は、おそらくすぐにでも体勢を立て直すであろう〈巨人族〉を睨みあげる。

 実際に〈巨人族〉は、大きく足を退いたが、バランスを崩すほどではなかった。


「おのれぇ……存外やるではないか__人間風情がぁッ!」

「うっ……!?」


 怒りを露わにする〈巨人族〉は怒号を撒き散らす。

 その瞬間、正面から聞いてしまった杏果たち第三小隊の体が、縛られたように固まって動けなくなる。


「こ、これは……」

「〈威圧〉か……!」

「なんて、馬鹿でかい声なの……!」


 その怒号は一種の技だ。

 怒気を孕んだ大声に魔力を乗せて、相手を萎縮させる効果がある。

 存在感だけでも既に相当な威圧感を感じるが、そんな芸当ができるのはこの世で〈巨人族〉と高位の〈龍種〉くらいだろう。


 暫くは全身が痺れたように動けなくなるため、完全に隙だらけ。

 この状態で攻撃を受ければ当然命はないが。

 それでも影響を受けたのは、〈巨人族〉の正面に位置する第三小隊と、足元付近にいた莉緒だけだった。


「__るっせぇんだよ、このデカブツがァッ!」

「グゥッ!?」


 〈巨人族〉の背後に回っていた猛は、本人の性格もあって威圧の影響を殆ど受けていなかった。

 付近の生き残っている木を駆け上がり、〈巨人族の〉背後で跳び上がった彼は、その大き過ぎる背中に目掛けて炎の魔剣を振り下ろす。

 限界まで魔力を蓄積させて放たれた一撃は、それでも〈巨人族〉の背中を浅く切り付ける程度にしかならなかったが、猛の得意とするのはただの火属性ではなく爆属性だ。

 切りつけた部分が爆発を引き起こし、〈巨人族〉の体が今度は前方へと傾き始める。


 とはいえこのままではすぐに立て直せてしまうだろう。

 口惜しい話だが、猛はそれを理解していた。

 それでも彼は、特にそれ以上追撃をすることも無く着地へと移る。


 次の攻撃へと、残る一人が既に行動に移していることに気がついていたからだ。


「__これでも、食らえぇッ!」


 猛よりも、そして〈巨人族〉の頭よりも更に高い位置。

 そんな高さまで跳び上がっていたリンが、その後頭部目掛けて急降下を始めていた。

 それも、ただ降りて来ているだけでは無い。

 会得したばかりの名も知らない〈神技〉である盾を前面に発動させた状態だ。


「__ヌグッ!」


 リンによって齎された強烈な打撃は、やはり〈巨人族〉には大したダメージにもならず、更に少し前傾させるだけに留まった。

 転倒にも至らなかったが、そもそも目的は隙を作らせ急所を晒させることにあったので問題は無い。


 あちこちに意識を割きながら体勢を崩している、まさに求めていた状況。

 彼らがこの〈巨人族〉を倒すならば、ここが最大のチャンスだ。


『__将真!』


 前線で戦った彼らが一同に声を上げ__直後、〈巨人族〉も察するほどの、とんでもなく濃密な魔力の収束と肌がひりつくような感覚に、思わず彼らは生唾を飲み込んだ。




 離れた位置で待機していた美緒、佳奈恵、将真もただその時を待っていた訳では無い。


 おそらくすぐにでも訪れるであろうチャンスに備えて、まず美緒が射線を開けるために魔法で木々を薙ぎ倒す。

 そして万が一、攻撃や余波が及ぶ可能性を考慮して佳奈恵が結界を張る。

 将真は念の為、すぐにでも次弾を飛ばせるように生成した先端が鋭利な棒を二本地面に突き刺して、もう一本は右手に握って既に投擲の姿勢に構えていた。


 いつ来るか分からないチャンスを見逃さないように神経を尖らせる将真の集中力は、尋常なものでは無い。

 近くにいるからこそ分かる事ではあるが__


(なんだっけ、確か……ゾーン状態? もう自力ではいるのは難しいって聞いてたけど……)


 〈裏世界〉に来た直後くらいまでは自力でゾーンに入れるという脅威的な才能を持っていた将真だったが、その上で完膚無きまでに打ちのめされた事が影響して、それ以来は自力で入る事が出来なくなったそうだ。

 だが、今の彼の状態は間違いなく出来なくなったはずのそれだった。

 ならばこれは自力で入った訳ではなく、条件が揃った結果、自然にゾーン状態に入ったのだろう。

 それは凄まじいことなのだが。


(……でもやっぱり、それだけであの防御力を貫通出来るとは思えない)


 誰も口にしなかったが、それはおそらく、全員が抱いているであろう不安だった。

 尤も、将真が失敗したところで結局は足止めに移行するだけなのだが、やはり倒す事ができるならその方が良い。


 そんな事を美緒が考えている間に、遂に〈巨人族〉が前傾姿勢でバランスを崩す。

 それは決して大きくとは行かないものの、間違いなくチャンスだった。

 そして声をかけようと将真の方を振り向いた二人の少女は__異様な音に思わず開きかけた口を閉じた。


 将真が握る棒に、とんでもない量の魔力が収束していくのを感じたからだ。


「……何を……何を、しているの?」

「……〈黒嵐こくらん〉の応用だよ」


 〈黒嵐〉というのは、将真がもつ〈神技〉の如き協力な技の一つだ。

 棒に濃密な魔力の渦を纏わせて叩きつけ、炸裂と同時に嵐を思わせる竜巻を引き起こす一撃。

 彼が言う応用というのは、その渦を纏う性質だ。


 将真も、いくら自身を強化したところで、ただの投擲で貫通させられるとは思っていない。

 だからこそ、可能な限りで工夫を凝らした。

 将真が右手に握る棒の内側では、〈黒嵐〉をイメージした魔力が渦巻いている。


「そうか、回転させて軌道の安定と貫通力を……」

「で、でもそれなら初めから言ってくれれば……」

「成功するかは分からないからな。下手に希望を持たせるよりは、失敗を前提に動いてもらった方がいいだろ。俺みたいな素人のやる事だしな……」


 言いながら、将真は上体を少し反らす。

 右手に握る棒はギチギチと音を立て、普通なら握っている手が壊死しかねないほど濃い魔力なのだが、どうやら変質している異形の右手には差程影響が無いらしい。


 そして将真は、少し助走をつけて踏み抜かんばかりに強く地面を踏み締めて。


「__喰らえッ!」


 槍投げのように力強く棒を投擲した。

 棒は空気をさく、どころか爆ぜるような音と共に、狙い違わず〈巨人族〉の急所へと飛んでいく。


 そして直撃の瞬間、驚くべき事がたち続けに起きた。

 まず、バランスを崩した〈巨人族〉だったが、倒れることも構わず、両腕を急所を守るように交差させる。

 これは防がれる、と一同は落胆したが、将真はそんな思考を持ち合わせてはいなかった。

 棒が〈巨人族〉の腕に触れた直後。


「……何?」


 木の幹のように巨大な両腕をまとめて貫き、それだけに留まらず、その黒い一閃は見事に〈巨人族〉の急所を撃ち抜いたのだ。

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