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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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十五話「集結する小隊」

「くうッ……!」

「ぐ……おぁ!」


 ぶつかり合った遥樹と将真の攻撃は強烈に反発し、二人揃って大きく後ろへと弾き飛ばされる。


「うぐへッ!」

「いったぁ!」

「無事ッスか将真さん!?」

「おー……すまん二人とも。何とか助かった……」


 とても受け身が取れる体勢ではない吹き飛び方をした将真だったが、リンと莉緒が二人がかりで後ろから受け止めてくれたことにより何とか事なきを得る。

 対する遥樹は流石と言うべきか、何度か地面や木を蹴って勢いを殺し、最終的には地面を滑るように難なく着地して見せた。


「くっ……第三小隊だけじゃなかったのか」

「げぇ、あんたたちいたの!?」


 苦笑と共に後退してきた遥樹を見て、次いで第一小隊に視線を移した紅麗が顰めっ面で呻く。


 紅麗が第三小隊に仕込んだものは、仕込んだ相手以外を感知出来る訳では無い。

 第三小隊の場所は割れているのだから、慌てることは無いと日が昇ってから行動を始めたのだが、だいぶ近づいてきた頃には他にも反応があると一応気がついていた。

 その時は、てっきり別の小隊と戦闘中なのだと思い、共闘しているとは考えていなかったのだ。

 第二小隊の唯一の弱点である、索敵能力の凡庸さが引き起こした結果と言ってもいいだろう。


 当然真那もついてきているとはいえ、彼女の本領を活かすために少し離れた位置で潜んで待機している。

 この場の戦力的には第二小隊が少々不利だ。


「悪い、つい咄嗟で使っちまった……」

「し、しょうがないよ」

「まあ現状は暴走してないみたいですし、戦闘が長続きしなければ結果オーライッス」


 一方で第一小隊も、将真が使うまいとしていた魔王の力を、一瞬の出来事で使わされた現状に少なからず動揺していた。

 将真の姿も肉体的な変化と共に、普段の制服から魔王の力を顕現させた時の装束へと変化している。

 それでも猛と戦った時とは違い、半ば暴走気味と言うようなこともない。

 制御は相変わらず困難で、正直できているとは言い難いが、暴走していないだけでも上出来だ。


「……ごめん紅麗。そっちは任せてもいいかな?」

「……しょーがないわね。やるだけやってやるわ」


 流石の紅麗も、三対一で勝てると思うほど第三小隊を舐めてはいない。

 むしろ撤退を考えないものとする場合、負ける可能性の方が遥かに高かった。

 それでも拒否はせず、遥樹の要請に溜息混じりで応じ、改めて第三小隊へと向き直る。

 遥樹も紅麗から視線を外し、剣を前に構えて将真たちを見据える。


(なんつープレッシャーだよ……!)


 びりびりと感じるほどぶつけられる闘気に、三人の表情は引きつったように固まる。

 紅麗とはうってかわり、遥樹は三対一でも普通に勝ちを取りかねない。

 だが、このまま動かずにいてはただやられるだけだ。


「……しょうがないッスね」

「や、やるの?」

「自分が何とか遥樹さんを抑えるんで、二人は決定打を打ち込んできて下さい。あと真那さんの姿が見えないって事は、多分狙撃してくると思うんで、警戒はしておいて欲しいッス」

「……う、うん、分かった」

「オッケー。やるぞ」

「将真さんは暴走させないように、特に気をつけてくださいね」

「何度も忠告されなくたって、分かってるっての__!」


 将真が少し鬱陶しそうに顔を顰めて応じると、三人は一度散開し、それぞれで遥樹に向かって攻めていく。

 まず正面から向かっていくのは、勿論莉緒だ。


「むっ」

「〈日輪舞踏〉__〈七輪華〉!」


 地面を蹴り、人の目ではとてもじゃないが追えない神速を得て遥樹へと切り込む。

 本来なら人に向けていい威力ではないが、遥樹が相手とあっては躊躇っていられない。

 そんな莉緒の判断は、ある意味では正しかった。


 間違いなく遥樹の目でも追えない速度だったはずだが、莉緒の短刀は遥樹が逆手に構えた剣で見事に受け止められていた。


「は、なんで……!?」


 勿論片手ではなく、もう片方の手は剣の腹に添えられていたが、それでも驚くべきことだった。

 受け止められた事で反動をその身に受けた莉緒は、その場で硬直してしまいすぐに動くことが出来ない。

 そして隙だらけの莉緒を見逃すはずもなく、遥樹は悠々と剣を高く掲げる。


(ヤバッ、回避が__)


「莉緒ちゃん! __ッ!?」


 莉緒を助けるために動こうとするリンだったが、誰もいないガラ空きの方向から強烈な狙撃を受けて、衝撃に足がふらつく。

 だが、直撃にはならなかった。

 莉緒の警告通り、ガラ空きの方向を警戒はしていたのだ。

 予め展開しておいた半透明の盾が、リンまで弾を届かせずに弾き返し、その際に大きな接触音が響く。


「むぅ……!」


 とはいえ、もたついた事で莉緒の援護には間に合わない。

 遥樹の剣が振り下ろされ、莉緒が切られる光景がありありと想像出来てしまったリン。

 そんな絶望的な状況を掻き消すように、将真が声を上げた。


「莉緒、何とかして下がれ__!」

「し、将真さん……!?」

「なっ……」


 そして将真の方を向いた莉緒と遥樹は、その様子に絶句した。

 序列戦の時にも一応見せていたが、将真が生成するのは黒炎の球体の魔法だ。

 以前より黒炎の球が大きい所を見ると、やはり若干コントロールは怪しいものの、三つほど生成したそれを構わず遥樹に向けて放つ。


 軌道もめちゃくちゃだったが、それでも二つは遥樹と莉緒の近くを掠め、もう一つは直撃の軌道で遥樹を襲う。


「仕方ない、ね!」


 結局、遥樹は掲げていた剣を振り下ろすこと無く、余裕を持って後ろへ跳んで回避。

 その様子に将真は眉を顰め、少し悔しげな表情を浮かべる。


「チッ、やっぱそう簡単には当たんねーよな……」

「すいません……威勢のいいこと言っといて簡単に止められちゃったッスね」

「しょうがねーよ。相手が遥樹じゃあな」


 咄嗟に転がって回避をした莉緒のすぐ側に駆け寄る将真。

 二人は難しい表情で顔を見合わせるが、それで遥樹に通用するような妙案が思いつく訳では無い。

 そこへ心配そうな表情を浮かべたリンも、すぐに駆け寄ってきて合流する。


「り、莉緒ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫ッスよ。ただ、バラバラで攻めても難しそうッスね。どうしたものか……」


 攻め口が見当たらず、頭を悩ませる第一小隊。

 だが、悩ましく思っているのは彼らだけではなかった。


(……将真。やっぱり君は異常だよ)


 余裕の表情の裏で、遥樹は将真の魔法に密かな戦慄を感じていた。


 魔属性でありながら火属性のような炎を有しているのは、おそらく猛の物を参考にした結果なのだろう。

 着弾した先に抉られたような痕跡を残す程の威力だが、燃え広がるどころか火がついた様子もない。

 見た目は炎のようでも、ただ炎のように揺らめく魔力でしかないのだ。


 参考にしたと言っても、将真が使う魔法は猛が得意とする〈爆炎弾〉と違い、もっと単純で簡単な魔法だ。

 だが、簡単と言っても魔法の習得には本来、それなりの時間を有する。

 少なくとも三ヶ月ほど前の事件の時は、将真は攻撃系統の魔法を使っていなかった。

 敢えて使わなかったのではなく、使えなかったからだ。


 事件の後、一ヶ月ほどは慌ただしくしていたから、攻撃系統の魔法の練習に当てられた期間は長くても一ヶ月程度のはず。

 早く習得するにはコツがいるが、その場合はどうしても癖が染み付いてしまう。

 その癖が、将真からは見受けられなかった。


 例えば、将真が使ったような球体状の魔法は、初めのうちは掌や指先に魔力を集中させると成功しやすい。

 そうして撃ち出すイメージをすれば、射出出来るようになる。

 だが、将真は自分の周囲の空間にまとめて三つも生成して見せた。


 簡単な魔法とはいえ、これほどの完成度。

 たったひと月のうちに習得と癖の修正を成したと言うのなら、それは尋常ではない。


(それに、厄介なのは将真だけじゃないね……)


 三人を警戒しつつ、その視線は将真からリンへと移る。

 リンの動きを見る限り、射線が見えた様子はなく、真那の潜伏先が割れたと言うことも無い。

 だがそれはつまり、どこから狙撃されるか分からないものを防いだということでもある。


 とはいえ、リンが防御していた方面は、将真や莉緒がいた方向とは逆のがら空きになっていた方向だ。

 リンの方から狙撃がくるならそちら側だと、予想していたのかもしれない。


 問題は、真那の狙撃をほぼ完全に防ぎきったことにある。


(真那の弾丸はかなり強力だ。半端な防御では貫通させられるはず。それに、リンにそんな強力な防御系統の魔法が使えるなんて知らない……)


 〈十席〉に届かずとも、リンは実力者だ。

 舐めてかかれば痛い目を見る可能性は高いし、当然ある程度はリンの実力を調べてもいた。


 その情報の中に無い魔法がある。

 隠していたという可能性は極めて低いだろう。

 彼らは運悪く、厄介な事件に巻き込まれることがよくあった。

 その際に、今見せたような強力な盾があれば、間違いなく使っていたはずだ。


 それはつまり。


(……前例がないわけじゃないけど、まさか試験中に〈神技〉に目覚めたのかな? 都合のいい話だけど、真那の火力を防ぎきったならむしろ、そう考えるのが妥当だね)


 今まで、リンは〈神気霊装〉の第一解放は出来ていたが、それにしては珍しく〈神技〉をまともに使えていなかった。

 槍の扱いは上手いから、てっきり槍に関する攻撃系の〈神技〉に目覚めると予想していたし、おそらく本人もそう思っていたはすだ。

 その証拠に、ここぞと言う時は、強力な魔力を込めた槍で攻撃する事が多い。


 だから、盾だとは本人も考えてはいなかっただろう。


「……全く、厄介だね」


 その呟きとは裏腹に、遥樹の表情は楽しそうなものだった。

 対極的に、第一小隊は難しい表情を浮かべていたが、戦意は失っていない。

 むしろ確実に鋭さを増している。

 遠からず、再び攻めてくるだろう。


 だが、第一小隊が再度突撃してくることは無かった。

 その前に、不可解な地響きが発生したからだ。


「……なんだ、この」

「地震……?」

「……そういや昨日辺りから、ちょいちょい起きてた気がするッスね」


 確かに起きていた気がするが、元より地震の多い日本で生きていた将真だ。

 そうでなくとも、他の面々も魔戦師だ。

 身動きが取れなくなるほどでもないものだから、特に気にすることもなかったのだが。


 戦闘の手が止まったところを見計らってか、茂みの奥の方に隠れていた真那が遥樹の元に飛び降りてくる。


「……真那? どうしたんだい出てくるなんて」

「ごめん遥樹、指示にないことして。でもそれどころじゃないかもしれない」

「と言うと?」

「上」


 淡白に告げる真那が指を指す先は空。

 彼女につられて見上げると、確実に感覚が短くなっている地響きは明らかに地震ではなく、何かのぶつかり合いによる衝撃音だと一同は理解した。


 地響きと共に、空に虹色の波紋が広がっていくのを見たからだ。


「今のは……」

「……結界、かな?」


 リンの呟きは正解だった。

 試験場を覆う結界が、何かしらの衝撃を受けて振動している。

 虹の波紋はまさにその振動が広がっていく様子なのだ。


「ふぅん……どういう状況何だろうね?」

「それは分からないけど……あ」


 思案する遥樹と真那のそばに、異変を感じとった紅麗たちも戦闘をやめて駆け寄ってくる。

 そんな時、ミシッと嫌な音が彼らの耳に届いた。


 何かが罅割れるような音が。


「……まさか」

「結界が……壊されかけてるの!?」


 状況に思い至った紅麗は、まさかと言うように声を上げる。

 その間にも地響きは続き、遂には空にヒビが入っていく所がありありと見て取れるようになる。


「__莉緒ちゃん!」

「えっ……美緒!?」


 そんな時、後ろから声をかけられて振り向いた先には、第五小隊と行動を共にする第四小隊の姿があった。


「虎生たちも一緒か。一日ぶりだね」

「呑気に喋ってる場合じゃないにゃぁ。まずい事態だ。結界が機能してるか怪しいから戦闘は今すぐ__」


 止めろ、と虎生が呆れた様子で続けようとした矢先に、莉緒の元へと通信が入る。

 驚きつつも慌てて接続すると、焦燥を感じさせる表情の柚葉がモニターに映し出された。


『み__』


 画面の向こうでおそらく、全員の無事を確認しようと声を上げかけた柚葉。


 それを更に遮るように、聞いていたものの耳をつんざくような、大きな破砕音が響き渡った。


「なっ……」

「そんな……!」


 それが試験場を覆う結界が破壊された音だということは、その場にいた生徒たちが誰よりも理解していた。

 そしてその影響か、通信が強制的に切断される。


「うっ……」

「何の、音だ……?」


 ただ、今の今まで意識を失っていた佳奈恵と、朦朧としていた猛は状況を理解出来ないでいた。


「ちょっとそこで__」

「待ってるにゃぁ!」


 いの一番で動き出したのは莉緒と虎生。

 二人は付近の木の上へと物凄い速度で駆け上がると、結界の状態と破壊の原因を探るために周囲を見渡そうとした。

 だが、見渡すことは出来なかった。

 何故なら、見渡すまでもなく、あまりに目立ちすぎる原因がすぐに視界へと入ってきたからだ。


 今までなぜ気づかなかったのかと、自らを責めたくなる。

 それも当然だ。

 それは、木々を軽々と踏み潰し、なぎ倒すほどの巨躯だったのだから。


 それを確認した二人は、思わず絶句し引き攣った表情を浮かべた。


「な、なんでこんな所に、あんな化け物が……」

「……冗談じゃねぇ。ありゃ__〈巨人族ジャイアント〉じゃねぇか」


 そう。

 彼らが目にしたのは高位魔族の一角でもある〈巨人族〉だったのだ。

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