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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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十四話「異変の間際」

 小隊戦が五日目を迎えた朝。

 体を揺さぶられる感覚に、柚葉は目を覚ました。

 何度か瞬きをしてようやく目の焦点が合ってきた後、真っ先に視界に入ってきたのは呆れたような華蓮の顔だった。


「……おはよう。よく眠れたか?」

「……あ、しまった……寝ちゃってたのね……」


 ぼんやりとしたまま呟き、寝ぼけ眼を擦って横たわっていた体をゆっくりと起こす。

 場所は管制室。

 試験で問題が発生していても、学園ではいつも通りの日常がやってくるのだから、日中は柚葉も休んではいられない。

 ちゃんと仕事を終えてから落ち着きなく管制室に戻ってきた彼女は、疲れてそのまま寝入ってしまったのだ。


 団員たちも入れ替わりで休憩を挟みつつ、妨害電波の解除に取り掛かってくれていたのだが、結局夜になっても作業は終わらなかった。

 手が加えられているのはやはり結界の発動に使われている据え置き型の魔道具なのだろうが、どうやらかなり複雑な魔法を組み込まれているらしい。

 瑠衣も、未だに結界の調査や修正に時間がかかっているようで戻って来ていない。

 戦闘を主とする第一学園出身の柚葉には、正直専門外で理解が及ばない問題だ。


 時間を確認すると、既に午前十時を回っていた。

 これでも、日にちを跨いだ頃まで起きていた記憶はあったのだが。


「起きましたか柚葉さん」

「ええ、悪いわね。任せておいて私だけ……」

「構いません。この後、もし戦闘が起こるような事があれば、我々は何も出来ないと思うので……むしろ時間をかけてしまい申し訳ありません」

「……それで、どう?」

「もう間もなくです……よし、通信妨害の解除に成功しました! いつでも繋げられますよ」

「じゃあすぐに繋いで!」

「了解しました!」


 焦りを感じさせる口調で柚葉は指示を出し、団員たちは迅速に対応に移る。


「接続先は__そうね、とりあえず第一小隊の鬼嶋莉緒に」


 現状、どれだけの生徒が試験場に残っているか、柚葉もしっかりと確認しているわけではなかった。

 だが、実力を鑑みておそらく、明らかに他の小隊と実力差のある上位五小隊はまだ残っていると予想していた。

 そしてその中でも、イレギュラーな事態への対処能力が高い莉緒へと接続する判断は、間違いではないだろう。


 尤も、将真の身を案じる、彼女の私情が混じっていることは否定できないが。


(……早く。早く繋がって……!)


 少しの間、モニターは砂嵐状態でノイズのようなものが聞こえていたが、無事に通じたらしく莉緒の端末へと接続された。


 その直後、接続先から大きな破砕音が響き、管制室にいた全員が肩を揺らした。




 通信が回復するより前。

 五日目を迎え間もなく、日が昇ったばかりという早い時間から二つの小隊が接触し、戦闘が行われていた。


 そして、結果は既に見えていた。


「…………ぅ」

「ハァ……ハァ……くそが……!」

「猛……もう、これ以上は……」


 片方は美緒たち第四小隊。

 素の戦闘力が高い第二小隊には劣るものの、小隊戦のルールにおいて第四小隊はその次点の脅威度と言っても過言ではない。

 そんな彼らを追い詰めることが出来る相手は、かなり限られてくる。

 とはいえ第二小隊では無いのだが、ならばマシかと言われればそんな事は無い。


 疲労困憊の状態で膝を着く美緒の傍には、意識を失い横たわる佳奈恵の姿があった。

 そして二人を守るように立ちながらも、美緒同様にボロボロな猛。

 そんな彼の目の前に悠然と立ち、愉しげな笑みを浮かべながら雷電を纏う少年を見て美緒は思う。


 やはり学年序列ツートップは、次元が違うのだと。


(……残り二人の方はまだ対処出来る。でも、三人揃って一人にも敵わないなんて……)


 だが、それは無理もない話だ。

 彼は__虎生は、唯一学年最強の遥樹と対等に渡り合える、高水準の対人戦闘能力があるのだから。


 虎生の仲間二人は基本後方支援に徹するばかりで、こんな森の中では姿も補足できず魔法が届かない。

 そして虎生本人は美緒の半端な威力の魔法は意に介さない。

 現に、猛への巻き添えを考慮して放った魔法は、着弾点を凍りつかせてはいるが、虎生たちには全く影響を与えていない。

 だからと言って自棄になって、この至近距離で通用するレベルの魔法を考え無しに放てば、当然猛も佳奈恵もタダでは済まない。


 そうして手をこまねいている間に、美緒の魔力が切れかかっていたのだ。

 猛も非常に優秀だが、残念ながら虎生に敵うほどの実力はない。


 佳奈恵にしてもそうだが、第四小隊は昨日の第一小隊との戦闘の疲労を、解消しきれずに引き摺っていた。

 それが無ければ勝てたかと言われると、怪しいところではあるのだが。


「そろそろ、終わりでいいんでねぇの? 俺らの勝ちだぜぇ、これはよ」

「……うる、せぇ」

「もうボロッボロじゃねぇか。鬼嶋妹ですら息絶え絶えってくらいだろぉ?」

「……それ、呼びにくいでしょ。聞いてるこっちも、違和感あるし……美緒で、いいよ……」

「ほー? じゃあそうさせてもらうかにゃぁ」


 場違いな美緒の発言は、こんな状況でなければ余裕さえ感じられる言葉だったが、勿論実際はそんな事はなく、猛は少し目を丸くするに留めておちゃらけた様子で応じる。

 長めの前髪は目を隠して上手く表情を読み取れないが、少なくとも口元は変わらず笑みを浮かべている。


 そしてもう決着が見えているからだろう。

 後方支援に徹していた虎生の仲間も戻って来て、虎生の様子に顔を合わせて苦笑しつつ肩を竦めるような様子を見せた。


「……ざっけんな」

「おお? 美緒って呼んじゃまずかったかにゃぁ?」

「ちげぇよ……ここで、負けてたまるかって、言ってんだ……!」

「はぁ……まあ、おめーが満足するまで付き合ってやってもいいけどよぉ……んぁ?」


 諦め悪く睨めつけるような視線を向けてくる猛に対し、呆れた様子を見せながらも応じる姿勢を見せた虎生。

 その直後、何かに気がついたように声を上げ、鋭い視線で猛たちを見ている__ように美緒は見えた。


 もっと細かく言うなら、佳奈恵を見ているような気がした。


「…………んんん?」

「……んだよ、その反応は?」

「…………あー、なんだ。まあ、悪く思うなよ?」

「は? 何の話だ……がぁッ!?」


 言うが早いか、虎生は徐に手を伸ばして猛に触れ、強烈な電流を流し込んだ。

 ダメージは小さくないものの、意識は飛ばないギリギリ程度というところで、猛は地面に倒れ伏せる。


「ぐッ……テメェ……!」

「……何を?」

とおるみのり

「お?」

「うん?」


 首を傾げる美緒を置いて、虎生は仲間に呼びかけた。

 響弥よりもやや背が高い、透と呼ばれた少年。

 赤茶色のワンサイドアップが特徴の、実と呼ばれた少女。

 二人はその呼び掛けに、キョトンとした様子で気の抜けた声を返す。


「__やーめだ。これ以上はやらん方がいいにゃぁ」

「……んー、まあ、お前がそう言うならいいんじゃねーの?」

「そうだね。私も異論ないよ」


 虎生の指示に、透と実はあっさりと頷いて戦意を解いた。

 三対一の可能性を一瞬考えてしまった美緒は、安堵に胸を撫で下ろす。

 だが同時に、何故、という疑問も覚えていた。


「……いいの? 倒さなくても」

「まぁ、そうだにゃぁ……ちょいイレギュラーな事が起きてるみてぇだしなぁ?」


 そう言いながら虎生が指し示すのは__美緒の傍で変わらず横たわる佳奈恵だ。


「そいつ、意識飛んでるはずだよな?」

「……うん。私から見ても、意識はないよ」

「じゃあなんで、残ってんだろうにゃぁ?」

「……なんでって……あっ」

「らしくねぇ。こんな事にすぐ気づけねぇ辺り、お前も大分限界きてんだにゃぁ」

「まぁ、それはそう、だけど……」


 実際、美緒が息を切らすほどの戦闘を要するのは、同学年では莉緒と虎生、そして遥樹くらいだ。

 ともあれ、虎生の言いたいことは十分理解できたし、それは猛も同じだったようで少し大人しくなった。

 元より、虎生の攻撃を受けた事で、体が痺れて動けなくはされているのだが。


 虎生が指摘しているのは、意識を失った時点で脱落判定になっているはずの佳奈恵が、何故今もこの場に残っているのか、という事だ。

 脱落判定になれば、試験場から自警団本部の指定の部屋に強制転送される手筈になっている。

 試験場に転送される前の状態で。

 そういう効果が、バッジに付与されるのだ。


 それが、ちゃんと機能していない。

 転送もされないし、傷も自分で癒さない限りは治らない。

 試験場で命を落としたとしても、脱落判定を受けて自警団本部で無かったことになる__はずが、本当に死んでしまう事になる。


 つまり、命に関わるような無茶はもう許されない。


「結界にトラブルでも起きたか……まあとりあえず、移動するか。透、実。そいつら担いでくれるか?」

「しょーがねーな」

「うん、わかった」

「鬼嶋妹……じゃねぇや、美緒は歩けるな?」

「……まあ、移動する程度なら。少し回復してきたし」

「よぅし、それじゃあ動くかぁ……どこ行くかにゃぁ」


 通信を繋げようにも、試験中は内部から外部へ繋げることは出来ない。

 この異常事態に気づいていればいいが、連絡手段がない以上、それはもう託すしかない。


 そんな行く宛を思案する彼らの周囲で、遂に目に見える異変が起き始める。

 地響きと共に、空に虹色の波紋が拡がっていく様子が見えたのだ。


「……なんだぁ?」


 虎生が惚けたように呟くが、異変はそれだけに留まらない。

 少し離れた先に、濃い魔力で形成された黒い竜巻のようなものが立ち登る様子も見えた。


「あれは……将真かぁ?」


 地響きと虹の波紋は分からないが、あの竜巻は明らかに異質でよく分かった。

 おそらく戦っているのだろう。

 そう予想が着くくらいには、竜巻の傍でもう一つ感じ取れる魔力があまりに独特で、こちらも異質だった。


(……遥樹んとことやり合ってんのか。運がねぇやつだにゃぁ……)


 ともあれ、これで第三小隊以外の場所は把握出来た。

 あれだけ目立つ戦闘なのだから、もしかしたら第三小隊も近づいている可能性もある。

 例え経験不足の一年生といえど、実力だけなら相当な上位五小隊が揃えば、何かあってもそうそう対処に困ることは無いだろう。


(協力ってのは性に合わねーけど、しょうがねーか)


 虎生は決断するとすぐに仲間二人へと問いかける。


「あそこに行く。それでいいか?」

「おう、問題ないぜ」

「私も大丈夫だよ」


 透と実は虎生に従い、それぞれ猛と佳奈恵を担いで立ち上がり頷く。

 その様子に頷き返すと、虎生の視線は先程の黒い竜巻が発生した方へと向き直る。


「じゃあ、行くかぁ」




 虎生たちが将真たちの元に向かい始める少し前。


 一行はいつも通り交代で休息を取り終え、動き出す準備をしていた。

 そのまま何事もなく準備は整い、移動を開始するところまでは良かったのだが__


「……何か、近づいてきてるッスね」


 移動を開始して暫く、真っ先に気がついたのはやはり莉緒だった。

 まだそれほど近くはないが、真っ直ぐ向かってきているような気配がある。

 尤も、佳奈恵でも無い以上、この距離で正確な感知はかなり難しいのだが。


「数は分かる?」

「…………多分、三人。おそらく何処かの小隊ッスね。しかも迷いがない様子ですし、これはもしかして……」

「え、バレてる?」

「場所もッスけど、多分メンバー構成もバレてますね。昨日の時点で予想してなかったわけじゃないッスけど、相手は多分……」

「……第二小隊?」


 引きつった表情で莉緒が頷き、問うた静音は渋い表情で頭を抱えていた。

 

「うわぁ、つけられてたんだ……警戒はしてたし、そんな感じしなかったのに……」

「わりぃなぁ、何か。俺らのせいで面倒に巻き込みそうだ」


 響弥が申し訳なさそうにしながら困ったような笑みを向けてくるが、想定外の出来事という訳では無い。

 佳奈恵程ではなくとも、索敵能力が高い静音が逆につけられていたのは同類の莉緒でも少し驚きだが、可能性としては一応考えていた事だった。


「……まあ、とりあえずは対応を考えなくちゃな」

「それはその通りなんだけど、将真くんは極力力使っちゃダメだよ!」

「わ、分かってるよ……」


 冷静な口ぶりの将真だったが、横から釘を刺すようなリンの言葉に思わず顔を顰める。


「……どうせそのうち追いつかれそうッスね。この場所で潜伏して、不意打ちで迎え撃ちましょうか」

「……そうね、了解」


 莉緒の提案に杏果は頷き、六人は足を止める。

 そして各々、戦闘準備をしつつも、気配を押し殺して少し散開した状態で茂みに潜む。

 隠れる分には、この鬱蒼とした森の中はやはり都合がいい。


 緊張が高まる中、接近していた何者かの姿が明らかになってきた。

 やはりと言うべきか、予想通り第二小隊だった。

 その先頭を走るのは紅麗。

 近くに将真たちも隠れていて、間違いなく姿は見えなかったはずだが、彼女は迷いなく杏果が潜む茂みへと飛び込んでいく。


「__そこォ!」

「んなッ……!?」


 そして見事に隠れていた所に攻撃されて、回避のために飛び出さざるを得なくなる杏果。

 その姿が明らかになって、紅麗はそのまま追撃を__しない。

 その横をすり抜けると、次に響弥が隠れた所に狙いを定めた。


「はぁ!?」

「うお、危ねぇ!」


 杏果同様、紅麗の攻撃に堪らず茂みから飛び出す響弥を、紅麗はやはり追撃しない。

 そしてそのまま、今度は静音が潜む場所へと踏み込む。


(……どうせ場所がバレてるなら!)


 静音は覚悟を決めると両手にクナイを握りしめ、敢えて自分から接近してくる紅麗の目の前に飛び出す。

 少なからず意表を突く事は出来たようで、紅麗は少し目を見開いたが__分かっていたとしか思えないタイミングで静音の攻撃を易々と回避した。


「うそっ!?」

「甘いわねッ!」

「ぐぅッ!」


 紅麗以上に驚き、隙を晒した静音の腹に、紅麗は躊躇いなくカウンターで掌底を叩き込む。

 とはいえそれほどの力を込めてはいなかったようで、少し宙を浮かされた程度で済んだ。

 それでもダメージがない訳ではなく、腹を抑えて蹲るほどには苦痛を味わう事になった。


「く、ふぅッ……な、なんで、場所、が……」

「ん? あー……ほら。あんたたちさ、私たちの戦い覗いてたでしょ?」

「うっ……やっぱり、気づいてたのね」

「その時に発信機みたいなのをね、つけさせてもらったわ」

「……そんなの何処に」


 手を組むにあたって、つけられている可能性を考えていたのは何も莉緒だけでは無い。

 杏果たちも当然想定していたし、その手の物が仕込まれていないことはしっかり確認したはずだった。

 だが、紅麗が隠れている第三小隊を的確に襲撃出来たことからも、捕捉されていたのは疑う余地もない。


「私が普通の方法でそんなもんつけると思う?」

「どういう意味……うっ!?」


 意味深な事を言う紅麗に疑問を抱くが、直後に紅麗の手の甲の皮が裂けて出血する。

 ただし血液の一部は、まるで意思を持つように紅麗の方へと飛んでいき、彼女の掌から吸収されていった。

 裂けた皮はすぐに治ったが、杏果と響弥も同じような状況に陥っていた。


「……なるほど、いつの間に血を仕込まれてたのね」

「そういうこと」


 少し楽しげに種明かしをする紅麗に、杏果は引き攣った表情を浮かべる。


(もしかして、あの時のあれかしらね……)


 彼らは昨日逃げている最中、飛んできた血液の弾丸を受けた覚えがある。

 おそらくそれだろう。

 むしろそれ以外には考えられない。


「くそっ!」


 その様子を見ていた将真は第三小隊の危機に、思わずその場で不用意に立ち上がる。

 それは将真のすぐ側を、潜伏に気づいていなかった遥樹が駆け抜けていこうとする瞬間と重なった。


「__なっ」

「は、ぁ!?」


 両者は互いの唐突な出現に驚いて仰け反り、反射的に攻撃が出てしまった。

 遥樹は光を纏う剣を。

 将真は黒い渦を纏う棒を。


「ちょお!?」

「将真くん!?」


 莉緒とリンの静止も間に合わず、二人の攻撃は正面からぶつかり合い、その余波が森を吹き飛ばし上空へと立ち上った。

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