十三話「休戦と共闘」
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「ぐ、ぎ……!」
突然体を拘束され、全身が軋むような痛みを覚える。
それでも将真の力の方が強いのか、ブチブチと黒い縄は千切れ始め、氷の塊にも大きくヒビが入っていく。
「__将真くん!」
「ストップ! 止まるッスよ!」
「なっ……リン、莉緒!?」
そこへ将真を押さえるように飛びついてきたのは、別の場所で戦っていると思っていた二人だった。
それだけではなく、猛との間に割って入って立ち塞がる美緒と、慌てて猛の傍に駆け寄って行く佳奈恵の姿も見て取れた。
「将真くん、お願い止まって!」
「そんな力振り回したら猛さん死にかねないし将真さんの体にも負担かかっちゃうッスよ!」
「……二人とも、俺、一応理性は残ってるからな?」
「「えっ」」
驚いた表情を見せる二人を見て、力んでいた体から少しだけ力が抜けるのを感じた。
二人が訴えかけるような様子だったものだからもしやとは思ったがやはり勘違いされていたようだ。
今回の侵食は理性が飛ぶほど酷くはない。
「猛、大丈夫!?」
「……お前ら、何で……」
「何でも何も無いよ。二人が戦うことは了承したけど、無茶はダメ」
「勝手な、事を……」
「猛、これ! これ使って! 早く!」
「そんな慌てるほどでもねぇよ……あと近くで喚くな、頭に響く……」
若干不快そうな表情を覗かせるが、猛は佳奈恵に押し付けられた札を大人しく受け取り、握り締めて魔力を流す。
すると札はただの紙切れになってしまったが、猛のボロボロの体は一瞬で治癒された。
体力までは戻らないが、動くだけなら十分だ。
それでもなお心配そうな佳奈恵の手を借りて猛は立ち上がり、拘束されたままの将真を睨めつける。
「だめだよ。これ以上やるなら猛も凍らせるから」
「…………ハァ。わぁったよ。佳奈恵も、まあ、助かった」
珍しく牽制するような鋭い眼光を美緒に向けられ、盛大なため息と共に、猛はようやく落ち着きを取り戻した。
「全くもう……魔王の力に挑むなんて無茶、もうしないでよ」
「…………約束は出来ねぇな」
「……ばーか」
「るっせぇ」
返答に納得がいかない佳奈恵は悪態をつくが、猛はおざなりに流すものの少し申し訳なさそうではあった。
その様子に一安心したようで、リンも莉緒もホッと一息つく。
「……じゃあ、これでおしまい、でいいよね?」
「将真さん、そろそろ解放しても?」
「…………いや、もうちょい頼む。何とか抑え込むから」
「……分かった」
「了解ッス」
その後、美緒と佳奈恵の力も借りて、数分かけて将真もようやく、無理のない程度に魔王の力を抑え込むことに成功するのだった。
「……おい、将真ァ」
「なんだよ」
「またいずれ、ちゃんと決着つけてやる」
「馬鹿言え、お前の勝ちだっつってんだろ」
「納得行くかクソッタレが」
そんなやり取りを最後に、第四小隊は森の中へと立ち去って行った。
まだ怠さの残る体を引きずりながらも、第一小隊も安心して休める場所を探して歩き回り、いつの間にか夜を迎えた。
その間、戦いに巻き込まれる事がなかったのは幸いだ。
何せ、今の将真は力の制御もろくにできず、封印を組み直すまでは戦闘の度に魔王の力全開で戦うことになるのだから。
彼らが辿り着いたのは荒廃した街だ。
辛うじてそうだと分かる廃墟がいくつも存在していた。
こういう場所は都市外にも幾つか存在する集落の拠点になっている事も多いのだから、森の中よりはまだ安心して休む事が出来るだろう。
警戒しながらも、三人は比較的形の残った、過去に倒壊したと思われるビルの下を休憩地に決定した。
「……ふぅ、これで一息つけるッスねぇ」
「うん。流石に疲れちゃった」
「……ごめんな、二人にも迷惑かけて」
「しょうがないッスよ」
「そうそう。気にしない気にしない」
リンと莉緒は大した事ないと笑いかけるが、将真は少し申し訳なく思っていた。
将真の暴走があったから決着までは行かずに休戦という結果に落ち着いたようだが、その暴走が行く所まで行ってしまえば怪我では済まなかっただろう。
今回は傷つけるような結果にはならなかったものの、恐ろしかっただろうに体を張って止めてくれたことには感謝しかなかった。
そんな辛気臭い様子の将真を見た後、二人は顔を合わせて思わず少しだけ吹き出し苦笑を浮かべた。
「……笑うことないだろ」
「いやまあ、すいませんッスねぇ」
「ふふ、じゃあ気分転換にちょっと屋上行こうか」
「……屋上? この廃墟のか?」
こんなにボロい廃墟の一つだ。
屋上に出たところで、学園とは訳が違うだろうと思うのだが。
「いいからいいから!」
「ほーら行くッスよー」
「お、ちょ、ちょっと待てって分かったから!」
棒立ちしていたところに、二人にそれぞれ手を引かれてつんのめりそうになる将真だったが、何とか転ばずに済んで二人の後をついていく。
壊れそうな階段を慎重に登っていき、直ぐに目的の屋上へと到着した。
建付けの悪くなったドアをこじ開け、三人は外へ出る。
「ほら、上」
「上……?」
リンが指さした先は空だ。
二人に倣って言われるがままに空を見上げた将真は__
「…………おぉ」
学園とは訳が違うとは思ったが、想像とは大きくかけはなれた光景。
空一面に広がる星空に思わず絶句した。
そんな予想通りの将真の反応に、リンと莉緒は再び顔を見合わせて表情を綻ばせた。
「ね、凄いでしょ?」
「……そうだな、これはすげーや」
振り返るリンの問いかけに、将真は素直に感動を認める。
〈表世界〉でも田舎出身の将真は、似たような光景を何度も見た事があった。
だが〈裏世界〉に来てからはこれが初めてで、その景色も、〈表世界〉で見た時よりもずっと綺麗な星空のように思えたのだ。
周りに他の灯りが少ない事も要因のひとつなのだろう。
星空だけではない。
何時しか、自然の美しい景色に感じ入ることもあまり無くなっていたように思う。
魔王軍との戦争中で慣れない戦闘を余儀なくされ、心が荒んでいたのかもしれない。
強くなる事は大きな目標で、仲間と共に戦いたい、守れるようになりたいと思う気持ちは、時に焦燥を伴うほど将真の中に強くある。
ただ、それだけでは疲れてしまうばかりだろう。
たまにはこうして、仲間と共に足を止めて、心を休める時間があってもいいのかもしれない。
満天の星空を見上げながら、将真はそんな事を考えた。
「……ねぇ、たまにはこういうのもいいでしょ?」
「……そうだな」
「この景色に比べたら、暴走なんて些細な話だよ」
「いや、流石にそんな事はねーと思うけどな……」
力を暴走させたことを気にせずにはいられない。
それでも二人が大した事では無いと言ってくれるのだから、無駄に気にしすぎないようにしようと将真もようやく気持ちに整理をつけることが出来た。
「……お?」
そしてどれだけの時間、三人で星空を見上げていただろうか。
不意に莉緒が、なにかに反応を示した。
「莉緒ちゃん?」
「どうかしたか?」
二人の問いかけに莉緒は答えず、屋上まで上がってくるのに使った階段の方をじっと睨むように見つめる。
将真とリンは顔を合わせて首を傾げていた。
少なくとも二人には、何かがあるようには見えなかったのだ。
すると、莉緒は手を掲げて小さな火球を生成する。
「ちょ……」
「おい莉緒!?」
「二人とも落ち着いて下さい……誰かは知らないけど、出てくる事をオススメするッス。そこにいるのは分かってるッスよ」
動揺する二人を傍目に、少々脅しかけるように忠告を投げかける莉緒。
そして忠告に大人しく従うように、両手を上げてゆっくりと出てきたのは、見覚えのある少女だった。
「……お前」
「静音ちゃん……?」
「あはは、思ってたよりすぐ見つかっちゃったね……」
少し気まずそうに頭を掻きながら、静音は微妙な笑みを浮かべていた。
屋上から廃墟の一番下まで戻り、静音は一度その場を離れていく。
少しして戻ってきた時には、後ろに杏果と響弥を連れていた。
「おっす、元気そうだな将真!」
「いってぇ! ……そう見えるなら中々に節穴だと思うぞ」
強めに肩を叩かれ、将真は顔を顰めながら抗議の視線を向けるが、響弥は何処吹く風といった様子だ。
そして杏果は、おそらく下心はないのだろうが、リンの身体中をぺたぺたと何度も触っていた。
「うわぁ、随分ボロボロじゃないリン。大丈夫なの?」
「うん、佳奈恵ちゃんのお陰で怪我は治ってるよ。制服は……見ての通りだけど」
ちなみにリンは、将真の暴走を抑え込んだ後に彼から制服の上着を借りていた。
ボロボロになった制服の下の肌は傷もなく、汚れも綺麗に落ちていた。
つまり、服の切れ目から柔肌が丸見えになっていたのだ。
気を抜けば見えていけないところまで見えてしまいそうな状態のリンを、そのまま歩かせる訳には行かないという将真の判断の結果だった。
将真の制服はリンには少し大きく、肌を隠したい現状では都合が良かった。
「それで、どうしたんスか? まさか夜襲を?」
「……まあ、静音に不意打ちで落として来てとは頼んだけど、あんた達が相手じゃねぇ」
「どの道気づかれちゃったし、逃がしても貰えそうになかったからねぇ」
「でもかえって都合がいいわ。提案なんだけど、終了まで一緒に行動しない?」
「……共闘しようってことか?」
「そういうこったな」
将真の問いに、響弥が腕を組みながら繰り返し頷く。
現状、第一小隊は4ポイント、第三小隊は最後に確認した限りでは2ポイントのはずだ。
生き残って、そろそろ五日目を迎えようというこのタイミングでその点数なら悪くない成績だ。
だが、第三小隊のポイントだと特別優秀な訳でも無い。
わざわざ将真たち第一小隊と組んでまで、ポイントを稼ぐメリットはあまりないはずだ。
どの道、二つの小隊で一つの小隊を落としても、どちらかの小隊にしかポイントは入らないのだから。
「ポイントのことなら心配いらないわよ。今は3ポイントあるし、ポイント確保に動こうってわけじゃないし」
「あ、違うんだね」
「実はよぉ、ちょっと前にヤバいもん見てきたんだよな」
「……ヤバいもん?」
訝しんでいたのが顔に出てたらしく、将真たちが指摘する前に杏果が疑問に答えてくれたが、続く響弥の含むような言葉に嫌な予感がして顔を顰める将真。
彼らが見てきたのは、第一小隊と第四小隊の戦いとは別の場所で、ほぼ同時刻に起きた二つの小隊の衝突だった。
学年最強の遥樹が率いる第二小隊と、次点の強さを誇る虎生率いる第五小隊だ。
「確かにあいつらの戦闘中にお前の魔力も感じたけどな」
「暴走させたんでしょ? でもケロッとしてるし別にそこはいいのよ」
「良くはねーんだよ結構大変だったわ」
勿論、学生離れした両者の戦いに顔を突っ込む程の度胸はない。
大きな魔力の衝突に気がついた杏果たちは、静音に先行させて可能な限り気配を押し殺して近づき、戦闘を視界に捉えられるギリギリの距離で観察していたのだ。
「基本は二人がぶつかり合う中で、残りのメンバーはサポートや妨害に回ってたみたいなんだよね」
静音がその時の様子をそう語るが、実際彼らの仲間が如何に優秀であっても、遥樹と虎生の戦いに割り込めるとは思えない。
だから出来たとしてもそんなものだろう。
そして両者の戦いを傍から眺めていた所に、結構離れた場所から、とんでもない魔力の波動を感じたのだ。
(それが暴走させかけた俺の魔力だって事か……)
「……で、その時に潜伏に気が付かれて、追い払われて今に至るって感じ」
「見てたのは俺らの小隊だけじゃなかったみてーだけど、大体はアイツらにやられちまったろうなー……」
響弥は感慨深そうに目を伏せて、南無と言うように合掌をする。
杏果はそんな彼に、ジト目で睨むように呆れた視線を送って言葉を続ける。
「まあそういう訳でね。あいつらが組んでるとも思えないけど、すんなり決着が着くとも思えないし。片方の小隊と接触しただけでも十分、殲滅される可能性もあるのよね。だから戦力は一人でも多い方が有難いの」
「ポイントの事はまあ、別に気にしなくてもいいんだよ。俺らに負けそうになると、どいつもこいつも一目散に逃げ出しやがる」
「逃げ足が速い相手だと、どうしても追いつけない事がままあるからね……」
将真たちが把握していなかった分は、ここに辿り着くまでに偶然、別の小隊と戦闘になり、降参まで追い込み勝利した事で得たポイントらしい。
第三小隊のような、相当近接戦闘に特化していながら速度が足りない場合、やはりトドメを刺しきれず逃げられる事も多い。
むしろ「3ポイント」も獲得出来ているだけで大きいと言えるだろう。
そしてこのポイントも、負けてしまえばおじゃんだ。
「だから改めて言うわ。私たちと共闘しない?」
「……どうする?」
「莉緒ちゃん……」
「んー、そうッスねぇ……」
判断を委ねられた莉緒は腕を組んで考える。
杏果たちから敵意は感じない。
ただそれだけで、具体的な根拠はないが、おそらく信用しても大丈夫だとは思う。
不意打ちの心配もないだろう。
杏果たちは、純粋に共闘を求めているようだ。
問題は、遥樹や虎生の小隊につけられていないか、という点だ。
彼らの戦いを見ていた小隊の殆どが全滅させられたと言うなら、試験の進行状況と逃げ切れる実力から第三小隊だとバレている可能性が高い。
その場合、もし杏果たちが補足されて遥樹と虎生のどちらかとだけでも戦闘になれば、共闘したとしてもどうにもならないかもしれない。
第一小隊からすれば、共闘は脱落の危険性を増す、デメリットの大きい行為だということだ。
(……いや、でも時間的に、そろそろ上位の小隊同士が接触しててもおかしくない……スかね)
戦いにならないのが一番いいが、ここで共闘を拒んだところで、第一小隊も遥樹や虎生と接触する可能性は十分にある。
将真が暴走しかけた事もあって、ある程度の場所は割れているかもしれない。
ならば杏果たちの言うように、少しでも戦力は多い方がいい。
たらればになるが、ここに第四小隊も協力してくれたら、莉緒と静音に佳奈恵が加わる完璧な布陣で索敵ができる。
そうなれば、相手が遥樹だろうと虎生だろうと、ほぼ逃げ切れる確信がある。
とはいえ彼らの協力は期待できないし、静音と莉緒の二人だけでも索敵能力は十分だ。
将真だけは下手に戦わせる訳には行かないが、それ以外の面々の実力は優秀。
あの二人と正面切って戦うことを考えなければ、対応は十分可能だ。
「……まあ、なるようになるッスかね」
「じゃあ__」
「いいッスよ。組みましょうか」
「……ええ、頼むわよ!」
少し安堵した様子を見せながら杏果が差し出した手を、莉緒は力強く握り返し、第一小隊と第三小隊は手を組んだ。




