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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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十二話「激突、第四小隊Ⅴ」

「……何してやがる、テメェ」


 流石の猛も呆然とした声で、信じられないというように呟いていた。

 だが、それに答えるだけの余裕が将真にはない。


(くっそ……何しやがる、クソ魔王……!)


 両腕を抱くように蹲り、苦悶の表情を見せる将真。

 その全身を、濃密な魔力が駆け巡る。

 強制的に活性化させられたせいで、全身がむしろ痛いくらいだったが、猛に切られた致命傷はすぐに塞がってしまった。


 そして容姿も変化を見せていた。

 髪が少し伸び、異形の侵食は肩まで進み、肌が露出した顔部分は、首筋から伸びてくる黒い刺青のようなものが右半分を覆い始めていたのだ。


 __感謝してもいいんだぞ? そのままでは貴様、死んでいただろう?


(そうかよ、そりゃありがとよ! けど引っ込んでろ!)


 命の危機に瀕して、封じられていた力が無理やり吹き出してきたようだが、全解放に至った今、いつまで理性を保てるかはわかったものでは無い。

 仮に理性を保てても、力を制御出来ない以上は猛を容易く傷つけるだろう。


 魔王の力で傷つけた場合、どれ程のダメージになるかは検討もつかない。


(……だってのに、くそ! 抑えきれない……!)


 無理に留めようとしても、どんどん力が溢れ出して来る。

 全く抑えられない訳では無いが、溢れ出す力の方が膨大で間に合っていない。


 魔王の力を使う時のリスクだが、一度解放し切ってしまうと封印が壊れてしまう。

 後々封印を組み直すことは可能だが、例えここで力を抑えられたとしても、再封印までは力を使う度に全解放状態となってしまう。


 だから何としても避けたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。


「……おい、猛」

「……何だよ」

「危険すぎるから本当は、こんな事頼みたくねーけど、お前の実力は十分分かってる……それを見越して、ちょっと発散に付き合えよ」

「……いいぜ、こいよ。例え魔王の力を使おうが無駄だって教えてやる」


 こんな事になるくらいなら、先の一撃で負けていた方が余程マシだったのだが、暴走の原因は猛による攻撃が大きい。

 力を消費していかなければ、抑え込もうにも抑えられない。

 冷めた様子が一転して驚いた表情を見せていたが、責任を求める将真の要請に、むしろ不敵な笑みを作って見せた猛。

 炎の魔剣からは変わらず獰猛な炎が、彼の心の内を示すように吹き出している。


「行くぞ__!」

「こいやァ!」


 将真の宣言に、猛が嬉々として応える。

 将真の足に力が入り、魔王の力で強化された強烈な脚力で地面を蹴る。

 驚くべき事に、それだけの力で踏み締められれば砕け散ってもおかしくない地面は、殆ど削れることも無かった。

 ただ足跡だけが強く残って、殆ど音もなく猛へと一瞬で肉薄する。


「な__」


 余りの速さに、流石の猛も絶句する。

 その踏み込みは偶発的なものだが、将真がたまたま成功させたそれは、かなり高等な技術だったのだ。


「__フゥッ!」

「ッヅ、ヂィィ……ッ!」


 振り抜かれた一刀を、それでも猛は辛うじて反応して迎え撃つ。

 そこまでは良かった。


(ぐ……お、もッ……!?)


 問題は、三段階目まで封印を解放した時よりも遥かに重い将真の一撃だ。

 響弥ほどでは無いが、猛もかなり筋肉質な方だ。

 身体強化の恩恵は大きく、実際に将真もさっきまでは受け止める事すら非常に苦労しているほどだった。


 それが、一瞬で逆転したのだ。

 猛でなくとも、例え学年最強の遥樹であっても驚くだろう。


「……ハッ、ザッけんなァッ!」


 気合いで将真の剣の軌道をずらして叩き落とす。

 その結果、将真の剣は地面に突き刺さり、発生した衝撃は地面にヒビを入れ、大きく湾曲させ、両者の体を吹き飛ばす。


「むぐっ……!」

「ガァッ!」


 予想外にも剣を逸らされた将真は不満げに表情を顰めながらも、あまりバランスは崩さず後退。

 対する猛は大きく衝撃に煽られて、踏ん張ることも出来ずに体が宙を浮き、大きく吹き飛ばされる。

 直後、近くの木の幹に叩きつけられ、そのまま数本、木をへし折ったところで勢いは止まった。


「て、めぇ……この、やろう、がぁ……!」


 かなり強く背中を打ちつけられたせいで一時的な呼吸困難に陥り、苦しそうな声で悪態をつく。

 そこに将真は畳み掛けるように、再び猛に向かって突っ込んでいく。


「ラァッ!」

「ぐぅっ……」


(こいつ……!)


 まだ回復とはいかなかったが、苦し紛れに地面を蹴り、何とか攻撃を回避する事に成功する猛。

 将真の攻撃は基本的に単純だから、それ自体はさほど難しいことでは無いのだが。


(……チッ、どうなってやがる?)


 呼吸困難から脱して息を整えながら、苦しげな表情で辛うじて理性を保つ将真を睨み、猛は考える。


 普段の将真は封印した魔王の力を、使っても三段階目までしか解放しない。

 これが大体五割程度の解放だという話は猛も聞いていた。

 ならば全解放でも大体倍くらいの強さになる程度だと考えていたのだ。

 そしてそれなら、猛の技量で充分詰められる。

 だから、どうしたところで将真とは精々互角、何なら猛の方がまだ上のはずだった。


 ところが実際はどうだ。

 全解放時の将真の強さは、倍どころではなかった。

 そもそも、将真が本当に全解放する事自体が猛の想定外であったのだから、互角どころか押されるという展開は考えてもみなかった。


(冗談じゃねぇ……このスペック差は、埋めきれねぇ……!)


 悔しさに奥歯を鳴らして立ち上がり、得意の〈爆炎弾エクスプショット〉を複数生成して放つ。


「……フッ!」


 普段なら簡単に動揺していただろうが、将真は慌てること無く魔法を一つ一つ切り裂いていく。

 だがそもそも、今の魔法は将真の意識を逸らすために使ったものだ。


 勿論、逃げはしない。

 将真の意識の隙を縫って背後へと回り込み、突き立てるように魔剣を腰に構えて突撃する。


 莉緒とは比べるに及ばず、それどころかリンよりも速さは足りないが、それでも決して遅くはない。

 彼女らが異様に速いだけで、猛の速度も十分速かった。

 そして背後からの奇襲の突き。


 それを躱される可能性を、想定していなかった訳では無いのだが。


「ッ……!」

「くっそ……!」


 気づいていたのか、ギリギリで気がついたのか、将真は猛の攻撃を、背中を逸らして紙一重で回避。

 攻撃を外して隙が生まれた猛の腹を、片足を軸にして回転して蹴り飛ばす。


「グブッ……!」


 くぐもった呻き声と共に空気が押し出され、そのまま僅かな時間地面を浮いて、引き摺るように体を地面に擦り付けてようやく勢いが止まった。


「ハッ、ハァ……しょう、まァ……!」


 ダメージを蓄積し、かなり疲弊した状態で、それでも魔剣を杖代わりに地面に突き立ててよろよろと立ち上がる。

 そんな猛を見据える将真は、相変わらず苦しげな表情だが、その中に哀れみのようなものが含まれているところを見て、ますます猛の怒りに火がつく。


「……何だ、その面は……」

「……付き合って貰って悪いけど、何とか抑えきれなくもないくらいには落ち着いてきた。もうこの辺でやめとこうぜ。これ以上は……」

「冗談ぬかせ……まだやるに決まってんだろ」

「……つっても、分からないお前じゃないだろ? 時間の無駄だってよ」

「んだとぉ……?」


 納得いかないと言うように、猛が低い声で将真を睨む。

 一方で将真は、油断すればまだ辺り一帯を吹き飛ばしかねない程の力が自身の内から溢れてくるのを感じていた。

 だが、大した時間では無いものの、猛との戦闘の間で無理やり力を抑え込める程度には落ち着いてきた。


「そりゃ、決着はいずれちゃんとつけたいけどさ。今はどう足掻いたって、正攻法で俺がお前に勝つのは無理だよ。だからって、魔王の力に頼りきりで勝ったって、俺だって面白くねー」

「…………だったら何だ」

「じゃあもっかい言うぞ? 魔王の力全開の俺には、流石にお前でも勝ち目はないっつってんだよ。これ以上は時間の無駄だ」


 そもそも魔王の力抜きに考えれば、バッサリ斬られて将真はそこで脱落だったのだから、勝負の決着は明白だったのだ。

 だがこのまま戦い続ければ、今度は将真が猛を殺しかねない。

 理性は何とか保てているが、力の制御はろくにできたものでは無いのだ。


「勝負はお前の勝ちだよ。だから__」

「知るかよ。お前の事情は、俺には関係ねぇ」


 吐き捨てるように言って、魔剣を地面から引き抜く。

 ようやく、普通に立てるくらいには回復したようだが、それでもまだふらついているくらいにはダメージが残っているようだった。


「俺の方が上だって、んなこたぁ分かってんだよ。だから、丁度いいんだろ。魔王の力を使ってる今のテメェに勝たなきゃ、俺には何の意味もねぇ」

「……何でそこまで、拘るんだ?」


 なぜわざわざ魔王の力を解放した、危険な状態の将真に勝つ事に拘るのか。

 猛の心中が、将真には理解できなかった。


「……実力差は明らかなのに、テメェは俺に出来ねぇことを何度もやりやがった……俺の前で」

「……どういう事だよ」

「どうもこうも……吸血鬼の時も、鬼人ランディの時も、数ヶ月前の、魔王軍の襲撃の、時も……その力で全部、切り抜けやがった。俺が欲しくてしょうがねぇもんを、ペーペーのテメェが持ってる。それが……気に入らねぇ」

「…………」


 猛の本音を聞いて、将真は押し黙る。


 五月頃、初めて中隊編成で請け負ったオークのスタンピード。

 そこには〈上級〉の吸血鬼が関わっていて、まだ吸血鬼との戦いになれていなかった彼らは苦しい戦いを強いられていた。

 まして〈血装〉を使うものだから、より一層だ。

 それを乗り切れたのは、予想外にも効果があった将真の力。

 正確には魔王の力なのだが、事態の解決に将真の尽力があったのは間違いない。


 将真の中に魔王が眠っていると気がついた魔王軍は立て続けに将真を狙うが、ランディとの戦いでも、生け捕り目的で手を抜かれていたとはいえ、将真の頑張りがあって救援が間に合ったのも事実。

 その後の襲撃で、最悪の場合将真を始末する事も考えていた遥樹との戦いで、瑠衣が横槍を入れて戦いを終わらせるまで、将真は遥樹と拮抗した力を見せた。


 そんな大きな事件の中、猛は大した事が出来なかった。


 それは何も、おかしなことでは無い。

 彼らが相対した問題は、学園生の手に余るようなものばかりだった。

 むしろ猛は、その実力を遺憾無く発揮し尽力した方だ。

 個人としては序列戦で惜敗したものの、将真が運良く点を稼いで逃げ切っただけで、小隊としても第四小隊の方が優秀な成績を残している。


 将来の事は分からないが、少なくとも現状は将真よりも猛の方が優秀で実力もあるというのは、自他共に認める事実だ。

 それでも、将真が成してきたことは余りに大きすぎて、他者がそれを例外だと口を揃えて言ったとしても、猛は認められなかった。


「助けられた事もあるし、その力がなきゃ俺だって今この場にいなかったかもしれねぇ……屈辱だ」

「猛……」

「……だから、超えなきゃいけねぇ。魔王の力を全解放したお前と戦える機会があるなんざ、思ってなかったけどな。だからこそ丁度いい。今のお前に勝たなきゃ__意味がねぇ!」

「……バカヤロー」


 突っ込んでくる猛を見据えて、将真は苦い表情で呟く。

 猛の気持ちは分かったが、だからと言って魔王の力に敵うとは到底思えない。

 抑え込むので精一杯の今、猛と戦いを再開すれば、次はまともに抑え込めるかどうか。


 だが、激情を伴い突撃してきたはずの猛は、意外にもバカ正直に真っ直ぐ突っ込んでくることは無かった。

 将真の手前で急停止し、至近距離で〈爆炎弾〉を生成。

 もしこの距離で将真に直撃しようものなら、余波で猛も無傷とはいかない。


「……そう簡単に食らうかよ!」


 魔法を飛ばそうとする猛の目の前に向けて、魔法を切り裂くように剣を振り下ろす。

 先程から何度も切り裂いてかき消した魔法だ。

 いくら距離が近いと言っても、今更そう簡単に当たるものでは無い。


「……正攻法で勝てねぇなら、仕方ねぇ」


 振り下ろされる剣を見る猛。

 その一撃が魔法に到達する前に、猛は故意に爆発させる。


「うぐ、おぉッ……!?」


 想定外の爆風に煽られた将真は後ろへとバランスを崩し、無茶な発動をさせた猛も吹き飛ばされ、二人の間には爆煙が発生した。

 そして猛の滅茶苦茶な攻撃はこれだけに留まらない。

 将真が猛を視認できないことをいい事に、爆煙の向こう側から数発の〈爆炎弾〉を撃ち込んできたのだ。


「うぉぉぉッ!?」


 切り落とすには間に合わず、バランスを取り戻せないままギリギリの回避を余儀なくされる将真。

 回避で精一杯の将真は、その場から移動出来ない。

 そこに、爆煙の向こうから魔剣を掲げて猛が、今度こそ突撃してきた。


「正攻法でダメなら、搦手を混ぜるだけだ__!」

「くっ……!」


 将真は一瞬、動きを硬直させた。

 受け止めるべきかどうか、悩んでしまったのだ。

 力の調整は効かず、受け止めるだけで済むのか、将真自身も判断がつかない。

 タダでさえ、無茶をした猛はボロボロだと言うのに。


(……しょうがねー、恨むなよ!)


 だが、結局はすぐに迎撃を選択する。

 せめて猛へのダメージを減らせるように彼の体を避け、振り下ろされる魔剣に合わせて、剣の腹を横から弾き返すように叩く。


「ぐぅッ!?」


 凄まじい膂力に耐えきれず、猛は魔剣を手放し両手を上げたまま後方へと吹き飛ばされる。

 隙だらけの今の猛を、追撃する必要性はそれほどない。

 だが、ここで猛を倒しておかなければ、彼はまた無茶な行動を繰り返すだろう。

 そう判断して、今度は将真の方から突っ込んで行く。


 力が強過ぎる為に、将真の攻撃が直撃しなくてもダメージになってしまうが、受けに出続けた結果、反撃で当ててしまうよりはまだマシだ。


「……くっそ、将真ァ……!」

「どうせ無茶ばっかすんなら、せめてここで、早々に落としてやるよ__!」


 苦しげに、そして忌々しげに睨みつけてくる猛にギリギリ届かない軌道で、将真は剣を振りかざす。

 この距離でも、衝撃だけでダメージを与える事は可能だろう。

 出来れば気絶させるだけで留めたいが、制御ができていない以上は運に任せるしかない。


 そうして、身動きが取れない猛から離れて剣を振り下ろそうとした、その時だった。


「……ッ!?」


 将真の全身を、黒い縄と氷の塊が纏わりついてきたのは。

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