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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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十話「激突、第四小隊Ⅲ」

 リンがチャンスだと思って踏み込んだその場所は、寧ろ佳奈恵が上手く誘導した、最大規模の罠の真下だった。

 威力は神技に匹敵する、佳奈恵の切り札と言える魔法。

 凄まじい火力を見せつけた爆炎は轟音を響かせ、森を延焼させるまでもなく、周囲の木々を抉るように焼き払った。


「……さ、三枚重ねはやり過ぎたかも?」


 勿論、佳奈恵自身はダメージを受けないように、火系統に相性のいい水属性の魔法で何枚も重ねて防御していた為、殆ど影響はない。

 強いて言うなら、一度に魔力を使い過ぎたことによる消耗くらいで、それも戦えなくなるほどではないため大した問題にはならなかった。


「……さ、流石にリンちゃんも、これなら倒せたよね?」


 あれだけの威力だ。

 倒せたのならばそもそも跡形も残らないだろう。


 正直、佳奈恵はリンを過剰に評価していた。

 同じ少女でありながら、勇敢に前衛で戦う彼女に、畏怖を抱いていると言ってもいい。

 だから、リンを倒す為に使用した魔法は、普通ならオーバーキルにも程がある威力だという自覚がない。


 とはいえそれも仕方がない事だ。

 例えば莉緒。

 彼女は分かっていれば即座に回避出来るだろう。


 例えば将真。

 彼ならば、今の魔法でも倒しきれる保証はなかった。

 尤もそれは、魔王の力を全開放している事を前提としている訳だが。


「__ぅ」

「……ッ!?」


 流石に心配し過ぎかと、ホッと息をつこうとしたその時、上空でか細いながらも、確かに息遣いが聞こえて空を見上げる。


 あの魔法を受けて、リンの体は驚くべき事に原型を留めていた。

 あちこちに酷い火傷をしていて、制服もボロボロだ。

 それでも、意識が残っていた。

 彼女を護るように展開されていた、魔力の盾。

 信じられない事に、ただそれだけのものでリンは身を守ったのだ。


(いやいや、あの威力を防ぐなんて普通の魔法じゃ有り得ない! あれは……まさか神技!?)


 リンは一応〈神気霊装〉を身につけていたが、それでも第一解放が精一杯だった。

 だとしても発動可能なはずの神技さえ、彼女は使えなかったのだ。


 当然、初めて目にするリンの神技。

 神技であるという確証はないが、あの威力の魔法を受けきった事が最早証拠と言えるだろう。


 そうして佳奈恵を見下ろすリンの両眼は__真っ赤に染っていた。

 空中で身を屈めると魔力の盾が一度消失し、今度はリンの足元に出現する。


「行くよ、佳奈恵ちゃん__」

「……ごめんね。ここは一旦、退かせてもらうよ!」

「あっ、ちょ、そんなの有りぃ!?」


 殆ど手を出しつくし、決定打になりうる攻撃も防がれた今、佳奈恵に対抗する手段はない。

 それだけなら想定していなかった訳では無いが、まさか窮地でいきなり神技を覚醒させたのは想定外だった。

 勝ち目がなければ撤退するのは、何もおかしな選択肢ではなく寧ろ妥当だ。

 だが、退くとは思わなかったリンは出鼻をくじかれて声を上げた。


「……むぅ、これだけやってくれたのに、簡単に逃がしてあげないんだから!」


 飛行魔法で森の中を素早く飛んでいく佳奈恵の背を、リンは魔力の盾に乗って追いかけていく。




 莉緒と美緒の戦闘は、一時的に停止していた。

 二人の戦場にある罠は、何も佳奈恵が仕掛けたものばかりでは無い。

 相手を氷の中に閉じ込めるような魔法も幾つか、美緒が即興で仕掛けたものとして存在する。


 その魔法に莉緒が綺麗に捕まり、動けなくなっていたのだ。

 動けなくなっていたのだが。


「……偽物、だよね?」


(あちゃぁ、やっぱバレるんスねぇ……)


 少し距離を置いた場所からその様子を見ていた莉緒は、引き攣った笑みを浮かべていた。


 つい数ヶ月前に、将真に追いつくために使用した魔法〈贋作人形フェイカードール〉。

 耐久性には難ありだが、使用者本人と全く同じ姿を作り出し、更に使用者に隠蔽効果も付与する特殊な魔法だ。

 先程、森の中を走り回る過程でたまたま見つけた罠の穴。

 とはいえそれすら罠である可能性もある。

 そう思い幾つか探してみたが、かなり少なく狭いながらも、僅かにスペースがあるらしいことがわかった。


(助かったッスよホント。まさか木にまで罠が張ってあるとは思わなかったッスからね……)


 木の上なら安全と思ったのだが、流石に地面ほどではないにしても、油断出来ない数の罠がある。


 中には光るだけという騙し罠(フェイク)すらあるのだからよく考えられている。

 一時も気を抜いてはいられない。


(さて、どうするか……)


 分身が消される様子を見ながら、莉緒は思案する。

 今のところ、美緒は全くのノーダメージだ。

 それに対して莉緒は既に、かなりのダメージを負っている。

 今のうちなら多少は休憩ができるものの、いつこの場所が割れるかわかったものでは無い。


 だが、罠の起動条件は大体の予想がついていた。

 だからといって動きやすくなる訳では無いが、それでも知っていれば何かに役立つかもしれない。


 まずはその予想を確かめるために、莉緒は小さな水球を生成する。

 これで十分というのもあるが、適性属性では無い為、この辺りが限界だと言うのが正直なところだ。


(……美緒が踏み込んだところ。それと、美緒の魔法が撃ち込まれたところ。かなりの衝撃があるはずなのに、全く爆発しなかった)


 そして、佳奈恵が仕掛けて起動した罠の中には、氷属性の魔法が見られなかった。

 それどころか、水属性すら。


(って事は、反応しない属性があるんじゃないッスかね?)


 戦闘が始まった時は疑問に思わなかったが、美緒の足には氷の靴が装備されている。

 おそらく、自分で生成したものだろう。

 罠を踏んでも起動しないようにする為の対策なのだ。


 美緒にバレないように、できるだけ遠くの方へと水球を移動させ、離れたところで急降下させる。

 パシャン、と水が弾ける音に気がついた美緒はパッと振り向くが、勿論その場に莉緒がいる訳では無い。

 そして罠は発動しなかった。


「……ふぅん。まあ、莉緒ちゃんの目を誤魔化し続けるのは、やっぱり無理だよね」


(やっぱりそうッスね!)


 予想通り、水系統の魔力には反応しないようだ。

 とはいえ、やはり水系統を満足に使えない莉緒がこの現状を打破するのは非常に困難だ。


(……でも対策をしてるってことは、罠を受けつけない訳じゃあないんスよね?)


 一つ、思いついた案を実行する為に、美緒に悟られないよう深呼吸をする。

 狙うは短期決戦。

 しくじれば罠によるダメージか、手痛い反撃を受けかねない。

 リスクは高いが、このまま戦い続けた所で体力を削られ、ダメージを更に蓄積し、そしておそらく敗北するだろう。


 序列は莉緒の方が上だが、実力差は殆どなく、負ける時もある。

 だから尽くせる手は尽くさなくては行けない。

 不利だからと言って、断じて諦めてやるつもりは無いのだ。


(……よし)


 莉緒が覚悟を決めた、その瞬間。

 離れた場所で突如、とんでもない轟音と共に爆炎が発生した。


「今のは佳奈恵の__」

「__行け!」


 莉緒も当然驚いたが、おそらく知っていたであろう美緒ですら動きを止めるほどの爆発。

 その隙を見て、自分を叱咤するように声を上げた莉緒は、木の幹を蹴り飛ばして美緒に向けて飛び出した。


「ッ、出てきたね、莉緒ちゃん__!」


 莉緒の姿を目視すると、少し驚きながらも美緒は即座に魔法を展開する。

 だが、莉緒の方が速い。

 展開した魔法は〈火球〉。

 数は、美緒とほぼ同等だ。


 莉緒を叩く為に、美緒が天才的な魔力制御力にものを言わせて展開しようとした、無数の弾幕。

 それに匹敵する、或いは凌駕すらしかねない圧倒的な弾幕数。


「そんなの、莉緒ちゃんがまともにコントロール出来るわけ__」


 美緒の愕然とした呟きに合わせるように、莉緒の無数の弾幕が放たれる。


 結論から言うと美緒の言う通りだ。

 莉緒にこの数の魔法は制御出来ない。

 暴走はしないまでも、全てを真っ直ぐ、狙い通りに飛ばすのは不可能だ。

 人並み以上ではあるが、莉緒の魔力制御力は美緒には遠く及ばない。


(でもそれでいいんスよねぇ!)


 莉緒の狙いは、美緒に直撃させることではなかった。

 あちこちに狙いが逸れたり、上手く美緒の付近に落ちた〈火球〉は、地面の罠を無作為に起動させていく。


「罠を無理やり起動させて、私にダメージを与えるつもりなの? 悪いけど莉緒ちゃん、勿論ダメージ受けないようにちゃんと対策はしてるんだよ__」


 言いながら、美緒は自身の周囲に氷の障壁を何枚にも重ねて、起動した罠から身を守る。

 だがそれは、実は莉緒の狙い通りだった。


(ここまで用意周到に準備しておいて、罠によるダメージの対策をしてないとは思えないッスからね__)


 それでも、対策には色々と方法があっただろう。

 その中でも、美緒ならば得意の氷属性魔法で防御をする事は容易に予想出来た。

 彼女の魔法制御力も然る事乍ら、その防御力はかなりの高水準にある。


 そして元より、莉緒と違いあまり動き回る戦闘スタイルでは無い美緒は、防御時確実に足を止める。


 莉緒の狙いとは、罠を起動させる事で美緒の足を留め、同時に視界を塞ぐ事だった。

 それは既に完了した。


(あとは__)


 先の大戦にて、短い間ではあったがトラウマを抱えた莉緒。

 それを乗り越えた結果、〈魔物化モンスフォース〉がなくても使えるようになった、莉緒の手持ちで現状、最速最大火力の神技。

 本来なら友人や仲間、まして家族に向けていいような代物では無いのだが、美緒に生半可な攻撃が通るとは思わない。

 それに試験の性質上、致命傷になっても問題は無いはずだ。


 莉緒の体を、高密度の魔力で形成された和装が包み込む。

 そして足が地に触れる。

 その瞬間、足元の罠が起動する気配があった。

 それにも構わず、莉緒は地面を蹴り出す。


(全力で、打ち込むッ!)


 〈神気霊装〉第二解放の状態で放つ、莉緒の神技〈日輪舞踏〉、その八段階目。


「__〈八重桜〉!」


 起動した罠とそれらから身を守る為に展開した魔法で、美緒は莉緒の姿を捉えられていなかった。

 尋常ではない速度を誇るその一撃は最早、見えていたところで目で追うことは敵わないのだが。


 そうして放たれた神技は、幾重にもなる氷の盾を断ち、柔らかい肉を切り裂く感触を莉緒の手に残した。


「__うぐっ」


 十数メートル離れた先で速度を落とし、全身を苛む痛みに耐えきれず、莉緒はその場で膝を着く。

 足を止めた先は既に罠が起動した場所だったから、安地になっていたのが救いだ。

 ともあれ流石にまだ、反動なしとまでは行かないらしい。

 それでも動けないほどではなく、精々連発は出来ないだろうという程度。


(まあだとしても、こんなおいそれと隙を見せるようでは使い勝手が悪いッスねぇ……)


 ここぞという場面でしか使えない、まさに切り札。

 魔法で生成した短刀には、確かに美緒の物と思われる血液が付着していた。


「……だってのに全く、冗談じゃないッスよ」


 ハッと力無く笑う莉緒。

 周囲にはいつの間にか霧が立ち込めていた。

 ただし莉緒には届かない。

 彼女が身に纏う和装が放つ熱気のせいだ。

 この現象、実は中等部時代に見た事がある。


「まさか回避するとは、想定外ッスよ」

「……それでも、躱し切れた訳じゃ、ないんだけど……」


 莉緒が視線を向けた霧の中に、ゆらりと立つ人影が見えた。

 苦しそうな声音だが、声からしても間違いなく美緒だ。


 二人は動き出すことなくそのまま硬直し、霧は徐々に晴れていく。

 そうして露わになった美緒の姿は、確かに無傷とは行かなかった。


 と言うより、美緒でなければ致命傷だったかもしれない。

 美緒の腹部は、彼女自身の魔法により氷漬けにされていた。

 それは、魔力の暴走や魔法の失敗などではなく、たった一撃掠めただけで大きく切り裂かれた腹部の止血の為だった。

 その証拠とでも言うように、彼女の腹部より下は地面まで赤く染まり、止血が遅れていれば死んでいたかもしれない。

 現に顔色は非常に悪い。


 たった一撃で美緒を追い詰めた莉緒の逆転力はやはり凄まじいものだが、一方で莉緒も無事とは言えない。

 顔だけ美緒の方を向けながらも、体ごと向くことはしない隙だらけの姿を晒しているのは、何かしら狙いがある訳ではなく、単純に体が満身創痍であるだけだった。

 とはいえ美緒からまだ戦意を感じるようなら無理やりにでも向き直るのだが、どうもそんな感じはしないのである。


 暫くのお見合い状態の中、先に口を開いたのは腹部を抑える美緒だった。


「……ねぇ、莉緒ちゃん」

「……なんスか?」

「ここはちょっと、休戦に、しない……?」

「……休戦、スか」

「莉緒ちゃん、気づいてる……?」

「気づく? ……ちょっと待って下さい」


 休戦の申し出を受けた莉緒は、深呼吸をして心を落ち着かせ、周囲に意識を巡らせる。


「……これは!」


 そして直ぐに気がつく。

 これは__魔王の力だ。

 無論、戦う時にはその力に頼るのだから、気配を感じるのはおかしな事ではない。

 だが、それなりに離れているはずなのに、強烈に魔王の力を感じるのだ。


(まさか、全部解放したんスか!?)


 封印の全解放は、魔王の力による侵食を加速させる。

 その危険性は将真も重々理解しているはずで、意図的な解放とは思えない。


(何があったかは知らないッスけど、暴走……?)


 考えても、明確な答えは出ない。

 出ないが、放置はしておけない。

 そしてそれは美緒も同じだ。

 将真と戦っているはずの猛は、彼女にとって大事な小隊の仲間なのだから。


「……今すぐにでも、動くべきッスね」

「うん。だから休戦。でもまずは……佳奈恵と、合流したい」

「佳奈恵さんッスか?」

「……流石に、この怪我で出ていっても、何も出来ないと思うから」


 どうやら美緒ですら持たない回復手段を、佳奈恵は持っているらしい。

 戦闘能力はともかく、全属性マルチタイプなだけあって魔法の腕は流石という他ない。


「……じゃあ、美緒の案で」

「うん、行こう」


 二人は頷き合うと、それぞれの体を慮りながら、出来るだけ早く先の爆発の元へと足を進めるのだった。

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