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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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五話「森の中の進行」

「__ひぃあああぁぁぁぁぁッ!?」


 鬱蒼とした森の中、リンの悲鳴が響き渡る。

 その原因は、偶然遭遇してしまった魔物が触手のようにしなる枝で彼女の足を絡めとり、その結果宙吊りにされてしまったせいだった。


 〈フォレストトレント〉というこの魔物は、木の多い森の中で遭遇することが多い。

 それほど強くはないが、弱点である火属性は延焼の危険があり、森の中では下手に使えない。

 加えて森の中では擬態する上に、数メートルにも及ぶ図体の割に意外と素早く、こうして腕のように自由に動かせる枝で攻撃を仕掛けてくるのだから、なかなかに厄介な魔物なのだ。


 更に言えば宙吊りにされている事で、リンのスカートが重力に従って捲れそうになっていて、彼女はそれを必死に抑えている。

 響弥ならまだしも、そんな状態のリンを将真も直視出来ずに目を逸らしている為、まともに動けるのが莉緒しかいない。


「リンさん、隠してないで早く離脱して下さいッス!」

「だって! 将真くん見てるし!」

「見ねーよ! 見ねーから早く抜け出せ!」

「大体、アンスコ履いてるんだから見えたって平気でしょう!」

「は、履いてないの!」

「「ノーパンッ!?」」

「ちがぁーうぅぅ!」


 莉緒や美緒のようにタイツを履いている生徒は例外として、女生徒は短いスカートで動き回るため、そのままでは下着が見えてしまう。

 自警団に入れば、好みに合わせたデザインの軍服が支給される為、下着を見えないような作りにすることも出来ようが、学園生の制服は量産型の為そうもいかない。

 それ故、女生徒には例外なくアンダースコートが支給されている。

 勿論、リンも普段ならば着用しているのだが。


「だって、今日あんな事あったから! アンスコ履くの忘れちゃったの!」

「いや……ホントすまん……」


 リンの弁解に気まずく返す将真。

 ちなみに隠し切れずにチラチラと下着が覗いているのだが、将真は目を逸らしているので見ているのは莉緒だけだ。


「莉緒ちゃん! 枝切って! 早くぅ!」

「魔法! 風属性の魔法は!?」

「こんな振り回されてたら、狙い定められないよぉッ!」

「あーもう、仕方ないッスねぇ!」


 トレントの枝を切るくらいの魔法は、今のリンでも制御は可能だ。

 だが確かに、宙吊り状態で振り回されていては、命中させるのも困難だろう。


 莉緒は実の所、甘やかすタイプではない。

 だからこそ、本来ならばトレント程度はリン一人で討伐出来るのが好ましかったのだが、状態があまり宜しくない以上は仕方がなかった。


 莉緒は軽やかに地面を蹴ると、一息でリンの足を搦めとる枝を切り落とす。

 そうして落下を始めたリンだったが、むしろ体の自由が効くようになり、すぐに魔法を発動させる。


「__〈風弾〉!」


 トレントに直撃すると、爆ぜるような音と共にトレントの体が消し飛んだ。

 そしてリンはトレントがいた場所に軽やかに着地して、スカートの裾を抑えたまま上目遣いで、恥じらうように将真を見る。


「……大丈夫か?」

「う、うん……見てないよね?」

「見てねーよ」

「それより二人とも。近づいてくる気配を感じるんスけど、多分リンさんの悲鳴でこちらを察知した小隊だと思うッス」


 そんなやり取りをする二人の元に、神妙な顔で駆け寄って来る莉緒の報告を聞いて、リンが少し落ち込んだ表情を見せた。


「ご、ごめんなさい、ボクのせいで……」

「ま、まぁ倒せばいいだけだし、な?」

「……確かに、その通りッスね」


 珍しく厳しい表情をしていた莉緒だったが、毒気が抜かれたように小さくため息をついて苦笑を浮かべる。

 そんな彼らの元に。


「__覚悟!」


 森の奥から現れた、三人の少女たち。

 あまり見覚えがないところを見るに、別のクラスの小隊なのだろう。


「じゃあ、やるッスよ!」

「う、うん!」

「おう!」


 短刀を構え腰を下げる莉緒の掛け声に応じ、将真は棒を前に構え、リンは槍を握って腰を落とし、臨戦態勢を整えた。




「はー……しんど」


 一人をリンが倒し、撤退に入った一人を莉緒が後ろから追撃して倒し、残る一人は将真が相手をしていた。

 結果としては何とか勝てたのだが、少々苦戦して十分以上も時間をかけてしまった。


 やはり将真の実力も上がっているとはいえ、それなりに高い序列の生徒相手には、魔王の力に頼らず勝つのは困難を極める。


「将真さん、お疲れッス」

「お疲れ!」

「おー……」


 二人の激励に、力無く応じる将真。

 早々に戦闘を終わらせた彼女らは、将真が余程ピンチな事にでもならない限りは傍観しているつもりだったようで、今回は手を貸してはくれなかった。


「将真さんの今の実力も何となく把握出来てきたんで、良かったと思いましょう」


 正直、実力に見合わない任務ばかり続くことが多く、特に将真が対人戦でどれほど戦えるのかというのは判別しにくいところがあった。

 それが、今の戦闘である程度把握出来たという。

 これで、莉緒も作戦を考えやすくなるだろう。


「にしても、一日で小隊一つか……ちょっと少ないか?」

「そうでも無いッスよ。今日だけで多分、半分近くまでは減ってくるはずですし」


 日は傾きかけ、森の中は薄暗くなってきた。

 早々に一日目が終わろうとしているが、先の小隊との戦闘以外だと、魔物との戦いが何度かあった程度。

 果たして他の小隊はどう動いているのだろうか。


 この試験はサバイバル能力を見るだけではなく、ポイントの争奪戦でもある。

 初日で漸く1ポイントでは、ペースが遅いと将真は思ったのだが。


「一年生の試験ではまだそんな事起きてないみたいッスけど、三日目でようやく一つ目の小隊が落ちたなんて記録もあるくらいッスからね」

「それは……時間かかり過ぎだな」

「決着が中々つかなかったとか、じゃないスかね」


 経験を積めば実力は増し、自ずと強くなる。

 高等部でも年単位で経験を積んだ生徒同士が戦えば、すぐに決着がつくとも限らないのだろう。

 現に、将真も対戦相手を倒すのにかなりの時間を要したのだ。

 これが成長した序列上位者同士の戦いだったら、確かに戦いが長引いてもおかしくはない。


「とりあえず、今日はこの辺で野営にするつもりッスけど、大丈夫そうスか?」

「ああ、問題ないぜ」

「うん、ボクも大丈夫だよ__」


 将真とリンが頷いて了承を示した、その時。


「「「……あ?」」」


 いつの間に近づいていたのか、先程とは別のトレントがリンの足を搦めとる。

 呆然とした声を零す三人だったが、無警戒だったリンのスカートが捲れて、水玉のプリントがなされた下着が遂に将真の目にも晒され、漸く三人は我に返った。


「あ、ちょ、ダメェェェエエッ!」


 リンが慌ててスカートの裾を抑えるが、もう手遅れだ。

 莉緒と将真はすぐにリンの救出を試みるが、枝を切り落とした時点でトレントが群れになって出現。

 三人は野営地の安全のために、トレントの処理に追われることになるのだった。




「うぅ、結局見られた……朝も裸見られたばっかりなのに……」

「朝のはその、ホント悪かったけど。でもさっきのは不可抗力だからな?」

「もうお嫁に行けない……」


 結局、数が多すぎて途中で再び捕まったリンだったが、将真と莉緒が距離を開けているという最悪のタイミングだったせいで、服の下まで枝に入られてまさぐられるなど、更に酷い目にあっていた。

 あられもない様に、異性の将真どころか同性の莉緒ですら顔を赤くして一時、足を止めてしまうような光景だったのだ。


(恐るべし、トレント……)


 将真も可能な限り忘れるように努めるつもりだが、思春期男子には少々目に毒な光景だった事もあり難しいだろう。

 ともあれ、暫くトレント狩りに奔走したことで何とか野営地の確保はできたので、今日のところは体を休めることが出来る。


「__よっと、お待たせッス」

「おー、どうだった?」

「問題なく機能してるみたいッスよ」


 周囲の偵察に出ていた莉緒が戻ってきて、将真の問いに彼女は安心したように一息ついて答えた。


 機能している、というのは、彼らの目の前に置いてある簡易的な結界装置だ。

 それほど強力ではないが、野営をするにあたって非常に便利な効果を幾つも兼ね備えている。

 その効力とは、人払い、侵入阻害、警告の三つだ。


 多くの小隊は将真たち同様に行動を止めて休息をとるだろうが、夜襲をしかけてくる可能性も考えられなくはない。

 尤も、互いの場所がハッキリしない現状ではあまり現実的な攻め口とはならないだろうが、それでも記録上、今までになかったかといえばそんなことは無い。

 それに、襲ってくるのが他の小隊とも限らない。

 魔物や魔獣、魔族である場合もあるだろう。


 だからこそ結界を張り、交代で睡眠を取り、夜襲に対する警戒をしておくのだ。

 そして、例え生徒であっても魔戦師はそれなりに夜目が効く。

 下手に見つかりかねない灯りは必要ないので、完全に暗くなった頃には、焚き火も直ぐに消すつもりだ。


「じゃあ、リン。先に一眠りしておけよ。俺たちが警戒してるから」

「う、うん……じゃあお言葉に甘えさせてもらうね。お休み」

「おう」

「はいッス」


 まだ少し落ち込んだ様子のリンだったが、寝袋に潜り込むとすぐに小さな寝息を立て始めた。

 それを確認すると、将真は何とも言えない表情を浮かべて莉緒に視線を向ける。

 その理由は、莉緒も何となく察していた。


「……リン、気づいてないよな?」

「多分ッスけどねぇ……」


 最初のトレントに襲われた時から既に異変はあった。

 見るのは今回が初めてという訳では無いが__


(……両眼が青くなってた)


 今までも、任務の最中に眼の色が変わる事はあった。

 両眼が赤色になる事もあった。

 原因はハッキリしていないが、普段から共に行動をしている将真と莉緒には推測がついていた。


「まあ……酷い目にあってたし、しょうがないッスね」

「……そうだな」


 おそらく、彼女の精神状態が影響しているのだ。

 どういう精神状態だと、どう眼の色が変化するのか明確には分からないが、目の色の変化のお陰で、リンの精神状態は二人から見ると少しわかりやすいくらいだ。


「……ちょっと気をつけないとなぁ」

「そうッスよ。あんまりリンさんをいじめちゃダメッスからね?」

「いじめてねーよ人聞き悪いな。まあ迷惑はかけてるけど……」


 そんな他愛ない会話を続けながらも、夜は更け、一日目が終わりを告げていった。




 時は少し巻き戻り、第一小隊とはまた別の場所。

 森の中では、一つの小隊が魔族と戦っていた。


「__オラァ!」


 烈帛の気合いと共に振り翳された炎の魔剣が、目の前に立つ低位魔族の群れを次々と焼き切っていく。

 魔族たちは耳障りな断末魔を上げて次々と倒れていくが、猛は気に止めない。

 それどころか、珍しく愉しげな笑みすら浮かべていた。


 魔族たちを切り落としながら笑うその様には、狂気を感じさせるものがあったが。


「〈氷弾アイスバレット〉」


 猛の背後では、美緒が氷の魔法で敵を牽制しつつ撃退していた。

 ちなみに、残る一人である佳奈恵は現在、戦闘に参加していないが、それにはちゃんと訳があった。


「ごめんね、二人だけに任せちゃって」

「ううん。佳奈恵は自分のやる事をやってて。あと猛、少しやり過ぎ」

「んなこたねぇよ。こんなモンだろ」

「もうちょっと穏便にやって。佳奈恵も怯えてちゃうから」

「お、怯えたりしないよ……多分」

「……わぁったよ」


 自信なさげな佳奈恵の態度に、猛は溜息をつきながらも了解を示した。

 言われたように実行できるかはともかく、これ程素直に聞き入れる猛の様子を、普段よく絡む面々が見たらどう思うだろうか。


 第四小隊はまだ他の小隊との遭遇はなく、それ故にポイントもない。

 まだ初日であるため珍しいことでは無いのだが、実は今回の試験において彼らには大きな目的があり、ポイントにはあまり興味がなかった。

 この場での行動は全て、その目的のための準備だ。


 尤もそれは、猛の要望が大きく占めているのだが。


「……わりぃな、我儘聞いてもらって」

「私は気にしてないよ。それに、私だって負けたままじゃ悔しいから」

「わ、私も! できるだけ頑張って協力するから!」

「……おう、助かる」


 猛は手元に視線を落とすと、魔剣の柄を強く握り締め、再びニィッと笑みを浮かべる。


(こんなに早く機会が来たんだ。待ってろよ将真……次に遭遇した時には、キッチリぶちのめしてリベンジしてやる)


 この試験中に何れ来るであろう戦いに思いを馳せ、何度も愉しげに笑う猛を見て、美緒と佳奈恵はしょうがないとでも言うように顔を見合わせて苦笑を浮かべるのだった。

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