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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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二話「意外な再会」

「じゃあ自分はサクッと終わらせてくるッスねー」

「オッケー。じゃあ俺らも行くか」

「そうだね!」

「あ、将真さんとリンさんは留守番で」

「「なんで!?」」


 早速海で遊ぼうと言う時に、莉緒が早々に任務の方に動き出そうとして、共に動こうとして待機を言い渡された二人は思わず声を上げる。

 だが、莉緒はその様子にむしろ呆れたようなため息をついた。


「何でも何も、二人が一番体を休めなきゃダメなんスよ。分かってるんスか?」

「ううっ……」

「わ、分かった。分かったから指で額をグリグリすんな、やめろ」


 不調続きのリンと、魔王の力の影響を様子見しなければならない将真。

 以前よりは大変な任務は減ったものの、それでも連日、任務続きなのは変わらない。

 二ヶ月前の事件でむしろ調子が上がったのだという莉緒に、危険を犯して戦うより安静にしていろと言われてしまえば、二人も大人しく従うしか無かった。


「じゃあ私がついて行くよ」

「そうッスね。じゃあ美緒、よろしく頼むッス」


 しょぼくれる二人を差し置いて、代わりに名乗り出た美緒が莉緒と共に先んじて海へと入っていき、潜った二人の姿はすぐに見えなくなった。


「……しょーがねーか。俺らは大人しく遊んでるかな」

「そう、だね。じゃあ海! 海入ろう!」

「おお……ちょっ、ちょい待て……!」


 リンは無理やりに気分を上げて将真の腕を引いて、莉緒たちに続いて海へと入って行った杏果たちに続く。

 その時、将真の腕に胸が当たっていたのだが、慌てる将真を気に止める様子もないところからして、気づいていないようだった。


(か、勘弁してくれ……)


 できる限り、平常心を保つよう意識しながら、将真は胸中でそんな事を呟くのだった。




 魔戦師といえど、呼吸ができない水中で長く活動するのは難しい。

 だが、水属性と風属性の魔法の応用で、水中で空気の球を作ることは出来る。

 これにより暫くは息が続くので、水中での長時間の活動が可能となるのだ。

 それでも、激しい動きには向いていないのだが。


 莉緒と美緒も、例外なく空気の球を頭に被って海に潜っていた。

 初級魔術さえ使える技量であれば問題なく使用出来るのだから、両属性に適性がない莉緒や、水属性にしか適性を持たない美緒でも問題なく使える。


「……結構、潜ったよね?」

「そうッスねぇ」


 二人の声以外は、何も聞こえないほど静かな海の中。

 そろそろ数十メートルは潜っていると思うのだが、まだ底にはたどり着かない。

 聞いた話では、深度一キロを超えるという。

 一気に潜れば、いくら丈夫な魔戦師とはいえ、水圧で体が悲鳴を上げるだろう。

 それでも、ゆっくりと行けば生身で深くまで潜れるというのは凄まじい事なのだが。


「……まあ、慌てずゆっくり行きましょう」

「……うん、そうだね」


 少し警戒を見せる莉緒の言葉に美緒は素直に頷き、二人は更に深くへと潜っていった。




「そういやよぉ、猛が来るなんて珍しいよな」


 莉緒と美緒が海中に潜って早一時間が過ぎていた。

 飲み物を買ってきた響弥が、将真と猛にそれぞれ容器を放り、取り零すことなく受け取る。


「まあ、確かに……」

「るっせぇ、俺だって来る気なんざなかったわ」


 将真が同意するように頷くと、猛は顔を顰めて悪態をつく。

 女子組が浅瀬で遊んでいる様子を眺めながら、将真たち三人は海辺で一休みしながら駄弁っていた。


「いやー、女子たちは元気あっていいなぁ」

「オッサンみたいなこと言うなよ」


 彼らが少し疲弊しているのは、さっきまで三人でやたらと泳ぎ回ったせいだった。

 特に猛は将真に対抗心剥き出しで、将真もそれに煽られる形でムキになっていた為、余計に疲れていたのだ。

 ちなみに響弥は図体と筋肉が仇となって、ついて行く事も難しかったようで、二人以上に疲労が濃い。

 泳げない訳では無いのだが。


 それでも落胆するどころか、休憩しながらも響弥はどこか楽しそうだった。

 その視線は変わらず女子たちの方に向いていて__


「お前……」

「胸ばっか見てんな」

「なんだよぉ、別にいいだろ……てかお前らだって、興味あるだろ?」

「ないとは言わないけどなぁ……」

「別にねぇよ」


 目を逸らして気まずそうに口篭る将真に対して、猛は馬鹿にするように鼻を鳴らすと、本当に興味無さげに仰向けに寝転がってしまった。

 未だに機嫌が治らない様子に、将真と響弥は顔を見合わせて小さくため息をつく。


 そして視線を女子たちに戻すと__丁度二人の少女が、その輪に加わるところだった。

 長い黒髪の少女と、エメラルドグリーンのお下げの少女。

 莉緒と美緒では無いものの、知らない相手ではなかった。


「あれは……」

「……おっと、君たちも来ていたんだね」


 二人の少女を見ていると、頭上から不意に声が聞こえてきて、三人は姿勢を変えないまま首だけ見上げるような形でそちらを振り向く。

 そこに立っていたのは金髪青眼のイケメン。


「……は、遥樹?」

「うん、こうしてちゃんと顔を合わせるのは数ヶ月ぶりかな?」


 紅麗、真那を引き連れ、将真たちと同じく海に来ていた遥樹だった。


「……なんでここに?」

「ただ遊びに来てるだけだよ。今日は何をする気もないから安心して欲しい。この前は悪かったね」

「いや、まあ、前の事はもういいけど……」


 気にしていないつもりでいるが、前の事がある為にどうしても警戒して身構えてしまう将真。

 それでも今は遥樹の言葉通り、敵意も殺意も向けられている感じはなかった。

 むしろ猛から向けられている悪感情の方が、余っ程危険で気が抜けない。


「まあ、任務のついででもあるんだけどね」

「……お前らも?」

「ん? ……君たちもかい?」

「そうだ……と言っても、俺たち第一小隊で受けてるだけなんだけどな」


 尤もそれすら、将真とリンは置いていかれ、代わりに美緒が莉緒と共に向かったのだから、あまり任務の実感はないのだが。

 ちなみに遥樹たちはライフセーバーの人員として来ていたらしい。

 折角だから遊びながら、と思っていた矢先に、紅麗と真那がリンたちを見つけて駆け寄って行ったのだとか。


 そして将真たちが受けた任務の内容を聞くと、遥樹は少し難しい顔を浮かべた。


「……なるほど。結構危険な任務だね」

「そうなのか?」

「何事も無ければ潜って確認して来るだけで済むんだけど……」


 これで何かと遭遇したらどうなるか。

 海底での戦闘は、以下に優秀な魔戦師であろうともリスクが高すぎる。

 そもそも海底での戦闘など、おいそれと経験する事も無いのだから当然と言えよう。


「この前の詫びをしてなかったね。よければ手伝おうか?」

「……そりゃ心強いな。何かあった時には頼むよ」


 遥樹の提案に、少し驚いたように目を瞬かせる将真。

 その内心を見透かすことは出来ない。

 だが、少なくとも善意からの発言だと分かったから、警戒を解いて表情を和らげ、苦笑混じりに拳を向ける。

 遥樹もそれに応じて拳を重ねた。


「まあ、それも二人が戻って来てからだけどな」

「じゃあそれまでは__」


 と、遥樹が何かを言いかけたその時。

 結界付近の沖の方で大きな水飛沫が上がり、大衆は驚いたように視線を向けた。




「……えっと」


 少し身を固くして、警戒心を見せるリン。

 だがそれは、彼女だけでは無かった。

 朗らかな様子で近づいてくる紅麗と真那に対して、居合わせた残りの三人も少々、複雑な表情だ。


「ちょっと、そんなに警戒されると流石に傷つくんだけど」

「そ、そうは言うけど……」

「ねぇ、リン。前の戦いの時の話、覚えてる?」

「え? ……えっと」


 真那に問い掛けられて、リンは首を傾げて考える。

 真那との会話はそんなに多くなかったから、思い出そうと思えば一応思い出せる。


「……仲良くしたい?」

「うん。この前の事は申し訳ないとは思うけど、もう過ぎたことだし。私はみんなと仲良くしたい」

「あ、私も私も。ドンパチしようってつもりはもうないのよ」

「うーん……」


 リンたちは難しい顔を見合わせる。

 仲良くしたい、というのは紅麗や真那だけでは無い。

 だが、前の事が胸につっかえていて、中々素直に首を縦には振れなかった。


「そうつれないこと言わないで、つべこべ言わずに私達も混ぜなさいよ!」

「ひんっ!?」

「……うわぁ、なにこれ凄……お?」


 悩ましい表情を浮かべている間にも、紅麗は静かに杏果の背後に迫って、後ろから胸を鷲掴みにした。

 あまりに急だったせいで嬌声を上げる杏果だったが、手に伝わる感触に若干引き気味の紅麗は、目を丸くするだけで嬌声に気にした様子もない。

 そんな隙だらけの紅麗の腕を、杏果はがっちりと掴み、警戒させる間も無く綺麗な一本背負いを決め、背中から水面に叩きつけた。


「いっ……たぁい……!」

「い、いきなり何すんのよ!」

「いいじゃん女同士だし減るもんじゃないし……」

「いいわけないでしょ……!」


 胸元を隠すように腕を抱きながら、少々興奮気味に息を切らす杏果。

 ちなみに、その間にリンが少し視線を向けたでは、遥樹と将真が話している様子が見て取れた。

 そして、今の光景をガン見していた響弥の姿も。

 尤も、杏果は紅麗に怒りを向けていて気づいていないようだが。


(……まあ、知らない方がいいのかなぁ?)


 リンが気づかなかった振りをしようと考えると、杏果が隣で大きくため息をついた。


「……私は別に、混ぜてやってもいいんだけど。心中複雑なのはリンたちでしょうし」

「うん、そうだよねぇ」


 佳奈恵も、杏果の言葉に同意するように小さく頷く。

 確かに、彼女たちの妨害を受け、直接戦ったのはリンと莉緒だ。

 そして今この場には莉緒はいない。


「……うん、わかった。確かにもう過ぎたことだもんね。じゃあ改めて、仲良くしようね」

「うん」

「でも遊ぶって言っても普通のビーチボールなんだけど、いいかな?」

「いいわよ何だって。親睦を深めたいだけだもの」

「そっか。じゃあ__」


 始めようかと言う前に、リンの言葉が途切れる。

 その原因は、大きく上がった水飛沫だ。

 彼女らの視線は、否応なくそちらに向けられた。

 そうして間も無く水飛沫から飛び出してくる、二つの人影を見て、リンと佳奈恵がそれぞれ声を上げた。


「莉緒ちゃん!?」

「美緒ちゃんも!」


 二人の声が聞こえていないかのように、脱力したまま宙を舞う二人。

 だが、現れたのは彼女たちだけではなかった。

 水飛沫の中に見えたのは、巨大な蛇のような影だった。




 第二小隊の三人が将真たちと接触した頃、莉緒と美緒はかなり深い所まで潜っていた。

 そしてその顔色は、僅かに曇っていた。


「……この魔力濃度」

「まさかとは思ったけど、穴空いてるッスね……」


 予想されていた中でも最悪に近い状態である事に、二人は顔を顰めていたのだ。

 それだけではなく、以下に魔戦師の体が丈夫で、水着も一応寒暖差に耐性のある物でも、流石に深海に一時間と潜っていれば冷えてくる。

 そうなれば、生理現象に襲われる事も不思議なことでは無い。


「……早く上がろう」

「そうッスね」


 頷き合い、浮上を開始した、その瞬間だった。

 強烈な悪寒が二人を襲った。


「……なんスか、今の」

「莉緒ちゃん、大丈夫? チビってない?」

「はは、美緒こそ、大丈夫ッスか……?」

「……うん、まあ、大丈夫だけど……この気配は」


 顔を見合せた二人が恐る恐る視線を落とした先は、暗視の魔法を使っても見えにくい程に暗かった。


「……美緒ッ!」

「うん!」


 だが、暗闇の先に幾つもの光点が見えたかと思うと、二人は即座に行動を開始した。

 まず美緒が、海上まで伸びる氷の細い坂道を生成し、莉緒は美緒を抱き抱えると、坂道に足を乗せる。

 その足には、氷のスケート靴のようなものが生成されていた。


(足怪我しそうッスねぇ……!)


 それでも躊躇うことなく、莉緒は膝を曲げる。


「〈日輪舞踏〉……〈輪閃光りんせんこう〉!」


 足場を蹴り、神技を使用したその瞬間。

 二人の体は射出されたかの如き凄まじい勢いで海上へと発進した。

 同時に、二人が元いた場所を何かが噛み砕く様子を、美緒がしっかりと確認した。


「……最悪の、ケースッスかね……?」

「ッ……ううん……一歩手前、くらい、かな……?」


 意識が飛びそうなほどの勢いの中、二人が確認したその何らかの姿とは__


「魔獣〈海蛇シーサーペント〉、数は……三体!」

「三体!?」


「「うぁッ__!?」」


 海上に出る直前、雄叫びと共に凄まじい勢いで追いついてきた〈海蛇〉の衝突を受け、二人は大きな水飛沫と共に撥ね飛ばされて、体が宙を舞った。

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