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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
四章 巨大な襲撃者
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一話「帰ってきた日常」

お久しぶりです!

四ヶ月ぶりに更新していきますのでよろしくです!

 八月上旬。

 観戦席から多くの生徒が見守る中、闘技場にて対峙するのは高等部一年生の二人の生徒だ。


 一人は、棒としか言いようのない武器を構え、襲い来る攻撃を必死に避け続ける少年。

 もう一人は、血液で作り出した深紅の刀を携え、少年に向けて小さな血の刃を無造作に撒き散らす少女だ。


「ほーら、逃げ回ってるだけじゃ解決しないわよッ!」

「うるせぇ! 言われずとも、わかって……うおッ!?」


 悔し紛れに悪態をつきながらも、紅麗の攻撃にギリギリで回避を間に合わせる将真。

 それも正直、時間をかける事に際どくなってきているが。


 紅麗は人間と吸血鬼の混血ハーフだ。

 その為、身体能力は将真を上回っている。

 戦闘能力が高いのはお互い様で、実戦経験の差と、それに裏付けられた多彩な紅麗の動きが、将真を翻弄していた。


「なるほど、警戒されるだけあって動きはいいわね」

「そりゃ、どうも!」


 何とか飛ばされた刃を回避しきると、一息に地面を蹴り、紅麗の懐へと潜り込むように急接近する。

 これは以前の将真では考えられなかった動きだ。


「__でぇい!」

「むぐっ……!」


 鋭い横凪の軌道で襲い来る将真の棒切れを、紅麗は刀で受け止め、金属の接触音が鳴り響く。

 予想より重い攻撃に少し驚いた紅麗だったが、将真の一撃は結局、上手く流されてしまった。


「チッ!」

「あはっ、いい攻撃じゃない!」

「くぉっ!?」


 そして受け流されてバランスを崩した将真の背中を、紅麗の刀が容赦なく切りつけた。

 とは言え、地面を転がるような咄嗟の回避が、奇跡的に傷を浅く済ませることに成功させる。


 そうして退避した先で、将真は苦しげな様子で若干引き攣った笑みを浮かべて、荒い呼吸を整えていた。


(くっそ、魔王の力まるまる使える訳じゃないとはいえ、ここまで差があるか……!)


 解放された後、将真は仲間と共に何度か都市の外での任務を行い、予定通りに経過観察で華蓮の元に赴いた。

 その時に改めてより強固な封印を施されたのだが、三段階に分けられた封印は将真の意思で解除し、魔王の力の行使がローリスクで可能となった。

 それでも、一つ目で一割、二つ目で三割、三つ全て解除しても五割までしか出せないように制限されている。

 だから、暴走寸前に陥るようなことも、体に負担をかけすぎるようなこともない。

 だが同時に、いざと言う時に、限界を振り切って無茶な行動を取る事は難しくなっていた。


 勿論、将真にとっても序列戦は大事だが、だからといって魔王の力を全開で使いたいなどとは考えていない。

 いないのだが。


(二つ目……三割まで力を解放してもこれだもんな!)


 将真自身の実力も確かに上がっているが、それでもまだ十席には及ばない。

 魔王の力に頼りきって、ようやく互角では駄目なのだ。

 出来れば、五割は解放しない方がいい。

 本当なら三割だって解放するつもりは無かったのだが、それに関しては今更だった。


 今回の序列戦で、将真にとって紅麗との試合は二戦目。

 その前の試合で、一割で抑えようと思っていたところに、つい三割まで解放してしまうような事態に陥ったからだ。


「将真くん、頑張って!」

「ほら、まだやれるッスよ!」


 失敗した前の試合に思いを馳せていると、仲間たちから声援が送られてくる。

 その事に気恥ずかしさを感じつつも、ありがたさも感じていた。

 尤も、将真を応援しているのはリンや莉緒だけでは無かったのだが、対峙する紅麗の反応は、苦い表情を浮かべるだけだった。


 〈表世界〉と繋がりがありながら〈裏世界〉には娯楽が少なく、こうした試合の観戦はそんな数少ない娯楽の一つだ。

 そしてそれ故に、白熱した試合や劇的な展開を好むのだ。

 今、この場で試合を見ている者たちは、仲間であるか否かは関係なく、その多くが将真の勝利を望んでいる。

 紅麗が悪役ヒールという訳ではないのだが、大番狂わせ(ジャイアントキリング)を見たいのだ。

 それはつまり、将真の実力が明確に低く見られているわけであり、仲間以外からの応援は喜べばいいのか怒ればいいのか、といった複雑な心境ではあるが。


「__〈黒絶こくぜつ〉!」


 棒に纏わせた黒い刃が、虫の羽音を思わせる音を立てる。

 深呼吸で心を鎮め、集中力を研ぎ澄まし、棒を握る手に、そして踏み込む足に力が入る。


「シッ__!」


 勢いよく、地面を蹴る。

 その速さは、この試合の中でも一番と言っていいだろう。


「ヒュゥ! 速いじゃん!」


 だが、紅麗はそれすら目視で回避してみせた。

 それでも将真は驚かない。

 回避される可能性も想定し、その前提で動いていたからだ。


「__これなら、どうだ!」

「うげぇ!? それは、聞いてない!」


 回避行動をとった紅麗に向けて、周囲に生成した黒炎の球を三つほど、順に生成して打ち込む。

 将真が攻撃魔法を使えると思っていなかった紅麗は、その直撃を受けて後方へと吹き飛ばされる。

 この魔法は、魔王の力が半ば暴走した影響で使えるようになった代物だ。

 以前のままであれば紅麗の予想通り、まだろくに使えなかっただろう。


 だが上手く防御されたようで、ダメージ自体はあまり通っていなかった。

 その事実に、将真は舌打ちをしながら歪んだ笑みを浮かべる。


「不意打ちもダメかよ……」

「やってくれたわね! お返しよ!」


 少し怒ったように声を上げる紅麗は、大きな蝙蝠のような翼を生やして宙を飛ぶ。

 そして将真を見下ろす形で手首を切り裂き、幾つもの剣を生成した。


「食らいなさい!」

「おぉぉぉっ!?」


 深紅の剣は、将真へと容赦なく降り注ぐ。

 その速度はかなりのもので、手数もあるため回避がままならない。

 剣の雨への対処に将真が焦っている間に、紅麗は翼を畳んで急接近。

 そのまま将真の体に飛び乗り、うつ伏せに組み伏せて首筋に刃を押し当てた。


「全く、ホント編入生らしくないわね。でもこれで終わりでしょ」

「お、おお……こ、降参。参った……」


 最後は一瞬で圧倒されて、惚けたまま口を開く。

 そして直後に鳴り響く試合終了のブザーが、将真の敗北を告げるのだった。




 後日、百期生第一小隊は柚葉に呼び出しを受けていた。


「試合、惜しかったわね」

「惜しいもんか」


 柚葉としてはそんなつもりは無いが、世辞としか受け取れないその言葉に、将真は不機嫌そうに口を尖らせる。


 序列戦も終わって一週間ほど。

 第一小隊としては、将真の序列は上がり、リンと莉緒は現状を維持と、上々な成績ではあった。


 尤も、一試合目もギリギリで、二試合目は手を抜かれていたのだから、将真としては納得のいく結果とは言えなかったが。


「背中の傷は治った?」

「前の序列戦と同じだよ。その日のうちに治ったさ」

「それなら良かった」


 ちなみに第一小隊は暫く、外での任務を控えるように指示されていた。

 やってはダメ、とまでは言われていないが、それでも難易度が高めの任務は受けさせて貰えない。


 理由の一つとしては、将真の魔王の力が影響しているだろう。

 封印を施したとはいえ、危険が無くなった訳では無い。

 むしろ、封印を施した上での経過観察は必要だ。


 そしてもう一つ。

 それは、リンの不調が原因だった。

 どうやら二ヶ月ほど前の騒動の時を境に、魔力制御がかなり不安定になっているようなのだ。

 序列戦も見ていたが、将真から見てもよく途中で負けなかったものだと思うくらいには、危うい動きが何度もあった。


 そんなこんなで、ここ一ヶ月で漸く難易度が低めのものとはいえ、外での任務も許可されるようになってきた彼らは、正直体力が有り余っていた。

 そこに柚葉からの呼び出しがあったのだから、手応えのある任務でも言い渡されるのかと、少なからず期待をしてしまうのだが。


「それで、今日の呼び出しは?」

「そうそう。あなた達、海にはもう行ったかしら?」

「……海?」

「そうよ。もう三週間くらい前だけど、海岸の方で海開きしてたのは……知らなそうね。なんか興味無さそうだもの」

「まあ……」


 顔を合わせて首を傾げる将真たちに、柚葉は小さくため息をついた。


「まあ、そっちで丁度任せたいお仕事もあるし、せっかくだから遊んできたらどうかなって。後は、杏果ちゃんたちも呼んだり、ね?」

「海かぁ……」


 人差し指を立ててウインクをしてみせる姉を前に、将真は実感が無さそうに呟いて、リンと莉緒も目を伏せる。


「……俺、海に遊びに行った事は無いな」

「実はボクも……」

「まあ行っても特にする事無いッスからねぇ」


 三人とも泳げないということはないのだが、特にこの世界では、泳ぐほどの広く深い水に浸かるという経験自体が殆どないのだ。

 その原因が、海や川に浸透する魔力の濃度だ。


 結界に守られた都市の外から出るだけでも、一般人からしたら致死量で、魔戦師ですら対策無しで滞在を続ければ死に至る事もある程に、大気の魔力は濃い。

 だと言うのに、海を含めた水中の魔力濃度は、結界外だと大気の数倍だと言う。

 推測でしかないが、深海ともなればその濃度は大気の十倍以上だとも。


 尤も、結界内の海は一般人でも入れるくらいには安全で綺麗なものだが。


「……まあ、たまにはそういうのもいいか」


 田舎者の将真は、自分の目で海を見る経験すら殆どなかったのだ。

 それほど親しい友人がいた訳でもない当時はともかく、今は友人たちと海へ遊びに出掛けるのも、悪くないかもしれない。


「じゃあ日時は二日後。任務の詳細も莉緒に送っておくから、早々にお仕事終わらせて息抜きしなさいな」


 そんな柚葉の言葉に頷き、三人は学園長室を後にした。




 任務内容は、海側を覆う結界の状態確認だ。


 どうやら、結界も長いこと展開し続けていると劣化していくらしい。

 それでも普通に展開している分には数ヶ月持つらしく、限界が来る前に改めて魔力を継ぎ足して維持し続けているようだが、海の方はそうもいかない事があるのだとか。

 深度を増す毎に魔力濃度が増していく為、底の方の結界が脆くなっていたり、穴が空いていることがたまにあるようなのだ。

 そしてそこから、魔物や魔獣の類が侵入してくることも。


 特にこの夏場でそんな事が起きては大変だ。

 海岸に遊びに来ているのは、何も息抜き目的の魔戦師ばかりではない。

 むしろその大半は戦闘能力を持たない一般人で、家族連れも多い。

 つまり、一般人が魔物や魔獣の被害に遭う可能性があるのだ。

 そうなれば最悪、死んでしまう可能性もある。

 そうでなくとも、高濃度の魔力を有した海水が流れ込んでくるのだから、危険なのは間違いない。


 ならばもっと頻繁に状態確認をしておけばいいと思うのだが、基本的に泳ぐ必要も無い世界だ。

 実は泳げる人間の方が少なく、潜水できる者となれば更に数は限られていた。


 その為、簡単そうな仕事でありながら報酬も悪くない。

 本当に結界に綻びがあるならば、これ以上ないくらい危険な任務でもあるのだが。


 ともあれ、特に何事もない平凡な日を繰り返して二日後。

 将真たちは海岸前にて第三小隊、第四小隊と合流した。


「__ひゃっほう、うーみだァー!」

「うっさいわね、はしゃぎ過ぎよバーカ」

「いでぇ!」


 ハイテンションな響弥の背中を、呆れたように叩く杏果。

 全員、その装いは既に水着を身につけ、上着を羽織っているという状態だ。

 正直、将真たちは普通の海パンだからどうしても地味だが、リンたち女子はそれぞれ、違ったデザインの水着だ。

 華やかで各々よく似合っているが、それ故に目のやり場に困る将真は目を逸らしていた。


「ほーら、将真さん目を逸らしてないで、なんか感想はないんスか?」

「う、いや、まあ……」

「ったく、なんで俺まで来なきゃ行けねぇんだよ……」

「いいじゃん、たまには。こういうのも楽しいでしょ?」

「別に……」


 莉緒に揶揄われてしどろもどろになる将真の隣では、不機嫌そうに眉を顰めながら佳奈恵に引っ張られる猛の姿が見て取れた。

 普段から機嫌が悪そうな猛だが、今日はそれがいつにも増して顕著だ。

 そしてその理由に、将真は思い当たる節があった。

 尤もそれは、将真だけでは無い。


 その原因は、直近の序列戦で初戦落ちした為だ。

 そしてその相手が将真だったから、猛はより一層、納得がいかないのだ。


 後で柚葉に聞いた話だが、そもそもこの前の序列戦では、二人が初戦で当たる予定ではなかった。

 何故か当日に急遽変更されていたらしい。

 試合内容は傍から見ても、将真が辛勝、猛が惜敗というギリギリもいいところで、将真も実力負けしている自覚はあった。

 何とか上手く立ち回り、攻撃を回避しながら、隙をついて攻撃を入れていく事で、辛うじて時間制限でのポイントで僅かに勝っただけだ。


 そうしてついて行くだけでも、封印を第二段階まで解放してようやくだったのだ。

 戦い方も我ながらせせこましく、正直、勝った気はしなかった。


 だが結果として、将真がたった数ヶ月で実力差をひっくり返して勝利、猛は初戦敗退という屈辱を味わっている。

 そしてまだそれほど日が経っていないのだから、猛の気持ちも分からないでは無いが。


「もー、いつまでも拗ねてないで、今日くらい気分切り変えて楽しもうって言ってるじゃない!」

「別に拗ねてねぇ……おい、佳奈恵。待て、分かったから引っ張んな」


 だが仏頂面のままの猛をお構い無しに、佳奈恵がグイグイと引っ張って海岸へと連れ出していく。

 これには流石の猛も少し動揺を見せていた。


「……はぁ、しょうがねーか」

「そーだなぁ。おーい、待てよ!」


 その様子に、顔を見合わせて苦笑を浮かべながらも、将真たちもその後を追っていった。

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