表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
三章 魔王争奪人魔戦線
47/118

十六話「抑制の封印」

 急に景色が変わった先は、どうやら自警団本部の施設内だった。

 そして瑠衣が指さした先が、目的の人物が研究室として使っている部屋らしい。

 周囲は薄暗く、瑠衣が自由に繋げられる影がそこら中に広がっていると言ってもいい環境で、一瞬で転移できたのも納得だ。


「……気味悪い場所ですね?」

「そうねぇ。まあ位置的には山の中だし、この暗さはしょうがないけど」


 将真の率直な感想に肯定を示しながら、瑠衣は扉の正面に手を触れる。

 そうしてシュッと扉がスライドしたところを見ると、手形認証か何かで開く自動ドアのようだ。


 部屋は思いの外広い。

 だが、廊下よりも更に暗い内部は狭く感じるし、不気味と言っても差し支えない程におどろおどろしい。

 入ってすぐの場所は資料らしきもので散らかっている惨状だったが、それを片付ける人物が二人いた。


 一人は、将真もよく知る金髪の女性だ。


「あれ、柚姉じゃん。何でこんなとこに__ぃ!?」


 彼女がいるのは予想外だったが、久しぶりの再会が喜ばしくないはずもなく、ただそれを露わにするのは気恥ずかしく、軽く声を掛ける将真。

 対する柚葉は、将真を視界に捉えて一瞬の硬直を見せると、駆け寄ってきて勢いよく将真の体を抱き締めた。


「ゆ、柚姉……?」


 衝撃で危うく倒れそうになりながらも、何とか踏ん張って柚葉を受け止める事に成功した将真は、少なからず戸惑いを感じていた。


「……体は大丈夫? どこもおかしなところはない?」

「ない……って事はないけど、まあとりあえず無事だよ」

「……ごめんね。本当に、ごめんなさい……」

「いや、そんなに謝られる事はされてないと思うけど。むしろ、俺の方こそ心配かけて、ごめん」

「……え?」

「……ん?」


 強い後悔を滲ませる声音に将真も謝罪を口にするが、何が引っかかったのか、顔を上げた柚葉は戸惑うような表情を見せた。

 そして表情の理由がわからず、将真は視線を瑠衣に向けると、目を瞬かせた瑠衣はようやく何かに思い至ったようで、ハッとした表情を浮かべた。


「あー……もしかして、柚葉ちゃんがしたこと、何も知らない?」

「えっと……多分」

「……私ね、生徒たちに、あなたを殺すように命令したのよ」

「……え? 柚葉が? ……俺を?」

「……うん」


 柚葉が肯定を示すと、将真の知らない所で起きていた騒動が、柚葉と瑠衣の口から語られた。


 柚葉が苛折に暗示にかけられた事。

 柚葉の命令で、殆どの学園生が将真の処分へと動き出していたこと。

 勿論、リンを初めとした友人たちや、先輩である榛名たちは例外だ。

 命令に乗せられた訳では無い、という意味では遥樹たちも例外だろう。

 とはいえ、学園生だけでなく相当数の自警団員まで将真の処分に動き出していたのだから、収拾がつかない状況だったのは想像に固くない。

 加えて魔族の侵攻まであったのだから、正直、無事に収束したことに驚きを覚えるほど混沌とした事態だ。


(……だいぶ迷惑かけちゃったなぁ)


 そして、遥樹も何度か口にしていた、七年前の事件。

 それがどうやら、将真の状態に関係があるらしく、その話も聞けた。

 だから、柚葉が魔王の宿主に過剰な反応を示すのも分かるし、それが原因で暗示にかかりやすかったのだと言われれば、将真としては不満をぶつけるつもりもなかった。


「……てか、一応無事だし、何も知らなかったわけだし、気にしてないんだけど」

「あなたがそうでも私の気が済まないわよ……」


 そんな事を呟く柚葉の顔は、よく見てみると窶れているようだった。

 だが、将真がかける言葉を悩んでいる内に、瑠衣の軽い手刀が柚葉の脳天に打ち込まれた。


「いたっ!」

「弟くんが気にしてないって言ってんだから、その話は後にして頂戴。それよりも、早く封印を施しちゃいましょ。らん華蓮かれんは?」


 瑠衣が声をかけたのは、柚葉と共にいたもう一人の、白の軍服の女性だった。

 茶髪を肩口の長さで揃え、童顔に眼鏡をかけた、地味な少女然とした容姿。

 だが雰囲気は落ち着いていて、大人びた感じだ。

 実際、自警団員ならば年齢は大人なのだろうが。


「姉さんなら、そこのソファーで寝てますよ」


 藍は、腕を組んだままピッと親指でそのソファーを示す。

 入口に背を向ける形で置かれていた為、将真たちからは見えなかったのだ。


 将真と、彼から離れた柚葉、そして瑠衣。

 三人は回り込んでその姿を確認した。


 目立つ空色の長い髪は、無造作に整えもせず眠っているものだから、ボサボサになっていた。

 ヨレヨレの白衣に、藍とは違いダサい眼鏡をかけていて、顔立ちがわかりにくいが、一目でダメな大人だと見られかねない身なりだ。


(この人がそうなのか? ……任せて大丈夫か?)


 そんな彼女が、魔王の力を封印する事が出来る人物だと言うのだから、将真の心境は複雑だった。


「……どっかで見たことあるなこの人」

「それはそうよ。だって医務室の先生だもの」

「……あぁ、そりゃ見た事あるわ」


 彼女自身、いつも学園に顔を出している訳では無いらしく、将真とて、それほど目撃した回数は多くない。

 それでも、流石に生徒に見られるような所ではもう少しきちんとした格好だから、今の姿と一致しなかったのだ。


(そういやリンくらい小柄だった気がすんだけど……)


 あまり関係の無い、以前見た時の記憶が脳裏を過ったが、ともあれ、それならば信用しても問題ないだろう。


「ほら、起きなさい。大事な話があるって言ったでしょ」

「……フガッ」


 そうして皆の前で眠りこける華蓮を、瑠衣が鼻をつまんでわざわざ叩き起す。

 ようやく目を覚ました華蓮は、寝ぼけ眼を擦り、何度か目を瞬かせると、一度体を伸ばして腕を下ろし。


 将真は瞬時に顔を背けた。


「……姉さん。自分の研究室だからって、下着の上に白衣だけ着るのはやめよう?」

「……あぁ、藍か、おはよう。別にいいだろう。見られて困ることも無い」

「今日はそうでも無いでしょ」


 藍が将真を指差すと、華蓮の視線がじっと向けられる。

 一体何を言われるのか緊張していると、華蓮は「ああ」と気の抜けたような声を漏らした。


「君が件の、魔王の宿主か」

「そうですけど……ふ、服着てくれません?」

「なんだ、私の貧相な体にでも欲情するような男なのか君バッ!」


 将真に対して失礼とも取れる発言をした華蓮の頭を、藍が軽く引っぱいた。


「……何をする」

「男の子の前でしょ、せめて白衣の前くらいしっかり閉めて」

「……分かったよ」


 言われるがままに渋々と、華蓮は白衣のボタンを全て止めていく。

 その間将真はずっと顔を背けていたが、閉め終えると改めて、華蓮は将真に声をかける。


「もういいぞ。さて、自己紹介する必要は無さそうだが一応しておこう。これから君の主治医となる出雲華蓮いずもかれんだ。一応自警団に所属はしているが、戦闘員ではない。よろしくな」

「あ、じゃあ一応私も。妹の出雲藍いずもらんです。元は序列五位だったんだけど、訳あって副団長に任命されてからはひとつ上がって四位かな?」

「……主治医の話も新しい副団長の話も驚きですけど、えっと、高等部一年の片桐将真です。よろしくお願いします」


 気圧されたような表情を浮かべながらも、恐る恐ると差し出した将真の手を、二人はそれぞれ、軽く握って応じる。


「まあ、姉さんは医者と言うより狂科学者マッドサイエンティストって言われてるけどね」

「ハッ、あんな奴らと同じ括りにされそうな呼び方は気に入らんな。他人を問答無用で実験体モルモットにするようなクズと一緒にするな」

「でも自分の体ならいいんでしょ」

「当たり前だろう、自分の体なんだゾッ!?」


 小馬鹿にするように応じた華蓮の頭部を、再び容赦なく引っぱたく藍。

 頭を擦りながら恨みがましい視線を向けられると、藍もまた睨むような視線を華蓮に向けた。


「心配するこっちの身にもなって欲しいんだけど」

「心配せずとも、検証して問題ないと分かってからしからやんといつも言ってるだろうに……まあいい。じゃあ早速始めるとするか。という訳で将真」

「あ、はい」


 いきなり名前を呼ばれ、思わず背筋を伸ばす彼に対して、華蓮は端的な指示を出した。


「脱げ」

「……はい?」

「姉さん……」


 戸惑う将真の目の前で、藍が将真ではなく華蓮に対して呆れたようなため息をつく。


「なんだ」

「いきなり脱げなんて言われても困るでしょ。ごめんね将真くん。魔王の力の起点になっている場所を確かめる必要があるんだけど、服着たままだと調べにくいから上だけ脱いで貰っていいかな?」

「あ、ああ、そういう事……」


 藍に改めて説明を受け、将真は指示通りに上着を脱いでいく。

 そんな彼と妹を交互に見やると、華蓮は小さくため息をついた。


「分かるだろ」

「分からないよ」




 将真が診察を受けている間に、ちょっと用事を済ませてくると瑠衣が部屋を開けた。

 服を脱がせて何をどう調べるのかと思っていたが、どうやら触診のようだ。

 撫でるように華蓮の細い指が体に触れ、擽ったさに身を攀じる。


「悪くない体つきだが、まだ少し薄いか?」

「そうなんですかね……」

「まあまだ一年生だ、慌てることは無い……おっとこの辺か?」


 そう言って華蓮が引っ張り上げたのは、将真の右腕だった。

 正直、見ただけでは何もおかしなところはなく、何かがあるとは思えない。

 だが、将真の腕を握ったり揉んだりして色々確かめているうちに、彼女は確信に至ったように頷く。


「わざわざ脱がせた意味がなかったな」

「先に腕から見てあげればよかったんじゃない?」

「仕方がないだろう。普通は心臓部辺りのはずなんだ。それが何故こんな妙な所に……」


 言われて思い出したが、魔王の力を顕現させた時、確かに右腕を起点に侵食が激しかった。

 勿論、将真にも何故右腕なのかは検討がつかないのだが。


「……ふん、まあいいか。なら右腕を起点に封印を施す。少し痛むかもしれんが、我慢しろよ?」

「はぁ……ッ、ギィッ!?」


 痛みがあるかもしれない、と言われても、どんな感じなのか想像出来ないでいた将真。

 そんな彼を襲ったのは、硬い鎖で凄まじい力で締め付けられたような、そんな錯覚を覚える痛みだ。

 そしてその感覚が間違っていなかった事を示すように、将真の腕には四本の線と、その間に鎖のような紋様の線が入った痕が刻まれていた。

 それも時間をおけば、徐々に消えていったが。


「……これでよし、と」

「こ、こんなんでいいんですか……?」

「まあ、応急処置だからな。定期的に見せに来てもらうが、近いうちにもっとちゃんとした封印を組んでやる。私の魔力だけでは足りんからな、瑠衣さんに協力して貰うさ」

「なるほど……」


 魔王の力を封じるというのは、やはり容易いことではないようだ。

 しっかりとした封印といっても、施すのは同系統のものであるらしいが。

 その封印は、瑠衣とも話していたように力の全てを封じるのではなく、使える力を段階的に分ける封印だ。


 魔王の宿主として、将真の先代とも言えるたつきは、中等部の頃から躊躇なく力を使い続けて、数年で覚醒に至ったのだという。

 対して、将真は覚醒してまだ一ヶ月と経っていない。

 だから、力の調整を誤ることなく、無茶な使い方を控えれば、力を残しながらも侵食を抑えられるだろうというのが自警団上層部の判断だそうだ。


「まあ確かに危険極まりない力だが、学生でそれだけの力を持っている存在というのもまた貴重なんだ。リスク管理が出来ていれば問題あるまい」

「樹くんの時は、そもそも魔王の力だなんて誰も知らなかったし気づけなかった。でも今回は前例があるから、ある程度融通を効かせられるんだよね」

「……ありがとうございます」


 魔術師として戦えなくなっても、この力は封印しておいた方がいいはずだ。

 最悪、やはり将真を消しておくという決断もあっただろう。

 だが、自警団上層部の温情で、ただ生きていられるだけでなく、まだ仲間と肩を並べて戦う事が出来る。

 勿論、命のやり取りなんてない方がいいのだが。


「……無茶はするなよ。絶対に大丈夫という保証は無いのだからな」

「……わかりました」


 慮るような華蓮の言葉に返答をし、将真は柚葉に連れられて華蓮の研究室を後にした。




「__あら、要件は終わったみたいね」


 研究室を出てすぐ、用があるからと先程部屋を出たはずの瑠衣が待っていた。

 ちょっと、と言っていたから、大した用事ではなかったのだろうか。


(だったら今日のうちに封印を施せたんじゃ……?)


 そう思う将真だったが、それは敢えて口にしなかった。


「待ってたんですか?」

「ええ。お互い、大して時間もかからなかったでしょ?」


 そう言って、悪戯っぽく笑みを浮かべる瑠衣が手を翳すと、将真は柚葉と共に影の中に飲まれた。


「おっ……」

「瑠衣さん?」

「ねぇ、将真くん。君が一週間ほど眠ってたって話はしたと思うけど」

「あ、あー、確かに聞きましたけども……」


 目が覚めて直ぐに伝えられたのだから、時間にしてもまだ一時間と経っていないのだ。

 そう簡単に忘れるほどの時間も空いていない。


「お友達はもうみんな起きて、退院してるわよ」

「それはまあ、良かったけど……」

「……それでね。あの子たち、今か今かとあなたの帰りを待ってるんだよ」

「あ__」


 告げられて、将真の口から小さく声が漏れた。

 自分の事を棚に上げ、彼らの身ばかり案じていた将真だったが、一週間も経っているという自覚がない為に考えが至らなかった。


「……そうか、待っててくれてんのか」

「そうよ。だからね」


 瑠衣が言葉を続ける、その前に。

 周囲の影が晴れて、景色が再び違う場所へと移り変わっていた。

 影に覆われていたその場所を、振り返って確認してみると、自警団本部の手前だということがわかった。

 久しぶりに眩しいくらいの光を受けて、思わず目が眩むが、それも何度か瞬きをすると遠のいていった。


 すると今度は、騒々しい声と足音が聞こえてきた。


「__将真くん!」

「将真ァ!」


 耳を刺すような大きな声に振り向くと、リンを始めとしたいつもの仲間たちが駆け寄ってくる様子が見えた。

 尤も、猛だけは佳奈恵に引っ張られるように連れられて来られたようだが。


「ぐふぅ!」


 そして駆け寄ってきた勢いのまま将真の腹に飛び込んでくるリンと、突き飛ばすように突っ込んできた響弥から受けた衝撃で、将真は思わず呻き声を上げ、勢いに負けてひっくり返った。


 瑠衣の用事とは、彼らを呼び出すことだったのだ。


「ねぇ、将真くんもう大丈夫なの!? 体は? 意識とか問題ない!?」

「……ちょっと目が回ってるとこだな」

「えぇっ!?」

「ダメじゃねぇか!」

「誰のせいだ、誰の……」


 慌てるリンと響弥だったが、目が回るのはひっくり返った影響だから魔王の侵食は関係の無い話だ。

 そして、いの一番に駆け寄ってきた二人と遅れて、莉緒たちも将真の元へと辿り着く。


「将真さん、無事で何よりッス」

「あー、その……心配かけて悪かった」

「くたばってりゃ良かったのにな」

「ホント、今回ばかりは猛に同意するわ」

「悪かったけどそこまで言うかぁ!?」


 あんまりな言葉を投げ掛ける猛と杏果に対して猛然と抗議する将真。

 とは言え杏果に関しては、冗談半分のようだったが。

 そんな光景に笑いが起きて、戻ってきた事を実感した将真の顔も思わず綻ぶ。


「……ごめん、みんなを巻き込むつもりはなかったんだけどな」

「いいよそんな。将真くんの考えがわかってて、首を突っ込んだのはボクたちなんだから」

「そうだぜ、気にすんなよ。ダチ助けんのは当たり前だろ?」

「……ありがとう」


 将真の感謝に、笑みを浮かべたり、照れたような仕草を見せたりとそれぞれの反応を示す中、莉緒が将真の側まで歩み寄り、ニッと笑みを向ける。


「他にも、言うことあるんじゃないスか?」

「他にも? ……えっと、ごめん?」

「……そうじゃなくてッスね」


 莉緒が呆れたように苦笑を浮かべて小さく溜息を零すと、将真は不服そうに口を歪ませる。


「じゃあなんだってんだよ」

「……みんな、待ってたんスよ?」

「……あー」


 そこまで言われて、将真はようやく莉緒が言いたいことを理解した。

 申し訳なさそうに、そして照れ臭そうに頬をかく将真は、要求されているであろう言葉を恐る恐る口にする。


「た……ただいま……」

『__おかえり!』


 相も変わらず、猛は仏頂面のままだったが、仲間たちは将真の言葉を温かく受け入れるのだった。

これにて3章完結となります!

4章公開は今のところ未定ですがそのうちに。

遠くないうちにキャラ紹介も上げようと思います。


それではここまで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ評価やブックマーク等、お願いしますねー!ヽ(・∀・)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ