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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
三章 魔王争奪人魔戦線
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十四話「暴走手前」

「__はぁッ!」

「ぐ、うッ……!」


 〈神気霊装〉を発動させ、聖属性の魔力を纏った剣は、宛ら聖剣のようだ。

 それを振り翳す遥樹に対して、将真は繰り返し不利な体勢でありながらも、何とかこれを捌いていた。


(こんにゃろ……技量は分かるけど、まさか身体能力まで負けてんのか!?)


 受けに回れば大体が無理な体勢で対応させられていたが、何もずっと一方的だった訳では無い。

 攻勢に出る事も何度か出来たが、それでも力は互角か将真の方が押し返されそうなくらいだ。


 正確には、将真が身体能力で劣っている訳ではない。

 殆ど変わりは無いのだが、体の動かし方一つとっても、その練度に大きな差があるだけだ。


 持てる力を十全に発揮出来る相手に、どうして勝てるというのだろうか。

 数ヶ月前に猛や虎生と戦った時も、自分の弱さは確かに実感したところではあるが__


(……アイツらとやった時の比じゃねーな。少しは強くなったつもりだったのに)


 将真が辛うじて切り伏せられること無く立っていられるのは、ランディとの戦いの時に得た黒い刃を纏わせる技が、意外にも遥樹の剣の性能に対応出来ているからだ。

 更に意外なのが、今までは容易く破壊されていた剣擬きの棒は頑丈になり、どれだけ傷がつこうとも、ひび割れようとも、将真の魔力で修復できてしまったことだ。

 そうでもなければ、今頃将真は斬られていただろう。

 それで死ぬかどうかは分からないが、タダでは済むまい。


(例え俺の処分が無くなったとしても、遥樹は多分止まらない。誰に賛同した訳でもない、自分の意思でここまで来てるヤツが、簡単に自分を曲げて止まるとは思えない……!)


 何度目かの衝突。

 ほぼ互角に近いが、僅かに力負けする将真は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 その反動で遥樹も後方へと飛ばされるが、受け身を取る余裕もない将真と違い、冷静に地面を蹴り、威力を殺して後退する。


 戦いながら、考える。

 将真が無事に生き残る確実な方法は、ここで遥樹を倒す事だ。


(殺すのは当然無しとして、それでも無力化しなきゃならねー……)


 遥樹の目的が達成され、彼の目に将真は問題ないと映り、寛大な判断が成されれば、或いはこの戦いも無事に収束するだろう。

 だが、魔王の力が危険だということは将真自身も理解している。

 薄っぺらい希望的観測を持つ前に、最悪の事態を想定して動かなければならない。


「……はっ、冗談キツすぎだろ」


 魔王の力を使ってなお、遥樹と明確な差を感じるのだ。

 殺さないように加減などという器用な真似は出来ないし、仮に全力を持って殺そうとしてもまだ届かないだろう。


「__〈黒嵐こくらん〉!」

「おっと!」


 棒に纏わせた刃を解除し、代わりに魔力の渦を纏わせて地を叩く。

 それだけで魔力が強烈な渦を巻いて拡散し、視界を遮る。

 その間に、将真はもう一度同じ技を構えるが、嵐が両断された瞬間を目の当たりにして目を剥いた。


「はぁ!? 何だそれ!?」


 大慌てでその場から飛び退くと、将真がいた場所に容赦なく一撃が振り下ろされたところだった。

 そして追撃はそれだけに留まらない。

 光の玉が遥樹の周囲に幾つか生まれたかと思うと、それが将真の足元目掛けて発射される。

 躱しきれずにたたらを踏んだ将真はバランスを崩してよろけ、その隙だらけの腹部に遥樹の蹴りが突き刺さって地面を転がされた。


「ゲッホ……!」


 元々重心が後ろに下がっていた為に大きなダメージにはならなかったが、踏ん張ることは出来ずに足が地を離れ体が宙を舞う。

 それを容赦なく追う遥樹。

 そしてその動きに気が付き、更に交代して距離をとる将真。

 先程から幾度と繰り返された攻防だが、遥樹が不意に足を止めたことで将真も吊られて足を止める。


「……うん、なるほど。何となく分かってきたかも」

「……何がだよ」

「感覚的な話だからね。具体的な説明は少し難しいかな。あとは……」


 後に続く言葉を言う前に、遥樹は剣を両手で高く振り掲げる。

 その剣が、凄まじい量の魔力を溜め込んでいる事に気がついて、将真も直ぐに悟った。


(これ……遥樹の神技か!)


 濃密な聖属性の魔力を溜め込んだ剣。

 それは見たまま、聖剣と言われるものであり、聖剣と言われてパッと思いつく伝記は一つ。


(アーサー王伝説の選定の剣……!)


「さあ、行くよ。覚悟はいいかい?」

「チッ、殺る気満々かよ……!」


 揺らぐ刀身は数十メートルになろうかと言うほど恐ろしく大きく、下手に動けば回避すらさせて貰えない事だろう。

 その前に、広範囲に及ぶ聖剣の魔力が将真に浴びせられるはずだ。


(勝てるかどうかの話じゃない、迎え撃つしか……!)


 将真は、一度深呼吸をして棒を両手で握る。

 そして、まだ名もない黒い刃を纏わせる技を発動させる。

 だが、ただ刃を得たところで、この程度の力では相殺することは出来ない。

 更に集中力を高め、周囲の魔力を刃に凝縮させていく。


「……おぉ」


 すると、狙い通りとはいえ棒に纏わせた刃が肥大化し、遥樹の聖剣同様にとんでもない刃渡りとなった事に、将真は驚きを隠せなかった。


(……でも、これなら)


 この一撃なら、遥樹の聖剣に迎え撃てるかも知れない。

 将真が強い目線で遥樹を見据えると、覚悟は出来たと受け取ったのだろう。

 掲げていた聖剣を、躊躇うことなく振り下ろす。


「__神技〈聖剣エクスカリバー〉」

「__〈黒絶こくぜつ〉!」


 無名の技の名称がふと脳裏を過り、将真はその名を叫びながら、遥樹に対抗しがむしゃらに振り下ろし迎え撃った。

 衝突と同時に凄まじい魔力と衝撃波が撒き散らされ、周囲の木々がなぎ倒されても尚、それは収まることを知らない。

 だが、結局はそう長く続いた訳ではなく、徐々に、確実に将真が押され始めていた。


 それでも何とか踏ん張っていたが、将真の体よりも先に剣擬きの棒の方が限界を迎え、甲高い音と共に砕け散る。


「う、おっ……!」


 直撃は奇跡的に免れたが、強烈な衝撃波に煽られて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたのは何度目かも分からない。

 更に将真にとっては最悪なことに、体を起こそうとしても、痙攣するばかりで上手く動かない。


(くそっ、こんな時に……!)


 無理やり動かそうとする度に体が軋む感覚に蝕まれる。

 力を使いすぎたようで、これ以上の力の行使に耐えられないと、体が悲鳴を上げているのだ。

 それに気がついていないのか、或いは単に容赦も加減もないのか、将真の目の前まで迫った遥樹は剣を高く振り上げる。

 一瞬、二人の視線が交錯するが、だから何かが変わるかといえばそんなことは無い。

 ただ躊躇なく、剣が振り下ろされるだけだ。


「ちく、しょう……!」


 魔王の力はまだ顕現させたままだ。

 辛うじて奇跡的に止められる可能性のある異形の右手を突き出して、攻撃を防ごうとする。


 その瞬間、二人の間に割って入る影があった。


「「……なっ」」


 刹那、将真と遥樹はあまりにも唐突な事に、呆気に取られて声が漏れる。


 二人の間に割って入ってきたのは、黒髪に紅い両眼という、明らかに普段とは様子の違うリンだったのだ。

 必死だった将真は勿論のこと、遥樹も実はかなり全力を向けていた為に、リンの接近に気がつかなかったのだ。

 それでもこの場に間に合ってしまったのは、リンの速度があってこそだ。


 リンがそれほど速くなければ、将真が斬られて終わりだっただろうから。


(……止める!)


 間に入ったリンは、迫る遥樹の剣を受け止めるように、槍を両手で構えて防御耐性をとる。


「くっ……!」

「止めろ遥樹ィ!」


 将真は思わず声を荒らげ、遥樹は苦しい表情を浮かべたまま、剣は止まることなく振り下ろされる。

 余りにも、リンのタイミングが悪すぎたのだ。

 もはや、遥樹が自分で攻撃を止められるタイミングは過ぎてしまった。


「……あ」


 そして、遥樹の剣はリンの槍を容易く斬り落とし、肩から彼女の体を深く切り裂いた。


「リン__!」

「ッ……!」


 手を伸ばして、斬られた勢いのまま倒れかけるリンの体を支える将真。

 その様子を見て、遥樹は表情を強ばらせたまま跳んで後退する。


「ぅ、ぁ……」


 リンの体は深く傷ついてはいるが、両断された訳ではなかった。

 それでもかなりの深手だが、元は将真を斬る軌道にあった剣筋なのだから、リンの体を斬り落として、背後の将真ごと斬り裂いてもおかしくなかった。

 つまり、遥樹はあのギリギリのタイミングで軌道を変えてみせたのだ。


 その技量は凄まじいもので、普段ならば将真も感嘆を覚えていたかもしれない。

 だが、タダでさえ追い詰められていた状況で、更にリンが大きな怪我を負った事で、肉体だけでなく精神すら限界に来ていた。


「ぐ、ぅっ……!」


 その結果、将真自身も抑えようのない、どす黒い感情が胸中を覆い尽くしていく。

 無理やり抑え込もうと蹲って胸元を抑えるが、到底抑えられる衝動では無い。

 無意識下で抑え込んでいた魔王の力は、徐々に緩まって将真の体に影響を与えていた。


 化物の如き異形の右手は、精々が手首ほどまでしか無かった。

 それが、今は徐々に侵食が腕を這い、肘まで達していた。

 更に、首元から右頬に掛けて、タトゥーのような黒いシミが肌を舐めるように刻まれている。


 気配も、普段の将真とは大きく違い、酷く殺伐としたものへと変化していた。


 それでも、完全に暴走して理性を失うような段階ではまだ無いようで、苦悶の吐息を繰り返すリンを抱えて静かに立ち上がる。

 そして近くの木の幹にそっと、もたれ掛けさせるようにリンの体を下ろすと、将真の顔は遥樹の方を向いた。


 ギラギラと金色に輝く瞳孔と向けられる強烈な殺気。

 将真の全身から放たれる暴力的なまでの狂気に、遥樹は冷静な表情を保つ裏側で、酷く焦りを覚えていた。


(くそっ、失敗した……!)


 将真の魔王の力がまだ完全な覚醒状態になかったというのに、七年前の事件を思い出し、その力を過大評価して全力を向け過ぎた。

 その結果、将真をかなり追い詰めていた事も、その助けに入ろうと接近していたリンの存在にも気づけなかった。

 そして、不必要にもリンに大怪我をさせてしまった。

 それだけでも大きな失敗だが、将真の大事な友であるリンを、将真の目の前で傷つけたのは良くなかった。


 それが、将真の魔王の力を暴走させようとしていた。

 遥樹には程度がわからなかったから仕方が無いとはいえ、現状では将真がどう魔王の力を使おうとも、遥樹を脅かすことすら出来ないほど、その危険性は大したものではなかったのに。


(見定めるなんて偉そうな事言ってこのザマか。全く、嫌になるね……)


 自嘲するような笑みを浮かべる遥樹の表情を、将真がどう見たのかは分からない。

 だが、表情の変化を見たタイミングで将真は動きだした。

 その速さは、遥樹に翻弄され続けていたさっきまでとは段違いだ。


「うくっ……!」


 正面からの攻撃でありながら、不意打ちを受けたに等しい予想外の速度に、遥樹の防御が少し遅れる。

 今の将真は、それを見逃すほど温くも甘くもない。

 体勢を崩した遥樹の腹に、お返しと言わんばかりの蹴りを叩き込む。

 将真の動きから、次の攻撃が予想出来ていた遥樹は後方に地面を蹴り、威力と勢いを逃がして将真から距離をとる。


「何で、リンを……!」


 遥樹に余裕を与えまいとすぐに接近する将真が吐く、怨嗟に近いものを滲ませる言葉に、遥樹は表情を歪ませる。


「……それは、僕の落ち度だよ。彼女を傷つけるつもりは微塵もなかった」

「そんな事は__」


 追いついた将真が剣を振りかざし、遥樹はそれを受け止め、競り合う。

 少しの間、鍔迫り合いの状態が続くが、今度は将真の方が徐々に遥樹を押していた。

 魔王の力が更に将真の体を侵食し、限界以上に力を引き上げているのだ。


「__分かってんだよッ!」

「ヅッ!」


 鍔迫り合いは長くは続かず、将真が強引に棒を振りきった事で、力負けした遥樹は大きく弾かれて体勢を崩す。


「__ッ、ラァ!」

「ぐっ……!」


 そこにすかさず連撃を加えていく将真。

 体勢を崩したにも拘わらず、何とか追いついて反応する遥樹の技量はやはり凄まじいが、それでも少しずつ、攻撃を受け流せずに傷を作っていく。


「ああそうだ、俺が巻き込んだんだよ! お前にそんな気がないことくらい、分かりきってんだよ! 悪いのは、こんな力を持ってる俺なんだろ!? だったら、どうするのが正解だったんだよ!?」

「く、将真、落ち着け……!」

「都市に残ったところで、殺されてたかもしれないだろ! そうでなくても、今より確実にみんなを巻き込んでた! じゃあ俺に残されてた選択肢はなんだ!? 大人しく死ぬ事だけか!?」


 魔王の力が徐々に将真の心身を侵食し始め、不安定な精神が理不尽に嘆き苦しみ、黒いシミが更に拡がっていく。


(不味い、このままじゃ……)


 将真が正気を取り戻せず、侵食が進み続ければ、いよいよ殺すしかなくなる時がやってくる。


(不要に追い詰めたのは僕の責任だ。何とか……)


 そんな結末は、おいそれと受け入れる訳には行かない。

 責任感と罪悪感で焦燥に駆られる遥樹だが、次に放たれた将真の慟哭に、何かがプツリと切れた。


「望んで得た訳でもない力の為に、何で仲間も巻き込んで……いざとなれば死ななきゃならないのか!? 巫山戯んな__ッ!」


 遥樹に斬りかかり、受け止められた将真の剣は、想定外にも押し返されて距離を取らされる。

 その僅かな間に、遥樹から鋭い殺気を向けられた事が不可解だったが、体勢を整えて遥樹の方を向き直った時、静かに怒りを滲ませる様子が確かに見て取れた。


「……将真、君には同情するよ」

「何を……!」

「君の言う通りだとも。今、君が置かれている状況は、君が望んだものでは無い。辛いだろうね」

「分かったようなことを__」

「分かるよ。君は悪くないし……七年前、君と同じように魔王の宿主にされた人も悪くない。けどね、どうしても思い出してしまうんだよ」


 そう言って、遥樹は鋭い眼光と共に、切っ先を将真に向ける。


「僕だって、好きで次期当主なんてやってる訳じゃない。君だけじゃないんだよ__」

「__オアァァァァァッ!」


 殺気に半ば自動的に反応した将真の体が、勢いよくその場を飛び出して、遥樹に向けて棒を振り上げる。

 その一撃を、遥樹は真正面から受け止めた。

 今度は互いに押されることなく拮抗していた。

 将真の力が暴走しかかって増している中、まだそれほどの力を残している遥樹も大概異常だが、拮抗させた状態の至近距離で、遥樹は魔力が尽きる事も構わないというように聖属性の魔力を放出させる。


「……将真。僕は君の危険性を過大評価していた。それが君を追い詰めたことについては素直に認めるけれど、改めて言わせて貰おう。君を殺す気は更々ないよ」

「……だったら何だよ」

「魔王の力が魔属性なら、聖属性で抑えられる可能性もあるかと思ったんだけど、何とか抑えられないかな?」

「……ハッ」


 平静を装っているが、その表情が少し歪んでいるのは隠しきれていない。

 遥樹にとってもこの状況は楽なものでは無いのだが、将真はその提案を鼻で笑い、無理やりに遥樹を押し返した。


「……試して見たさ。でも無理だ。自力で抑えられそうもねー」

「まだ諦めるには__」

「自分を失って、仲間も、他の奴らも傷つけて、結局最後に殺されるくらいなら、今のうちに死んだ方がいいんだろうよ」


 諦めたように笑う将真を見て、遥樹は目を剥いた。

 将真の肌が露出した部分。

 その右側半分が黒く塗り潰されたかのように、侵食が悪化していたのだ。


 だが、もう戦意すら感じられない将真の内側からは、変わらず暴力的な衝動が湧いて続けていた。

 彼の意志とは無関係に体は動き、踏み込んできた将真の剣を、遥樹は苦しい表情で受け止める。


「死にたくねーし、納得もしてねーけど、他に手がないならしょうがない。もう巻き込んじまった手前、遅い気もするけどさ」

「……本気かい?」

「…………お前なら十分にやれるだろ。早くしてくれなきゃ、決意がブレちまう」


 将真の力が再び増してきて、遥樹は押し返されそうになる所をギリギリで踏ん張る。


(……追い詰めた以上、責任を取るのは僕の役目だ。ただ、我ながら勝手な話だけど、殺したくはない。本当に、何も無いのか……?)


 耐えながらも、打開策を思案する遥樹。

 だが、将真の心身ももう幾許と持たない。

 交えていた武器を互いに弾いて距離を取るが、将真は息をつくまもなく突っ込んでくる。


「アアアァァァアッ!」

「__くそっ!」


 何も思いつかず、自身の無力さに悪態をつきながら、自分に向かって棒を振り下ろそうとする将真に容赦なく横凪の一太刀を加えようとする遥樹。

 勿論、殺す気で振るった一撃だ。


 だが、将真の棒も、遥樹の剣も、互いの体に届くことは無かった。

 直撃する寸前で、二人の動きがピタリと止まったのだ。

 その原因は、二人の影から伸びる、無数の半透明の黒い手だ。


 更に不可解な現象はそれだけに留まらず、二人を中心に、一気に広範囲に黒い蟠りが拡がっていく。


「な、んだ……コレ……」


 暴走に飲まれかけ、意識が薄れてきた将真だったが、初めて見る現象に驚きを露わにする。

 振り払おうにも、その拘束力は魔王の力でも身動ぎ一つ許さないほどに強力で、跳んでいた将真はともかく、地面に着いていた遥樹の足は少し沈みつつあった。


「魔族の……仕業か?」

「…………いや、違う。これは……」


 将真と違い、この現象に覚えがある遥樹は、拘束されたまま力を抜く。

 その表情は、僅かながらの諦観を混じえた安堵が伺えた。


「……将真。僕に何が出来る訳でもないし、このタイミングというのは情けない話だけど」

「……なんだよ」


 将真は遥樹の言葉に反応すると、遥樹が視線を向けた先に、同じように顔を向ける。

 視線の先で、この黒い沼から姿を現したのは、長い黒髪の女性だ。

 女性と言っても、その姿は少女にすら見えるくらいだったが。


「__遥樹。随分と危ない橋をわたるじゃない」

「……そうですね。出しゃばるような真似をして、申し訳ないです」


 二人は顔見知りのようで、女性に謝罪を返すと、遥樹は将真に向き直る。


「__君を助ける算段が着いたよ」

「……は?」


 理解できない、と言うような声を漏らす将真。

 そんな二人の様子を呆れたような顔で、彼女は眺めているのだった。

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