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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
三章 魔王争奪人魔戦線
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十話「再会」

 魔物の群れを避けながら、更に先を進んでいた一同。

 追っ手との距離は、気配を感じない程度には開いたようだ。


 常に緊張状態にある上に、病み上がりの体だ。

 全員が、普段よりも疲労の蓄積が早い。

 だが、追っ手の気配どころか魔物の群れまで減ってきていた。

 あの爆発があってこの状況は少し出来すぎな気もするが、一先ず休憩するには丁度いいだろう。


「にしても、まだ将真さんには追いつけないみたいッスね」

「何処まで逃げたのよ、あいつ……」

「関係ないよ。絶対見つけて、助けるんだもん」

「まあ、リンの意気込みは買うけどよぉ」


 木の幹に体重を預ける響弥は、固い決意が滲み出るリンの言葉に、苦い表情を浮かべる。

 響弥だって、親友である将真を諦めるつもりは毛頭ない。

 だが、このまま闇雲に探し続けるだけでは無駄に消耗を重ね、リスクを積み上げていくだけだ。


「将真さんを見つけられるような策があればいいんだけど」


 美緒の言葉に、一同は頭を悩ませる。

 もちろん、誰一人として名案が浮かんでくることは無い。


 そうして頭を悩ませるうちに時間が経過し、不意に莉緒はあることに気がつく。

 〈贋作人形フェイカードール〉は未だ発動中なのだが、共有される感覚から、ある違和感を覚えたのだ。


「……なんスか、この感じ」

「莉緒ちゃん、どうかした?」

「……美緒、気づかないッスか? あまりに静かすぎるんスよ」

「……言われてみれば」


 嵐の前の静けさとでも言うような雰囲気が、周囲を漂っている。

 そうして莉緒は、違和感の正体に気がついた。

 自分たちを除く、周囲の何処からも、なんの気配も感じないのだ。

 感覚を研ぎ澄ませても、生き物の気配すら感じない。

 あまりに不自然だった。

 まるで、自分たちだけ世界から隔離されたような錯覚すら覚える。


「そんな心配する事? 邪魔されないならむしろ好都合じゃない」

「そうそう。今のうちに、どんどん進んじゃった方がいいと思うな」

「案外、近くまで来てるかもしれねーしな!」


 不安げな空気が漂い始めた時、第三小隊が殊更に明るく言うものだから、思わず小さな笑みがこぼれる。


「そうッスね。考えすぎかも」

「将真くんのためにも、時間はかけられないよね!」


 莉緒とリンは改めて気合いを入れ直し、第四小隊も再出発に向けてゆっくり立ち上がる。


 気持ちを持ち直した、そんな時。


「__見つけたぞ!」

『ッ!?』


 いつかは来る可能性があったその時が、来てしまった。

 一同は驚きに肩を揺らして声の方を振り向く。

 そこには、いつの間にかそう遠くないところまで迫っていた魔術師たちの姿があった。


「捕縛対象確認! これより行動に移る! 多少手荒になっても構わん、行くぞ!」

「ヤバッ……!」

「チッ、逃げるッスよォ!」


 莉緒の号令と共に、一同は駆け出す。


「__わっ!」


 だが、木の根に足を取られてよろめく佳奈恵に意識を取られ、結局は足を止めることになってしまう。


「佳奈恵、大丈夫?」

「ご、ごめんなさい美緒ちゃん。大丈夫ではあるんだけど、皆についていくの、やっぱり大変で……」

「じゃあ俺がまた担いで__」

「この状況で、疲弊するようなことは出来るだけ避けた方がいいと思うんだけど!」

「そもそもなんで!? 気配もなかったでしょ!?」

「向こうにも、隠蔽魔法が得意な術師がいるとしか考えられない……」

「どうするよ、分散してみるか?」

「いや、それだと各個撃破されて捕まる可能性が上がるだけッスよ」

「じゃあ抵抗してみる?」

「うーん、それもどうかな……」


 佳奈恵のペースに合わせながらも、あれこれと意見を並べる。

 一番現実的なのは、実は猛が担いでいくことではあるが、追いつかれて衝突した際に戦力が不足する事になる。

 分散するのは当然なしだが、抵抗もこちらから攻撃を仕掛けるのは絶対にナシだ。

 相手は〈日本都市〉の同胞だ。

 傷つけたくないという個人的な感情もあるし、心象を悪くしたくないという打算もある。


 だが、手段を選んでいる時間は最早ない。

 前方からも、挟み撃ちにするかのように魔術師たちが現れたのだ。


「うげっ!」

「そんな……!」


 思わず悲嘆の声が漏れ、彼らの間に焦燥感が漂う。

 このまま、何も出来ずに捕まってしまうのだろうか。

 将真を助けるどころか、見つけ出すことすら叶わずに。


(……将真くん、ごめんね)


 こうなっては抵抗は無意味どころか、状況を悪化させかねない。

 もう、諦めるしかないのだと、そう思って脱力した、その時だった。


 上空から、異様な気配が降ってくるのを感じたのは。


 警戒心を露にした追っ手の魔術師たちは、足を止めて傍観する。

 踏み込んでこなかった為に怪我も無く済んだが、もし突っ込んでいたらすぐ目の前にそれは着地していただろう。


 その正体は、黒衣を身に纏う、禍々しい姿をした、禍々しい気配を放つ一人の少年。


「……将真、くん?」


 彼らが探し求めていた、将真だったのだ。




 都市を出て三日目の朝。

 将真が目を覚ましたのは、知らない家屋の中だった。


(……なんだ? ここはどこだ? 俺はいつからここにいた?)


 あまりの急展開に思考が追いつかない。

 前日の意識を手放す直前の記憶も思い出せないでいた。


(体は……動くな。拘束されている訳でもない)


 自由が許されているという事は、捕まった訳では無いようだ。

 その事実に安堵を覚えると、鼻腔を擽る匂いに、思い出したかのように体が空腹を訴え始める。


「……そうか」


 そうして漸く、将真は思い出した。


 食事も睡眠もろくに摂らず、肉体的にも精神的にも限界が来ていたのだ。

 そんな矢先に、霧がかった森の中に入り込んで、足が縺れて倒れ込んでそのまま意識喪失、といった流れだ。


(……たった三日でぶっ倒れたってのか。情けねー)


 内心、そんなことを呟きつつも、思考を振り払って今わかる限りの情報をまとめる。


 まず、今いるこのログハウス。

 ここは、〈日本都市〉の中ではない。

 将真は現在、指名手配されているような状態だ。

 意識がある時ならまだ抵抗も出来ようが、意識が無い間に見つかっていたとしたら、既に殺されているだろう。


 初めて魔王の力を使った時は、ランディが相手だったからまだ良かったものの、細かな制御がまだ出来ない危険極まりないものだ。

 危険視されるのは十分理解できるし、自覚もあるから同胞相手に向けられるような代物ではない。


 だが、都市の外と言うには空気が違う気がしていた。

 濃密すぎると言っても過言ではないほど魔力に満ちたあの空気を感じないからだ。

 加えて、こんなにまともな住居が、物騒な都市の外にあるとも考えにくい。


(でも、俺がぶっ倒れたのって間違いなく外だしなぁ……)


 結局、考えがまとまらないままの所に、人の気配が近づいてくる。

 同時に、鼻腔を擽る香りも。


「__やぁ、起きたね少年」

「…………誰、ですか?」


 将真を介抱したであろうその人物は女性だった。

 長い黒髪をポニーテールに結い、Tシャツにジーパン、そこにエプロンというあまりに地味な格好。

 それでも失われない端正な顔立ちと美貌から滲み出る高貴さ。


 だが、将真が注目したのは彼女の姿ではない。

 自然体の彼女から放たれる威圧感だ。

 敵意もなく、殺気を向けられているわけでもないというのに、命の危機すら感じる。

 魔王の力を持っている将真からしても、それだけの力の差があるという事だ。


(ヤバすぎるだろ……!)


 身が竦むような思いをしながらも、将真は警戒心を緩めない。

 何者かと問われ、少しの間キョトンとしていた彼女は表情を和らげると構わず、将真の使っていたベッドの傍の椅子に腰を下ろす。


「それは、わたくしのセリフだよ。〈魔王〉の器の坊や」


 瞬間、将真は動きだした。

 その場から逃走するために。


(正体までバレてる……! ランディよりもずっとヤバいぞこの人!)


 尤も、そのランディは生け捕りをしたいがために手を抜いてはいたのだが、それにしたって目の前の相手は勝ち目が無さすぎる。


 だが、逃走は残念ながら失敗した。

 止められた訳では無い。

 踏み込んだはずの足に力が入らず、将真の体が崩れ落ちたのだ。


「……は?」

「あーほら、無茶するから。酷く消耗していたその体では満足に動けないでしょう?」

「うぁ……!」


 女性は呆れたようにため息をつくと、将真の傍まで歩いてきて、猫でも持ち上げるように襟首をひょいと摘んで、将真をベッドに戻す。


「ほら、遠慮なく食べなよ。食べながらでいいから、話を聞かせて欲しいな」

「……もう一回聞きますけど、何者ですか? 魔術師、なんですか?」

「うん。所属はない、流浪の魔術師だけどね。名前は……そうだね、“ジェー”って呼んでくれればいいよ」

「Jさん、ですか?」


 将真の問いかけに、Jは静かに頷き、将真に持ってきたシチューの様なものを一口、口に含む。


「……えっと」

「毒味だよ、ほら」

「い、いやいいです、自分で食べれますから」


 スプーンを目の前に差し出されて、将真は戸惑いながらもそれを受け取る。

 少しだけつまらなさそうな顔をしたJだったが、その表情は直ぐに真面目なものへと変わる。


「もっかい言うけど。食べながらでいいから話を聞かせて貰っていいかな?」

「……俺が魔王の器だって知ってるなら、大体の想像はつくんじゃないですか?」

「まあそうだね。活性化したのは最近の話かな?」

「……そんな事、分かるのか」

「それこそ最近の話だからね。力の片鱗を感じ取れたのは」


(……そんなもん感じ取れるのか。ホント、何者なんだ?)


 やはり敵意はないようだが、それでも将真の警戒心は和らぐ所か強さを増していた。


「君を殺すのが、魔王復活の時間稼ぎに最も手っ取り早く効果的だからね。それで君は追われてるんでしょ?」

「その通りです……」


 ここまでぐうの音も出ない程に的確な予想をついてくる彼女にはもはや、恐怖すら覚える。

 そのやり取りの最中も、ゆっくり食事を続ける将真に、Jは徐にタブレットを取りだした。


「残念だけど、多分君に逃げ続けるという選択肢はないよ」

「それは……?」

「見る?」


 その問いかけに頷き、将真は画面をのぞき込むように身を乗り出した。

 そして、画面に写り込む光景を見て、思わず息を飲む。


「八人の少年少女がね、近辺を探り回ってるんだよ。何かを探すようにね」

「…………」

「君の、お友達かな?」

「……そう、だと思います」


 小さくて分かりにくいが、間違いない。

 呆然と答えながら、将真の胸中には何故、という思いが渦巻いていた。


 将真は、彼らを巻き込みたくなかったから黙って都市を抜け出したのだ。

 魔王の器だとハッキリしてしまえば、如何に彼らが仲間想いだとしても、将真の討伐に参加するはずだと考えていたのだ。

 それが望もうと、望まざるとも。

 それがまさか、危険を承知で追ってきたというのか。


(……アイツらなら、おかしくは無い、のか?)


 将真も、まだ数ヶ月程度だが共に過ごした仲間だ。

 彼らの事は少しくらい理解しているし、その性格を考えれば、討伐の為に追ってきたとは思えない。


(……皆もまだ、退院したばっかだろうに)


 思い詰めるような表情の将真に、Jが言葉をかけることは無く、ただ沈黙を続けるのみだ。

 暫く、悩むように目を伏せる将真だったが、やがて意を決したように目を開いて立ち上がる。


「……Jさん。僅かな間でしたが、お世話になりました」

「……行くんだね?」

「このまま放っておくなんて、到底できない」


 Jが見せてくれた映像に映るのは、リンたちの姿だけでは無い。

 彼らを追い詰めるように囲う魔術師の集団と、未だ離れてはいるものの、そこに接近する大多数の魔物の群れ。


 三つの勢力が衝突するまで、もう間もないのだ。

 ゆっくりしてなどいられない。


「その力は、使うのかな?」

「それで皆を助けられるなら、躊躇う必要も無いですよ」


 もしも将真のために、身の危険を冒してまで助けに来てくれているというのなら。


(俺も、俺自身を懸けて、あいつらを助けるんだ……!)


 巻き込んでしまったのは、他でもない将真自身なのだから。

 都市側に命を狙われている現状は変わらず、その只中に自ら乗り出すというのは、少し怖いが。


「……かっこいいね。男の子だ」

「からかわないでくださいよ。怖くない訳じゃないんだ」

「フフ、なら早く行くといいよ。応援してる」


 Jの激励に将真は一礼を返すと、その場から勢いよく駆けだす。

 扉まで回ることなく、建物の窓から飛び出すように。


 そして、将真の姿を見届けると、Jもまた立ち上がり指を鳴らす。

 それだけで、建物は存在しなかったかのように一瞬で消え去ってしまった。

 更には、周辺を漂っていた霧まで晴れつつある。


「さて、魔王の器である君がどんな存在か。わたくし自身の目で確認させてもらうとするよ」


 場合によっては、将真に手を下す必要性も考慮しながら、Jは森の中をゆっくりと歩き始めた。




 将真が降り立つと同時に、リンたちを追ってきた魔術師たちは足を止める。

 それは当然、将真を警戒してのものでもあったが、それだけではなかった。

 呆気に取られていたのも束の間、こちらに接近してくる大量の気配を、リンたちもまた感じ取っていた。


「……これは」

「流石にやばくない? 大ピンチだよ?」


 不安そうな声音の佳奈恵だが、その気持ちには大いに賛同できる。

 だが、リンたちには最優先で確認すべき事がある。

 それでも、誰も確認出来ないでいる中、意を決して最初に将真に近づいていくのはリンだ。


「……将真くん」


 その呼び掛けに将真は静かに振り向く。

 見ようによっては、変わり果てたと言ってもいい将真の、魔王の力を顕現させた際の姿。

 放たれる魔力も、威圧感も尋常じゃないが、それでもリンは目を逸らさずに向かい合う。

 むしろ、将真の方が気まずそうにしているくらいだ。


「将真くんは、大丈夫だよね? おかしくなってなんかないよね?」

「…………」

「魔王になんか、なってないよね?」


 不安に揺れる瞳を直視してしまい、将真は直ぐに返答することが出来ない。

 だが、ここに来たのは自らの意思だ。

 リンたちを助けたい一心で、リスクを承知でこの場に飛び出した。

 これが、魔王の意思であるはずがない。


 恐る恐ると伸ばされ、化け物のような腕と化した右手を、リンの手が触れる。

 少し怯えるように震える手を、将真は両手で優しく包み、驚きに目を見開いたリンに苦笑を返す。


「……大丈夫だよ。まだ俺はちゃんと、俺のままだから」

「……うん。良かった……」


 将真の答えを聞き届けると、安堵して泣き笑いのような表情を浮かべるリン。

 何も出来ずに傍観していた残りの面子も、その様子を見て安堵に息をついた。


「ごめん、皆。俺のせいで、大変な目に遭わせて」

「将真さんのせいじゃないッスよ」

「そうだぜ。これは俺らが選んだ事だよ」

「私たちの行動にまで、あんたが責任を感じる必要は無いわ」

「……そうか」


 それぞれの反応を返してくる彼らの態度が普段と変わらない事に、将真もまた安堵を覚えていた。

 敵視されてもおかしくなかったというのに、今でも仲間として見られているというのは、将真にとって非常にありがたい事だった。


「……猛。お前も来てくれたのは意外だったよ」

「はんっ、魔王の力に飲まれてたらぶっ殺してやるつもりだったんだがな」


 恐ろしく物騒な台詞を返す猛だったが、そんな言葉すら今はあまり嫌ではなくて、将真は引き攣った笑みを浮かべるだけに留めた。


「……早速で悪いけど」

「うん」

「ここに迫ってる、魔物の大群がもうすぐ到着する。俺は魔術師たちを攻撃出来ない。制御出来てない魔王の力を、俺を殺す為に動いてるとはいえ、同胞相手には使いたくない。だから、皆には彼らの相手を頼んでもいいか?」

「それは勿論……」

「構わないッスけど。将真さんはどうするつもりッスか?」

「俺は……」


 将真が言いかけると、もう足音が聞こえるところまで、魔物の大群が迫っていた。

 それを確認すると、将真は直ぐにその場を駆けだす。


「ちょ、将真くん!?」

「俺は魔物の群れ(あっち)を何とかする! そっちは任せた!」

「……しょうがないッスね」


 莉緒は呆れたような苦笑を浮かべながらも、隣のリンの肩を軽く叩く。

 リンも、莉緒に小さく頷き返して、他の面子にも視線を向ける。

 彼女の決意は全員に伝わり、一同は同じように頷いてみせた。


「気をつけてね、将真くん!」

「こっちは任せろ!」


 駆け抜けていく将真の背中に声をかけ、彼らは魔術師たちの方へと体を向ける。

 一方で、心強い言葉をかけられた将真の顔には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。


(こんな感覚は初めてだ……)


 頼れる仲間たちからの言葉に、将真の気分は今まで経験がないほどに昂っていた。


 魔王の力の事もある。

 目の前には、魔物の大群が聞き取れない言語と声を上げながら迫っていた。

 だが、関係ない。

 今だけは、不安も恐怖も置き去りに出来たから。


「今ならなんでも出来そうだ__負ける気がしねぇ!」


 有象無象に立ち塞がる、魔王軍の怪物たち。

 それらを、黒い刃を纏わせた一撃で薙いで蹴散らしていく。

 ただ身体強化魔法を使っているだけでなく、魔王の力で更に強化された将真の膂力は、ハイオークやオーガすら吹き飛ばす程に増していた。


 魔王軍の怪物たちは断末魔を上げるが、それで将真が立ち止まることは無い。

 更に追い討ちをかけるように、地面を強く踏みしめる。


「まだまだァ__っとぉ!?」


 だが、そんな彼を背後から奇襲する何者かが突っ込んでくる。

 辛うじて気配を感じ取ってこれを回避した将真は、キッと目を吊り上げて何者かへと視線を向ける。

 そして、魔王軍を吹き飛ばしながら突っ込み、ゆらりと立ち上がる少年の姿を見て、将真は少なからず動揺した。


 その少年の事は、将真もよく知っていた。


「……遥樹」

「よく知ってるね。そう、風間遥樹だよ」


 顔を引き攣らせ、先程までの高揚感が嘘のように打ち消されて警戒心を露わにする将真を見て、遥樹はフッと表情を崩す。

 そして一度、静かに目を伏せて、再び開いた時には強い視線で将真を見据えた。


「現当主たちは、確かめもしないで様子見だなんて楽観的なことを言うからね。〈風間家〉次期当主として、見定めに来たよ」

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