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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
二章 狙われた少年
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十四話「救援」

「……何故、だ。貴様、何故、生きて……」


 吸血鬼と言えど、致命傷を受ければ高確率で死ぬ。

 オーバスほどの強さを持つものならば、即死こそしないが、それでも間違いなく再生力は落ちるのだ。

 尤も、以前戦った上級は、急所であるはずの首を落とされても何故かすぐに再生したが。


 オーバスはと言うと、体が分断されるまでは行っていないものの、かなり傷が深く、とめどなく血が溢れ出し、再生が追いついているようには見えない。


 そして、彼に致命傷を与えた、そもそも彼に殺されたはずの杏果はと言うと、攻撃を終えたと同時に膝をついて、何とか響弥に連れ出されながら何度も嘔吐いていた。

 とはいえそれも落ち着いてきたようで、ベッと血を地面に吐き出すと、荒い呼吸を繰り返しながら、苦痛に歪んだ顔で忌々しそうにオーバスを睨めつける。


「ざっけんじゃないわ……。ちゃんと、一回、死んだわよ……」

「……貴様、まさか、蘇生能力、持ちだと……?」


 正しく、その通りであった。

 響弥が落ち着き、静音が落ち着きを取り戻せたのも、彼女と小隊を組む時に聞かされて、知っていたからだ。

 知っていたのは、第三小隊とごく一部の人間で、厳密に言えば杏果自身が持ちうる特性ではなく、〈神気霊装〉の影響によるものなのだが。


「アンタも大概よ……、確かに頭から、潰したつもり、

だったんだけど……」


 オーバスほどの吸血鬼であっても、流石に頭から真っ二つに斬られれば、急所も何もないわけで、ほぼ確実に即死だ。

 そして杏果にはそれを可能にするだけの膂力があった。

 但しそれも、蘇生の影響による、極わずかな間の、一時的な強化効果によるものなのだが。

 それを、まさかあのタイミングでギリギリ、即死を回避されるとは杏果も思っていなかった。

 それにより、少々問題が発生する。

 この、オーバスから流れ出した血の量だ。

 それが徐々に形となり、再び血の爪を形成していた。


 オーバスに大きなダメージを与えたのは間違いないが、これだけギリギリの戦いを強いられて、尚倒しきれないのだ。


(……どうすりゃいい? 杏果は無茶できる状態じゃねーし、俺も魔道具は暫く使えねー……。リンもあのトンデモムーブは流石に今は出来ねーだろうし)


 次の一手が思いつかず、頭を悩ませる響弥。

 あまり長く考えている時間は無いのだが、そこへ立て続けに状況が動き出す。


 まず、離れたところで音が響き、木々が宙へとへし折られて舞い散る様子が見えた。

 そしてその中には二つの人影がある。


「あれは、ランディと……」

「……将真くん!?」


 リンもどうやら気がついたらしく、思わず声を上げる。

 やはり、将真はランディと戦っていたのか。

 棒に無骨な黒い刃を纏わせる、見たことの無い戦い方をしているが、どうもランディに押されているようで、戦況は決して明るくない。

 だが、その直後。

 それ以上に驚く事が起きた。


 景色が、急に深紅に染ったのだ。


「……はぁ!?」


 理解が及ばず声を上げる響弥。

 誰が何をしたのかと視線を巡らせるが、オーバスも、そして将真とランディも戦いの手を止めるくらいなのだから、恐らく原因がわかってないのだろう。


 そして更に事態は動く。

 巨大な熱線が、急遽凄まじい勢いで降り注ぎ、オーバスの身を包み込んだ。

 熱線が細くなり、やがて消えた後には、最早生きているかどうかすら怪しい程に焼き焦げ、煙を上げるオーバスの無惨な姿だけが残されていた。


 一体何が、と一同が頭を悩ませる中で、一つの声が頭上から響く。


「__あぁ、くそ、鬱陶しいし腹立つなぁ!」


 見上げると、苛立ち混じりにそう発したのは、炎のように揺らめく金髪をサイドテールにまとめた少女。

 その姿を、学園生である一同は知っていた。

 特にリンは、何かと縁のある人物であり、将真ですら偶とは言え、言葉を交わした事のあるその人物。


「待たせたな一年、学園長の要請で助けに来たぞ!」


 炎の羽衣を身に纏い、腕を組んでニッと笑みを浮かべるその少女。


 高等部二年生の中でも最強と名高い、時雨榛名しぐれはるなの到着だった。


「……どうやって結界を破った?」


 オーバスの姿を見て、警戒を露わにしつつ、厳しい声で問いかけるランディだが、全ての元凶である榛名はその問いを鼻で笑い飛ばす。


「結界術式で私より上に行けるなんて思うなよ。この結界そのものが、私の〈神気霊装〉だからな」


 ここ数年で、学生たちの実力はかなり高水準になりつつあり、その中でも今年の一年生、つまり将真たちの代は化け物揃いだと言われている。

 だが、そんな彼らを差し置いて、場合によっては学園生最優秀と呼ばれる楓よりも最強と言わしめるほどの強さを持つのが榛名だ。


 その最もたる要因は、学園生としてはかなり珍しい、〈神気霊装〉の完全解放を成し遂げているからである。

 〈神気霊装〉の発動が可能な生徒自体珍しく、それでも今年の一年生の中でも優秀な生徒は使える者が多いのだが、完全な解放に至っている生徒は彼女を置いて他にはいない。

 かつての生徒にすら、指折りで数えられるほどしかいない希少例だ。


 それにも拘らず、強い。


「吸血鬼の結界がなんだ。そんなもの、より強力な結界で塗り潰してやればいいだけなんだよ。それに気づくのが遅れたせいで、助けが遅れた訳だけど……」

「ち、力技すぎる……」


 呆然と呟く杏果の声は、恐らく榛名の耳には届いていないだろう。

 彼女の意識は、ランディへと向けられた。


「吸血鬼の超級くらいならここ以外でも見た事あるけど、アンタほどのは見た事ない。だから大体の正体も察しはつく。お初にお目にかかる……って所かな、死神ランディ」

「……それを分かっていて、尚俺の前に立つか」

「まあ確かに、私ですらチビりそうなくらいだけどな。だけど、私だって一人で来たわけじゃないぞ?」


 そんな彼女の言葉に合わせるように、何者かが森の中を疾走し、ランディに向かって飛び出してくる。

 爆ぜるような音と共に衝撃波が撒き散らされた。


「うわっ!」

「うおぉっ!?」


 近くにいた莉緒と将真が吹き飛ばされるが、将真は何とか地面を滑るように着地する。

 そして莉緒はと言うと、いつの間にか現れた少女が受け止めたお陰で無事だった。


「……恵林先輩ッスか?」

「うん、私ですよ」


 莉緒の問いに、長い白髪を持つ少女__花橘恵林(はなたちばなえりん)は微小を浮かべて肯定する。


「って事は……」


 改めて、ランディへと攻撃を仕掛けた何者かへと目を向ける。

 肩口くらいまでの黒髪を靡かせ、ランディの足が地面に沈む程の強烈な蹴りを見舞ったのは、二年最強の小隊である、榛名、恵林に続く三人目__美空燈(みそらあかり)だ。


「ぬぐっ……、この、力は……!」

「中々、強烈、でしょう!?」


 両者の力はほぼ均衡しているが、ややランディの方が上だ。

 それでも尚、互いが互いを押し返そうと踏ん張り、ランディの足場の方が限界を迎えつつあって更に沈んで行く。

 だが、何かを気取ったランディは、燈の蹴りを受け流してその場から即時離脱する。

 次の瞬間、ランディがいた場所から強烈な火柱が立ち上った。


「ちっ、外した……」


 それを実行したのはもちろん榛名だ。

 この結界内は、彼女の支配領域にあり、何処から攻撃をするかも自由なのだ。


「つまり、お前を殺せばこのウザイ結界も解けるな?」

「ッ!」


 木々を利用して死角をつき、いつの間にか榛名の背後に飛び込んで蹴りを放つ。

 彼女が気がついて振り向いた時には、強烈な蹴りによって頭が吹き飛ばされ、リンを含めた数人が思わず息を飲む。


『__残念だったな。それは本物じゃないぞ』

「ヌゥッ!?」


 そんな声が聞こえなければ、彼らは絶望していたかもしれない。

 更には、声に驚くランディの背中を榛名の熱線が焼く。

 回避が遅れたために、左腕を焼かれるダメージを負ったが、その火傷の再生が異様に遅い。


(オーバスが熱線如きでやられたのはおかしいと思ったが、これは……、聖属性混じりの炎か!)


 吸血鬼の再生能力を阻害する、彼らにとって明確すぎる天敵である属性。

 如何にランディが頑強と言えど、吸血鬼の性質を有している以上、食らいすぎれば無事では済まないかもしれない。

 それだけではなく、ランディを取り囲むのは無数の榛名の幻影だ。


『炎と熱と魔力で作り出した質量のない分身だ。本物がどれか、ちゃんと見分けがつくかな!』

「チッ……!」


 舌打ちをすると、ランディは一番近くの幻影から一つずつ消し飛ばしていくが、どれも本物では無い。

 それを証明するかのように、彼女の分身たちが熱線を放ち、ランディはされるがままに翻弄される。


『__どうだ恵林、一年は回収出来たか?』

「あ、うん。完了してますよ」


 足止めをしながらの、近くに現れた榛名の幻影の問いかけに頷く恵林。

 それを確認すると、燈の方には別の幻影が傍に出現する。


『よし、そしたら燈は少し手伝ってくれ。恵林が一年を連れて外に出たら、お前も外に出ろ』

「……まあいいけど、あんまり無茶したらダメだからね?」

『心配するなよ。万に一つも、殺されたりはしないから。とはいえ、勝つのは無理だろうけどな』


 榛名ですら驚かされたのは、腕を焼かれてもまるで気に止めないランディの姿だ。

 その腕は、血装で改めて覆われ、強引に動かしているようにも見えるが、驚異であることに変わりはない。


『じゃあ、行きな恵林』

「了解です。さあ、皆も行きましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! ランディを一人で相手にする気か!?」

『いや、そうだけど……』


 くぐもった声で、首を傾げる榛名の幻影に、将真は驚きを隠せないまま、更に言葉を続ける。


「アイツらの狙いは俺らしいんだよ……! なのに俺は逃げて他人に任せるなんて無責任な真似が__」

『いたってどうしようもないだろ』

「うっ……!」


 最後まで言い切る前に、正論で抑え込まれて口篭る将真の肩に、榛名は手を置く。


『心配するな。死にはしないから、たまには先輩を頼っとけ』

「……分かりました」


 納得は行かないが、それでも現状、ランディに対応されるようになってきてからは最早無力だった。

 これ以上、無駄に留まって足手纏いにだけはなりたくない。

 故に、渋々ながらも頷いてみせる。

 ちなみに、特に傷が酷い莉緒は恵林に担がれ、復活してまもない杏果は響弥が背負っていくようだ。


「あ、あの、恵林先輩。自分、結構汚いから、自分で歩くッスよ……」

「怪我人は大人しくしててくださいね。それじゃあ二人とも、ここは任せます。こっちも任せてください」

『とーぜん』

「ええ、勿論!」


 二人はそれぞれ、違う方の腕を掲げてガッツポーズを取ってみせる。

 それを合図に、恵林は一年を連れて紅蓮に染った森の中を駆け抜けていく。

 戦場を離れた将真は、少しだけ不安そうに、二人が残った方へと視線を向ける。

 そちらからは、木々の隙間から戦闘音が聞こえてくるくらいで何も見えなくなってきていたが。


(……もっと強ければ)


 そうすれば、先輩の手を煩わせることもなかったのだと、悔しさを胸に抱きながら。

 僅かな安堵と共に、将真は最後尾を駆けていった。




 恵林に連れられた一同は、奇跡的にも無事、逃げ帰る事に成功した。

 だが、全員が全員、疲労やダメージが今までの比では無く、将真たちは例外なく、帰還と同時に安堵で意識を手放し病院に押し込まれた。


 その後の話を聞かされたのは、漸く全員の目が覚めた三日後の事。

 ちなみに、それだけ長く寝ていたのは、第一小隊全員と杏果の合わせて四人だ。


「将真とリンは魔力回路の酷使ね」


 そう柚葉に告げられ、心当たりがあった二人は、揃って微妙な表情で顔を背ける。


「で、杏果は肉体的にはピンピンしてるんだけど、こっちも魔力回路の酷使。後は、精神的なダメージね」

「……精神的なダメージ?」

「蘇生したんでしょ? 生き返るって分かってて、死ぬ時、全く怖くなかった? そんな訳ないわよね? この前の朝、ベッド確認したわよ」

「その話はやめてください、死にたくなります……」


 ともあれ、死を経験したことによる精神の摩耗が、杏果が長く眠っていた原因のようだ。


「で、莉緒は一番酷かったわね。やっぱり魔力回路の酷使もあるんだけど、肉体的にも精神的にも特別大きなダメージを負ってたわ。相当手酷くやられたみたいね。ちなみにこっちもベッドの惨状は確認済み……」

「あの、ホント辞めてもらっていいッスか。流石に恥ずかしいんスよ?」


 莉緒のやられ方は、将真も目にしていたのでよく分かる。

 とはいえ、酷い怪我を負っていたのは見たが、そこまで精神が削られているとは思っていなかったのだ。

 再会して、暫くすると何時もの調子のように見えたからだ。


 少し揶揄いも混じえた状況説明を終えると、柚葉は沈痛な面持ちになる。


「……まあ、その。悪かったわね。私が下手に任務を振らなければ、こんな目に遭うことはなかったでしょうに」

「受けたのは俺らだよ。自己責任だ」


 将真が言うのもおかしな話ではあったが、その言葉に誰も否定を挟まなかった。


 救援に来てくれた、榛名率いる二年の第一小隊は、三人とも無事で帰ってきたらしい。

 燈が少し怪我を負ったそうだが、放っておいても治る程度のものだそうだ。

 ランディが相手だった事を思うと、奇跡的な結果である。


「まさかあのランディが出てくるなんて、思わなかったわ。榛名の話だと、もう一体の超級も仕留めるまでは出来なかったみたいだし」

「あの状態で生きてんのか……。やっぱり吸血鬼って化け物だな」


 確かに榛名の一撃で、一瞬で黒焦げになっていたはずだが、どうもランディが瀕死の状態のオーバスを庇っていたらしい。

 そのお陰で、榛名も逃げ出す隙が生まれたようだ。


「何はともあれ、霧の森の任務は達成って事でいいのか? それとも失敗?」

「元々は調査が名目だったし、全員一応無事で帰って来てるし、危うく古いダンジョンが拠点にされかねなかったのよね……。それを防げたのならまあ、成功でいいかしら」


 少し考えるように目を閉じるが、すぐに柚葉はそう結論付けた。

 あんなのが待ち構えていて、こんなにボロボロにさせられたのだから、失敗と言われる可能性もあったのだ。

 それでも任務達成をなし得たのならば、これだけの被害にも多少の意味はあったのだと思えた。


 とはいえ、莉緒もまだ動くのがやっとの状態であり、大した怪我もしてないはずの将真はろくに身動きも取れない状態だ。

 今は任務の事を気にするより、体を休めることを優先しなければならない。


「全員、まだ退院許可は出てないし、暫くは大人しく体を休めること。特に将真。随分と無茶な力の使い方したみたいね?」

「うぐ……、やっぱりそうなのか」

「自覚ないの?」


 呆れたようにため息をつかれるが、自覚がなかったのは仕方がない事だと将真自身は思っている。

 恐らく、魔王の力とも呼ぶべきそれは、使っている間、体になんの不調も齎さなかったのだから。


「帰ってくるまでは何ともなかったんだぞ。無茶してたなんて気づけるか」

「……はぁ、まあいいわ。とにかく全員、ちゃんと体を休めて頂戴ね。これは命令だから」


 柚葉の言葉に、静かに頷いて了承を示す一同。

 その様子を確認すると、柚葉は足早に病院を立ち去っていった。


 その時の柚葉の様子が少しおかしいと気がついたのは、弟である将真と、ある程度事情を知っている莉緒だけだった。




 目を覚まして数日後。

 真夜中に呼び出された将真は目的地へと辿り着く。


「……こんな時間に何の用、ですか。先輩」


 将真が訝しげな視線を送る先には、柚葉の秘書である楓が率いる小隊。

 そして、呼び出した張本人である楓は、少し悲しそうに、静かに微笑を浮かべた。


「__とても大事な話だよ」

これにて二章完結です。

暫く時間は空きますが、三章もまたよろしくお願いします!

宜しければぜひ、ブクマや評価、感想等お願いしますねー!

あと、絵師様に描いて頂いたイラストをTwitterでの告知用に使わせて頂いているので、そちらも覗いて見てください!

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