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終末のレジスタ  作者: 甘味の僕
一章 編入生の未熟な魔術師
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二話「お勉強の時間です」

「……それで楓。貴女の目から見てあの子はどうだった?」

「どうとは?」


 将真たちが先輩たちに絡まれていた頃。

 将真が立ち去った学園長室で、柚葉が少女に問いかける。

 彼女の名は美空楓みそらかえで。現在、第一学園において最も成績を残す最優秀生であり、それに目をつけた柚葉が少し前に、半ば強引に秘書に任命した才女だ。


「とぼけないで頂戴。何のために貴女を同席させたと思ってるの?」

「あー……、まあそんな事だろうとは、思ってましたけど」


 そもそも彼女の出身である〈美空家〉は、この街において有力な力を持つ名家の一つだ。

 女性でありながら、次期当主にも近い彼女には、その名に恥じない実績だけでなく、特殊な能力も有していた。


「その眼で、あの子がどんな感じに見えたのか、聞かせてもらえる?」

「…………はぁ、別に構いませんけど、ハッキリ言いますよ?」


 楓は、ため息と同時にジト目で柚葉を睨むように視線を向ける。


 楓が持つ特殊な能力というのは〈魔眼〉。魔術師の中でも有している事が珍しいと言われているほどの代物だ。

 その特性は様々であり、どんな能力を有しているかは魔眼持ちによって変わってくるのだが、楓が持つ魔眼は相手の魔力を見ることが出来る、通称〈魔力眼〉。

 具体的には、大凡の魔力量、そして適正属性だ。

 とは言え、どのような見え方をしているのかまでは柚葉は知らない。そして見ている楓本人もまた、感覚的な部分があってうまく説明できないというのだから、他者が魔眼の恩恵を感じることは無いのだ。


 だから柚葉は期待していた。

 楓は他人には見えないものが見えている。そして例え鮮明でなくとも、彼女の眼は信用に値する確かなものだと、今まで見てきた事でよく理解していたからだ。

 そんな期待に目を輝かせている柚葉を見て、楓は再度、今度は苦笑を浮かべながらため息をついた。


「__化け物ですよ、あれは」




「__ここがボクの部屋だよ」


 そう言って将真が連れてこられたのは、中等部の学生寮だった。

 図書館でも借りるか、或いは招く側だと思っていた将真は、初めはリンの提案に驚いた。

 まさかとは思ったが、知り合ったばかりの異性を躊躇なく自分の部屋にあげるという危機感のなさ。あまりに純粋で、疑う事を知らない。いや、そんな事はないだろうが、それにしたって本当に危機感が無さすぎる、と。

 緊張よりも心配を覚えるほどだ。


(いや、知らない人ばかりの仮宿に連れてくよりは安全なのか……?)


 将真はもう、何が正解なのか分からなくなっていた。

 そもそも今日は初めて経験したことで、既に頭がいっぱいいっぱいになりつつあった。

 降ってきたとはいえ明らかに体重の軽いリンを支えきれなかったり、いとも容易く蹴り飛ばされたり。かと思えばガタイのいい少年が、華奢な少女に軽々と蹴り飛ばされるところを目撃したり。

 その光景は、将真からしてみれば余りに常識外れなことばかりだった。


「ちょっと座っててね、お茶出すよ」

「え? あ、あー……、そんな気にしなくてもいいぞ?」


 むしろ勉強を教えてもらおうと言う側なのだから、余り世話をかけるのは少し申し訳ない。

 まあ、将真の言葉に気にすることなく、なんならお茶だけでなくお菓子まで楽しそうに用意し始めたのだが。


(……人恋しいってのは、考えすぎかな)


 そんな事を思いながら、少し部屋の中を見渡してみる。

 特別、少女らしい雰囲気がある訳でもない、シンプルな部屋。少年の部屋だと言われても充分通用しそうだ。

 ちなみに、高等部に上がっているにも拘わらず中等部に部屋があることに疑問を持った将真は、ここに来るまでにリンに質問していた。そしてそれは別に珍しいことではなく、高等部に上がることで新たに決まってくるルールの影響があるらしい。

 その為、進級生は中等部時代の寮部屋があるが、将真みたいな編入生は、もうしばらくは実家や仮宿から通うことになるのだそうだ。


「お待たせー。大したものはないけど」

「いや、全然。むしろありがたいくらいだよ」

「そっか。じゃあ早速、始めようと思うんだけど……、まず片桐くんって、この世界のことはどれぐらい知ってる?」

「まぁ、概要くらいは。姉さんに聞いてるし」

「……やっぱり片桐って苗字、学園長の弟さんなんだね」

「まあ、気づくよな」


 この世界、つまり将真が元いた世界とは違う世界。柚葉曰く、その名称を〈裏世界〉というのだそうだ。そしてその名称の対になる、将真が元いた世界が〈表世界〉と、こちらの世界では呼ばれている。


 〈表世界〉と違い、魔力が存在し、魔術を行使できる、空想の産物でしかなったものが当たり前のように存在する異世界の如き世界。

 実際、異世界であることに間違いはないが、転移陣で自由に行き来出来るらしい。更に地図がどう考えても〈表世界〉と酷似していることから、将真はパラレルワールドなのではと踏んでいるが、真相の程は定かではない。


 さて、そんな〈表世界〉と類似点がある〈裏世界〉、だが実際は大きな違いがいくつも存在する。

 まずこの世界が、滅びの危機に瀕しているという事。

 この街、〈日本都市〉は位置的には神奈川辺りだろうか。山と海に囲まれているが、聞いた話では山に沿って円形の結界が張られているらしく、山もその一部なのだとか。

 そして街の外。そこに広がるのは大自然だ。

 人が住み着いている様子は見当たらず、廃墟すら見受けられるくらいだ。

 この街以外にも、北海道や九州に当たる位置に小規模な拠点があるらしいが、それを除けば日本という島国の中に、人が住めるような場所は存在しない。

 そしてそれは、世界中を見渡しても同じ事だった。

 一応、真っ当な文化を保って生活しているのは、地理的にアメリカ、中国に当たるところ。そしてヨーロッパだ。それ以外にも小規模な、国と呼ぶには厳しい程度の組織は存在するし、集落のようなものも点在しているようだが、まともな文化を持つ国と呼べる組織は、〈日本都市〉を含め四つだった。地図を見比べれば分かる事だが、本来あるはずの土地が消し飛んでいるところすらある。

 人の数も、〈表世界〉と比べるとかなり少なく、更にいえば〈裏世界〉には魔物や魔族が存在する。特に、魔王率いる〈魔王軍〉なる存在が、人類存亡の危機の最大の原因なのだ。


(魔王が人類を滅ぼそうとしてる、か。改めて聞いても在り来りな話だよなぁ)


 かつて人類史は、二度も魔王の手によって滅ぼされているらしい。それでもこうして再び文明を築き上げることが出来たのは甚だ疑問ではあるが。


「わぁ、すごい。本当にもうちゃんと聞いてるんだね」

「そんなに驚く事でもないだろ?」

「そうなんだけど、やっぱり編入生の人達ってその辺のこと、知らない事が多いらしいから」


(……それって逆に不味くないか?)


 思わず将真の顔が引き攣る。

 単純に、編入生がお馬鹿だという話で済むならいいが、もし事前に、この世界のことを説明してないならば。


(それって、拉致だとか詐欺だとかみたいなもんじゃね?)


 繰り返すようだが、〈裏世界〉では人類史が二度にわたって滅ぼされている。そして今が三回目ということもあって、〈三度目の終焉(サード・ラグナロク)〉などと言う厨二めいた物騒な名称が付けられている。

 そんな危険な状況下で、危険な行為に身を投じなければならない。それを知らないのが、聞いても理解が及ばなかったという話ではなく、説明してないからだと言うのなら。


「……なぁ、それって犯罪じみてない?」

「なんで?」

「いや……、まさか説明もなく、連れてきてるわけじゃないよな?」

「え? それは……、まあ、多分? 説明して連れてきてると思うよ?」


 リンの回答は、非常に曖昧なものだった。結局、将真の心配が払拭されることは無かった。

 将真が微妙な顔をしていると、気を取り直すようにリンが掌を合わせる。


「さて、〈裏世界〉についてはそれだけ知ってればとりあえず大丈夫かな。じゃあ、魔術についてお勉強しよう!」

「おぉ、遂に」


 元々はそれを教えてもらうためにここまで来たのだ。更にいえば、こちらの世界に来てからずっと気になっていたものでもある。

 将真の表情を見ると、リンは微笑ましいものを見るような笑みを浮かべた。それはどこか、遠くを見ているような表情でもあったが。


「……じゃあ早速。先ずは、属性から教えていこうかな」


 将真が〈表世界〉で読んでいたファンタジー作品の中には、属性というのもまた定番だったが、それは作品ごとに色々な設定があった。その中から、将真は色んな可能性を思い浮かべていた。


 この世界の魔術とは、魔力を元に、指定された術式を行使する技術だ。ちなみに魔法も存在するそうだが、その話はまた今度とはぐらかされてしまった。

 そして属性は、魔力に基づくものだと言われている。基本属性と言われる、火、水、地、風。それとは別に、光、闇。合計六属性である。

 一応基本属性から派生したものもあるらしいが、基本属性が使えることを前提としているらしく、この解説も簡単に済まされた。


(……まあ、定番かな?)


 そして属性の適性は、これらのどれか一つに当てはまるのが基本なのだそうだ。例外的に、複数の属性に適性を持つ術師もいるらしいが。


 初級、と言われる難易度の簡単な魔術ならば、適性でない属性でも使える術師は多いらしい。尤も、適性であった方が、発動が楽であることに変わりはないそうだが。

 そこから中級以上ともなると話が変わってくる。

 ここからが、攻撃系統の魔術へと変わってくるために、相応の魔力制御能力が求められるからだ。それでもまだ、中級魔術ならば適性でなくても使える術師は僅かにいるらしい。これが上級以上になれば流石に非適性の魔術を使うのは不可能と言われている。


「実際に、使えたという事例もないんだって」

「なるほどなぁ……」


 ちなみに、リンの適性は風属性、なんだそうだ。


「とまあ、簡単に説明はしてみたんだけど、どうかな?」

「うーん、そうだなぁ……」


 手元の資料を開いて、ページをめくってみる。

 だが、リンが解説してくれた内容が、絵が付いてたり少し詳しく書いてある程度だ。正直、リンの解説だけでこの資料の内容は半分くらいは理解した。

 まあ、反芻しないと忘れそうでもあるのだが。


「必要だからとはいえ、ここまで解説しといてなんだけど」

「ん?」

「実はそんなに考えて魔術使ってる人って、ひと握りなんだよね」

「じゃあなんのためにこんな事を……」

「基礎がなっていれば、あとは案外、どうにでもなっちゃうんだよね。ボクはあんまり読んだことないけど、漫画とか読んでた方がまだ分かるって言う人もいるんだ」

「え? 漫画あんの? いやそれより、漫画の方がわかるって、それ大丈夫か?」


 〈裏世界〉は娯楽が少ない。

 科学技術は魔術と合わさって中々発展しているものの、娯楽は〈表世界〉と比べると多いとはお世辞にも言えない。だからこそ意外だったのだが、それ以前に、漫画の方が魔術の理解がしやすいというのはどうなのだろうか。


(魔術の……、学園でやる魔術の勉強の存在意義とは)


 そんな事を思って遠い目をしていると、リンが小さく笑う。


「そんなに思い詰めなくても大丈夫だよ?」

「いや、そうじゃないんだけどな……」

「そうなの? じゃあ……、明日からの序列戦が不安とか?」

「いや、それも違……、序列戦?」


 否定しようとして、聞き覚えのない単語を耳にした将真は、目を丸くしてリンを見る。対するリンもまたキョトンとしていた。


「えっと……、もしかして知らない?」

「……知らないな」

「知らなかったんだ……」


 余談だが、ざっと近日中の予定が記された書類がある。そしてそれもまた魔術の資料同様配送ミスのために受け取れていない将真は、その事すら知らない。

 連日テストが続いているが、序列戦が終われば一区切り着くのだそうだ。


 そして将真は、その序列戦についてもリンから簡単な解説を受ける事となった。

 決闘用に準備された闘技場で試合を行う個人戦。生徒個々人の実力を競い合う形式のテストだ。

 一学年凡そ三百人に及ぶ生徒たちを十のトーナメントブロックに分けて戦わせるのだが、各ブロックの頂点が決まると今度はその十人でトーナメント戦を行い、学年での最強の生徒を決める。ちなみに、頂点に登り詰めた十人は、〈十席〉などと呼ばれているらしい。

 これは〈学年序列〉と言われているそうだが、これとは別に〈学園序列〉というものもあり、高等部生徒の上位者から、これまた十人まで選ばれるのだという。


「将真くんは、編入生だから多分そこまで勝ち進めないと思うけど……」

「そうなのか?」

「うん。だって、魔術の使い方どころか、しっかりと魔力を知覚することだってまだ出来てないでしょ?」

「……確かに」


 今まで、体の中を無意識的に循環していたらしい魔力だが、〈裏世界〉に連れてこられるまでその存在を知る事さえ無かったのだから間違いない。


「……でも、やるからには負けたくないなぁ」


 実のところ、将真は試合で負けたことは一度もない。もちろん〈表世界〉の話で、油断するつもりは無いが、それでもこれまで負け無しだったのだから、プライドはある。


「将真くんって、向こうで何かしてたの?」

「んー……、色々やってたけど、一番ちゃんとやってたのは……剣道かなぁ」


 一通りの武術はやっていたし、試合に出ればまず負けることは無かった。それでも手こずる事は何度もあったが、それも剣道では一切なかった。

 相手の動きが手に取るようにわかったし、相手の方が上手いはずなのに、圧倒的な身体能力と体捌きで翻弄できた。それも、今となっては魔力によるドーピング紛いの効果だったと分かってしまったのだが。


「いわゆる、部活動ってやつかな?」

「そうだな。正直、今は真面目にやってきたヤツらに申し訳ないって思うよ」

「そんなふうに思わなくてもいいと思うけど……、そういえば、将真くんってどういう経緯でコッチに来たんだっけ? 成績が良かったら、向こうで進学するのは簡単なんでしょ?」

「簡単、って訳でもないと思うけどな。それにそもそも、外堀埋められてコッチに行かざるを得ない状況に陥ってたしな……」

「外堀を埋められて……?」


 元々、将真はちゃんと進学のために入試も受けていたし面接も問題なく、成績も十分たり得た。リンが言った事ではないが、確かに余裕で進学できるはずだったのだ。

 だが、そうはならなかった。

 後から知った事だが、将真の魔術師としての素養に気がついた、柚葉含めた〈裏世界〉の人間が、裏から手を回して将真が全ての入試に落ちるよう手配していたのだ。

 そして満を持して、柚葉は将真へと手紙を送り出した。将真にとっては、訳の分からない状況が重なる中、十年も音沙汰のなかった姉からの急な連絡だ。訝しむのも無理はないだろう。

 そうして呼び出されたのは都会の郊外、その山中にある神社だった。

 実際は神社の形をとることでカモフラージュとして活用しているだけの、〈日本都市〉の重要施設の一つだったのだが。

 柚葉に連れられるまま、将真が辿り着いたのは、転移陣だった。どうやら、編入生は大体その場所に連れてこられて、そこから〈裏世界〉に連れていかれているらしい。

 初めこそ、柚葉が厨二病に陥っただとか何だとか思った将真だったが、実際に〈裏世界〉に連れてこられ、直後生身のまま空を飛ばされれば、もう信じる他なかった。


「そ、そっか……。編入生ってみんな、同じような手段で連れてこられてるのかな?」

「どうだろうな……。ただ、もしそうなら同情するぜ」


 まあ、そうは言っても、将真にとっては他人事ではないのだが。


 そうして、勉強の合間に世間話も挟んでいると、時間はあっという間に過ぎていく。

 思いの外長居をしていたようで、すでに空は真っ暗になっていた。


「じゃあ、俺は宿に戻るよ」

「うん。またね、片桐くん」

「色々、教えてくれてありがとな、時雨」


 将真の感謝の言葉に、リンは明るい笑みを浮かべて手を差し出してくる。


「ふふ、どういたしまして。また頼ってくれてもいいよ!」

「……あぁ。また何かあったら、よろしく頼むよ」


 少しの躊躇いの後に、将真は差し出された手を握った。ちょっと緊張していた、などとはとてもじゃないが口には出せなかった。

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