5・わたし、島デビュー(2)
引きずりこまれてふたたび家の中。
目の前、腕組みして仁王立ちのカイ。窓からの陽光を背負って、逆光補正で迫力五割増し。
こうして向かい合ってみると、クラスの女子でも背の高いほうなわたしより、カイはさらに上です。いっこ下のくせに。
眉間に縦じわ、大きな目に強い光。
見下ろされて、背中に冷や汗がつたいました。
「説明してくれるんだろうな、ミユキ」
「カイー。ミユキいじめんなー」
ベルが横から牽制してくれますが、カイは手加減する気なさそう。うう。
「ミユキ。まずあんたは、誰が聞いてるかも分からない外で、十七だと言った。女は十七でどうなるか、教えたよな」
「はい……あの、怒ってます?」
「怒ってない。説明しろと言ってるんだ」
怒ってる、明らかに怒ってる。
「なぜだ。ベル……はいまさらだが、長老にまでバラす理由があるか。言ってみろ」
「カイー、ミユキいじめんなー」
「腰布は長いほうが……あああ冗談です冗談です」
目のはしをピクピクさせるカイに、あわてて手を振るわたし。そのあと、しばらく先が続きませんでした。
もともと、ちゃんと考えて動いたわけじゃないのです。ただ、胸がモヤモヤして、黙ってられなくて。
「……あの。わたし、あなたたちと、長老さまに、すごくお世話になりました」
「ああ」
「カイ。あなたに教えてもらったから、長老さまに十六だってウソつけました」
「そうだな。だからどうした」
「カーイー、ミユキいじめんなって」
「わたし……」
言いかけて、うつむいて、喉が詰まって。
ぽた、ぽた。
冷や汗じゃないものが、頬を、あごをつたって、床に落ちました。
脂汗でした。ちょいワル先輩にちょいワル風に迫られて吐いたあの日と同じ汗。そして半年前、マンションの階段からころげ落ちて足首をポッキリやったときと同じ汗。なつかしい思い出、いやなつかしくない。
あれに匹敵するストレスにめまいしながら、なんとか言葉を探して……探して……
「……わっ、わたし、このままでいいでしょうか。長老さまを騙したままで。
もし、もっと早く十七の意味を知ってたら。
知ってたら、カイ、あなたにもウソついたんでしょうか」
*
いやなんだそれ。我ながら意味わからん、って思って。
なお焦って、とうとう黙ってしまうわたし。ううう。
やがて声が降ってきました。
「……まあ、言わんとするところは分かったと思う」
「えっホントに!?(日本語)」
驚いて顔を上げたら、カイ、もう怒ってないようでした。困った顔してました。
「ベル、どう思う」
「そうねー」
頬にてのひら当てて、しばし宙を見上げて。やがて静かに、思慮深げに語り始める、髪に花飾りの少女。まるでずっと年上の大人みたいに。
「あたしね。ウソをつくべき時って、ふたつあると思うの。
ひとつは、ウソが人のためになる場合。
もうひとつは、それ以外のあらゆる場合」
「やっぱあっち行ってろ」
げしげし足蹴でベルを追い払って、少し考えて。
カイ、こちらに向き直りました。
「気持ちは分かった。が、やはり私は、長老には黙ってたほうがいいと思う」
「です、か……?」
「長老は、あれでも長老だ。島のまとめ役だ。
打ち明ければ、長老も二択を迫られる。島の全員にウソつくか、厳格に島の掟を守るか。どっちにせよ面白くはならない」
カイの表情が、ふと(そしてやっと)やわらぎました。真顔とほほえみの中間くらいな。
「あんたは自分のためにウソをつく。私らも、乗りかかった舟だ、秘密は守る。三人の秘密、それでいいだろ」
ベルもドンと胸を叩いて、
「まーかせて。このベルさんだって、ミユキのためならウソもつくし人も殺すよー」
「殺っ!?」
「こいつに構うなって。……ともかく、十六って言っておけば間違いない。長老だって、知らなくていいことを知りたがるほどヒマじゃないさ」
なんだか、背中から力が抜けて、ジワリ視界がにじんで。
冷や汗でも脂汗でもない、あたたかな雫が、ちょっとあふれました。鼻水。
わたしの歳のこと、もしバレたら、カイやベルも立場がまずくなるのでしょう。なのに二人とも、一も二もなく味方してくれるというのです。
「……おい、どうしたミユキ? なんで黙るんだ」
「う、ううん。変なこと言い出してごめんなさい。……わたしも、もっと言動に気をつけます」
ふたりとも、本当にありがとう。
遠くから、何かを焼いてるような煙のにおいと、人の声……歓声が聞こえてきました。
「ほら、宴の支度が始まってるみたいよ」
ベルがうれしそうに言いました。
「ミユキ。今夜は、どうか楽しんでね」
現実に引き戻されるわたし。そーだ、それがありましたね……
カイが、わたしの心を読んだみたいに釘を刺しました。
「あんたは強制参加だからな」
*(幕間5)
ああ。ありゃあ、明日、目が覚めたら後悔すると思うよ(村人Aのコメント)




