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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第七章「嚮導者時代:諸国編」

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第二十六話「魔物についての考察」

前半はザック視点、後半はキトリー視点です。

 一月十日。

 念願が叶い、俺たちは創造神(クレアトール)の地下神殿に入ることができた。そこは“聖域”あるいは“神域”と呼ぶに相応しい場所だった。

 凛とした雰囲気だが、自然とリラックスできるような安らぎもあり、神々の息吹すら感じられた。


 神官長レーア・ガイネスとともに祈りを捧げていた時、俺は再び神と邂逅した。

 前回は十一柱の神すべてだったが、今回は天の神(カエルム)だけだった。


 カエルムはルナが虚無神(ヴァニタス)の手先に攫われたことを伝えた後、これ以上の干渉を避けるよう命じてきた。

 そして、五月に入るまで、カエルム帝国に入ることを禁じられる。


 その際、ヴァニタスがこの世界を崩壊させる手段についても知らされた。それは神々の力の均衡を崩すという方法だった。具体的な方法は聞いていないが、それを防ぐことがルナと光の神(ルキドゥス)の御子と呼ばれる者に与えられた使命だということだ。


 カエルムが去った後も祈りを捧げていたが、それ以上神からの接触はなかった。

 体感時間にして三十分くらい経ったところで、神官長が「そろそろよろしいでしょうか」と言って立ち上がった。

 地下神殿に最も興味を持っていたキトリー・エルバイン教授はまだ名残惜しそうだったが、神官長から「明日以降も拝殿を許可しますので」と言われて渋々立ち上がった。


 神殿を出た後、キトリーさんは神官長と話があるということで、俺たちだけで家に戻ることになった。

 戻る途中、なぜか誰も口を開かず、静かに歩いていた。


 家に戻った後、神に会ったことを話そうとリディたちを集める。


「地下神殿で神に会った。今回はカエルムだけだったが」


 俺がそういっても誰も驚かない。


「私も神様に会ったわ。多分、人の神(ウィータ)だと思う」とリディが呟く。


 それに応えるかのようにベアトリスも「あたしもだ」と言って頷く。更にメルとシャロンも「「私もです」」と同時に頷いた。


 彼女たちにも神が会いにきたことに驚くが、


「そうか……なら、まず俺が聞いた話をしよう……」


 そういってカエルムから聞いた話をしていく。


「……この世界を守ることは神々の力の均衡を崩さないこと。すなわち、人々が神への不信感を持たせないようにすることが必要だということだ」


 俺の言葉にリディたちは沈黙している。

 そして、シャロンが最初に口を開いた。


「私も同じ事を聞きました。言い方は悪いですが、何となく利己的な感じを受けました。自分たちへの信仰心を守ろうとしているだけのような」


 俺が何か言う前に珍しくベアトリスが口を開く。


「あたしは神様と会ってパニクっちまったから話なんてできなかったが、ザックの話を聞く限り、神様たちはあたしらの信仰心って奴が必要で、それがなくなると力を失って世界が壊れていくんだろ。なら、拝んでくれっていうのも当然って気がするがね」


 言い方は乱暴だが、言っていることは間違っていない。


「私もベアトリスさんと同じことを思いました。確かに世界を守るために協力してほしいと何度も言われた気はしますけど」


 メルがそう言った後、リディが初めて口を開く。


「私はお願いをした方だから、あまり気にしなかったわね」


「お願い? 何を頼んだんだい?」とベアトリスが聞く。


「子供を授けてほしいってお願いしたのよ。でも、きちんと答えてもらえなかったわ」


 俯き加減でそう答える。


 その言葉が予想外だったのか、三人は驚きの表情を浮かべた後、「しくじったね」とベアトリスが悔しがり、メルとシャロンの二人も顔に失敗したと書いてあった。

 ウィータは結婚や出産に関わる神であり、究極の“神頼み”と言っていい。


「その話はまた今度でいいだろう。ルナは新しい仲間を手に入れた。いや、まだ魔族に捕まっているだろうから、今後できるんだろう。それにカエルムは俺にこれ以上の干渉を禁じた。つまり、やれることはもうないってことだ」


「そうね」とリディが頷く。


「それを踏まえて今後どうするかだ。少なくとも五月になるまで帝国には入れない。村に戻るにしてもアウレラ経由しかないし、早すぎれば五月前に村に着いてしまう。俺としてはもう少し神殿で神々から情報を得たいと思っているが、みんなはどうだ? 村は無理でもペリクリトル辺りまで帰るという手もあるが、それなら早々に切り上げてジルソールにいかないといけない」


 ここからラスモア村までは最速の場合、海路で約二ヶ月、陸路で約一ヶ月の計三ヶ月ほどで到着できる。今すぐ出発し、運よく船がいたとしたら四月中旬にはラスモア村に到着できる。


「あたしはもう少しここにいたいね」とベアトリスがいい、メルとシャロンも「「私もです」」と賛同する。恐らくウィータに子供のことを頼みたいのだろう。


「私も同じよ。急いで帰る必要はないし、今の状態でキトリーを放り出すのも悪い気がするわ」


「リディの言う通りだな。キトリーさんの研究の手伝いをしながら、クレアトール神殿に行くのがいいかもしれない」


 神々に会える可能性があるこの場所を離れるのはもったいないと思っている。

 今後、俺のやれることは少ないかもしれないが、情報を集めておけば、ルナの役に立つ時が来るかもしれないからだ。


「いずれにせよ、キトリーさんには神に会った話はしないでおく。彼女が神から聞いて、こっちに切り出してきたのなら別だが」


 キトリーさんに話せば、俺とルナの関係を話さざるを得ない。そうなれば、彼女の好奇心は俺たちに向くだろう。キトリーさんがルナに会わないという保証はないし、もし知った上で会ったら大きな干渉と見られるかもしれない。そのリスクは排除しておきたい。

 俺は神から聞いた話をメモにし、今後の調査の方針を考えていった。


 昼過ぎになり、キトリーさんが戻ってきた。


「いい話は聞けましたか?」と俺が聞くと、キトリーさんはニコリと笑い、


「ええ、クレアトール神殿が神域だということがよく分かったわ。神の息吹を感じられたのだけど、それについて神官長からいろいろ聞かせてもらったのよ」


「神の息吹ですか?」


「ええ、言葉を交わしたわけではないのだけど、神がここにいると確信したわ。そのことについて、神官長の意見を聞いていたの……」


 興奮気味に話した後、「これからレポートにまとめるから、これで失礼するわね」と言って、昼食も摂らずに自分の部屋に入ってしまった。


「声を聞いたのは俺たちだけということか。もしかしたら神官長も聞いているのかもしれないが……それにしてもキトリーさんのやる気が凄いな……」


 そう言いながら、呆れ気味に彼女が出ていった扉を見つめていた。



 一月二十日。

 十日間神殿に通い続けたが、一度も神々に会うことはできなかった。会うどころか気配すら感じることはなかった。

 リディたちも同じで、キトリーさんだけが嬉々として神殿に通っている状況だ。


 神官長との面談もキトリーさんが主体となっており、俺はそれに付き添っているだけだ。

 新たな情報はほとんどないが、ここの神官たちが非常に長命であることだけは確認できている。ただし、彼らはそのことを否定しており、状況証拠のみであるため、キトリーさんには話していない。

 もちろん彼女の研究の手伝いはしており、聞き取った情報の整理や持ち込んだ資料との整合性の確認などを行っている。


 朝食後、キトリーさんが神殿に向かう前にリディたちに集まってもらった。


「そろそろ潮時だと思う。ここにいてもやれることはない」と村へ帰ることを提案した。


「そうね。ここも平和でいいところだけど、そろそろ村に戻りたいわ」


 リディが賛成し、ベアトリスも「あたしも同感だね」と頷く。メルとシャロンからも反対の意見はなく、キトリーさんの研究の手伝いに一区切りができたところでジルソールに向かうことに決めた。


 そのことをキトリーさんに告げると、


「これまでの情報の分析ではずいぶん助かったけど、そろそろ情報も出尽くしたって感じだし、これ以上あなたたちを引き止めておくのも気が引けるわ。もっとも私はもう少しここにいようと思っているけど」


 キトリーさんはまだここに残るつもりのようだが、そうなると帰路は一人になる。


「ジルソールまで一緒に戻らなくても大丈夫ですか?」


「大丈夫だと思うわ。もっと危険なところでも一人で野営したこともあるから」


 不安はあるが、この島には魔物や危険な獣がおらず、また盗賊も少ないため、高位の魔術師であるキトリーさんならほとんど危険はない。


「あなたの意見を聞きたいものもあるから、あと二日くらいは残ってもらえないかしら、その間に資料をまとめるから」


「構いませんよ。特に急ぐ旅でもありませんから」と言って了承する。


 その後、神殿に向かい、神官長たちにも説明する。


「そうですか……寂しくなりますね」と神官長が言うと、神官のアトロ・カヤンも「いろいろとお話を聞かせてもらえて楽しかったのですが」と心底残念そうな顔をする。


 村長ら村人たちにも挨拶をしていくが、残念がる声が多くあった。


 それから二日間でキトリーさんの研究の成果について話を聞いた。


「神々とクレアトール神殿の関係についてまとめてみたわ。古代文明のことをどう書いていいのか悩んでいるのだけど……」


 キトリーさんの論文はクレアトール神殿と十一柱の神々との関係についてまとめられていた。また、光神教の創始者ルチオ・ブリッラーレが神殿を訪問しようとしたが村に入れなかったことや魔法を否定する独特の宗教観についても言及されていた。


「……クレアトール神殿の教えを研究した論文は存在しないから、これを持ち帰ったら大きな反響を呼ぶと思うわ。もちろん、学術都市(ドクトゥス)の中だけだけどね」


 研究者が興味を引くテーマではあるが、一般人が気にする内容ではないことは間違いではない。しかし、この話を公にすると光神教が過剰反応するだけでなく、魔術師ギルドが興味を持つ可能性が高い。その場合、ルナの行動に支障が出る可能性がある。


「光神教のことは特に気をつけた方がいいと思います。何をするか分からない連中ですから。他にも根拠(エビデンス)が少ないものも公表は待った方がいいかもしれないですね。神官長たちがすべてを語っていない可能性もありますから」


「そうね。そのことはよく考えてみるわ。あと半年くらいはここにいるつもりだから、追加の情報を見て判断するわ」


 キトリーさんとの話が終わったため、翌日の一月二十三日にジルソール市に戻ることにした。


 神官長は見送りに来なかったが、アトロが神官を代表して見送りに来てくれた。


「楽しい時間をありがとうございました。また、お会いできればうれしいですね」


 そういって右手を差し出してきた。

 その手を取りながら、「こちらこそ」と言って頭を下げる。


「ドクトゥスに戻ったら手紙を送るわ。あなたとの共著という形で論文を発表するかもしれないから、その時は相談に乗ってね」


 キトリーさんはそういっていたずらっぽく片目を瞑る。


「私も興味がありますから、必ずお伺いします」


 別れの挨拶をした後、村人たちに見送られながら、一ヶ月半ほど滞在したナタリス村を後にした。


■■■


 ザック君たちを見送った後、がらんとした家に戻った。


(それにしても彼は何を気にしていたのかしら? いつも慎重な言い回しをするけど、今回はいつも以上に気にしていたわ。リディアたちも何か隠している感じがしたし……)


 ザック君が私の気づいていない事実に気づいていることは分かっていた。そのことをストレートに聞いたこともある。でも、いつもはぐらかされて明確な答えが返ってこなかった。


(初めて地下神殿に入った時、ザック君たちの気配が消えた気がした。あの時は神殿には入れたことで舞い上がっていたから深く考えなかったけど、もしかしたら神と会っていたのかもしれない。あの時が一番強く神気を感じた気がするから……)


 ザック君のことが引っかかっているが、それ以上に気になることがある。

 それは神官長の態度の変化だ。

 最初は歓迎すると言いながらも警戒していた。外から来た私たちに警戒するのは当然なのだけど、その後の変化が少しおかしいと感じた。


 途中から警戒というより負の感情が入っている気がした。特に神のことを話している時にザック君に視線を向けていることが多かったけど、彼女の表情に険のようなものが見えたことが何度かあった。


 はっきりとは言えないのだけど、嫉妬に近い感情ではないかと思っている。ただ、神官長である彼女が嫉妬する理由が分からない。


 そのことも気になるが、これからのことを考えなければならない。

 今日から神官長が瞑想に入るという話だったから、カヤン神官から話を聞けるけど、地下神殿には入れない。


 だから、ザック君たちと一緒にジルソールに向かってもよかった。だけど、ここ一ヶ月半で得た情報が整理できていないから、ここで一度仕切り直したい。もし、聞きたいことが出た時に、ジルソールから戻ってくるのが面倒だから。


 後はザック君が調べたことをまとめる必要もある。彼は私が神官長と話している間にこの村の周囲をいろいろと調べてくれた。特にブリッラーレが村に入れなかったことを気にしていたようで、結界のようなものがないか入念に調べている。


 結論を言えば結界に関係するような魔法陣はなかった。但し、いくつかの面白い事実を掴んでいた。

 明確な境界があるわけではないらしいけど、村から半径二km(キメル)ほどを境に植生が変わっている。また、森も豊かで手入れされたかのように下生えの草や低木がない。

 村人に確認したけど、薪を拾ったり山菜を取ったりする以上のことはしておらず、不思議だと言っていた。


 他にも魔物についても考察を残している。

 ジルソール島には魔物がいない。このことについても調べていたらしく、神官たちや村人に話を聞いていた。

 彼が酔っている時に彼の考えを聞いたことがあった。


「不思議だと思いませんか? 大陸には多くの魔物がいます。確かにウェール半島には魔物は少ないですが、それは帝国が定期的に間引いているからです。島だからというのも理由になりません。フィニス島やペリプルスには普通に魔物がいます。それにこれだけ大きな島で、人口が少なければ、魔物が繁殖してもおかしくはありません」


「確かにそうね。で、何か理由が分かったのかしら?」と軽い気持ちで聞いてみた。


 いつもなら答えは返ってこないのだけど、今日はいつもより警戒心が弱いのか、思いもよらない答えが返ってきた。


「この島には魔物が生きていくために必要なものがないのかもしれません」


「魔物が生きていくために必要なもの? それは何かしら」


「物というより、条件ではないかと考えています。魔物が多く現れる場所はアクィラ山脈やサエウム山脈です。まだ仮説の域にも達していませんが、魔物が生きていくにはある一定の条件が必要ではないかと」


「一定の条件?」


「魔物はどうやって身体を維持しているのでしょうか? 特に竜や巨人のような大型の魔物は体重だけで人間の百倍以上あります。食料が少ない山の中でどうやって身体を維持しているのか、動き回るエネルギーをどうやって得ているのか。それを言ったら、アンデッドはどうやってエネルギーを得て動いているのか……」


 彼の言っていることが徐々に理解できなくなっていくが、口を挟まずに聞いていく。


「……精霊の力とは違う未知のもの、瘴気のようなものがあるのではないかと考えています。精霊の力が八属性神の力なら、ヴァニタスにも同じような力があるのではないか。もしそれが魔物を存在させる力だとすれば、クレアトールの力が支配するジルソールに魔物がいない理由になります」


「確かにそう考えれば辻褄は合うわね。それに魔物が人を襲う理由も。でも証拠はあるのかしら?」


 そこで話しすぎたと気づいたのか、「証拠はありません。単なる思い付きですよ」と苦笑する。


 その後、更に話を聞こうとしたが、いつもの慎重さを取り戻してしまい、ほとんど話を聞けなかった。


 この話は私の専門ではないが、とてもユニークな説だと思った。ヴァニタスの力が魔物を存在させているなら、クレアトールの力も何かに影響しているのかもしれない。

 そのことを神官長に聞いてみたが、答えは返ってこなかった。

 ただ、このことはレポートにまとめておいて、学院に戻ったらラスペード先生に相談しようと決めた。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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