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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第七章「嚮導者時代:諸国編」

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第四話「ダンのウェルバーン訪問:後篇」

 五月三日。

 ドクトゥスでの用事を済ませ、更に西に進む。

 ここから先は魔物が多く棲むサエウム山脈が近く、街道の危険度は格段に上がる。そのため、従士たちに注意を促しておく。


「ここからは魔物や盗賊が頻繁に出る危険な場所だ。ロックハート家の名を辱めないよう気を引き締めるんだ……」


 僕の言葉にジェイルたちは表情を引き締めて大きく頷く。


 最初の数日は魔物に襲われることなく、平穏な旅を続けた。

 アウレラ街道の帝国側の入口であるロークリフの街にあと二日というところで、小規模なゴブリンの群れに襲われた。僅か二十匹のゴブリンであり、数分で追い散らすことに成功する。

 そして、その翌日、以前盗賊に扮した傭兵たちに襲われた森に差し掛かった。


 今回の旅でも商人たちと大規模なキャラバンを組み、最後の森を進んでいた。

 僕たちの位置は真ん中辺り。前後どちらにも支援にいける位置だ。これは商人たちからの求めに従ったものだが、比較的安全な場所ということで了承した。


「この辺りは奇襲を掛けるのに適した場所だ。以前、ウェルバーンに向かう時に襲撃を受けている。森の中に注意を払い続けるんだ……」


 弓を左手に持ち、すぐに矢を取り出せるように矢筒の位置を確かめながら馬を操っていく。


 警戒が功を奏したのか、北部総督府軍の治安維持が成功したのかは分からないが、無事にロークリフの街に入ることができた。


「ここまで来ればもう安全ですね」と笑顔のエレナが話しかけてきた。


 彼女の言う通り、ロークリフから南に向かう北方街道は帝国の主要街道であり、北部総督府軍が定期的にパトロールしており、護衛なしでも旅ができるほど安全だ。

 彼女の言葉どおり、何も起きることなく、ウェルバーンに到着した。


 ウェルバーンの街に入ると、すぐにドワーフたちに歓迎される。ザックコレクションの匂いを感じて、僕たちの到着に気づいたようだ。


「よく来た!」と支部長のデーゲンハルトさんが僕の腕をバシバシ叩く。


「ご無沙汰しております」と挨拶を交わし、今回の旅の目的を告げた後、


「後ほどザックコレクションを支部に届けます」


「それでは宴会じゃな!」とグスタフさんが大きなお腹を揺らしながら大声で言ってきた。


「今日は総督閣下のところで宴があると思いますので、お伺いできるのは明日になると思います」


 今回のウェルバーン訪問はメイスフィールド卿にエレナとの結婚の許しを受けることが目的だが、北部総督閣下に御館様からの手紙とザック様の懸念をお伝えするという仕事がある。これは世界の存続に関わる重大事なので最優先事項だ。


「そうか……では、明日じゃな」とデーゲンハルトさんはすぐに納得してくれた。


 総督閣下の居城であるウェルバーン城に入る。前触れを出していたので、すぐに総督閣下の執務室に通される。執務室には総督閣下、奥方様であるバーバラ様、家宰であるオールダム男爵閣下が待っていた。


 総督閣下は以前お会いした時より、元気になられたようで五十代半ばという年齢より若く見えるほどだ。

 バーバラ様は以前と同じく優しい笑みを浮かべておられ、こちらも年齢を感じさせない。


 挨拶を交わすと、総督閣下が「ついにエレナを娶る決心をしたか」と笑顔でおっしゃり、エレナの元上司バーバラ様も「よかったですね」と彼女を祝福してくれた。


 しかし、御館様からの手紙を読み始めると、雰囲気が変わった。


「マサイアスからの手紙の内容は聞いておるか」と厳しい表情で聞いてこられた。


「存じております。その件に関し、ザカライアス様のお考えも聞いております」


「ザカライアスの考えか……まずはそれを聞かせてくれ」


 僕は「それでは」と言って小さく頷き、


「ザカライアス様は魔族の動きを警戒されております。それだけなら帝国に影響はないのですが、魔族以外にも動きがあるとお考えです」


「魔族以外……それは何者だ?」


「ルークス聖王国です。正確にいえば、光神教団が積極的に動いており、聖王国が大々的に何か仕掛けるのではないかと」


 辺境伯閣下の表情が険しくなった。


「光神教か……あの者らにはパトリックのことで借りがある……そう言えばアウレラやラクスで何やら動いているという噂は聞いておったな……」


 パトリック様は辺境伯閣下のご長男でルークス聖王国の工作員によって暗殺された。そのことで一時逆上されたものの、ザック様に諌められて事なきを得ている。


「ザカライアス様は再び絡め手を使ってくるのではないかとお考えです。特に北部域への工作は帝国を分裂させて弱体化させる最も有効な手段だとおっしゃっていました」


「うむ。そのことは充分に理解しておる。前回の懲罰戦争で懲りているからな」


 ルークスの陰謀によって実弟であるタイスバーン子爵の領地で禁制品である麻薬“光の神(ルキドゥス)の血”の原料を栽培していた。

 そのため、帝国政府にルークスとの共謀を疑われる恐れがあり、先手を打ってルークスへの出兵に参加している。その際、北部域の治安が悪化したため、傭兵を雇わざるを得ず財政も苦しくなり大変苦労された。


「ザカライアス様はアウレラの動向を常に探り、彼らを追い詰めないことが重要であるとおっしゃっておられました」


「商人たちは金儲けさえできれば、帝国に逆らわぬということじゃな」


「その通りです。可能であれば、アウレラの商人に協力者を作るべきとも。これに関してはザカライアス様が仲介のお手伝いをさせていただくと明言されております」


 そこでオールダム男爵閣下が話に加わった。


「ザカライアス殿の紹介であれば信用できますな。で、彼はその商人を使って何をすべきと?」


「商業ギルド本部の考えを宰相閣下にお伝えすべきであると。宰相閣下は帝都支部の動向は確実に掴んでおいでですので、本部の意向が分かれば適切な手を打ってくださるだろうと」


 宰相であるアレクシス・エザリントン公爵閣下に丸投げのように見えるが、ザック様は宰相閣下の手腕を高く評価しており、情報さえあれば問題ないとお考えだ。


「確かにアレクシス殿に任せるのが一番だろう。他に何か言っておらなんだか?」


「もう一つだけございます」


「それは何かな」


「光神教を必要以上に追い詰めないよう、宰相閣下に進言していただきたいとおっしゃっておられました」


「それにはどのような意味があるのだ? 儂にとって光神教は我が子の敵。自らの手で叩き潰したい存在なのだぞ」


 辺境伯閣下は怒気を抑えるようにしながら僕を見つめる。

 強い圧力(プレッシャー)を感じるが、漆黒の魔族に比べればどうということはない。

 閣下の目をしっかりと見つめ、


「恐らくですが、教団か教団に近いところに改革者が現れます。その改革者が光神教と聖王国を変えてくれれば、大きな混乱は防げるとお考えでした」


「改革者? 具体的に目星がついておるのか、ザカライアスには」


 僕が言った“改革者”はザック様が神々から聞いた“光の神(ルキドゥス)の御子”のことだ。今のところ誰のことかは分からないが、現れることだけは間違いない。


「その点は私も聞いておりません。ですが、ザカライアス様があやふやな情報で閣下にこのような進言をされることはないと断言できます」


「そうじゃな。あの者なら確信をもっておらねば言わんじゃろう」


 男爵閣下も「ザカライアス殿がおっしゃるのであれば」と頷いていた。


 辺境伯閣下の執務室を出ると、大きく深呼吸する。緊張のあまり呼吸が乱れていたようだ。


「お疲れさまでした。でも凄かったです。閣下と政治の話を堂々とできる若い方はザック様とシャロンさんくらいしかいないと思っていたので」


 エレナがそう言って褒めてくれるが、


「全部ザック様から聞いた話の受け売りだからね。誰にでもできるよ」


「そんなことはありません」と強く否定され、前に立たれる。


「もっと自信を持ってもいいと思います」


 そう言ってから僕の手を取り、


「明後日には父に今の感じで話してくださいね。閣下よりも話しやすいと思いますから」


 そう言って笑みを浮かべる。


 予定では明日、鍛冶師ギルドに行き、明後日にエレナの実家であるメイスフィールドに向けて出発する。

 メイスフィールドはウェルバーンから五十km(キメル)ほど離れているため、途中で一泊することになっていた。


 その日はウェルバーン城で宴が催された。騎士爵の嫡男にすぎない者の訪問に対し、北部総督であり、大貴族である辺境伯家の当主が宴を催すというのは異例だが、ロックハート家との関係から問題になることはなかった。


 翌日、鍛冶師ギルドでの歓迎の宴が行われた。

 いつも通りの心の篭った宴会であり、特筆すべきことはない。もちろん、いつも通り二日酔いにはなっている。


 五月十五日。

 二日酔いの最悪の気分の中、目が覚めた。春の爽やかな青空ですら頭に響く気がする。それでも日課通り、朝の鍛錬は行っている。


 午前九時過ぎに出発した後、最初の目的地に到着する頃にようやく二日酔いが醒めた。


 翌日の五月十六日も天候に恵まれ、順調に馬を進めていく。

 前日と異なり体調は万全だが、エレナのご両親に会うということで気分的には少し重い。


 旅の途中で彼女の父であるヒースコート・メイスフィールド卿のことを聞いている。

 メイスフィールド卿は北部総督府軍の中隊長を務めており、ルークス聖王国との戦いで武勲も挙げている武人だ。


 辺境伯閣下やオールダム男爵閣下から聞いた話でも豪放磊落な方だそうで、僕たちの結婚を歓迎しているということだった。

 奥方のミラベル様は、エレナたちの教育では厳しかったものの、おおらかな方だと聞いている。

 それでも結婚相手の両親に会うというのは思った以上にプレッシャーが掛かる。


 午後三時頃。メイスフィールド村に到着した。

 人口五百人ほどの小さな村で、主要な産業は農業だけらしく、緩やかな丘陵地帯に畑が広がっている。

 平和な土地らしく簡単な柵がある他は、防御設備などは見当たらなかった。

 何となく昔のラスモア村を思い出す長閑(のどか)なところだと思った。


 メイスフィールド家の屋敷は村の中心にあった。周囲の建物より少し大きいくらいで、昔のロックハート屋敷より小さい。

 先触れを出していたので、屋敷の入口でメイスフィールド卿と奥方様、数名の家臣やメイドが待っていた。


 メイスフィールド卿は四十代半ばで、僕と同じくらいの身長で、灰色の瞳が武人らしい力強さを持っているというのが第一印象だ。


 屋敷の前で馬を下り、ロッド様に教わった作法どおりに挨拶を行う。


「ロックハート子爵家の家臣、ガイ・ジェークスの嫡男ダンと申します。メイスフィールド卿にご挨拶に参りました」


 背筋を伸ばし、できるだけ堂々としているように見せる。ただ、自分ではどんな感じなのか分からないため、堂々としているのか自信はない。


 僕の拙い挨拶にメイスフィールド卿は相好を崩し、「よく参られた、婿殿!」と言って僕の両手を取る。


「あなた。まだ婿殿というのは早すぎますよ」


 奥方がそう言ってたしなめてくれるが、その表情は優しいものだった。

 その言葉にメイスフィールド卿も「そうだな」と笑い、


「我が家へようこそ。ジェークス卿」と改めて歓迎の言葉を掛けてくれた。


 屋敷に入ると質実剛健という言葉にふさわしく、無駄を一切排した大広間に通される。

 十人掛けのダイニングテーブルを挟み、メイスフィールド家の当主、奥方、エレナの弟である嫡男のローランド殿が並び、僕とエレナが反対側に座っている。

 ローランド殿は二十歳で北部総督府軍の正騎士だそうだ。偶然休暇で家に戻っていたらしい。


 ここで正式にエレナを妻にしたいと申し込むのだが、メイスフィールド卿も奥方も笑みを絶やすことなく話しかけてくるため、中々切り出せない。

 業を煮やしたのがエレナだった。


「父上、母上! 世間話もよいですが、まずは話を聞くべきではありませんか!」


「そうであったな。済まぬ」と苦笑いを浮かべて言いながらメイスフィールド卿は軽く頭を下げた。


 そこでエレナが僕に視線を送ってきた。今がチャンスということなのだろう。

 それでもすぐに言葉が出てこない。三秒ほどためらった後、勇気を出して口を開く。


「メイスフィールド卿、奥方様。エレアノール殿が我が妻となることをお許しください」


 そう言って頭を下げる。


「無論構わぬ。我が娘のことをよろしく頼む」


「剣術と馬術に明け暮れていた娘ですが、よろしく頼みますね。ジェークス卿」


 ジェークス卿という呼び方にどうしても慣れない。


「ダンとお呼びください」というと、奥方は「では、私のことは義母(はは)と呼んでくださいね。ダンさん」といってニコリと笑った。


 その後、ロックハート家からいただいた引き出物を渡していく。

 クリスタルガラスのボトルやグラスを見て、三人は目を丸くする。


「ウェルバーン城で使われておる物と同じではないのか? そのような高価な物を……」


 ザック様が作ったという点ではウェルバーン城にある物と同じだが、実際には更に品質がいいものだそうだ。

 魔術師としてのレベルが格段に違うので、品質もそれに従ってよくなったと教えてもらっている。つまり、以前皇帝陛下に献上した物よりもいいということだ。

 このことをいうと更に困惑されるので黙っている。


「ですが、これは主君、マサイアス・ロックハート様よりメイスフィールド卿へお渡しするようにと言われております。どうかお納めを」


 僕の一言でメイスフィールド卿は「そうであれば」といって受け取ってくれた。僕の家でも何百万クローナもするような食器を贈られても困るからメイスフィールド卿の気持ちはよく分かる。


 更に八年物のスコッチの樽があるというと、


「スコッチといえばドワーフたちが目の色を変えて求めるという名酒。それも八年物は中々手に入らぬと聞いたが……」


「その通りです。これはザカライアス・ロックハート様からの贈り物ですが、私も扱いに困るのではと言ってお断りしたのですが……」


「そうですわね。樽でいただいてもここでは飲みきれないですし」と奥方も困惑の表情を浮かべていた。


「そこで提案があるのですが」と切り出す。


「鍛冶師ギルドに譲り、その見返りとしてメイスフィールド家の装備を新調されてはいかがでしょう? デーゲンハルト・グラブシュ支部長には私の方で交渉しますが」


「ロックハート家からいただいた物を装備に換えるのはいかがなものか」


「実を言うとこれはザカライアス様ご本人からのご提案なのです。ザカライアス様はこのようにおっしゃりました。“武の名門メイスフィールド家は鍛冶師ギルドと親密な関係にある方がいい。そのためには酒が一番だ。デーゲンハルトには娘と義理の息子の門出を共に祝ってほしいと申し出れば受け取らぬことはない。その上でお前がメイスフィールド家の装備の話をすればいい。これで全員が幸せになれるのだから”と」


 メイスフィールド卿はザック様の考えについていけず、困惑の表情を浮かべている。


「ザカライアス卿がおっしゃるのですから、あなたはそれに従っておけばよいのです。御館様ですら一目置かれる知恵者なのですから」


「そうだな。では、そうさせてもらおう」


 これでエレナとの婚約の話はすべて終わったと思い、安堵の息を吐き出しそうになる。


「一つだけ聞いておきたいことがある」とメイスフィールド卿がそれまでとは異なり、真剣な表情で聞いてきた。


「何でしょうか?」


「ザカライアス卿との今後の関係について問いたい。田舎の騎士に過ぎぬ私に帝都のことは分からぬが、この話が来た時に御館様よりロックハート家に関する情勢について教えていただいた。その中でザカライアス卿の話が出たのだが、宰相閣下が高い地位を示し、部下にならないかと勧誘されたと聞いた。御館様も伯爵位を用意してフランシス様の補佐にしたいとおっしゃっておられた」


「存じておりますが、ザカライアス様はそのすべてをお断りになっておられます」


「うむ。そのことも聞いておる。しかしだ。今後も今のままでいるとは限らんのではないか? そうなった時、君はどうするつもりだ。ロックハート子爵家に残るのか、ザカライアス卿と共に行動するのか? 噂では“ダン・ジェークスはザカライアス卿の腹心にして無二の親友。ザカライアス卿が伯爵位を得れば、ジェークス家は男爵になるであろう”と。その時、君はどのような選択をするつもりなのか」


 突然の問いに僕はすぐに答えられなかった。

 といっても今まで考えたことがないわけではない。ザック様が望めば伯爵位どころか侯爵位すら手に入る。

 ザック様がそう決断されたら、必ず僕に声を掛ける。その時、僕はどうしたらいいのかと常々考えていた。でも、誰もそんなことは言ってこないから今まで誰にも言ったことはない。


「私はロックハート子爵家の家臣です。ロックハート家を離れることはございません」


 この答えは僕の結論だが、エレナを娶るという点ではマイナスだ。出世の機会をみすみす逃すような男に可愛い娘をやる親はいないからだ。

 しかし、メイスフィールド卿の反応は意外なものだった。


「それを聞いて安心した。君ならザカライアス卿の腹心としてやっていけると思うが、娘にドロドロとした宮廷の生活は難しかろう。ならば、ロザリンド様が美しいと絶賛されたラスモア村で過ごす方が娘のためになる」


 この言葉を聞き、メイスフィールド卿が義父になることを神に感謝した。この人たちとなら上手くやっていけるだろう。


 その後、ささやかながら心の篭った歓迎の宴が催された。メイスフィールド家は領民から慕われているようで、多くの人々が祝福に駆けつけてくれる。

 こんなところもラスモア村に似ているなと思いながら少し温いビールを飲んでいた。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[良い点] 「類は友を呼ぶ」 良い親戚がロックハート家に加わりましたね。 これでダン君の結婚生活も安泰だ。 後は作者様の魔の手を逃れてくれることを祈るばかりです(笑)
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