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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第六十五話「第二幕の準備」

 三月二十八日の午後三時過ぎ。


 ロックハート家と魔将(アークデーモン)アシュタルとの死闘は第二ラウンドに入った。

 敵の地上戦力である地竜(ランドドラゴン)一つ目巨人(サイクロプス)四手熊(フォーアームズベア)を倒し、アシュタルに次ぐ強敵大魔(グレーターデーモン)に加え、二体の妖魔(デーモン)を倒している。

 これで敵の戦力はアシュタルの他には三体の妖魔と遅れている多頭蛇竜(ヒドラ)だけだ。


 これだけの戦果を上げたロックハート家側も無傷では済まされなかった。

 シャロンがアシュタルの魔法を受けて意識不明となり、バイロン・シードルフが祖父ゴーヴァンを庇って、闇属性の死神の鎌(デスサイズ)に貫かれている。

 他にもイーノス・ヴァッセルと六人の従士が傷つき、二人はまだ意識不明のままだ。


 これほどの死闘を繰り広げたが、時間的には三十分ほどしか経っていない。たった三十分の戦闘でロックハート家の精鋭がこれほどやられたのは初めてだ。

 それでも俺が作った地下要塞に何とか逃げ込むことに成功した。


 俺が地下室に入っていくと、祖父たちが待っていた。

 祖父に話をしようとしたら、「よかった!」といってリディが抱き付いてくる。俺のことを案じていたのか憔悴した感じがする。


「途中で少しやばかったが、それほど危険はなかったよ」と若干の嘘を交えておく。


 そして、祖父に向かって状況を確認する。


「どんな状況ですか」


「バイロン、シャロン、イーノス、シドの意識が戻らん。他の者はリディアの治療である程度回復しておる」


 幸いなことにバイロンを含め、戦死者は出ておらず安堵するが、それでも親しいものが傷ついたことに表情が曇る。


「外の様子はどうじゃ」


「何とか振り切れました。恐らく追ってくると思いますが、すぐには入ってこないでしょう」


「そうか……では、この後は計画通り、奥の部屋で待ち受けるのか?」


「そのつもりです。ですので、すぐにでも奥に移動してください」


 祖父は「分かった」と頷き、


「全員奥に向かえ! 奥の部屋では儂の班とウォルトの班が待ち受ける! ヘクターは弓術士を指揮して射撃場所に待機! 負傷者は爆風避けの避難場所に寝かせるんじゃ!」


 その命令で全員が動き出す。


「罠を仕掛けますから、先に行ってください」


 俺はその場に留まり、準備を始める。


「任せる。だが、時間は掛けるな」と祖父は了解し、奥に向かった。


 しかし、メルだけは「私も残ります」といって俺を見つめている。

 俺のことが心配なのだろう。奥に向かわせることも考えたが、議論している時間が惜しいとそれを認めた。


「分かった。じゃあ手伝ってくれ」といって収納魔法(インベントリ)から取り出した弩弓(クロスボウ)を手渡す。


「前に説明した場所にセットしてくれ。俺は紐を準備しておくから」


 この部屋にはクロスボウを固定する場所が予め作ってある。

 入口を通過した際、足元の紐に引っ掛かると三メートルほどの至近距離から太矢(ボルト)が撃ち込まれる。更に奥に向かう扉の前にも同じように設置し、背後からボルトが飛んでいくようにした。更にボルトの先端には巨大サソリジャイアントスコーピオン毒を塗っておく。


「こっちはできました」とメルが小声で報告する。


「こっちも準備完了だ。灯りの魔道具を消すから先に通路に入ってくれ」


「はい」といって奥の通路に入る。


 置いてあった飲み水用の六十リットルの樽を運び、俺も通路に入る。そして、偽装した扉をゆっくりと閉める。


「ここにも罠を仕掛けるから少し下がってくれ」


 更に二つの樽を取り出す。


「中に入っているのはお酒ですか?」とメルが聞いてきた。


 ビールを入れる樽と同じであるため疑問に思ったのだろう。


「いや、酒じゃない。こっちの樽と一緒でただの水だ」


「何に使うんですか?」


「とりあえず、通路に流してくれ」


 そう言いながら、栓を開けて通路に水を流していく。メルも俺に倣い、樽の栓を開ける。


「少し床が下がっているから水が溜まることは分かるんですが、何をするのかさっぱり分かりません」


 ドバドバと水を流しながら聞いてきた。


「罠の効きをよくする仕掛けだよ」


 メルは「罠の効きですか」というものの、樽が空になったことから、それ以上は聞いてこなかった。


 樽を回収し、途中である仕掛けをセットする。

 罠の確認をもう一度行い、決戦用の広間に入っていく。


「仕掛けは終わりました。とりあえず静かに待機しましょう」


 そう言ってから奥に向かう。

 重傷者たちが寝かされており、リディが付き添っていた。


「試してみたけど、やっぱり私の魔法では駄目だわ。バイロンの傷は塞いだけど、状態回復(リカバリー)を使っても意識が戻らないの」


 アシュタルの魔法を受けたバイロン、シャロン、シドの三人は意識を失ったままで、光属性魔法の麻痺などを回復させる状態回復(リカバリー)も効果がないらしい。


「イーノスの(ヘルメット)が大きく歪んでいたわ。頭を強く打っているみたい。こっちも私にはお手上げ」


 イーノスは最初に地竜の尾の一撃を受け、気を失っていた。その際、頭を強く打ったらしい。


「他の負傷者は応急処置だけしているわ。今は魔力を温存すべきだってゴーヴィが言ったから」


 本当はきちんと治したかったらしく、少し不満気な表情だ。


「四人は俺が治療しておく。リディも結構魔力を使っているから、少しでも休んでおいてくれ」


「あなたの方こそ魔力は大丈夫なの? 随分使ったみたいだけど」


「大丈夫だ。治療も最低限しかしないつもりだしな」


 リディは不安げな表情をしたまま、スペースを見つけて腰を下ろす。


 四人は床にそのまま横たえられていた。シャロンとシドの呼吸は落ち着いているが、バイロンとイーノスの呼吸は弱々しい。

 本来なら危機的なバイロンとイーノスの治療を優先すべきだが、残り少ない魔力で全員を助けられるか分からない。


選別(トリアージ)か……自分でやると嫌なものだな……)


 戦力として考えるなら、優先すべきはシャロンだ。

 シャロンは俺の妻であり、ぜひとも助けたいと思っている。しかし、今回に限って言えば、今後の作戦に必要であるため、生死をさまようバイロンより優先した。


 理由は俺に次ぐ魔法戦力であることと、今回のこの地下要塞の罠について、俺以外で唯一詳細まで知っているためだ。

 リディにも多少伝えているが、情報管理を徹底する意味で彼女には概要しか伝えていない。


 他にも理由はあった。

 目的の達成のためには犠牲を払っても断じて行うという非情さを、シャロンは持っている。今回の作戦においてそれが必要になると判断したのだ。


 外での戦闘で感じたことだが、今回の敵は味方を犠牲にしても倒せるかどうか分からないほど強力だ。

 俺にしてもリディにしても、祖父や兄を犠牲にしてまで戦えるか疑問だが、シャロンなら必要であれば、俺以外を犠牲にすることにためらうことはない。

 そして、危機的な状況に陥った時、味方を犠牲にして最後の罠を発動させる必要が出るかもしれない。そんな事態になってほしくないが、打てる手は打っておくべきだろう。


 シャロンの胸に手を当てる。

 そして、魔晶石の異物を取り除くイメージで浄化を掛けていく。

 光属性魔法独特の柔らかな光が吸い込まれていき、代わってどす黒いもやのようなものが浮き上がってきた。

 シャロンの顔色が赤みを差していく。


(予想通りだ……ヴラドの剣で刺されたじい様たちを治療した時と同じだ……)


 俺は当たりをつけていた。それはアシュタルという魔将とアンデッドの王ヴラド・ヴァロノスは共に神々の敵から力を授けられたのではないかと。


 ヴラドも魔法が効かなかった。それは漆黒の鎧が魔法を防いでいたからだが、その原理は未だに解明されていない。しかし、この世界の(ことわり)とは異なる理屈で魔法を無力化していたことは分かっている。


 アシュタルも理屈は分からないが、同じ力で魔法を防いだのではないかと考えている。そうであるなら、攻撃にも同じ理屈が使われているはずだ。

 ヴラドの攻撃で衰弱した祖父に行った治療と同じことをすれば、効果が出るのではないかと考えたのだ。


「こ、ここは……」と言ってシャロンがゆっくりと目を開く。


「地下室の奥だ。良かった……」といって彼女を抱き締める。


「ザ、ザック様? 私は……」と言ったところで記憶が戻ったのか、


「戦いはどうなりましたか! 私は……」


「大丈夫だ。とりあえず小康状態だ。だから今はゆっくり休め」


 そう言ってもう一度抱き締める。

 まだ完全に回復していないのか、「はい……」といってゆっくりと目を瞑った。


 シャロンに使った魔法は浄化(プリフィケーション)状態回復(リカバリー)の合わせ技だ。リディも使えるはずだが、調整が難しいため、上手くいかなかったのだろう。


 思った以上に魔力(MP)消費は少なかった。そのため、一時は諦めようかと思った最も危険なバイロンの治療に掛かることができた。


 バイロンの横に置いてある胸甲(キュイラス)には、魔法の死神の鎌(デスサイズ)で貫かれた穴が空いていた。ドワーフの名工が高品位鋼であるアルス鋼とミスリルを使って鍛え上げた鎧が、紙のように引き裂かれている。


(この鎧なら俺の光神の雷霆ライトニング・オブ・ルキドゥスですら、数秒はもつ。それがこんなにあっさりと……)


 そんなことを一瞬考えるが、すぐにバイロンの治療に当たる。

 シャロンと同じように浄化と状態回復の魔法を掛け、更に内臓の治療のため、治癒(ヒール)も合わせて掛ける。

 肺を貫かれていることから、血液の浄化もイメージする。


 それが功を奏したのか、バイロンの呼吸が落ち着いてきた。しかし、衝撃が大きかったのか意識は戻らない。

 余裕があればもう少し治療を続けるのだが、今は他の者の治療を優先し、そのまま寝かせておく。


 イーノスには脳内出血に対する治療を施す。その直後に目覚め、自分が地下にいることに悔しさを滲ませていた。


「最初の一撃でやられるとは情けないですね……戦いはどうなりましたか……」


「残りは敵の頭目と妖魔が三体だけだ。あと十分くらいそのまま寝ておけ。まあ、それまでに敵が入ってきたら戦ってもらうことになるがな」


「分かりました」といって頷くが、横にシャロンたちが寝かされていることに気づき、


「犠牲者は?」と小声で聞いてきた。


「みんな生きている。だから今は休め」


 そう言うとコクリと頷き、目を瞑った。

 最後にシドに治療を施す。彼の場合、ミスリルコーティングの盾の効果があったのか、黒いもやの量は少なく、すぐに起き上がった。


 これでリディが治療した者を含め、全員が生き残った。あれほどの敵に誰一人命を落としていないことに疑問が湧く。


(あのアシュタルという魔将(アークデーモン)の力なら、少なくとも負傷者の半数が命を落としてもおかしくはなかった。俺に放ってきた魔法もそうだが、精神へのダメージを与えるものばかりだ。じい様を狙った死神の鎌と最後に俺を狙った魔法は殺傷力を持っていたようだが……確か、俺を捕えると言っていたが、死霊魔道師(リッチ)との戦いのことを思えば不自然だ。神々の敵の命令なのだろうか?……)


 以前見たリッチとの戦いでは巨大な闇の巨人を召喚し、容赦なく叩き潰していた。今回も上空からあの魔法を使って攻撃を加えれば、前衛が地下室に逃げ込むまでに多くの犠牲が出ただろう。


 疑問が次々と湧いてくるが、今は次の戦いに集中しなければならない。

 祖父にシャロンたちの治療を終えたことを報告する。


「四人とも治療が済みました。シドはすぐにでも戦線に復帰できます。シャロンとイーノスは少し休む必要はありますが、問題はないでしょう。バイロンですが、治療は成功していますが、治癒魔法の効きがいまいちよくありません。ちょうど、ヴラドの剣を受けたおじい様やニコラスと同じような状態です」


「そうか……」と安堵と苦渋が混じった表情で呟く。


 しかし、すぐに頭を切り替えたのか、指揮官の顔になっていた。


「よくやってくれた。それでお前の魔力はどの程度残っておる?」


「一割といったところです。この後、敵が来るまで休んで魔力の回復に努めるつもりですが、魔法での支援は最低限だとお考えください」


「分かった。ではゆっくり休め」と俺に言った後、


「バイロンを含めて全員命を取り留めた。じゃが、ザックを始め、魔術師の魔力が心許ない。ここからは魔法なしで戦わねばならんと覚悟せよ」


 誰一人声を上げる者はなく、全員が静かに頷く。

 敵を引き込む作戦をきちんと理解している証拠だ。


 俺は射撃台の下のスペースで横になる。

 少しでも魔力を回復させるためには何も考えずに眠ることが一番だが、どうしても敵がどう出るのか考えてしまう。


(俺たちを捕らえようとしているのか? 何のためだ? 敵が求めているのはルナのはずだ。俺たちを操ってルナをおびき出すのか? あれほどの力を持つなら正面切って拉致しにいっても問題ない。それともまだルナの居場所を把握していないのか? 情報が少なすぎて分からないことだらけだ……)


 最大の疑問は地竜などの強大な戦力を投入したのに、俺たちを殺しに掛かっていないことだ。正確に言えば、地竜は祖父たちを容赦なく攻撃していた。しかし、アシュタルと妖魔は麻痺系の魔法をメインにしている。


 敵はルナを手に入れるか、殺そうとしているものだと思っていた。そうであるなら、俺たちは彼女を守るための邪魔者にすぎない。


 もう一つの大きな疑問は敵の首魁、漆黒の魔族らしき男が出てこないことだ。

 アシュタルという強大な戦力を投入したことから、自ら出なくとも大丈夫だと考えているならいいのだが、神々が恐れるような存在がそのような安易な考えで戦力を分散させるのか疑問だった。

 実際、新たに集めた戦力である地竜たちを失っている。

 敵の首魁が別の場所で暗躍しているのではないかと疑っていた。


(いずれにしても、あのアシュタルを倒さないことにはこの後のことを考えても仕方がない。今は魔力の回復に努めなければ……)


 そう考え、心を落ち着けていった。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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