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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第五十三話「不気味な静けさ」

前半は三人称、後半はザックの一人称です。

 一月中旬頃。


 魔将(アークデーモン)のアシュタルは主である虚無神(ヴァニタス)と共に古代文明の遺跡の一つに潜んでいた。

 ヴァニタスは黒魔族のサウル・インクヴァルを寄り代に降臨したものの、活動できるほど安定していない。


 原因はアシュタルにも分かっていない。

 ただ、元々サウルは寄り代となるべき者ではなく親和性が低いこと、ヴァニタスを降臨させるために怨念などの負の力を多く使ったことが、不安定さの原因ではないかと考えている。

 そのため、ヴァニタスを取り巻く魔力を制御すべく、常に傍らに侍るしかなかった。


 アシュタルが拠点である古代遺跡から動けなくなると、彼の配下である二体の大魔(グレーターデーモン)しか動けない。

 戦力の増強のために眷属を召喚しようとしていたアシュタルとしては歯痒い思いをしていた。


(新たな眷属を召喚するにして、我が動けぬ状況で大魔を呼び出すことは難しい。そうなると妖魔(デーモン)翼魔(レッサーデーモン)にならざるを得ぬ。この辺りの魔晶石でも妖魔の召喚は可能だろう……)


 強力な眷族を召喚しようとすれば、それに見合った魔晶石が必要になる。幸いなことにアクィラの山の中には多くの強力な魔物がおり、魔晶石を得ることは可能だった。


 しかし、大魔の召喚には最低二級相当の魔晶石が複数個必要で、飛竜(ワイバーン)合成獣(キメラ)などの強力な魔物を倒す必要がある。これらの魔物に対し、自らが指揮を執るならともかく、大魔だけに任せると失敗の可能性が高い。単に失敗するだけならよいが、大魔を失うことになれば更に戦力を消耗することになる。


 一方で妖魔であれば三級相当の魔物の魔晶石で召喚は可能だ。三級相当は大鬼(オーガ)丘鬼(トロール)など地上にいる魔物も多い。攻撃を受けることがない上空から一方的に攻撃できるため、大魔でも充分に倒すことができる。

 また、妖魔の場合、四級相当の魔物の魔晶石でも五個程度あれば召喚は可能だ。

 しかし、更に下位の翼魔の召喚は念頭になかった。


(……翼魔では偵察程度にしか使えぬ。我以外に指揮を執れる者がおれば有用ではあるのだが……大魔に指揮を任せられぬ状況では妖魔を直属で使う方が有効であろうな……)


 彼が大魔に指揮を任せない理由は裏切りを警戒しているためだ。

 大魔は魔将であるアシュタルの眷属であるが、召喚したのはサウルであり、この点が微妙に影響している。

 言うなれば、大魔の指揮権はサウルの身体を持つヴァニタスにあり、アシュタルが代行で動かしているに過ぎないのだ。


 妖魔系の魔物は高位になるにつれて自我を持ち、それに従い野心が大きくなる。更なる力を得て高位の存在になるために上位者を排除し、自らがその地位に就こうとする傾向にあるのだ。


 召喚者のような完全な上下関係にあれば、それを防ぐことは比較的容易だが、指揮権を代行している状況では自分を排除し、ヴァニタスの第一の眷属になろうと考える可能性は否定できなかった。


(いずれにせよ、妖魔をできる限り多く召喚せねばならん。そのためにもより強い魔物を狩り続けねば……)


 アシュタルの命令を受けた大魔はアクィラの山で魔物狩りを始めた。

 真冬になり、リッカデールの冒険者も森や山に入らなくなったため、競合することなく、魔物に挑み続ける。


 狩りやすい地上型の魔物、特にオーガやトロールを狙ったが、雪を避けるためか、洞窟や森の陰に隠れていることが多く、上空から探し回っても中々見つけることができなかった。そのため、手当たり次第に見つけた魔物を襲うしかなかった。


 皮肉なことにその影響でリッカデール周辺の魔物の数が減っている。今のところ、雪と冒険者不足でその事実は知られていないが、ギルド職員の中にはいつも以上に討伐にいけないにも関わらず、目撃情報が少ないことに疑問を感じている者もいたほどだ。


 二月に入るまでに三級相当の魔晶石を五個、四級相当の魔晶石を二十個ほど得ており、それを使って九体の妖魔が召喚されていた。


 しかし、二月に入ると近くの魔物の数が減り、更に雪が酷くなったため、効率が極端に落ちていた。

 成果が全く上がらないまま、五日が過ぎた。


 アシュタルは手ぶらで戻ってきた大魔を叱責する。


「何をしておるのだ! 主の完全なる復活のため、そなたらのすべきことをなせ!」


 大魔は頭を下げて吹雪の中に飛んでいくしかなかった。



 二月十日。

 雪が少し弱まったため、大魔はアクィラの山中を飛翔していた。頑健な身体を持つ大魔だが、氷点下の山中を飛行することは彼らにとっても苦痛であった。


 しかし、ヴァニタスの完全なる復活のため、その苦痛を堪えて魔物を探す。

 拠点となっている古代遺跡から二十km(キメル)ほど南西に飛んだ。この辺りには三級相当の魔物は少ないが、有翼獅子(グリフォン)が比較的多く生息しているためだ。

 当初、大魔たちはグリフォンを相手にするつもりはなかったが、四級以上の魔物の魔晶石を得るため、仕方なく面倒な敵と戦うことに決めた。


 大魔たちは二体のグリフォンを見つけると、包囲するように飛翔し、魔法による攻撃を仕掛けた。奇襲による攻撃は成功し、一体のグリフォンを傷つけたものの、空中での機動力ではグリフォンの方が圧倒的に有利であり、鋭い機動に翻弄され、何体もの妖魔が傷ついていった。更に戦闘が激化すると、一体が命を落としてしまう。

 大魔はこれ以上グリフォン狩りを続けることは非効率であり、諦めるしかなかった。


 拠点に戻るとアシュタルの叱責を受ける。


「役に立たぬ! 戦力増強を目指しておるのに消耗してどうするのだ! ええい! 我が直々に魔物狩りをする! その方らはあの冒険者たちの動向を探っておれ!」


 アシュタルは不甲斐ない大魔にいら立ちを隠せず、自ら狩りに出かけることにした。


 その後、天候が回復した。

 アシュタルは不安定な状態のヴァニタスを置いていくことに不安を覚えながらも、狩りに向かう。

 配下の八体の妖魔を使い、キメラを仕留めると、遺跡に戻っていった。

 その時、ヴァニタスは比較的安定しており、アシュタルは戦力増強について報告を行おうとした。しかし、ヴァニタスは報告を受ける前に新たな指示を出した。


従魔(テイム)の魔法を使って地竜(ランドドラゴン)巨人(ジャイアント)を手勢に加えよ』


 アシュタルは理由が分からず、「我らだけでは不足でございますか」と尋ねる。


『敵に強力な魔道師がおる。誘導型の魔法を駆使されると、妖魔では太刀打ちできぬ。生命力の強い地上の魔物を従えるのだ』


 ヴァニタスはザカライアスたちの魔法攻撃力を危険視していた。そのため、飛行型の妖魔は魔将や大魔であっても対抗しきれないと考え、耐久力の高い地上の魔物を手勢に加えるよう指示したのだ。


 ザカライアスの攻撃魔法を直接見ていないアシュタルは「誘導型の魔法でございますか」と疑問を口にするが、ザカライアスが並々ならぬ魔法の使い手であり、狡猾な相手であることは理解していた。

 しかし、それ以上にヴァニタスの状況が気になっていた。今は安定しているとはいえ、これ以上時間を掛けてもよいのか気になったのだ。


「大物を従えるには時間が掛かりますが、よろしいのでしょうか」


『構わぬ。今少し時間があれば、サウル(この者)も従えることができる。今は完全なる復活のための布石を優先するのだ』


 アシュタルはその言葉に素直に従った。

 大魔と妖魔を使い、大型の魔物を探させ、見つけたところで自分が出向く方法に切り替え、戦力の増強を図ることにした。


■■■


 二月二十六日。

 ダンとの連携に問題はなかった。それどころか、彼の気配察知のお陰で今までより敵の発見が早くなり、危険度は一気に下がっている。


 天候が安定してきたことから、本格的にアクィラの山に向かうことにした。

 安定してきたといってもまだ雪は残っており、気温は零度以下の極寒であることに変わりはない。ただ、何となく胸騒ぎがするため、できるだけ早く偵察に向かいたかった。


 偵察といっても今回は本格的なものではなく、予備的なものにするつもりでいる。今考えている予定では十日ほどで戻ってくるつもりだ。

 距離的には東に最大三十キロメートルほど進み、九月の調査で向かう予定だった場所を中心に五日間ほど粘る予定でいる。


 ジャリジャリという根雪を踏みながら、森の中に入っていく。ギルドからの依頼ではなく、自主的な調査であり、無報酬だが、それほど気にしていない。


 前回は一日目に十五キロほど進んだが、今回は雪中行軍ということでそこまでいくつもりはなかった。初日は十キロほど進み、簡易拠点を作って休憩する。

 夕食を摂りながら今日あったことを話し合う。


「思った以上に魔物の姿がないな。ギルドで聞いた話じゃ、冬は飢えた魔物が多く襲ってくるという話だったんだが」


「そうね。精霊たちも落ち着いているし、魔物がいる感じはなかったわ」


 リディがそう言うと、ダンも同じような感想を口にする。


「弱い魔物はいる感じでした。弱いといってもこの辺りの基準ですけど。でも、四級以上の魔物の気配は一度も感じませんでしたね。村の東の森でももう少し魔物の気配がするんですが」


「今が大丈夫だからといって、何か起きていることは間違いないんだ。いつも以上に警戒しなくちゃいけないよ」


 ベアトリスの意見に全員が頷く。


「明日は前に使った拠点を見にいくんですか」とシャロンが聞いてきた。


 彼女の言う拠点とは九月の調査の時に作ったところのことだ。予定では確認しないことにしていたが、魔物の気配が薄いので予定を変更するか確認してきたのだろう。


「いや、予定通り、あそこにはいかない」


 元々、魔族や大魔を警戒しながら進むつもりで、今までのルートも開けた場所はできるだけ避けている。


「じゃあ、予定通り二人一組で不寝番を行う。最初はリディとダン。次に俺とメル。最後がベアトリスとシャロンだ。分かっていると思うが、灯りは極力使うな」


 俺、リディ、ベアトリスは夜目が利くため見張りに灯りは必要ない。

 それに雪で真っ白な森の中は以外に光が届く。そのため、灯りの魔道具や火は屋外で使わないことにしていた。


 その夜は何事もなく過ぎ、夜明けを向かえた。

 アクィラの山があるため、夜明け時間になってもまだ暗いが、それでも木々の隙間から見える山は尾根の輪郭がはっきりとし始めている。


「寒いですね」と不寝番を行っていたシャロンが話しかけてきた。


「この先はもっと寒くなるんだよ」といいながら、ベアトリスが伸びをする。


 地下に作られた拠点は人の体温で多少暖かくなっているが、夜明け前の山の中は耳がジンジンするほど冷たい空気に満ちていた。


「これを飲んだら暖まるよ」といって収納魔法(インベントリ)から温かいお茶の入った水筒を手渡す。


 シャロンなら擬似ペルチェ効果の魔法で温めることができるが、魔力をできる限り温存するため、予め熱々のお茶などをインベントリに保管しておいた。


 火傷するほど熱いお茶をふうふうと息を吹きかけながら飲み始める。


「暖まるね。これに酒精(アルコール)が入っていたらもっと暖まるんだろうけど、さすがにやめておくよ」


 ベアトリスの言葉に笑みが零れるが、そんな話をしていると、リディたちも拠点から出てきた。

 お茶と同じように用意しておいた温かい朝食を食べると、すぐに出発する。


 俺の立てた計画では明日二月二十八日に目的地に到着し、そこを拠点に五日間周辺を調査する。何もなければ三月四日に引き上げるというものだ。


 その日も平穏な時間が過ぎていく。聞こえるのは吹きぬける風とそれにより落ちる雪の音、そして、俺たちの足音と息遣いだけだ。


 ダンを含め、今日も危険な魔物の気配はなく、明らかに異変が起きていることが分かる。

 九月の調査ではこの辺りで何度も強敵に襲われていた。

 あれは明らかに異常だが、この状況も異常だ。

 何者かを恐れて魔物が逃げ出したとしても、二級や三級の大物の姿をこの奥地で一度も見かけないというのはありえない。


 翌二月二十八日、目的地である渓谷に到着した。この辺りは冒険者ギルドでも簡単な地図しか持っておらず、目印になる大きな白い岩があるくらいしか情報はない。

 その日も結局魔物の襲撃は受けなかった。但し、飛竜(ワイバーン)の姿を確認しており、完全に魔物が消えているわけではないことは分かった。


 ダンが俺に話しかけてきた。


「この辺りが偶然魔物の通り道じゃないのかもしれませんが、話に聞く限りではもっと足跡なんかの痕跡があってもいい気がします」


 同じことを俺も感じていた。

 いくら雪が積もっているからといって、あれだけ魔物に満ちていた場所で、足跡すら見つからないのは異常だ。それに雪はここ数日降っていないから、逆に足跡は残りやすいはずだ。


 その後、目立たない場所に拠点を作った。今回も自然の岩に偽装した入口を作り、全員で中に篭る。

 これは不寝番により疲労が蓄積することを防ぐためだけでなく、匂いや気配で魔物が逆に寄ってくることを警戒しているためだ。

 そのため、覗き穴を作り、周囲の安全を確認した後、出入りすることにしている。


 翌日から周辺の調査を開始した。

 まずはできる限り奥に向かうため、比較的移動しやすい渓谷沿いを進む。これは水場があれば、魔物の痕跡を見つけやすいと考えたからだが、もうひとつの理由は上空から発見されにくいということもある。


 未だに大魔や魔族の姿は見ていないが、向こうは時速五十キロくらいの速度で飛ぶことができる。つまり、広範囲の偵察が可能だということだ。


 その日は渓谷沿いを数キロ東に進んだが、特に何も見つけられなかった。しかし、三日目の三月一日、今まで感じなかった悪寒のようなものを感じた。

 俺だけでなく全員が。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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