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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第四十八話「森の異常」

 十二月三十日の夜。


 今日はこの世界の大晦日に当たる。

 俺たちはリッカデールで新年を迎えているため、宿で夕食を摂っていた。


 大晦日を静かに過ごしていたその時、突然地震が起きた。体感的には震度三程度の小さなものだが、この世界では珍しい。

 地震自体は一分ほどで終わったが、新年を迎えようとしていたリッカデールの住民たちは不安を感じたのか、寒空の下に出て周囲を見回している。


「地面が揺れるのって気持ち悪いな」とベアトリスが言うと、メルが「そうですね」と不安そうな顔をする。


「ザック様は平気そうですね」とシャロンが言ってきたので、


「前の世界じゃ、このくらいの地震は普通にあったからな。久しぶりで驚いたが、その程度だ」


 そう言いつつも地震とは別に胸騒ぎのような不安を感じた。


「何かおかしいわ。精霊たちが騒いでいる気がする」


 それまで会話に加わっていなかったリディが呟く。

 俺には見えないが、精霊が見える彼女には異常が感じられるらしい。


「どんな感じなんだ」と聞くと、


「どう言ったらいいのか難しいのだけど、闇の精霊が不安そうに揺らいでいる感じかしら。他の精霊も同じ感じね」


 それ以上のことは分からなかったが、魔法的な異常が起きていることは間違いない。

 先日のオーガのことといい、胸騒ぎが消えない。



 翌日、三〇二五年を迎えた。

 リッカデールの朝はラスモア村以上に冷え込むが、朝の清々しい空気を吸いに外に出る。

 アクィラの山が東にあるため、日の出は割りと遅い時間だが、いつもならこの時間でも多くの冒険者や村の人が歩いていた。しかし、今日はさすがに元日ということもあり、人影は疎らだった。


 翌日の一月二日までゆっくりと休み、三日から本格的に始動する。ここ最近はリッカデール周辺での討伐に加え、魔族の痕跡がないかを調べているが、十二月初旬のオーガ騒動以外、魔族の痕跡は見つかっていない。


 ただ、大晦日の地震が気になっている。

 リディの話では精霊たちは落ち着きを取り戻したようだが、それでもいつもとは少し違うらしい。彼女にも明確には言えないらしいが、俺も胸騒ぎが消えていない。

 この他にも特に理由はないが、九月に行われた調査の際に聞いた大魔(グレーターデーモン)が行う儀式の話が気になっているのだ。


(何かの儀式の影響ってことは考えられないか……地震はともかく、精霊たち、つまり魔法に絡むとなると、因果関係があってもおかしくはない……)


 一月三日になり、寒さに震えながら冒険者ギルドの支部に向かう。今日はまだ休みの連中もいるから冒険者は少ないだろうと思ってきたら、思いの他、多くの冒険者がいた。それも俺たち二級ではなく、四級以下の比較的若い世代だ。

 受付で話を聞くと、


「ザックさんたちのところには話は持っていっていないんですが、アンデッドの数が増えたみたいで、その対策として四級、五級の方たちに声を掛けたんですよ」


「アンデッドですか?」と聞くものの、嫌な予感しかしない。うちの村が襲われた時に状況が似ているからだ。


 俺の懸念が伝わったのか、職員は笑顔で「心配するようなことじゃないんですよ」といい、


「私たちもラスモア村のことは知っていますけど、今回はあんな軍隊みたいな感じじゃないんです。骸骨(スケルトン)動く死体(リビングデッド)なんかが目的もなく徘徊しているようなんです。ただその数が尋常じゃなくて、このままだとペリクリトルやフォンス街道の方に流れていきそうなんで、早めに手を打とうということになったんですよ」


 ここリッカデールの冒険者はペリクリトルに比べレベルが高い。そのため、八級クラスのスケルトンやリビングデッドなら鼻歌交じりに倒せるため、職員も危機感を覚えていないのだ。


「どのくらいの数なんですか?」とシャロンが聞く。


「詳細は分からないんですが、東から絶えず流れてくる感じなんです。偵察に行ったパーティが見ただけでも百や二百というレベルではないそうです」


 更に詳しく聞くと、数は多いものの集団というわけではなく、単体のアンデッドがバラバラと歩いているだけらしい。


「私たちは出なくてもいいんですか?」とメルが聞くと、職員はとんでもないとでも言うように目を見開き、


「皆さんにお願いするような話じゃないです。もっとも今お願いしている方たちでももったいないくらいなんですから」


 確かに二級冒険者を八級相当の魔物の討伐に使うのはもったいないだろう。特に俺たちは攻撃力が突出しているからなおさらだ。


「ちょうどよかったので指名依頼として受けていただきたいものがあるのですが、話を聞いていただけますか」


 俺が頷くと職員は一枚の依頼書を出してきた。


「今回の件とも関係があるのですが、このアンデッドがどこから来たかを調べてほしいんです。調査範囲はリッカデールの東十km(キメル)まで。報告期限は明後日の日没までで、依頼は二級です。報酬は一人二百(クローナ)。調査中に討伐した魔物については通常の五割り増しで買い取りします。ということでどうでしょうか」


 俺もアンデッドのことが気になったので、リディたちと相談の上、依頼を受けることにした。


「受けましょう。ですが、その調査範囲では調べきれないかもしれません。ですので、期限をもう一日延ばして三日後の一月六日にして、調査範囲を東十五キメルにするというのでどうでしょう。報酬は五十クローナ追加の二百五十。双方にメリットがあると思いますが」


 東に十キロまでなので、山の深いところまでは入らない。もう少し奥までいってもいいと思い、このような提案をしたのだ。

 しかし、職員は首を縦に振らなかった。


「私としてはそれでいいと思うんですが、支部長は早めに情報がほしいというので。総本部に速報として報告したいようなんです」


 支部長の考えも分からないでもないので、最初の条件で受託し、すぐに出発した。


 リッカデールを出ると、いつもと違う雰囲気に戸惑う。いつもなら防壁を出ただけでも魔物のピリピリという気配がしてくるのだが、今日はそれがない。まったく感じないわけではなく、ごく弱い殺気しか感じられないのだ。


「おかしな感じだね。どこか別の森に入ったみたいだよ」


 ベアトリスの言葉にメルも「私もそう思います」と賛同する。


「闇の精霊の力が強いとか、何か感じることはあるか」とリディに聞くが、うーんと唸った後、


「特に感じないわ。おかしな感じは相変わらずだけど」


 すぐに依頼を受けたらしい冒険者の姿を見つけた。スケルトンと戦っていたが、危なげなく倒している。

 ギルド職員の情報通り、ラスモア村を襲ったようなアンデッドの軍団という印象は全くない。普通(・・)のアンデッドと同じく、生命ある者を探して彷徨っているという感じはあるが、特に目的があるようには見えないのだ。


 但し、その密度が異常なほど高い。百メートル歩けば少なくとも数体のスケルトンかリビングデッドを見るという感じだ。

 もう一つ異常な点に気づいた。


 それはリビングデッドの姿だ。

 リビングデッドはその名の通り、“生きている屍”であり、腐乱死体の一歩手前から死んだばかりの死体まで様々だ。そして、普通は死んだ時と同じ格好をしている。


 そのリビングデッドだが、すべて死後数日程度という“新鮮(フレッシュ)さ”で、着ている服も古びた感じがない。そしてその服だが、この辺りの農民が着るような物ではなく、商人たちが着るようなチュニックが多かったのだ。


 そのことをみんなに言うと、


「確かにそうですね。それに見た感じですが、帝国やカウム王国、ペリクリトルで着られている服とも微妙に違うようです」


 シャロンがそう言うと、リディも同じ意見なのか、


「サルトゥースやラクスとも違うわね。アウレラでもなさそうだし、どこの服なのかしら」


 試しに一体を倒し、服を調べてみた。

 すると驚くことに古代文明時代の人々であることが分かった。ポケットの中にあったメモに、古代文明の特徴である意味不明な文字の羅列があったのだ。


「どこかに古代文明の遺跡でもあったのかもしれないな」と呟くと、シャロンが頷く。


「キトリーさんがアクィラの山にはたくさんありそうだといっていましたね」


 ドクトゥスのティリア魔術学院の研究者、キトリー・エルバイン教授は古代文明の遺跡を調査しており、俺たちも同行したことがある。彼女の話ではアクィラ山脈や、帝国とラクス王国の国境であるサエウム山脈には多くの遺跡が眠っているということだった。今回もその一つが何らかの理由で解放された可能性がある。


 絶えず現れるアンデッドを処理しながら東に進む。どれだけの数のアンデッドがいるのかは分からないが、千や二千という数ではなく、十万と言われてもおかしくないほどだ。


 その日は調査範囲の端である十キロの場所まで進んだ。ここまでは問題なく進んだが、いつもと違うのはアンデッド以外の魔物の少なさだった。

 通常なら四級から五級程度の魔物に何度か遭遇するのだが、飛行型の魔物以外、ほとんど見かけなかった。


 もう一点気づいたことはアンデッドの種類がスケルトンとリビングデッドの二種類しかいないことだ。

 ラスモア村が襲撃された時は“亡霊ゴースト”や“死霊スペクター”などの幽霊系の魔物が現れた。また、キトリーさんと一緒に探索した遺跡ではゴーストの大群に襲われている。


 スケルトンやリビングデッドとゴーストがセットで出てくると決まっているわけではない。しかし、どこかに溜まっていたアンデッドが解放されたと考えるというと、肉体を失ったゴーストがいる方が自然なのだが、今回に限っては一度も見ていないのだ。


 みんなで話し合ったが、ヒントすらなく、結論は出なかった。


 翌日、周辺を調査するが、予想通り何も見つからない。東からアンデッドが流れ込んでくる状況は変わらず、予定通りリッカデールに戻ることにした。


 その状況をギルドに報告するが、更なる調査の依頼はなかった。独自に調査に行こうかと思ったが、増え続けるアンデッドの処理が追いつかなくなり、それを手伝う羽目になる。


 半月後の一月二十日までその状況は続いた。

 リッカデールが防壁となったため、ペリクリトルやフォンス街道に被害はなかったが、倒したアンデッドの数は六万以上にもなっていたと聞かされる。


「雑魚ばかりとはいえ、凄い数だね」とベアトリスが辟易とした表情で呟く。


 リッカデールには常時五十人以上の冒険者がおり、更にペリクリトルからも応援が入り、総勢二百人体制で処理をした。単純計算だが、一人当たり三百以上のアンデッドを倒していることになる。

 ほとんど怪我をする者はいなかったが、武器の損耗が激しく、割に合わないとぼやく冒険者の姿が多かった。


 アンデッド騒動が落ち着いた後、俺たちは再びアクィラに調査に向かうことに決めた。


■■■


 魔将(アークデーモン)のアシュタルはリッカデール近くの森で冒険者たちの戦いを見ていた。


(ヴァニタス様の力が安定しない。更なる(にえ)が必要なのだが、今は量より質。よい魔術師はいるが、あれは危険すぎる……)


 アシュタルを眷属としたヴァニタスだったが、元々神の寄り代として作られたわけではない黒魔族サウル・インクヴァルの身体に降臨したため、突然力が暴走したり、逆に消えたりと不安定な状況が続いていた。

 そのため、アシュタルに精霊との親和性の高い魔術師を拉致するよう命じた。

 一度、ザカライアスのパーティを見ているが、強力な魔法を使うため、リスクが高すぎると諦めている。


(……サウルの知識にあった“御子”なる者がよい贄になるようだが、闇の精霊を動かしても見つからぬ。ここにはおらぬのか……)


 方針を変え、サウルの知識にあった“月の御子”なる闇の神(ノクティス)の力を宿す人間を生贄に捧げようと考えた。この時、ヴァニタスの意識はなく、元々寄り代にしようとした人物であるという情報は伝わっていない。

 ノクティスの力を宿すということで、闇の精霊を無理やり動かし、その動きを追ったが、月の御子は結局見つけることができなかった。


(危険だがあの者たちを贄にするしかないようだな。問題はどのようにして捕らえるかだ……)


 アシュタルは再びザカライアスたちを生贄にしようと考え、策謀をめぐらせていった。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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